サンタ
「クリスマスだねぇ」とお月さんが一杯やりながらしみじみと言った。
「熱々のお鍋で一杯なんてもう最高だね。寒い日はこうでなくっちゃ」と褒めつつも
「普通は、熱燗じゃなくてシャンペンとかが洒落ているらしいよね」とこれは絶対に嫌味だ。
「で、冷たいのが飲みたいの?サンタにでも頼めばもってくるかもよ」僕も、熱い酒を飲みながらぶすっと答えた
「そういや、昔サンタと喧嘩してなぁ、それ以来仲たがいよ」
「えー?嘘ばっかり」
「いやいや、かれこれ何百年、何千年前になるかなぁ、その頃はサンタもきちんと北の方に住んでいてね、一年の間ずっとおもちゃやお菓子を沢山作ってそれを配っていたんだが、ある夜にうっかり隕石をその工場に落としてしもうてな」
「はぁ」僕は、情けない相槌を打った。
「もうサンタは、べそをかきながら怒鳴り込んでくるし、でもこっちも不可抗力だぁと言ったのさあ。しかし問題は子供に送る物が何一つ残っていない、もう頭を抱えたね」
「そりゃ、そうだねぇ」
「そこで俺は考えたね・・サンタだって何時も世界中をかけまわる程多くいるわけじゃない、で、聞いてみればなんでも遺伝子操作でにわかサンタを作っていたというんだな」
「うん、凄く嘘くさいけど続きをどうぞ」
「まぁ、そんなつれないこと言うなよぉ。」
「はいはい、で遺伝子操作で?」
「そそ、その技術使ってな、やや弱いがサンタ菌なるものを作って人間に罹患させたんだ。それに感染するとな子供の幸せを祈りつつおもちゃや、お菓子を買ってあげたくなるというものでな、しかも、それがレトロウィルスときているものだから、遺伝子にサンタ菌が刷り込まれてな・・」
「それで、人間の大人はクリスマスになると子供の為ににわかサンタになるべく条件つけられてしまったと・・」
「まぁね、しかもその副作用で、子供だけでなくて他人に贈り物をする習慣まで出来てしまったなぁ」お月さんは、僕を横目でちらりと見た。
「まぁ、ここんところその遺伝子もよわっちくなってしまったんか、子供の幸せっていうものより自分の体裁の方が大事になっちまったがね・・」
「生憎、プレゼントは無いぞ」僕は、熱燗をぐいっと飲んだ。
「いや、もういただいたんでの」お月さんは、大掃除の成果である掃除機の中にあった
ゴミを入れた袋を手にしていた。
「何にするのそれ・・・」
お月さんはそれに答えないで、ケラケラ笑いながらそれを撒き散らしつつ空に戻っていった。やがて、その塵を芯にして水分が成長したせいか雲がもこもこと発生して時ならぬ寒波も手伝い。気象庁の面目丸つぶれのような大雪が夜半から降り注いだ。
「まったく、年越しといってもねぇ」と暫く後の大晦に寝正月を決め込み大掃除にも着手しない僕にお月さんが掃除くらいしたらどうだと言うのでごろんとしたまま言い返した。
「結局は昨日と今日だもん、何がどう変わるものでもないからねぇ」