ヒルガオ
ヒルガオの蔓のさきっぽの佃煮を食べながら僕は出来上りの良さにに満足気な舌鼓を打った。ほう、そんなに美味いかい、とお月さんは、そっと箸を伸ばしてちょびっと奪ってしまった。
まったく梅雨時で暇だからって、ここでごろごろしてなくていいだろう。って僕は文句を言った。
「見えないものは観察できない」お月さんは言った。
「ゆえに私は居ないと同じ。きわめてコペンハーゲン解釈的だろ?」
「知るか、そんなの、どこかで潮の満ち引きがある以上はどこかに居るのでしょ」僕はご飯をかっ込むのに必死だ。もたもたしていると、こんなものでさえ食われてしまう。
「しかし、予想通りに美味しいねぇ」
「なんで、予想通りなんだよ」
「こやつはね、何処にでも咲いているだろ?」お月さんは、にっこり笑みをもらした。
「ああ、そうだね。道路沿いの花壇にも生えているし逆にここいらだと生えていない場所の方が少ないかもね」
「そして、あの花の形といったらまるで大きな耳のようじゃないか、ああして人のうわさ話をこっそり何処でも聞いているのさ」
「して、それと美味しいというのは?」
「人のうわさ話ほど美味しいものは無いってね」
「あ、雲に切れ間ができたよ」僕は、窓の外を眺めながら言った。
「しまった!!」とお月さんは、ふわっと空の上に上がっていった。
「あんたは仕事、僕は晩飯」僕は、お月さんが飲み残した純米酒を飲んだ。
「人の不幸は蜜の味」ってね。