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 不思議なもので、たわわに実っている柿の実を見ると、気になって仕方が無い、当然それは、甘いのだろうか?渋いのだろうか?ということだけなのであるが。そして、こういう実は得てして渋柿であるのが殆どであるというのが僕の経験に刷り込まれている。

 美味しい実なら鳥たちの餌食になっても良さそうな物だ、実際危険な思いをしてよじ登った結果、不満足な思いをした方が多いからだ。


 でも、それでも試してみたくなるのは、何故だろう、あるいは、もしも?そういう期待があるからなのかも知れない。


 なぜかその柿木の下を通る度にそういう思いに駆られた。そしてある月夜に僕は袋を片手に、その木の下にやって来た。柿の木は、下から眺めると本当に登り憎くそうに見える。なんといっても、ずっと幹が高くまで続いてしがみついて登る以外に手がないからだ。

 それでも、昔取った杵柄というか、年中栄養失調すれすれの生活で痩せていたせいか、以外とするすると登ることができた。あとは枝が折れぬことを願いつつ、ああ、本当に願わずには居られない、柿の枝というのは結構折れ易いのである。


 そして、先ず一個を取って齧ってみた、予想通りというか思わずペッペッと吐き出したまずいものは一度食べたら二度と食いたく無いものであるが、なぜか、数年に一度、その不味さを思い出したくて食べたくなることがある。

 それを錬金術師に言ったら。単に物覚えが悪いんだろってけなされたことがあった。

しかし、渋柿ってこれほどに酷い味だったんだぁと納得しつつ、その渋柿をさらに採っては袋に詰め込んだ。


 すると、下の方から子供の声が聞こえた

「お兄さん、お兄さん」と言っている。こんな夜半に遊んでいるのかなと思えば。

柿の木の下で、帽子を被った子供が僕を見上げている。

「ねぇ、そこの柿を一つ採ってよ」と枝の先の方に見える大きな実を指さしていた。

「これは渋柿だよ」と僕は返事をした。

「嘘だぁ、お兄さん採っているもの」

「いやこれは・・」

さらし柿にすると言っても分かるのだろうか?と僕は躊躇した。

その時、「誰か柿をとってるぅぅ」

とその子供がいきなり大声を出したものだからたまらない

「分かった!分かった!」と僕は、子供に言った。

子供はへへへ・・と笑って帽子を抜いでそれで柿を受け取るような仕草をした。

僕は、僕で、おそるおそる枝の上を這うように進んだ。枝がしなる。あともう少しというところで足がすくんだ。これはかなり厳しいなぁと思いつつ下をみれば子供が、期待を込めて見上げている。

「お兄さんが採った柿でもいいよね」というと

「ううん、その柿がいいの」と酷いわがままを言った。

これ以上進んだら、落ちるかなぁとおもっていると。

ひゅーんという音がして枝がばさりとゆれ、僕はひゃっとして枝にしっかりしがみついた

そして「有難う」という子供の声が聞こえたかと思うと、子供の姿はもう見えなくなっていた


空を見上げると、お月さんが小さくウィンクしてみせた。

どうやら、小さな隕石を投げて柿を落としてくれたらしい。



僕は、採ってきた柿のへたに焼酎をつけてポリ袋に密閉したものを、頃合を見計らって

取り出していた。それを見透かしたように、久しぶりにお月さんが窓の隙間から、月明かりに乗ってやってきた。

「元気そうだな」とお月さんはニコニコしていた。

「甘いものでも食べるかい?」と僕は渋を抜いた柿を出した。

「どうせ、二日酔い続きで飲むのも辛いころでしょ」へへへと、お月さんは頷いた。

「その柿は、あの公園のかい?」とお月さんは言った

「そうそう、あのときは石を投げてくれてありがとう、あのまま柿を採りにいってからきっと落ちていたよ」

「まったく、変な霊に取り付かれるんだから・・」

「霊?」

「そうだよ、あの子5年前あの柿の木から落ちて死んじゃったんだよ」

「・・・」

「でね、どうしても柿の実が欲しかったらしくてこの季節になると、適当な人に憑り付いては、あの木に登らせていたんだよ。でも、今までは皆木登りが下手で落ちて怪我をしているんだな」

「はぁ・・」

「ま、これで実が手に入ったから成仏できたかもね」お月さんは、柿をほうばった。

「うう・・甘い!!」といいつつ、僕の命がけの成果をせっせとほおばった。

「いやぁ、これは癖になりそうだ」


そして、次の夜。思いがけない流星群が空を飛び交い、お月さんは両手に一杯の渋柿を持ってきた。


そして、その後ろには、霊の子供が「甘い柿食べたい」と付いてきていた。



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