隠れ家
彼女達は、笑みをみせながら雑木林の中に去ってゆきました。夜明け前、東雲色の空が広がってゆく時間です。雑木林の奥深くに落ち葉でカムフラージュされた隠れ家がありました。遠くでは警察のサイレンが鳴り響いています。
「今日の収穫は多かったね」隠れ家の闇の中で女性の声がしました。
「まったく、今日は珍しく人出があったからね」他の女性が答えました。
「たんまりご馳走になったわ」ため息ばかりついている女性がいました。
「ねぇ・・あんた病気かい?」
「ううん、子供が出来ちゃったみたいなの」
「じゃあ、もっと栄養を取った方がいいよ」
「生むならどこかいいかしら?」
「裏の溜池が一番かな?」
「やっぱりそうかしらね」
「さぁ寝ようか」
「私はもうちょっとだけ外を回ってお食事をしてくる」
「気をつけてね」
「うん」
「やられたぁ」魔女は、雑木林を抜けて錬金術師の家に向う道中で叫びました。
足はふらふらで、酒臭い息を周りに漂わせています。
「まったく、花火大会で飲んで、さらにこんな時間までハシゴしやがって、こんなに酒くさければ蚊も喜んで集ってくるさ」
魔女を支えているのは、錬金術師でした。
他の面々も居ましたが、彼は胃の調子が悪くあまり飲めなかったのでほとんど素面でした。
「へへ・・でも仇はとったぜ」
魔女は、掌を錬金術師に見せました。べっとり血まみれになった蚊がつぶされていました。
「はいはい、帰って寝れやこの大虎が。」
隠れ家では、帰りの遅い仲間の蚊を待つまでもなくみなぐっすりと寝ていました。