サボテン
くしゃみをしたら、唾が思いきり飛び出して目の前にあった、サボテンにかかりました。魔女は、じゅるじゅると出てきた鼻水をテッシュで拭い鼻声でサボテンにすまぬと言いました。
整理整頓とは程遠い部屋です。片付けても片付けても、いつの間にか床は物であふれ、棚の中の物はいつでも雪崩を起こす準備が整っていて、壁はメモやらポスターとか貼り付けられたりしています。誰がそれを非難する都度、彼女は「エントロピーがあるせいだ」と言い訳をしていました。
その中で唯一彼女の心のよりどころがこのサボテンでした。というか、普通の植物も何度か育てたことはあるにはありましたが、水やりを忘れたり、過ごしたり、陽に当てなかったり、当てすぎたりで枯れた植物は数知れずという状態なので、結局このサボテンだけが唯一育てることのできる植物になってしまっただけです。
「お前も何か話すことができるものなのかねぇ」と魔女は言いながら杖をサボテンに向けました。「ほれ、何か言ってろや」
「まったく、お前ってやつは!」サボテンの第一声は怒号でした。
「どんな乾いた砂漠でも生きてきた私達に向かって唾などひっかけやがって何様と思っているんだい、好きでこんな刺だらけのなりをしているんじゃねぇがそれでも、てめえら人間達に安らぎを与えてやってんだ。ちゃんと手入れさえしてくれればどんな花より見事な花だって咲かせるんだ、それなのに、ごみための中に置くわ、水はまぁ仕方ないが本当に枯れる寸前までくれないし、その上毎晩毎晩酔っ払って愚痴ばかり聞かせやがってよそのくせ、なんだ、自分がまるで私を保護していような気分になりやがって、てめぇの心を癒してやってんのは私の方だってんだこのブス…」
「煩い」魔女は、杖を振りました。「言葉にも刺がありすぎだ」
「………」サボテンは何事も無かったかのように黙りました。
「しかし、潤いのない殺伐とした環境の中でも生きていけるのは、人とサボテンくらいなものだな、だから人もまた刺をまとっているのかも知れないねぇ」
魔女は、ストレートのアクアビッツを注いだグラスを傾け喉を潤しました。