表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/155

サボテン

 くしゃみをしたら、唾が思いきり飛び出して目の前にあった、サボテンにかかりました。魔女は、じゅるじゅると出てきた鼻水をテッシュで拭い鼻声でサボテンにすまぬと言いました。

 整理整頓とは程遠い部屋です。片付けても片付けても、いつの間にか床は物であふれ、棚の中の物はいつでも雪崩を起こす準備が整っていて、壁はメモやらポスターとか貼り付けられたりしています。誰がそれを非難する都度、彼女は「エントロピーがあるせいだ」と言い訳をしていました。

 その中で唯一彼女の心のよりどころがこのサボテンでした。というか、普通の植物も何度か育てたことはあるにはありましたが、水やりを忘れたり、過ごしたり、陽に当てなかったり、当てすぎたりで枯れた植物は数知れずという状態なので、結局このサボテンだけが唯一育てることのできる植物になってしまっただけです。

「お前も何か話すことができるものなのかねぇ」と魔女は言いながら杖をサボテンに向けました。「ほれ、何か言ってろや」

「まったく、お前ってやつは!」サボテンの第一声は怒号でした。

「どんな乾いた砂漠でも生きてきた私達に向かって唾などひっかけやがって何様と思っているんだい、好きでこんな刺だらけのなりをしているんじゃねぇがそれでも、てめえら人間達に安らぎを与えてやってんだ。ちゃんと手入れさえしてくれればどんな花より見事な花だって咲かせるんだ、それなのに、ごみための中に置くわ、水はまぁ仕方ないが本当に枯れる寸前までくれないし、その上毎晩毎晩酔っ払って愚痴ばかり聞かせやがってよそのくせ、なんだ、自分がまるで私を保護していような気分になりやがって、てめぇの心を癒してやってんのは私の方だってんだこのブス…」

「煩い」魔女は、杖を振りました。「言葉にも刺がありすぎだ」

「………」サボテンは何事も無かったかのように黙りました。

「しかし、潤いのない殺伐とした環境の中でも生きていけるのは、人とサボテンくらいなものだな、だから人もまた刺をまとっているのかも知れないねぇ」

魔女は、ストレートのアクアビッツを注いだグラスを傾け喉を潤しました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ