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あるかないかのような風が優しく川面を撫でてゆきました。静かにたゆたう水面に向けて、子供達が石を投げては飛び石遊びをしていました。


 賑やかな子供達の歓声に隠れるように川辺でぼんやりと立って過ごす二人がいました。そのうちのひとりは、手で糸を操っていました。

「こここ・・このた、凧す・凄いでしょ」発明家は、ややどもりながらうれしそうな声をあげました。

「うん、確かに凄いと思うよ」答えたのは、黒い外套を纏った自称魔法使いの女、箒乗りとも言います。

天気のいい春の日、風ひとつ無いような空の下でふんわりと三角凧が浮いていました。

「い・・糸は・・」と言いかけた彼の言葉を箒乗りさえぎりました。

「超軽量で、直径0.3ミリでも1トンに耐えうるカーボンナノチューブ。凧の骨は、多層のカーボンナノチューブの太いもの、凧の本体は・・忘れた」

「た、単分子グラファイトシート」

「どれもこれも安価に製造する方法の特許取得済みなのに、使われ方はこんなものかい」魔女はあきれ顔で言いました。

「で、特許で儲けた金は?」と聞くと発明家は凧を指差して、「せ製作費」と答えました。

「要は、これを作る為の機械を作って消えたと」はぁ、と魔女はため息をつきました。

「それにしちゃ、こんな値段の高い玩具を売りだそうなんて会社は居ないねぇ、大きな吊橋とか軌道エレベータなんて話でも出るなら分かるけどさ」発明家はぶるぶると顔を振ってポケットから新聞を取り出してみせました。

「なんだい、ありゃ。この会社特許を売った所じゃない、何何、あれまぁ、あんたが作ったやつより弱い繊維を大量生産するプラントを完成させたってか・・なるほどね、こんなもの安く売ったんでは、そのプラントで作った繊維なんか売れないわな」

発明家は、うんうんと頷いた。

「まぁ、あんたが良けりゃ、それでもいいけどねぇ。」

凪は長く続きやがて夕方になってから発明家は糸を巻いてたぐり寄せ始めました。

「ああ、帰ろうね」

魔女も腰を上げて服に付いた草を払いました。

そして発明家が凧の本体を回収したときにふっとの骨からなにか小さなものを回収したのを見逃しません

「なんだい、それ」

「なな・・なんでも・・ない」

「私に隠し事は不可能さ」

と人差し指を向けると、発明家のポケットから小さな円筒形状のものがふわりと出てきてそのまま箒乗りの手の中に納まりました

「なんだいこりゃ?、レンズみたいのが埋め込まれているねぇ」

と、魔女は箒を取り出してふわりと上空にあがった、そして凧が揚がっていたあたりに

ホバリングをして目を丸くしました。

「あー!!」

発明家はそろそろと凧を抱えて逃げだしていました。

「このデバガメ!!銭湯を覗いていたのか」

箒乗りは急降下して発明家の襟首を捕まえるとそのまま上空から河の中にどぼんと放り込んでしまいました。

「てめえはそこの湯船でも浸かってろ」発明家は泳ぎが得意ではないので、犬掻きをしながら、かろうじて泳いで這い上がってきました。

息も絶え絶えで、とても立ち上がる気力もありませんでした。

「子供の玩具をこんなことに使うなんてなんてやつだい」箒乗りはずぶぬれの発明家の

前に立ちはだかりました。

「たかが、凧にこんなに金をつぎ込みやがって」

「た、たかが、じゃないよ」発明家の声は訴えるようだった。

「凧だってさ、作用があって、は、反作用があってでした。揚力があって、それで浮かぶんだ、そこには、沢山の好奇心をくすぐるものがあるんだ。いろいろな面白いものに興味を示さなくなったら人はもう人じゃないよ、それにカメラは頼まれただけなんだから」

這い上がって両手を地面についたままの格好で発明家は、彼をじっと見下げている箒乗りに息をつぐことも忘れたように言いました。

「そうか、悪かったな」

箒乗りは、バツが悪そうに彼に背を向けました。

「凧、今度は私にも作ってくれないか、カメラは要らないよ、別に男の裸は見たくないからな」

「ん?」

「ああ、こっち側の脱衣所は男湯だったよ」と箒乗りは、振きました。

「知らなかったのかい?あの風呂屋は男女の浴室は週代わりで入れ替わるんだよ。」

そして、箒を肩に担ぐを歩きながら、首を大きく左右に曲げた。

「んー肩も凝ったし、私もひとっ風呂浴びてくるかなぁ」


頭に魚釣りの浮きが絡まったままの頭で発明家はきょとんとし箒乗りの背を見ていました

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