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半夏生
「よく来たね」と彼女は、言った。
「しかし、どうしてここが分かった?」
「偶然に」と僕は答え、そして手にしたハンゲショウの
春の葉を束にしたものをそっと差し出した。
「これを採っていたのさ」
「ハンゲショウか・・・」彼女はそっと、それを受け取った
「少し苦味もあるが、お浸しにでもするのか」
「そのつもりだった。」
「こんなつまらないもののために、来てしまったのか」
彼女は、ふっと俯いた。
「つまらなくはないよ」僕は、反論した
「今は、舌で春を、夏には白くなった葉で楽しませてくれる。」
「まぁ、今の私にはどうでもいいことだよ」彼女は、ポンとハンゲショウの束を投げ返した。
「美味しいのに」と僕はそれを受け取った
「行けよ、ここじゃそれは味わえない」
「でも、どうやって戻れば」
ふと振り向けば、来た道が分からない事になっていた。
「仕方ない、いずれ時がくれば、自然と戻れるさ、それまで詰まらん話でも聞いてゆけ」彼女は、言った。
「そう、それは夏の盛りの頃・・・」