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銀杏

 お月さんが奇麗な夜に、僕が千鳥足で歩道を歩いていると反対側から、ふうふう言いながら銀杏の木がやって来た。よほど遠くからやって来たのか、根っこがだいぶ擦り切れてしまっていた。

「やあ、何処にいくの?」僕がそう訊くと銀杏は歩道の真ん中にどんと腰を落として答えた。

「この先の神社に行こうと思ってね」

「大変だね、こんな夜中に」

「本当だよ、東京都の木だとか勝手に決め付けて、こっちをいい気にさせておいてさぁ, じゃあどっか良い場所に植えてくれるかと思い気や」そしてがっくりと肩を落とした

「歩道の狭い土の中に放り込まれてさぁ、土は味もそっけもない痩せた土だし、肥料も思い出した時にくそまずい化学肥料をちょっとだけ、水なんて雨が降っても地面にしみこんでくれないから乾ききってさ、まぁそれでもなんとか一応面積だはあるから我慢してきたけど」と歩道の横にある道路を横目で睨んだ。最近抜け道とかで昼間の交通量がとても増えてきている道路だ。

「こいつのせいで、煩いは空気は悪いわで、もうやってられんと思ってね」銀杏は、はぁはぁと言いながら目を向こうにむけた。

「ふうん、都会は住みにくいよね」私は、納得したふりをした。僕にとっての都会は働く空間だ。そして、遊ぶ場所でもある。だから住み難いというのではないが、まぁ心安らぐ場所ではないだけだ。

「そうそう、住みにくすぎるよ。そうしたら、雀やらカラスやら、ムクドリやら、ヒヨドリどもが、この先の神社の境内はいいぞって言うんだ」

「ああ、鳥はいいよね、自分の好きな場所に住めるからね」

「いやいや、あいつらはあいつらで良い巣の場所の奪い合いやら巣の材料の奪い合いが結構大変らしいよ。この前はハトがカラスに卵を食われたとか嘆いていたし、手ごろな巣の材料と思って、棒切れを咥えたらその棒に付いていたテグスが体にまとわりついて飛べなくなったところを猫に齧られたやつとかね、まぁ此所辺りはそんなもんさ」銀杏は、またため息をついた

「でも、私よりはずっとましだね、少なくてもねぐらは自分で見つけられるんだから。」そしてどっこいしょと腰をあげた。「さっさとしないと夜が明けちまうあんたも早く帰って寝た方がいいよ。」銀杏の木はのそのそと僕の脇を通って去って行った。

「そうだね」僕は自分の家の方に向かった。「流石に深酒をしすぎたし」途中、歩道の並木道で木が掘り起こされたような跡があった。銀杏の古巣なのだろうと納得して家に辿りついた。


 喉の渇きで目が覚め、台所で水道の水を飲んでいると台所の窓からお月さんが、ため息をついている姿が目についた。今日はため息の特売日なのだろうかと思った。

「どうしたの、ため息なんかついてさ」私が話しかけると、お月さんは、そろそろと空から降りて来て、窓の隙間から入って来た。

「あのさ、あの銀杏、知っているだろ?」お月さんは、小声で囁いた。

「ああ、神社の境内に引越した銀杏のことかい」僕は先ほど出会った木の事を思い出した。

「そうそう」お月さんは肯いた。

「私なんか何時も空の高い処にいるだろう、それに今日は満月をやらないといけないからさ、明るくて何でも見えてしまうんだよ・・・でね、見ちゃったんだよ」

「何を?銀杏と沈丁花がデートしていたとか?」

「なら、ため息なんかでないよ。そんなことだったらあっちこっちに言いふらしているところさ」お月さんはにこにこして言った。が直ぐにまた真顔に戻った。

「あいつ、神社に行ったはいいけど、榊や松や楓や桜にいじめられてね・・・さっきひぃひぃ言いながらやっと元の場所に戻って行ったさ」

「それは酷いなぁ、でもなんでいじめられたんだろ」

「さぁねそれは分からないよ」

「理由でもあるのかなぁ」

「気に食わないだけだろ。」お月さんは、にやりとした。

「俺だって、気に食わない星を見つけると、掴んで投げ飛ばすことがあるからね」

「そりゃいじめというより只の暴力じゃないか」と諭したがどっかお月さんの気になるところに触れたらしい

「ふん!いいこと教えてあげたのに」お月さんは窓の隙間から空に帰って行った。

次の朝、歩道の銀杏はあるべきところにあった。

木の周りには、銀杏のものでは無い葉が沢山落ちていたが、気を止める人は誰も居なかった。


 そして、しばらく後にまたまた深酒をして帰るとまたまた銀杏に出会ってしまった。

旅に出ることにしたよ・・・銀杏はいじめられた理由は言わなかったが、にこにこしながら国道沿いの道をのんびりと歩いて行った。その周りに沢山の銀杏の実を落としながら・・・


 僕は「ああ、それで鼻つまみものにされたのか」一人納得をしてから、コンビニのレジ袋にその実を拾い集めながら木の後を袋が一杯になるまで追った。


今年は、銀杏の実を買わずに済みそうだ。



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