ビールを飲みながら
クーラーも無い部屋は夜になってもとんでもない暑さだっし、じめじめとした風が開けた窓からどろんと入ってくる。じっとしても汗がじわりと出てきた。「あれまあ」とお月さんは僕の部屋でビールを飲みながら小さく叫んだ。「なんでゴミを飾っておくんだい?」
それは、以前お月さんが僕のアパートのゴミ捨て場に捨てていった隕鉄の一つだった。沢山あったけど、形が良さそうなものだけとっておいて、あとは近くにある河川敷に捨ててしまったのだ。
「ん?ちょっと珍しいからね。」僕は、きんきんに冷えたキュウリに塩を軽くまぶして口に放り込んだ。瓜らしい香りが爽やかだ。
「へぇ、欲しければ幾らでもあげるけど」お月さん空を指して言った。本来ならそこに居る場所だが、曇っていて誰にも見られない事を言いことに職場放棄をしているのだ。
「いや、これ一個あればいいよ」と僕は断った。月にある隕石とか隕鉄などごっそり持ってこられてはたまったものじゃない。何かで読んだが月の裏側は月が地球の周りを回り初めて以来の隕石がある筈だ。
「ふーん、要らないのかい」お月さんはビールをぐびぐびと飲んだ。「どっさりあるのにさ」
「それより、こっちに隕鉄とか捨てちゃダメだよ。あれ、燃えないからさぁ」
「燃えないゴミの日もあるだろ」お月さんは、してやったりという満面の笑顔で言った。
「もう」僕は、役所の清掃局から渡されたゴミの分別表を台所の壁から剥がしてお月さんに見せた。そこには、分別して出すべきゴミの種類が一覧で書いてあった。
「隕石も、隕鉄もここに書いてないだろう?」僕は分別表を指で指しながら言った。
「じゃ、あれはどこに捨てるんだよ」
お月さんは、僕が飾っておいた隕鉄を目で指した。
「太陽にでも捨てたら?」僕は、それが一番もっともらしい考えと思った。どうせ太陽の芯は重い鉄とかで一杯の筈だし
「いや、あいつ意地が悪いんだよ」とお月さんは、こそこそと言った。まるで夜の夜中に太陽に聞かれるのが怖いみたいだ。
「昔さぁ、でかい奴が落ちてな」お月さんは両手を大きく広げてみせた。
「まぁ、痛いのなんのって。そこで太陽にお願いして、あの熱々の溶鉱炉に放り投げたんだ。でも、あいつそれが届く前に横に避けやがってさ」
まっすぐ投げても、お月さんも太陽も動いているからそう簡単に当たるとは思えないと言うのは止めた。
「でな、面白いことにそのゴミがさぁ太陽の周りを半周してから、速度を上げやがってね」お月さんは、ふっと言葉を止めた
「これ誰にも言うなよ」
「うん」と僕は返事をした
「この地球に当たってしもうた」
「それって、最近?」
「いやぁ、もうかれこれ6500万年前かなぁ」お月さんは、缶ビールをもう一缶飲んだ。
「しかし、このビールってやつはいいよねこうも暑いと、たまらんよ」お月さんは、ジュラシックパークって昔の映画の題名が書かれた下敷きで顔を扇ぎながら言った。
「しかし考えてみればあの頃の地球も結構暑かったけれど、俺のおかげで暫く涼しくなったのさ」
「いや、涼しいというより極寒になったのじゃないか?」