戯言
「多分、どんな地球の生き物より、俺ほど長生きをしている奴はいないな」とお月さんは自慢たらたらに言った。TVで、ご長寿さんのニュースをやっていたときだ。
「あんたは生き物なのかい?」僕は言い返した。「増殖しないじゃない」
「それは、お前らの定義だろ」お月さんは、じろっと僕を見た。どこか小馬鹿にした目だ。
「そりゃ、そうだけど。」確かにこの意味不明な存在に対して、僕はどう定義すべきか全くお手上げだ。
「お前らでいう処の大昔な」お月さんは、いきなり話題を変えにきた。「そうだな、おまえさん達がこの惑星に増え始めたころかな」
「はあ?」僕は、話題の急転換に困ってしまった。
「ある生き物が、此処を訪れたのさ」
「僕たちの言う、異星人だね」
「異星人・・・あるいは、異次元人かな?いずれにしろ、文明的にはメチャイケている連中さ・・・」
「それが、人類を知的生物に導いたとか?」僕の頭の中に知性化戦争という記憶が蘇った。作者はデビット・ブリンだったか?記憶に関わる事故後にライブラリで気に入った本だ。
「いや、ちゃう。」お月さんは、せんべいを食いお茶をすすった。「他の惑星の生物を知性化を推し進めるなんて、宇宙の覇権を欲しいやつには、自分の首を絞めるようなもんだ」
「むしろ暗黒森林?」また、有名な著作が浮かんだ。
「なにそれ?」お月さんは、あまり読書はしないのだった。
「いや、いいです。気が向いたら読んでみてください」
「どうせSFだろ、あんた好きだね」
「で、太古の地球に降り立った、メチャイケてる生物がなんだって?」
「うん、そいつらにとっては、地球は住むには快適でなくてね、でも飼っているペットには快適な環境でね。地球を、檻にみたててペットを放したのさ」
「どんな、生物なんだい?今でも居るの?」
「うん。居る。でも見ることはできないなぁ」
「なんで?」
「住んでいる次元が違うからね、もっとも重力は次元を越えて影響するから、あんた達の住む次元で生きているものも、ペットも同じように地球の重力井戸の中に住んでいる事になるね」
「ふうん、じゃあ互いに干渉できないのか」それじゃあ、格段面白いってわけではなさそだ、僕は急に興味を失った。
「いや、ペットにとっては、君たち人類に対して干渉する能力を持っているんだ」
「精神に寄生するとか?」突如として興味が興った。
「いやいや、もっと物理的にね。」
「食うの?」
「まぁ、そんなとこかな。人類は増えるし。生き餌として丁度良いらしいよ」
「とんでもない!」なんてものを地球に放したんだ。僕はお月さんのいうメチャイケてる宇宙人に憎悪を持った。
「は虫類とか飼育するとなれば、生き餌とか必要だろ?でもコオロギが減ることなんかない、同じようなものだよ。数多居る人間が一日に100人消えたって、増える数に比べれば無いに等しいさ」
「消えるって・・・」あっさり言うなあと思ってお月さんを見た。
「ああ、あっちの次元からこっちの人間を、いっきにがぶり。雑踏の中で隣を歩いていた見知らぬだれかが、ふっと消える。そんな感じだと思うな」
「そいつは増えるんだろ?」
「いや、去勢されているからね。」
「ずっと一匹のまま?」
「ああ、幾星霜たった一匹で重力井戸の底に飼われている。」
「飼い主は?メチャイケてる宇宙人は?」
「さて、何千年も見てないなぁ。飼うのも飽きたのかもね」
「飼育放棄かい・・・ひどいなぁ」
「いやもっと酷い惑星では、去勢しないで、増えまくって多頭飼育状態でさ、そこの生物が根こそぎ絶滅した事もあるぜ。当然、そこで飼われていた生物も全部餓死した」
「酷いことをする」
「ただねぇ、その生物も、メチャイケてる宇宙人にとっては可愛くてね、飼う為に乱獲されてさ、地球に居るのが最後の一匹らしい」
「そいつにも寿命はあるんだろ?」
「わからない、でも殺せば死ぬし、餓死もする、病気で死ぬこともあるかもしれない。どれくらい生きるかは、誰もしらないのさ」
「でも、何時か地球だって、無くなってしまうのに、そうなれば、それも死んでしまうだろうね」
「そうだね、でも、その前に俺は地球の軌道からは離れているから、最期を見ることはできないかも知れない」
「なんか、可哀想な生き物かも」
「そいつは、自分自身、生きるために人類に自我を与え、繁殖を促したりもしたんだよ。なんだかんだとしたたかなんだぜ、可哀想ちゃ可哀想だけど」
「それって、知性があるの?」
「在るとも言える。ただ、ことなる次元ではコンタクトは難しいからね。小さな次元の穴をあけて、そこを通って愛らしい無辜の人類と接触を試みていたよ。穴は小さかったから、まるで蛇みたいな形状だったのが見ていて可笑しかったね」
「それ、どこかの宗教に似ているなぁ、生物の名って?」
「人間の言語では表わせないよ、あえて言えばルシファーとでも言うのかな?」