秋桜
秋桜は、好きじゃあない。茎にしろ葉にしろ、花にしろ。どこか儚げ過ぎる。それに秋の花が冷たい微風に揺れる様は、いかにも自分がか弱いことを演じているようで、優しい気持ちに成る前に、そっぽを向いてしまう。
でも、そっぽを向いた先が上空で、そこにドローンが飛んでいたりすると、ちょっと哀しい気分になるんだ。
新入社員だったころ、弱さをアピールしつつ男性の協力を得るのが上手い女性と、全くの正反対で、自己顕示欲の塊で上司にさえ噛みつくような女性が同期にいた。
名前は、記憶にない。あるいは、二人とも僕の想像の産物かもしれない。そして、もう一人の男がいた。仕事のできる奴で、会話も上手くて、正直嫉妬しつつも、男としても憧れていた。
不運なのは、先の二人の女性と三角関係にあったことだろう、弱さを主張する女性は、その男が好きで、男は、なんでも自分の意見を通す女が好きだった。そしてその女同士は、不思議と仲が良かった。
それが、不意に壊れた。気の強い女は上司との折り合いが悪くて、喧嘩した挙げ句に会社を辞め、男は会社が進める昇進制度に不満たらたらで、やりたい仕事に専念したいと、友人が作ったベンチャー企業にヘッドハンティングされた。
残った女性は、そもそも自立できないタイプだったので、会社のシステムに埋もれるようにして、こつこつと仕事を続けた。昇進するために必要な講習を沢山受けたし、試験でもかろうじて次第点を取った。それで、等級をあげて給与も増えた。
しかし、管理職には行き着けなかった。
三人は、それでも当初は、飲み会とかで年に数回会っていたが、やがてその集まりも自然消滅していった。
会社に残った女だけは、それでも年賀状と暑中見舞いだけは、二人に出していたが、気の強い女も、男も知らない相手と結婚し、子供と一緒に写った葉書ばかりが、返事で反ってきた。それに対して残った女は、印刷された既製品の葉書に数行の近況を書いて出していた。
しかし、相手方の何度かの忌み事で、返事が途絶え、いつしかその返事も来なくなった。
「みんな、時期がくれば葉書が届くのに、何故私の処には、だれも葉書を出してくれないの?」お月さんによれば、良くそう窓辺で嘆いていたらしい。
その会社が、大きな会社に吸収されてしまったのは、ニュースで知った。風の便りによれば、新しい職場で彼女の居るべきポストはなくなり、彼女は、リサイクル会社に下取りされたらしい。よく出来たAIだったが、中古だったので、頭脳だけが引き取られ、古い人型のボディは分解されて、元の素材に還元されたとのことだ。
頭脳は、郵便配達ドローンとして再利用された。生真面目さが売りだった彼女のAIにはうってつけの仕事だったのか、改変が加えられたのかは良くわからない、ただ、当てにならないお月さんの情報によれば、彼女は、今でも自分宛の手紙がないか空を飛びながら、配達を続けているらしい。
だから、公園に咲く秋桜畑の上空を飛ぶドローンを見ると、ふと人のご機嫌をひたすら伺い、自分の弱さをひけらかす、あの女性型のAIを思いだすんだ。




