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青い月

 冬への季節の変わり目、ツヅレサセコオロギが衣替えが終わったよとばかりに、鳴き止む季節。窓を静かに打つ雨を眺めている僕のお腹は、チクチクと痛んでいるし、お腹に張りもある。

 毎年恒例の寝冷えで、急性の腸炎を起こしているせいだ。医者は、抗生物質を処方してくれたが、これが体に合わず、下痢が酷くなってしまった。


 だから、はっきり言って体の調子が悪い。にも関わらず、お月さんは氷を沢山買ってきて欲しいとねだってきた。


「沢山って言ってもねぇ」僕は、そろそろテーブル代わりの炬燵に、本来の任務を与える時が近いとふんで、押し入れから炬燵布団を引っ張りだした。


 お月さんは、すかさずその押し入れに隠してあった。芋焼酎の一升瓶をめざとく見つけて、さっと両腕に抱えてしまった。


「芋をロックで飲む程度でいいのかい?」


「まさか!お店にあるだけ全部」と、勝手知ったる他人の家、台所でグラスを一個とポットを持ってきた。そして、6:4でお湯割りを作り始めた。


「そんなに買ってみろ、バラバラにした遺体でも保存するんじゃないかと、怪しまれるじゃないか、やだよ。そもそも、重くて持てないよ」僕は、お月さんが置いた焼酎の瓶、ポット、グラスを畳の上において、炬燵板を外し、壁に立てかけた。


「考えすぎだ。」お月さんは、畳に置かれたグラスを手にすると一杯飲んだ。「じゃあ他に氷があるところはあるかい?」


「この季節だろ、北海道だって氷は張っていないけど、雪なら富士山や北海道の山に行けばあるのじゃないかな」僕は、炬燵に布団をかけた。


「雪よりは氷かなぁ」お月さんは、自ら炬燵板をその上において、さらに、焼酎の瓶、グラス、ポットをそこに乗せて、暖かそうなお湯割りを飲んだ。


「まぁ、北極や南極にゆけば、一年中あるね、あとは海外の氷河とか」僕は、試しに炬燵のコンセントを差して、スイッチを入れた。


「たしかに、あるね。温暖化のせいで少なくなっているみたいだけど」お月さんは、考えごとをしているように斜め上をみた。それが不穏な感じがしたので、思わず言ってしまった。

「判った、可能なかぎり買うから・・・」これを後悔後に立たずという。


 僕は、冷たい雨の中、大きなマイバッグを持って、コンビニで板氷を二つ買っては、自宅に持ってきて、またマイバッグを持っては別のコンビニを訪れて、氷を買っては家に戻りを繰り返した。思ったより、コンビニが近所にあることが凄くありがたく感じた夜だった。


 氷は、自宅の湯船に置き、いい加減疲れ果てると。お月さんは文字通りの大風呂敷を広げ、そこに氷を袋から出しては風呂敷の上に置いて、丁寧に包むと、ひょいと持ち上げ、胸元で結ぶと・・・見た目は、漫画でみる泥棒だ・・・空に帰って行った。


 その翌日、どこかの国の月着陸船が、月に水の氷床を発見したと、ニュースになり、そこに月基地を建設する事にしたらしい。

「これで、オンザロックがふんだんに飲めるぞ」と氷床を発見した宇宙飛行士が言っていたが、まぁ確かにロックには最適な氷だろう。ふんだんに飲めるかと言われれば、疑問だけど

「ロックよりは、ブルームーンとでもいうべきだろ」錬金術師が、その番組を炬燵に身を沈めた状態で見ながら言った。炬燵板には、ジンとバイオレット・リキュール、それにレモンジュースをおいて、どこかのビール会社の印がついた、ビールよりは日本酒を生で飲むにふさわしそうなグラスにそれらを入れて、箸で混ぜて飲んだ。

「そもそも月でなんでコンビニで売っているような氷が見つかるんだ?」

訊けば、彼も、あちこちで氷を買うことにかり出されたらしい。


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