酒ガメ
「だ、暖房なら・・・い・・・良いのがああるよ」と発明家が寄越したのは、巨大なヒートシンクみたいなものだった。基部も真四角なCPUみたいだ、もしコンセントが付いていたらきっと、コンピュータの玩具に見えそうだ
しかし基部には燃料を入れる口が付いているからストーブとも見えなくはない。
「ひ火はつ、使わないから、だ大丈夫だよ、ね燃料電池だからさ」
「じゃあ、あれメタノールとか水素とか必要なんでしょ?」
「さ、酒カメ付けておくからさ…や、安い焼酎を与えてね」
と言う酒カメってやつだけど、不気味な程にでかいサシガメっていう虫みたいな奴だ。サシガメの見た目はスマートなカメムシみたいなのだけど、カメムシとは違ってその食料は動物の血なのだ。なまじっかそんな前知識があるだけにでかいその虫は不気味な存在だ。
ただ、発明家が言うにはサケガメは酒を飲むように遺伝子を作り変えているらしいってことだ。そんな訳でサケガメはペットボトルの焼酎に口吻を差し込んでちゅうちゅうと焼酎を飲んでいる。奇妙なもので、無心に焼酎を飲んでいる姿を観察していると、こっちもなんとなく無心になって見てしまう。
うーん、こいつは酒で酔っ払わないのだろうか?じっと見ているとそればかりが気に掛かる。酔って踊ったりすればまぁ、見かけは不気味でも退屈しのぎにはなってくれるだろう。見ている間にどんどんサケガメの腹が膨らんで来てとうとう動かなくなってしまったので僕は、サケガメをそっと持って焼酎のペットボトルから離してあげた。
そして伸びきった口吻をストーブの燃料口に差し込んで腹をぎゅっと押してあげるとジョーという音と共に燃料がストーブに注入された。
あとはスイッチを入れれば暖かくなってくるというものだ。それに燃焼させるわけ
でも無いので火事の心配もかなり低いという安心感もあった。
たまには、発明家もまともなものを作るんだなと思っていた矢先。
ちょっと家を空けていたら、大事にしていた芋焼酎や麦焼酎もすっかり空にされてしまった。それ以来サケガメは、安い焼酎を飲まなくなってしまったので、結局ストーブごと発明家に返す事になった。