落下物注意
涙が思わずにじみでて。爆笑がとまらなかった。夜のゴールデンタイムで最近流行りの芸人の芸をテレビで見て久々に腹を抱えて呵呵と笑った。遠くでは何かのサイレンが聞こえていたが、気にも止めずに次の芸人が物まねをするのを見ているとサイレンが唐突に止まった。
一瞬僕とお月さんは目を合わせ、何だろうと思っていると。更に色々なサイレンがやってきては近くで停止した。ここで、惰性にまかせてテレビにのめりこんでいる訳にはいかない、すわ一大事とばかりに、ブリーフ一丁の完全な夏の部屋着の上にTシャツと短パンという夏の完全に装備を纏った。お月さんは、興味なさそうに僕を見ていたが、直ぐに視線をテレビに移した。僕は一人で外に飛び出したが、はや出遅れたか、既に多くの野次馬が一軒の木造住宅を取り囲んでいた。
救急車にパトカーと如何にも事件がおきたらしい状況だ。家から、ストレッチャーに乗せられた女性がそのまま救急車に乗せられて去っていった。
「何かあったのですか?」そっと隣の婆さんに聞いてみた。
「よく分からないけど、おばあさんが殺されたらしいよ」ばあさんが必死に背伸びをしながら答えた。
「本当か?」と僕の後ろの爺さんが、聞いた。
「そうみたいですね」僕も人垣に負けないように背伸びをした。
「ああ、あの夫婦喧嘩ばかりしていたからなぁ」と前にいる爺さんがぼやいた。
「とうとうやっちまったかぁ」
「未だ死んでないって」と前にいた婦人が後ろを振り向いて訂正した。
「でも、なにかで後頭部を殴られたみたいよ」
「何かって?金属バットかい?」と隣のばあさんが言った
「ロバじゃない?」と僕。
「その心は?」と誰かが言った。
「ドンキー(鈍器)」これは恥ずかしい。笑いも取れない。
「バットとかで殴られたら婆さんじゃひとたまりもねぇだろうなぁ」
後ろの爺さんが言った。
「こりゃ、殺人になるんじゃねぇか」爺さんの後ろで殺人事件だってさぁというひそひそ声が波の様に広がった。
「ねね、誰がやったの?」
前の婦人がその前の婦人を突付きながら言った
「それが分からないのよ」
前の前の婦人は、頭にカーラーを巻いた姿で振り返った
「まぁ!林田さん!」と前の前の婦人が高い声をあげた
「あら!森田さんじゃない、どうしたのその格好」
「・・あ」林田と呼ばれた女性は、その時やっと気が付いたようだったが、
「内緒ね」と小さく一言った。そしてひそひそのつもりの大きな声で
「で、どうなの?」と訊いた
「なんでも、警察が部屋に着いた時点で血まみれだったらしいわよ」
「まぁ、怖い」
「でも、変なのよ・・」
「何が、内側から鍵がかかっていたんですって」
「そりゃ、爺さんが殺って鍵を閉めて出ていったんだろ」後ろの爺さんが大声を出した。
おじいさんがおばあさんをバットで殴って殺したらしいよ。とひそひそ話しが聞こえた
「でも、おれ爺さんをパチンコ屋でみたよ。大当たり出していたから、未だやってんじゃねえか」もっと前の男性が言った。
「あんた、警察に言ってあげなよ。どうせ探しているのだからさぁ」
「もう警察には言ったよ」そろそろ来ている頃だけどねえ。
「じゃああれか、婆さんを殺して平然とパチンコで遊んでいたというのか・」
後ろの爺さんがうめくように言った。
「いやなご時世だねぇ」
怖いわねぇ、と周りでまたざわめきがおきた。私、もうおじいさんと一緒に寝れないわえ、あんた、まだ爺さんと一緒に寝ているのかい
ええ、みんな普通そうじゃないの?あらいやだ、恥ずかしい!!
「あそこの家ぼろいから、内からも鍵かけないとダメだって前におじいさんが言ってたわ」
「じゃあ、ひょっとしてこれは」前の婦人が小さく言った
「密室ですね」と僕は恥ずかしげもなく言葉を継いだ
「えー、爺さんが密室で婆さんを殺してパチンコ屋でパチンコをしていたのかい」と後ろの爺さんが僕を突付いていった。
「そう」と何故か僕は生返事をしてしまった
密室だってぇ・・という声がまた波紋の様に広がった。
そして、この声のでかい爺はなんだ?とおもって振り返ってから言った。
「おじいさん、あんたの婆さんだよ。殺されたの」
当然の事ながらじいさんは血相抱えて突っ走って行った。
後で分かったことだが、結局真相は、屋根の一部が崩れて瓦の破片の一部が頭に当たったとのことだった。ちなみに婆さんも頭の皮をちょっと切っただけだったらしい
すると・・一番怪しい奴といえば。
「また、落としていないか?隕石」
と僕は、またしても僕の部屋でまた漫才を見ているお月さんを睨んだ。
しかしテレビの中では芸暦20年の古株が何時ものオチを叫び
お月さんは、丸い顔を真っ赤にして笑い転げるばかりだった。