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「花瓶(または箒乗りの物語)その12」

 朝は地響きで始まった。いよいよかと、各々が窓辺によると、畑の真ん中に大きな窪みが出来て、その中央には一匹のドラゴンが小さい羽をバタつかせていた。

 その羽の付け根の部分、背中の真ん中には完全にドラゴンと癒着したとしか思えない、青の騎士の上半身があった。

 おおーーーんとドラゴンは雄たけびをあげた。長い尾が地面を強く打ち、地響きが伝わった。

 <戦いの時は来た。復讐の時だ>

 誰も、一斉に着替え。そしてドアを飛び出した。大きな、陽炎のような揺らぎは大きくなり、そのゆらぎの向こうには赤く燃える景色が見えた。そしてその燃える景色の中には明らかにドラゴンと同じ姿をしたものが、飛び交っていた。やがて、ゆらぎを超えて3体の異型の機械が現れた。車より大きな半球体のものが、三本の長い足によって支えながらゆっくりと歩いてきた。

 「なんだ、あれは?」ダイモンドが、何かの壜を抱えて言った。

 「クラックス・・」錬金術師は言った。

 「脚が妙に貧弱そうだな」ダイモンドは人指し指を伸ばして、バーンと言った。

 「あれを狙えば…」

 突然、その機械の上部から何か光線のようなものが発射され、沢山のキャベツが一瞬にして黒こげになった。

 「げっ!これはかなり危ないのじゃないかな」ドラゴンが、口をかっと開いた。そこから炎は出なかったが機械の内の一体の動きが突然止まり、赤熱し始めた。

 「やるねぇ、さすがだ。」と錬金術師は言ったが、他の2体はまだ動き続け、こっちに向かってきていた。

 「さて、あと2体はどうする?」

 「くそ、例のものでも出すか」とダイモンドは、家の中に駆け込んだかと思うと、2つの壷を両脇に抱えて戻ってきた。

 「おねぇ、あいつの脚をなんとか止められるかい?」

 「ええ、やってみないと分からないけど」

 「プリモンド、俺を乗せて奴の上に飛んでくれないかな?」

 「え、怖いよう」トリモンドはしり込みをした。

 「じっとしていたら、そっちの方が怖いよ」ダイモンドは序所に近づいてくる機械を見た。再度光線が発射され、畑がまた焼き尽くされた、さっきと違うのはそれが、やたら

 彼女達の家に近い場所だということだ。

 「分かったわよ、おねえさん後ろに乗ってね」二人が箒にまたがると、ゆっくりとそれは上昇を始めた。

 「うー重いよぅ」トリモンドは、うめいた。

 「頑張れ、おねえさんが機械の動きを止めていてくれている筈だから」たしかに、機械は突然動きが鈍くなった。ドラゴンが発する何かによって赤熱する機械は完全に動きを止めると、その三本の足がくんと折れ曲がり、そのまま大きな砂塵を巻き上げて前のめりに倒れ込んだ。

 しかし、それと同時にドラゴンもがっくりと頭を地面に垂れて しまった。

 <ダメだ、長い間地下に居たせいで、持久力がない>

 プリモンドは、杖を一体に向け口の中で呪文を唱え続けていた。汗が彼女の額に滲み出てきた。その間にも残る一体は歩みを続けていた。

 二人を乗せた箒は、あきれるほどにゆっくりゆっくりと浮かびあがり続けた。

 「見ていられないぞ」錬金術師は、手をぐっと握りしめていた。

 「もう一体の動きをどうにかできないか?」彼は、アーキィを見た。しかし、アーキィは首を横に振るばかりだった。その時、モーリィが脱兎のように飛び出した。

 「あの馬鹿!」錬金術師が叫んだ

 「待て、彼はあれの注意を引くつもりなんだ」

 「あのガキなんてことを!」ダイモンドも畑の中を必死に走る少年の姿を捉えた。

 「こらトリモンド、さっさと飛ばないとモーリィが危ない」

 「分かってるよぅ」箒は飛び続けた。そして、上部の半球状の前にきたときとつぜん、そこから一つの光が飛び出し。二人の足先を掠め、洋館の煙突を一本吹き飛ばした。

 「ひぇー、こわいよう」

 「あと、もう少しだ」


 モーリィは、機械の足元を駆け抜けた。そして、大声でばーか!ばーか!を連発した。 機械はそれを無視するそぶりをみせたが、やがて上の半球だけがぐるりと回転して、一歩後退した。

 「気をそらしたぞ」錬金術師は、気が気でないようだった。箒は、やっと半球の少し上に辿りついた。

 「良し、よくやった。これでも食らえ!」と二つの壷の中身を、その機械の上にばらまいた それは、まるでゴキブリのような虫の大群だった。

 「やだー気持ちわるーい」

 「何言ってんだ、金食い虫ってんだ。結構貪欲だぜ」その虫たちは、確かにどんどんと機械の上皮を食べていた。そして一つの穴が穿かれたとき、一条の光が洋館の屋根を吹き飛ばした。

 箒は、急降下をして地面に向かい。そして玄関前に着陸した。プリモンドも、トリモンドも腰が砕けたようにべったりと地面に座ってしまった。

 ダイモンドも、手で額の汗をぬぐい。立っているのもやっとの有様だった。


 「モーリィは…」プリモンドは、ふらふらと立ち上がった。

 モーリィは、必死になって畑の中を走っていた。正面には、空間のゆらぎが近づいてきた。そのゆらぎの中にさらに別の機械がこちらに出てこようとしていた。

 「やはり、この3体は斥候か」 アーキィは言った。

 「次に来るのは、戦闘機械だ。そうなると、誰の手にも負えない」

 「そうなったらどうする気だ」 錬金術師は訊いた

 「このまま、この閉じた世界を封鎖する」アーキィは言った

 「誰が生きようが死のうが、最終的にはそれが私の任務だからね」アーキィは掌の上に向けた。するとまるでその掌の中から湧いて出たように一つの立方体が現れてきた。

 「逆空間閉鎖装置のスイッチさ。この空間をそっくり閉じた空間にする。そして戦場はこの中だけのものになる。」


 「火が!」ダイモンドが叫んだ。吹き飛ばされた付近の屋根のあたりからは煙が

 立ち上っていた。

 「花瓶!」3人は同時に叫んで奥に駆け込んだ。


 キッチンのテーブルに置かれた花瓶は、倒れていた。水がテーブル一面に流れ勿忘草は、白い花を横たえていた。

 「誰がこんなことを」プリモンドはテーブルに近づいた。

 花瓶は、綺麗に3つに割れていた。各々の花の模様をそれぞれの面に残した状態で。



 「これは…」プリモンドは、芍薬の破片を手にとった

 「記憶が…」ダイモンドは、牡丹の破片を眺めた

 「思い出してきた」トリモンドは百合の破片を握り締めた

 「まったく、だまされてきたわ!!」

 「こんな安く継いだ花瓶だったなんて」

 「あーしまった。それより、早くモーリィを助けないと」3人は、颯爽と玄関に戻った。 ついでにプリモンドは杖を一振りして全ての火を消してしまった。


「花瓶(または箒乗りの物語)13」


 「さて、暗示の解けたこのお姉さん達に怖いものはないわよ」とプリモンドがドアの前に立ち、目の前で 暴れている一体の機械を見上げた。


 「ダイモンドは、あのヘンな空間を閉じて。」ダイモンドは古ぼけた杖を腰からひっぱりだすとそれを奇妙な空間に向け呪文を唱え始めた。

 「トリモンドは、モーリィを助けて」トリモンドは箒を、一気に急上昇させると機械の頭上を飛び越え、ぜいぜいいいながら走るモーリィの襟をむんずと掴んだ。

 「そして私は」とプリモンドは獲物を目の前で連れ去らた三本足の機械に杖を向けた。 そして「あらよっと!!」と一声あげると機械は突然急上昇を始めた。ばたつく三本の足は空を切り、上部の半球上の部分から光線が発せられそれが何発も地面に打ち込まれ大きな火柱が立ち上った。

 さらに機械は上昇をし、そしてふっと止まったかと思うまもなく、大きな音を立てて落下し、そこには鉄くずの山がひとつ出来上がった。


 歪んだ空間からは、巨大な人型の機械が両手を前に出して、入ってこようとしていた。 しかし、少しづつではあるが、その歪みは序所に狭まりつつあった。プリモンドの杖が振られ、その機械は後ろに飛ばされた。

 「頑張って、もうすぐ閉じるわ」

 <いや、まだ完全に閉ざさないでほしい>ドラゴンは、ゆっくりと立ち上がった。

 <あちらは、われわれの宇宙だ。そして私達の戦場だ、仲間達と共に戦いたいのだ>

 「でも、あなたは…」プリモンドは、体力のあまりないドラゴンを見てなんととか引きとめようと 思った。

 「行かせてやれ、どのみちこっちの世界で生き続けるのは彼女にとっても辛かろう」 錬金術師は腕組をして言った。

 <ありがとう> そういうとドラゴンは大きな雄たけびを上げて 歩き始めた。

 やがて、わずかに残った空間の裂け目にもぐりこむようにして、入った。その瞬間、一本の機械の 腕がその空間から飛び出してきた。

 どうやら、隙間をこじあけようとしているらしかった。わずかな隙間からはドラゴンが応戦しているように見えた。

 「早く閉じるんだ!」アーキィが怒鳴った

 「分かっているよ!」とダイモンドが応えたが裂け目は徐々に広がる一方だった。

 「くそ!おねえさん、トリモンド!力を貸して!」ダイモンドは、悲痛な叫びを放った。 二人は、すかさずダイモンドに駆け寄り彼女を支えるように両脇から抱きついた。

 空間の裂け目が広がるのは止まったものの閉じるまでには至らない。

 「なんて、馬鹿力なんだ」ダイモンドは、汗を垂らしながらさけんだ。

 「3人揃って、これかい」そう言ったのは、錬金術師でもアーキィでもなかった。

 モーリィは、そっとダイモンドの背後から近づいて両手をその広い背中に当てた。

 「うわっ」とダイモンドは叫んだ。

 「力が来た!」

 そして、少しずつ裂け目が狭くなりやがて、機械の腕がドスンという音と共に地面に落ちて裂け目が閉じた。

 「危なかった。」ダイモンドがへなへなと地面に尻をついた。

 「過去につけた暗示を解除してもこの程度かい」モーリィが、フンと鼻を鳴らした。

 「なによ、あんた。・・・というかモーリィあなた、何者?」

 「又の名を、マンダリン・グリーンと申します。 ミス、プリモンド・グリーン」

 「え・・お父さんと同じ名だ」とトリモンドが言った。

 「オヤジの隠し子かい」とダイモンド

 「察しが悪い、あれこれ、積もる話もあるからお茶にでもしような。天井に穴が開いてしまったし、久々に外にでもテーブルをだそうかね、プリモンド」

 「もしかして・・・モーリィあんた」

 「ん?こんな餓鬼の姿だが、お前の父だぞ」


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