「花瓶(または箒乗りの物語)その9」
2度目の往路でもそれは不思議な感じだった。巨大なビルの立ち並ぶ街を囲む河を渡ると一気にその景色はまるで一世紀前のような気分にさせる。
国有林とアーキィは言った、しかしそこにあるべき洋館と畑は登記簿にはない、地図にさえない、それでも街の人々はそこにそれがあるのを知っている。
「コンピュータでね」とアーキィは車を運転しながら言った。
「衛星の画像でこの辺りをみるとさ、森しか見えないのさ」
「それだけ狭いってこと?」
モーリィは両手に大きな袋を抱えたままだった。その袋からは香ばしいパンの香りが湧くように出てきた。
「いや、店の看板や人の顔まで見える程の性能なのにそんなわけないだろう。」
道は、舗装道路から砂利道に変わった。
「じゃあ迷彩呪文をかけてあるとか?」モーリィは来る途中でトリモンドが言っていた言葉を思い出して言った。
「呪文は人には効果があるけど、機器には無理だな。まさかといいたいが、迷彩よりもっと高度な方法が取られているせいさ」アーキィは、運転をしながら周囲をみた。
「まるで、ここから先は別世界のようだろ」そう言われてモーリィは頷いた
「その通りにここだけは別の世界、別の宇宙なんだ」
「宇宙の穴?」
「ほほう、だれにそんな事を教わったのかなでも、それでもない。ここの空間は捻じ曲がっているんだ。空間そのものが歪んでいるから光も重力も歪んだ空間に沿って進むのさ」
「わかんないよ」
「そうだろうな、おじさんも分かっていないのさ」アーキィはげらげら笑った。
***
車が到着するまでの間、錬金術師は小麦粉を卵と水でといたものを薄く焼いたものでキャベツを巻いて食べていた。
「なんでこうもキャベツキャベツばかりなんだ、もう2度とキャベツは見たくないぞ」
「まぁ、モーリィは美味しいって食べてくれたわよ、大人なんだからわがままは言わないの」とプリモンドは、大きなボウルにキャベツとコンビーフを煮込んだものを盛りつけた。
「こんなごたごたしてちゃあ、手をかける時間もないしね」そう言う間に、廊下をごろごととキャベツの列が転がっていった。
「なんだありゃあ」と錬金術師は、転がるキャベツを見ながら言った。
「あれのご飯なのよ」
「あれって、あれか」
「そう、あれ」
「そうか、あいつって菜食主義だったか」
「私達も最初に見たとき信じられなかったわよどうみたって獰猛な怪獣なのに」
「まぁ、一応生体兵器だからなぁ、やることは獰猛だけど」
「ああ、そういえば、あなた、そんな事言ってたわね」
「知らなかったのか?」
「ええ、熱を噴いたりするから、便利だなぁって下から暖めてもらったりしていたけど。」
「そんな風に使っているのは、あんたらぐらいだ」錬金術師は、キャベツの煮物のスープをすすった
「結構甘くて美味しいな」
「ええ、ドラゴンの糞を肥料にしてから美味しくなったのよ」
「なんと」錬金術師はじっとスープを見つめた
「初めて知った。青の騎士の一族に教えれば喜ぶだろうに」
「そういえば、どうしているかしら?あの青年、ダイモンドに地下に連れていってもらったけど」