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「花瓶(または箒乗りの物語)その6」

 モーリィは車の音で目が覚めた。窓を開けて下を見ると、大きな黒塗りの車が玄関先に止まり背広を着た男が、トントンとドアをノックした。

 「どなた」とドアを開けたプリモンドは、顔を引きつらせた。

 「用は無いわ」とドアを閉めにかかると男の靴がその間に入った。

 「お嬢さん、私にはあるのですよ」男は、慇懃に言った。髪を油で固め、濃いめのサングラスの向こうにある目は笑みをたたえているのか、怒りに満ちているのさえ分からない

 「私達は出ていかないわ」彼女は、真正面から男を見据えた。

 「それは、それで結構。ただし」と男は一枚の紙をポケットから取り出した。

 「この辺り一帯は、もともと国のもので貴女方は許可を貰って住んでいるようですけど。私たちは、国からこの土地を買い受けました。なので、あなた方は、無断でそれを使っている事になります。登記簿上もあなた方のものでも無い以上は、さてこの屋敷も何時、重機で壊されることやら」

 彼女の後ろには、いつの間にか二人の妹が、顔を出していた。

 「おっと怖い方々が増えましたね。私は忠告までに来ただけのこと、もし立ち退いてくださるなら、それなりの謝礼はいたしますよ」

 「どかないよ!」ダイモンドが後ろから声をだした。「さもないと痛い目に合わそうか」

 「ダイモンド止めて」プリモンドは、後ろを振り返って諫めた

 「あと2,3日時間をください」

 「わかりました、しかしそれがこちらも限度ですので」男は、一礼をするとさっと背を向けた。モーリィは寝巻き姿のまま、彼女達の後ろでそっとその様子を伺っていたが、そっとプリモンドの横にくると小さく袖を引っ張った。

 「ねぇ、あいつの財布落とせません?」と小声で言った。

 「え?財布」と見れば、男の大きな財布はズボンから今にも落ちそうな状態だった。

 「あ、まぁね」とプリモンドは右腕を前に差し出してパチンと指を鳴らした。すると、男の財布がぽろりと落ちた。すかさずモーリィは走りだすと、財布を拾いあげて

 「おじさん、落としたよ」と財布を差し出した。

 「ん」と男は、彼を見てそれから彼女達を見た。

 「有難う、君は?弟さんかい?」と彼から財布を受け取けとり、彼の頭を撫でた。

 「いいえ、親戚です」

 「そうかい、悪い時に来たものだ。そうだ、拾ってくれたご褒美にこれをあげよう」と小さな一つのお菓子の箱を取り出して彼に渡した、

 「ありがとうごさいます」とモーリィは右手を差し出した。

 「どうしたしまして」と男は握手に応えた。


  ***


 「あの人、そっくりだけど人間じゃないよ」とモーリィは朝食のミルクを飲みながら言った。

 「なにぃ」ダイモンドが、朝のコーヒーでむせた。

 「遠くから来たみたい」とモーリィはミルクを持ったまま、何かを考えてから言葉を続けた。

 「でも、悪い人でもなさそうだよ」

 「人の屋敷を壊そうって奴にいい奴なんかいるものかよ」ダイモンドは、布巾を手にとると吹き飛んだコーヒーを拭いた。

 「でも、あの変な奴が人間じゃないってことになると立ち退きも無いのじゃない?」とトリモンドが、トーストをかじりながら言った。

 「いいえ、人間じゃなくても、あの文書は本物ね。きっと人に混ざって長くこっちに住んでいるのでしょう、私達のようにね」プリモンドは、食が進まないようだった。

 「モーリィ、でも悪い人じゃないって、じゃあなんで私達をこんな目に合わせるのかしら?」

 「うーん、なにか。この場所が非常に危険と思っていたみたい、そのために早く封鎖しないと駄目とか、お姉さん達をどかせないことでイライラしていたよ」

 「危険だって?こんな町外れの、のどかな場所が?」

 「さぁ、そこまではわかんなかったです」モーリィは、ミルクを飲みながら小さく頭を横に振った。

 「いいのよ、モーリィ。」プリモンドは、やっと自分の紅茶に口をつけた。

 「そんなことまで分からなくて当然よ」


   ****


 モーリィは、再び花瓶を手に取った。疲れていた昨日と違って、花瓶にまつわる想いがより明確に感じられた、しかしそれは、より強い愛で覆い隠されていた。

 「この花は、皆各々を顕わしているんだよ、何時までも3人が一緒に居て、仲良く協力しあえるように作ったんだ。決して割ってはいけないよ。その時は皆、きっと別れ別れになってしまう」最後に拾った声はそんなものだった。

 「秘密なんかないです」彼は、俯いて言った。

 「この花瓶に力の秘密があるなんて思えないです」

 「そうなの…」プリモンドは、そっとお茶を出した。ジャムが沢山はいった紅茶だった。

 「分からないと、きっとこの家を出ないといけないのですよね」

 「ええ、でもそれは彼方のせいじゃないのよ、知っていたのに、何時までも花瓶の秘密に触れようとしなかった私達の怠慢でもあるの」

 「でも期待の応えられないのは辛いです」モーリィは、少しづつお茶を飲み、ダイニングキッチンで背を見せながら洗いものをしていたプリモンドをじっと見つめた。家族っていいな。と思いながら。

 「外を散歩してきてもいいですか」彼はカップを置いて、プリモンドの背中に言った。

 「いいわよ、でもあまり遠くに行かないでね」プリモンドは振り返って、笑みをたたえながら頷いた


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