月とゴミ
その流れ星は沢山で
それはそれは沢山で
でも誰にも見られずに
通り過ぎてしまいました。
その夜は、雲が流れる様に飛び、雨が降ったり止んだりを繰り返していて、晴れ間が見えたと思うとすぐに雲が空を覆う繰り返しで、随分前からテレビで報道していた沢山の流れ星は見られそうに無かった。その流れ星は地球の傍を通る沢山の塵芥の様な宇宙塵の集まりが落ちて来たもので、余りにも小さくて大気圏で燃えつきしまう程に小さい物であるとの事だった。もし晴れていれば、きっとその有様はあの有名なトリフィドの時代というSFの冒頭を思わせるかのような、前例の無いような天体ショーになる予定だった。しかし僕の目に映るものは、流星の雨ではなくて、正真正銘の水の雨だった。
そんなものだから、僕は深いため息を付き、夜長をゆっくりとお茶を飲んで過ごした。流れ星が見えた時に唱えようと考えていた願い事もすっかり頭の中から消去し、その代わりに漫画本を開き、饅頭をいくつも口に放り込んだ。その漫画が面白くて、ついついお茶も飲み過ぎたので、どうしてもトイレに立つ回数が多くなった。日付けが替わり、雨がようやく止んだ頃にトイレに立つと外でガソゴソと音がするので、僕は、この小さな河川敷の町に時折出没するという兄弟狸がやってきたのかな?と思い、そうならば流星群の代わりに見てみようと、脅かさない様にそっとアパートのドアを開けて外に出てみた。するとアパートの脇にある共同のゴミ集積場の前では、お月さんがゴミ袋を収集場所に置いて上からカラス避けのネットを被せている所だった。最近、深夜にゴミを出すと大家さんから五月蝿く叱られるので、「夜に捨てちゃ、だめだよ」と僕が注意すると、お月さんは飛び上がって驚き、そのまま雲の切れ間へ飛んで逃げ帰ってしまった。そして、あたかもずっとそこにいたかのように、雲の隙間でそっぽに向いてから雲の中に隠れてもう出てこなかった。まぁいいか、人のゴミだし放っておこうと部屋に戻ってからやっと床についた。
翌朝、ゴミ収集車がひとつのゴミ袋を残して去って行った。袋には注意書きのシールも貼ってあった。なんでだろう?と思って近づいてみると袋は破け、中から黒い石がごろごろ顔を出していた。そのうち一個をそっと手にとってみると大きさの割りにとても重い。見れば見る程にそれは隕鉄らしかった。どうやら、お月さんは昨晩自分の所に落ちてきた物をわざわざここに捨てに来たらしかった。
僕は珍しいものだし、手ごろな大きさの隕鉄を持って部屋に飾って置くことにしたが、とてもその黒いものに何かをお願いをする気にはなれなかった。しかし、その晩に沢山の流れ星が空中を飛び交っている夢を見た。その中で僕はただ何も考えずにうっとりと空を見ていた。たとえ夢の中でも久々に見る夜の空だった。