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東方現葉幻詩  作者: 風三租
第二部 たのしいサバイバル
9/44

七転八起、ひとやすみ



 龍巳神水(たつみのかみみな)が目覚めたのは夕方になってからだった。


「ふぁぁ。よく寝た」

「やっと寝きた? ……ああ暇だった」


 私が今居る場所は、大自然の真っ直中にある天然の洞窟だ。

 そんな所に暇つぶしの道具などある訳もなく、散歩をしようにもいつ妖怪に襲われるか分からないので、だたじっとしている事か出来ない。


「もう夕方か。おい緑、暗くなる前に水浴びじゃ」

「水浴びって、もしかして真水に入るの?」


 今は多分1月、寒い時季だ。こんな季節の真水になんか触れたら、風邪をひくどころか凍え死ぬ。


「愚か者。そんな事したら爆発するぞ」

「爆発!?」

「自然は怖いんじゃ。頂上に温泉があるからな、そこで温まるぞ」


 こんな所で温泉に入れるのか。中々潤った生活が出来るんだな。


「ああ疲れた。あんなに力を使ったのは久しぶりだのぅ」


 水は気だるそうに立ち上がり、私を連れて外に出る。断崖絶壁を迂回するルートで頂上に行くらしい。


 道中、疑問に思った事を水に聞いてみる。


「気になる事があるんだけどさ、何でそんなお婆ちゃんみたいな話し方してるの?」

「……婆だと?」

「うん」


 私は喋り方の事を聞いたのに、水は年の事を言われたのだと勘違いしたのか、ギラリ、と目を光らせて来た。面倒なことになりそうだ。


「ふ、ふふふふふふふふふふふ……」

「な、何か気に障る事でも……?」

「緑もすぐに人の事言えなくなるぞふふふふふふ」

「ぐっ……」


 何万年も生きた水にとって、私の寿命なんて埃のようなものに違いない。

 今日の事を根に持った水は、嘲笑いながらヨボヨボになった私を介護するのだろう。


「いいんだ! ヨボヨボの私なんて、きっとボケてて何も分からなくなってるさ!」

「ふふふふふふ緑は老いる事もボケる事もない。お前は今のままの姿で他人に老人老人と言われるのだ……!」


 見ためは子供、頭脳は大人、気持ちは10代の状態になるという事か。


「何言ってんの!? そんなの人間じゃないじゃん!」

「緑こそ何を言うか。お前は人間ではないと言った筈だ。妖怪だぞ、よ・う・か・い」


 あまり覚えてはいないが、最初に会った時に小妖怪と呼ばれた気がする。


「何故私が妖怪だと言える!?」

「あのな、妖怪の持つ力は妖力で、人間の持つ力は霊力だぞ。緑が持っている力は、妖力じゃ。立派な妖怪ではないか」

「うぎゃーー!!」


 言い返せないよもう。じゃあ妖怪緑の誕生なんですね? 私はそこら辺の人に「たーべちゃーうぞー」って言うような生物ですか? そんな生物絶対嫌だ。


「妖怪の寿命は長いぞ。老いる事など無いに等しい。せいぜい覚悟して置く事じゃなふふふふふふ」

「私、人間なのに……」

「あと50年もすれば分かるぞ……」


 私がオバサンになれば私の勝ちで、何の変化も無ければ水の勝ち。私にとっては勝っても負けても複雑な気分になるだけだ。

 いや、水の話を聞く限りだと、妖怪は老人と呼ばれる以外のデメリットは無さそうだ。じゃあ私は妖怪であった方が色々と良いことあるんじゃないか? そうだよ、良いんだよ。やったー私は妖怪だワーイワーイ。


「緑は我と同類だふふふふふふ」

「私は妖怪私は妖怪ふふふふふふ」


 不気味に笑いながら山を登る少女二人であった。

 ……結局、水が何故そんな喋り方をするのか、聞き出せなかった。


 頂上に近づくにつれて、硫黄の香りが漂って来る。それを嗅いで私は本格的な温泉があるんだなと思い、到着するまで温度やら効能やら、色々な事を想像して楽しんだ。


「うわぁ……すごい広い」


 そんなこんなで到着。眼前には天然の硫黄泉が広がっていた。まさに秘湯。整備された形跡はないが、流れは無く所々良い感じにお湯が溜まっている場所がある。

 大自然に囲まれ、まったりと温泉を楽しめる最高のスポットです。あなたも一度、来てみては? と紹介したくなるような美しい光景だ。


「さて、我は先に入って来るから、緑はそこで待っておれ」

「へ? 一緒に入らないの?」


 私が言うと、水の顔がたちまち赤くなる。


「そそそそそそそんな、お、男と一緒に入るなど……!」

「は? 男?」

「いくらお前が小僧とは言え、い、一緒なんて……!」

「……」

「と、とにかく! そこで待っておれ!」


 この子、私の事ずっと男だと思ってたの? まあ、よく間違えられるよ。間違えられないのは制服を着てる時位だ。

 アレか、ショートヘアーだし普段はいつも適当な服を着ているから駄目なのか。くそう。


「ちょっと……」


 とっとと行こうとする幼婆を呼びとめる。


「な、何だ?」

「私は女だっ!!」




・・・・・・・・・・・




 水の誤解を解き、無事入浴を終えた私達は、洞窟に戻って食事(主に肉)をして就寝し、次の日を迎えた。


 朝起きて早々「さあ! 今日から修業じゃ!」と水が叫び、昨日私が妖力を感じ取れるかを試した広場まで連れて来られた。


「さて、緑が感じたような妖力がお前の中にもある筈じゃ。頑張ってそれを感じ取ってくれ」

「え、それだけ?」


 修業と言う位だから辛い事でもするのかと思ったが、水はそれ以外のメニューは言わなかった。


「今まで自分に無いと思っていた力を見つけ出すんじゃ。簡単な事では無いぞ」

「いやまあ、そうだろうけど。……何かコツとかないの?」

「無い」

「……そうですか」


 何時までもここに居たって時間の無駄だと思い、水との会話を適当に済ませ、作業(修業?)を始めることにした。


「時間の無駄とは言っても、他にする事なんて無い所なんだよなー」


 心の中の声に対して普段、自分がどれ程生き急いでいたのかをしみじみと感じてしまうのであった。


「何じゃ。まるで前まではすべき事が沢山あったような言い方じゃな」


 自己完結したので作業に入ろうとおもったが、水が私の呟きに反応してしまったので応えない訳にはいかなくなった。


「うん。あのね、私が住んでいた所は、皆それぞれ何らかの義務が与えられて、それこ毎日こなさなきゃ駄目なんだ」

「義務? 与えられる? 何を言っておるのだ?」


 ここには社会という形態が無いので、私が言う事は到底理解出来ないだろう。


「えーと、私が住んでいる所では、そういう決まりがあるの。義務をこなせば少しの権利が与えられる。そうやってその中で上手いこと生活するの」

「むぅ……。よく分からん。義務権利とは何じゃ。やらねばならぬ事を与えられるとは、変ではないか。我はそんな物など貰った事無いぞ」


 国も社会も他人とのコミュニケーションもないこの大自然では、義務など無い。義務が無ければ、その対になる権利も発生しない。何をやっても良く、やらなくても良いのだ。その代わりに常に危険が付き纏い、欲しい物は全て自分で勝ち取らなければならない場所だ。

 その違いを説明しようにも、専門用語を専門用語で説明するような形になってしまうので、理解に到達するのは難しいだろう。

 私が当然だと思っていた事は、違う場所に一歩踏み入れれば当然では無くなってしまう。カルチャーショックというものを初めて受けた。


「私にはこれ以上説明出来ないので、そろそろ修業を開始しようと思います」

「そうか。……緑は頭が良いんだか悪いんだか分からんのぅ」


 文化が違えば必要とされる知識も違う。この環境においての私は、ただの馬鹿でしかないのかもね。


「さて、緑が修業している間、我はひまじゃのぅ」


 はぁ。変な事考えてないで、水の為にはやく終わらせようか。


 とりあえず、目でもつぶっていれば何か起きるんじゃないかな。


「……」


 うん。分かる訳ないじゃん。視界が真っ暗なだけだ。


 そんなすぐには分からないか。もう少しやって駄目だったら、他の事しよう。






「……!」


 十分程経過しただろうか、突然強大な力が私の体の中を駆け巡るのを感じた。


「くっ……!」


 これは辛い。なんて力だ。


「まだだ……!」


 それでも私は頑張らなければならない。


「うぁ……!」


 水のためにも。


「負ける……ものか!」


 それは、誰も抗う事が出来ないであろう偉大な力。


「ここまで来て終わる訳には……!」


 この力に飲み込まれれば最後、抜け出す事は不可能だ。


「駄目、耐え、られない……!」


 ごめん水。もう私は限界だ。


「……」


 今日一日の事が走馬灯のように私の頭の中に映し出される。

 朝起きて、移動して、水が喋って、目をつぶって。なんだ、ほとんど何もしていないじゃないか。


「……」


 せっかくの修行、もう終わってしまうのか……。


「zzz……」


 ついに私は眠気と言う強大な力に負けてしまった。茶番茶番。


 どうやら本格的に眠ってしまったらしく、目が覚めたら夕方になってしまっていた。

 水も寝ていたようなので、起こされる事はなかった。昨日今日で寝過ぎだ。何やってんだろう私達。それにしてもよく妖怪に襲われなかったな。




・・・・・・・・・・・




 修業(笑)を始めてから二週間位か、何となく過ごしていたので正確には分からないが、とにかくそれ位の時間が経っていた。


 そして今日も修業だ。


「やれ」


 水の言葉が大分簡潔になっている。


「飽きた」


 これまで私は瞑想という名の睡眠以外にも、「出ろー、出ろー」と言いながら飛び跳ねたり、目についた木を適当に蹴ってみたりと思い付く限りの事をしたのだが、自分が痛い子になっていくだけだった。

 そんな進展の気が全く無いこの状況に対し、そろそろ飽きが来てしまっているのだ。


「何か自分の力について思い当たる事は無いのか。どんな些細な事でも良いから、良く思い出してみるんじゃ」


 思い出せ、ねぇ……。


 私の身の回りで不思議な事が起こり始めた時を思い出し、水に洗いざらい話してみた。


「おかしくなったのは、夏休みからだ」

「夏休みとはなんじゃ」

「話が進まないので適度に無視して下さい」


 きっかけは、私が受験勉強の逃げ道として始めた、地域の何だかを調べる課題。

 私は村で古くから伝わっているおとぎ話に興味を抱き、調べた。そのおとぎ話の内容は、幻想郷の存在を仄めかすようなものだった。

 当時の私は、そんな虚構的な内容など信じる訳も無く、それを否定する為に唯一の友人東風谷早苗を連れ、遊び半分で実験のような事をした。

 そしたら、幻想郷に入ってしまった。


「これは早苗の仕業だと言ってたから関係無い」


 幻想郷に入ったのは、早苗の『奇跡を起こす程度の能力』によるものだ。私はただ騒いでいただけだった。


「それで、自分の居る所が幻想郷だとは知らずに普通に帰ろうとしたら妖怪に襲われたんだ。この時初めて妖怪に会った」

「何? 緑の住処は妖怪が出ないのか?」

「うん。私にはそれが当然だったから、変とか言わないで黙って聞いててね」

「……」


 現れたのは、幻想郷では縄張り意識が強いことで有名な妖怪、天狗だ。確か犬走椛と名乗っていたかな。

 私達はその椛とやらに侵入者とみなされ、攻撃された。私はその攻撃で動けなくなる程の傷を負って気を失い、早苗も重傷を負った。

 早苗によると、私が気を失うと同時に椛が突然倒れて動かなくなったので、その隙に早苗は残った力を振り絞り、私を抱えて逃げ出したそうだ。


「椛が倒れた理由は分からんのか」

「分からない。この話のあとで考えてみようか」


 気が付くと私は布団の上に寝かされていた。そこは酷い状態の私達を治療してくれた、親切な姉妹(秋静葉とその妹の穣子)の家だった。

 秋姉妹が特に何も言わなかったので、私達はその家に滞在した。そこでご馳走になった野菜が美味しかった。


「ここでも野菜を作ろうか」

「我は肉食じゃ」


 二ヶ月後、私と早苗は穣子に連れられ人里に行った。そしたら元の世界に戻ってしまった。


「かなり省いたじゃろう。訳が分からなくなったぞ」

「特におかしな事は無かったからね」


 元の世界に帰る直前、秋姉妹は神だということが判明し、記念にペンダントを貰った。そのペンダントは今も私の首にかけられている。


「ん? ペンダントなど見当たらぬぞ?」

「ぶらぶらするから服の中にしまってある」


 元の世界に戻ると、早苗のご家族(神様)が引っ越しをすると言ってきた。私の唯一の友達の早苗が居なくなってしまうので、最後の最後まで一緒に過ごして思い出を作ろうとした。

 そしてある日、私が早苗の家兼神社に行くと、そこには何も無かった。一日で神社が跡形もなくなってしまったのだ。もちろん、早苗とそのご家族もいなくなっていた。


「これの原理は分からないけど、私は関係して無いよね」

「早苗のご家族が神だと言ったな。其奴らなら出来ぬ事も無いじゃろう」

「神様を其奴呼ばわりする水は一体何者なんだ。まああれは一度見たらそう呼びたくはなるけど……」


 神社跡地を見た私は錯乱し、滅茶苦茶に走りまわって気を失い、目が覚めたら知らない所にいてそれから色々あって現在に至る。


「こんなもんかな。なんでここに来たのか未だに分からない」

「うむ。不明瞭な点は二つじゃな。椛の時と、ここに転移した理由じゃ。絶対緑の能力が発動しておる」

「絶対って……」

「そうでもしないと話が進まん。まず椛に遭遇した時、緑がどう行動したか詳しく話せ」

「えーーーーっと、さっきの説明以上の事は思い出せません」

「はぁぁぁぁ……」


 水は深いため息をつき、体育座りをして顔を伏せてしまった。

 だって半年も前の出来事だよ。しかも極限状況で意識が朦朧としてたんだから思い出せないのは無理もないよ。


「……ここに来る直前の行動を話せ。忘れたとは言わせぬ」

「あ、それなら……」


 一昨日の事だからはっきりと覚えてる。狂った自分の事なんて他人に話したくないが、我慢する。


「神社跡地を見て、私は早苗が幻想郷に再び行ってしまったんだと思い、自分も行きたいと強く願った」


 そして私は、山に行って叫びんだ事、森に行って叫んだ事、その時言った言葉など事細かに話した。まるで懺悔している感じがした。


「……『あの頃に戻りたい今なんて要らない』、『早苗に会えるなら命を差し出す』か。必死じゃのぅ、若いのぅ」

「やめて復唱しないで恥ずかしい!」

「……緑の能力の見当が付いた」

「ええ!? 何で!? 私の能力はどんなの!?」


 私の質問に水は答えず、不敵な笑みを浮かべながら「さー昼飯じゃー」と言って洞窟に戻ってしまった。


「……ずるい」




・・・・・・・・・・・




「緑。人間の住処に行ってみたくはないか?」


 昼食を済ませ、修業を再開するのかと思っていたら、水が突拍子もない事を言い出した。


「行ってみたいけど……何でいきなり?」

「明日から修業をキツくするからな。少し自由をやろうと思ったんじゃ」


 何か嫌な予感がする。こういう人が「キツくする」とか言うと危険なんだよ。能力の見当が付いたのが原因なのか。

 嗚呼、私の命も今日までなのかな。最後の時間は大切に使わないと。


「ほら、行くぞ」


 私はここが過去だと思っているから、人がいる所に行っても面白くないのではないか。という不安感があったが、少し興味もあったので水に付いて行った。




 そして山の頂上に着いた。見晴らしが良いです。


「草原にポツリとあるコンクリートジャングル……」


 眼下には、巨大な壁に囲まれたビル街が見える。明らかにこの風景にマッチしていない。


「原始時代は何処へ……」


 昔過ぎると逆に文明が発展しているのか? こんな景色は歴史の教科書でも見た事がない。竪穴住居は無いのか。


「最早見る事は無いと思っていたあのぐちゃぐちゃ。誠に遺憾である」

「緑もそう思うか。あやつら、ここ数百年であんなに発展しおった」


 数百年でここまで? ここの人々は大変頭が宜しいようですね。


「まあ、都会なら楽しめるか……」


 私が住んでいた場所は田舎だけど、根本的な所は同じだ。初めて見る超古代文明都市が、いつもいつも見ていた都会だったことに強い失望感を抱いた。皆ももし過去に行く事があったら気を付けましょう。


「我が緑の妖気を隠す。あまり離れるでないぞ」

「あ、そうか」


 私は妖怪らしいので、人間に私の存在がバレたら解剖される危険性がある。身に纏う妖気をどうにかすれば大丈夫なんだね。


「一番なのは緑が力を制御すれば良いのじゃがな」


 水は私に手を向け、念じる。すると周りの空気が圧縮されたような気がして、変な気分になった。


「うわ。私自身があやしい感じがする」


 まるで私が不審者みたいな言い方だが、他にしっくりくる表現が見つからない。水に妖気を当ててもらった時に感じたものよりもハッキリと認識出来、それはあやしいながらも自分の一部であるかのような安心感も同時に存在した。


「感じるか。……最初からこうすれば良かったかのぅ。まあ良い、それが普段お前が撒き散らしている妖力じゃ」

「私が知覚出来る程の妖気って、普通の妖怪にとっては危険な量なんでしょ? そんなのいつも撤き散らしてたら不味くないの?」」

「緑の妖気は広範囲に薄く広がる。ただ目立つだけじゃ」


 ここに来た直後に連続エンカウントしたのはそういう理由だったのか。はやく何とかしなければ……


「そんな緑に弱小妖怪が近づかんのは我が居るからなのだぞ。感謝せい」


 確かに水に会ってからはどんなに隙を見せても、妖怪に襲われない。水はこの辺では番長的存在で、皆恐くて近付けないのだろう。人は見かけによらない。


「せっかくの自由時間じゃ。妖力云々の話はもう良いから、さっさと行くぞ」


 水っててきぱきと行動するよね。




・・・・・・・・・・・




 高く分厚い塀に囲まれた街に入る際には、幾多の検問を突破しなければならなく、人外生物が近付こうものなら即殺害出来るような設備があった。

 その検問は無人で、代わりに所々に銃付き監視カメラ設置されている。さらに空港にあるような金属探知機らしきアーチや、X線照射機のようなハイテク機械の中を通り抜けなければ先に進めないように作られている。

 水の堂々と歩けという指示に従って探知機類をスルーすると、私にとっては見慣れている都会に出た。車いっぱい人いっぱい、信号いっぱいビルいっぱいの地獄絵図だ。


「都会のセキュリティがこんなんで良いのかな……」

「自惚れてるだけじゃろう。全く、危機感が足りぬ」


 自惚れているのかは分からないが、街の中にも多くの監視カメラが設置されていて、せわしなく動いている。

 恐らく妖怪が入った時、直ぐに機動隊のような恐いお友達が駆けつけ圧倒的武力を以って駆除したり、事件事故が起きた時に色々な役目をするのだろう。


「これじゃあプライバシーなんてあって無いようなものだね」

「ぷらいばしー?」

「他人に口出しされない自分の時間のこと」

「む? そういうものは、自分で勝ち取るのでは無いのか?」


 また大自然幼女水の質問タイムが始まった。こういうのって答えるのが難しい。


「ここにあるのは共存だから、そういうのはダメ」

「面倒じゃのぅ」


 私の適当な答えに満足したようだが、私にはさっきから気になっている事がある。


「監視カメラとか車とかに付いてる、あの『YATSUIGROUP』ってロゴは何なんだ?」


 視界にある全ての物にこのロゴが付いているのだ。普通ならば色々な会社名が見えるハズなのだが、この光景は異常だ。


「この集落は、八意(やごころ)という名の人間を筆頭にしてここまで栄えたんじゃ。最初の代は向上心があって良い人間だと思ったが、今の八意家はどうも好きになれん」

「水はバ……その頃から生きてるんだね」


 禁断の語句を言いそうになったが、とっさに婉曲な表現をしてごまかした。危なかった。


「こんなハイテク都市がある今を原始時代とは信じたくないけど、本当ならどうしてローマ字やら漢字やらがあるんだろう」

「それは大人の事情じゃ」

「大人の事情か」


 大人の事情で真実は隠されてしまったが、考えようによってはここが言語の大本で、後々世界中に広まったと解釈できないこともない。漢字アルファベットその他の絵文字がバラバラになって各国に伝わり、時が進むにつれ再び一つにまとまったとかだったら面白いのに。

 そんな妄想をしつつも人いっぱいの大通りを進むと、左斜め前の方に良さそうな店を見つけた。そこにもYATSUIGROUPのロゴが入っていた。


「あ、あそこに百円ショップがある! 行ってみよ!」

「金は無いぞ。見るだけだからな」


 百円ショップまでやってるのか。そんなすごいすごい社長の顔が見てみたいね。


「何じゃこれは。入れないではないか」


 水の前には自動ドアがあるのだが開かない。水の背が底過ぎてセンサーが感じ取れないのだろう。

 私はぶぅぶぅ言ってる水を抱きかかえて普通に店内に入った。


 店内を見渡そうと思った瞬間、真っ黒な高級スーツを着こなし、嫌らしい営業スマイルを浮かべた男達に囲まれた。


「な、何ですか……?」

「おめでとうございます!」


 中央に居るリーダーっぽい男が私の質問に答えず、妙にハイテンションで祝いの言葉を叫んできた。


「あなた様は、ヤツイグループの店に訪れた丁度八億人目のお客様です!」










 ……もう、意味分かんない。






とある事情により投稿が遅くなりました。




FFと風のクロノアとゼル伝をやってて遅れたなんてことは誰にも言えませぬ。

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