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東方現葉幻詩  作者: 風三租
第一部 田舎に泊まろう
7/44

宝の山に入りながら空しく帰る

序章がおわります。



「お二人には外の世界に、帰ってもらいます」

「え……」


 外の世界に帰る方法を探す為に人里にやってきたのだが、いざ帰れると言われると何だか残念な気持ちになる。私は幻想郷が好きになってしまったのかもしれない。


「丁度良いじゃないですか。ようやく帰れますね!」


 早苗には未練は無いようだ。


「いえあの……私、傷が完治するまで、戻るのは好ましくないんですが……」

「今直ぐにとは言いませんよ。ただ、人里から離れた所に住んでいる者と一緒に過ごしてもらいます。力を持った君達に目をつけている妖怪がいますから」


 さっきから本当に力とやらがあるかのように言ってくる。そこまで言うのなら、本当に力があるのだろう。早苗に。妖怪の山では椛に対して特殊能力を使ってたし。


「それに、直ぐに帰らなければならないのなら、二ヶ月前に君達を尋ねたはずですよ」


 言われてみればそうだ。特に急を要する事ではないのか。


「少し前に、君達が人里に向かっているという情報があって、私はここに来ました」


 少し前って、私が秋姉妹の家を出た時か? 穣子が危ない電波を飛ばしたのだろうか。


「今朝いきなり藍さんが寺子屋に来て、『外の世界の人間が迷い込んでるからよろしく』と言われたからな。探したんだぞ?」


 学校に入る前に言っていた「急用」とは、これのことだったのだろうか。


「じゃあ私達と会ったのは偶然じゃないと?」

「そうなるな」


 ……何だかすごく手際がいい気がする。私達を外の世界に帰すために、前々から計画を練っていたような印象を受ける。二ヶ月放っておきながら、帰す時はてきぱき動くという矛盾。考え過ぎなのかな。


「藍先生は、私達が幻想郷にいるとマズいって言いましたよね」

「はい」

「もし私達が力を持っていたとしても、今は全然使いこなせません。そこらへんに放置しておけば、妖怪に襲われて抵抗もできないまま死んでしまうと思うんですけど……」


 椛と遭遇した時がまさしくそうだ。奇跡的に生き残りはしたが、二度目は無いだろう。それでパワーバランスは元通り。偉い人が出るまでもない。


「それなのに何故藍先生は、私達を外の世界に帰そうとするんですか? 手間がかかるだけじゃないですか」

「……君は強い力を持っています。些細な事がきっかけとなって、君がその力を使いこなせるようになると、逆に私達が危なくなってしまうのです」


 何だその超展開。私は一般人だ。何の変哲もない生活を送る、『普通』と分類されるであろう人間だ。


「君は普通の人間ではありませんよ。ええ。変態です」


 変態って言われた。


「まあ、君が力を使いこなせなくとも、そちらのお嬢さんがね」


 衝撃発言。早苗は超能力者だったらしい。前々から自分は神だとは言っていたが……。


「わかっちゃいます?」

「わかっちゃいます」


 私には分かりません。早苗、ずっと普通の友達だと思ってたのに。


「……私は『奇跡を起こす程度の能力』を持っています。幻想郷に来られたのは、私が能力を使って奇跡を起こしたからです」


 何!? 陰謀か! こやつめ、謀りおったか!


「緑を危険な目に遭わせてしまったのは、元はと言えばすべて私のせいなんです。……今まで言えませんでしたが、ごめんなさい」


 そう言って早苗は頭を下げてきた。超展開過ぎて、理解が出来ませぬ。


「いやまあ早苗は悪くないよ? ここに来られて良かったと思ってるし」


 とりあえず無難な返事をしておく。現実の友人が余りにも非現実的なことを話していて、早苗が悪いとはちっとも思えない。

 で。今までの話を整理すると、私は力持ちで早苗はエスパーで、そんな私達は幻想郷じゃ手に負えないから帰ってもらうって事?

 私みたいな平凡な人間が力持ちだったら、現実世界にはもっとすごい人がいるのではないか。時空を捉えちゃうひとみたいに。つまり現実世界はもっと混沌としている筈だ。


「変な力を持った私達が、外の世界に行っても良いんですか? その、パワーバランスとやらは外の世界では気にしないんですか?」

「君らなら分かるでしょうが、外の世界は幻想を否定する世界です。ある程度の力は無い物と一緒なんですよ」


 ごめんなさい思いっきり否定してました。


「そうなんですか外の世界って夢が無いですね」


 相づち棒読みである。

 大体の事情は分かった。物は本来あるべき所に収まれということだよね。時空を捉える人をここに連れてきたら、倍増したパワーできっと爆発する。

 事情は大体分かった。これ以上聞いても、多分理解出来ない事ばかりだろうし、そろそろ切り上げますか。慧音さんも空気になってきてるし。


「質問はこれ位でいいです。まあまあ納得できました」

「分からない事があったら、君達がこれから行く場所で聞くといいですよ」


 秋姉妹、慧音さん、藍先生、そしてこれから会う移転先の人物。よく言えばみんなに面倒を見られている。悪く言えばたらい回しである。


「今日はもう遅いからここで泊まるんだ」

「明日出発しますから、よく寝てくださいね」


 そう言い残して藍先生は、部屋から出て行った。さっきから何もしゃべらない早苗は一体どんな気持ちなのだろうか。


「早苗、元気出して」

「元気いっぱいですよ」


 先程頭を下げた人間が、何事もなかったかのように振舞った。薄情にも見えるが、そうしてくれた方が変に気を使わなくて済むので、安心出来る。早苗のこの切り替えの早さが、私は好きだ。

 人里に来てから、話がとんとん拍子に進んでいる。残りの幻想郷生活、存分に楽しもう。




・・・・・・・・・・・




 翌朝。身仕度をして、藍先生との待ち合わせ場所の寺子屋前で、私と早苗は佇んでいた。慧音先生は準備にもう少しかかるらしい。


「どこに連れて行かれるんだろう」

「あ! 緑後ろ後ろ!」

「へ?」


 早苗に言われて後ろを向くが、何もない。


「いきなりどうした」

「何か変なのが……あ! 後ろ後ろ!」

「またか」


 再び後ろを向くが、何もない。


「何もないよ?」

「確かにあった……ああ! 後ろ後ろ!」

「もう騙されない」


 そうして振り向かずに早苗の方を見ていると、ペシッ! と誰かに後頭部を叩かれた。


「あぅ! 誰!?」

「何もない所から……手が出てきました!」


 再度後ろを向くが何もない。前を向こうとする素振りを見せてすぐに後ろを向いてみる。


「は!?」

「てへっ!」


 空間に亀裂が生じていて、そこから金髪の女性が顔を覗かせ、何か笑いかけてきた。

 というか、この亀裂の中に目がいっぱいあって気持ち悪い。


「何だコレ!?」

「バイバイ」


 すぐに亀裂が閉じてしまった。


「何これこわい」

「ホラーですね……あああ!」


 今度は早苗と私の目の前に亀裂が生じる。さっきの金髪の女性は出てこなかったので、亀裂の中のおめめが私をすごい見てくる。


「紫様! 橙を頼みましたよ! え!? もう寝る!? 私が帰るまで我慢して下さい!」


 そこから藍先生の声が聞こえてきた。


「ちぇぇぇぇぇん! いい子にしてるんだぞ! え!? 紫様の肩たたきをする!? なんていい子なんだ!!」

「何でしょうこれ……」

「どこでも扉的なアレ……?」


 某人気アニメの秘密道具が思い浮かぶ。ドアじゃないよ、扉だからね。


「じゃあ本当に行きますからね! 雨が降ったら洗濯物を取り込んで下さいよ!」


 言い終わると同時に、私達の目の前にある亀裂から藍先生が顔を出す。


「おはようございます」


 ニカッと笑い、挨拶をする藍先生。それは、裏での苦労を感じさせないような爽やかな営業スマイル。


「……朝から大変ですね」

「紫様がだらしないですから」

「(聞こえてるわよ!)」

「うわ!」


 亀裂が狭まってきて、藍先生が急いで亀裂から出てこようとする。端から見れば、上半身だけが浮いているような状態になっているだろう。


「狭い……!」


 途中でつかえたようだ。


「ぐぉぉぉ……!」


 藍先生が力を振り絞るとコミカルな音が鳴る勢いで抜け、勢い余って倒れ込んだ。それにしてもしっぽがすごいな。


「いつも大変ですよ……」

「その苦労……私にも分かります」


 早苗が藍先生に同情する。守矢神社にも神奈子ちゃんという厄介者がいるので、苦労人同士で共感できるのだろう。


「待たせたな!」


 そこに慧音さんがやって来る。


「遅かったですね」

「すまないな。朝食をとっていた」

「え? よく聞こえませんでした」

「朝食をのんびりとっていたから遅れた」


 朝食なんてないものだと思ってきたというのに、この人はのん気に食べていたらしい。待ち時間で昨日のうどん屋に行っておけばよかった。


「……もう。早く行きましょうよ」


 少しムカっときたので、出発を催促する。


「そうですね。では慧音さん、またいつか」


 慧音さんに別れを告げ、藍先生が歩き出す。


「慧音さんは来ないの!?」

「私には寺子屋があるからな。見送りだけだ」

「はあ。そうですか……じゃあさようなら」

「一宿一飯の恩は忘れません。では」


 素っ気なく別れを告げる私と丁寧に挨拶する早苗。慧音さんと会うのは最後になるかもしれないので、ムカついていてもちゃんと挨拶すべきだったと後悔。

 寺子屋から大きな通りを真っ直ぐ歩き、村の入り口まで至り着くと、藍先生が立ち止まった。


「それじゃあここからはパっと行きましょうね」

「わっ」

「きゃっ」


 藍先生はそう言って私と早苗を担ぐ。すげー力持ちだね。一体これから何をするの?


「すぐに着きますからねー」


 何の前触れもなく、空高く飛び上がった。あっという間に村は小さくなって、眼下には一面の緑が広がる。ある程度の高度になると、藍先生はそのまま空中で静止した。


「すごい……浮いてます!」

「重力は? 重力無視なの!?」

「このまま落ちたらどうなるでしょう」

「え」


 ここまできて何言っているんですか。

 絶景が絶望に塗り替えられた瞬間、猛スピードで動き出した。


「ぎゃあああああああああああああああああああああ」




・・・・・・・・・・・




「着きましたよ。ここが君達が今日から滞在する所、博麗神社です」


 あっという間に目的地に着いてしもうた。藍先生の飛行は、目的地直前まで自由落下しているようなものだった。流れる景色(恐怖)が頭に染み付いてフラフラだ。早苗はなぜか楽しそう。

 私達に気付いたのか、前にある神社の中から紅白の少女が出てくる。この神社の巫女さんだろうか。


「ああ? この人達が紫の言ってた人……?」

「そうだ。怪我が完治するまでここに置いてやってくれ」


 私達に対する話し方と違って、偉そうな態度になる藍先生。


「はぁ? 今直ぐ帰すんじゃなかったの? 面到臭い……」


 巫女さんがとてもだるそうな顔で、私達の前に歩み寄り、手を差し出してくる。


「はい」

「はい?」


 握手かな? と思い、私も手を差し出す。


「違うわよ。お金」

「へ?」


 金銭を要求する手だった。


「まあ、外の世界の人間が持ってる訳ないわね……」

「え、いや、あの、持ってますけど。一応……」


 私が言った瞬間、巫女さんの目がギラっと光り、下げかけていた手を再びビシっと伸ばしてきた。


「はい」


 怖い。


「早苗ー、お金ー」


 さっさと払ってご機嫌をとってしまおう。

 穣子にもらったお金は、私が持っていると失くしそうなので、早苗に持たせている。……あ、穣子にお別れ言うの忘れてた。


「はいどうぞ」


 早苗はもらった五枚の紙幣のうち、三枚を巫女さんに渡した。もう使う事はないと思うのだが、何で全部渡さないのだろうか。


「うわ! こここここここんなに!!」


 三枚だけでも十分価値があるようだ。一万円札的なものかな。そんなものを五枚もくれた穣子は一体何者なんだ。


「私は博麗霊夢よ! ここで思う存分楽しむと良いわ!」


 だるそうな表情が一変して、万遍の笑みを浮かべる博麗さん。お金はここまでも人を変える力を持っているんですね。


「わ、私、木葉緑です。えと、博麗さん、よろしくお願いします」

「そーんな固くならなくていいわよ! 敬語もいいから!」


 言いながら、私の背中をバンバンと叩いてくる。


「東風谷早苗です。お世話になりますね霊夢さん」

「……私の勘が言ってるわ。あんたは危険だと」


 反して早苗には、あまりよろしくない対応をする。


「じゃあ博麗霊夢、後は頼んだぞ」

「分かったわよ。じゃあね。紫によろしく言っといて」

「藍先生! もうさよならですか?」

「やることはやりましたから」


 慧音さんといい藍先生といい、さっぱりした性格をしている。


「そうですか……。今度会ったら、お話しましょうね」


 叶うことのない願いだろうが、つい言ってしまう。本音を言うと、しっぽがさわりたいのだ。


「短い間でしたけど、お世話になりました」


 早苗も別れの挨拶をする。昨日から私が喋ってばかりで、早苗の存在感が薄い感じがするのは気のせい?


「お礼を言われる立場ではないですよ。会って早々帰れなんて言ったのですから」


 そう言って藍先生は私達から距離をとる。


「あ、そうだ。昨日の君の解答、意味不明でしたよ。ふふふふふふふふふ」


 最後に言わなくて良い事を言って、飛び去ってしまった。は、恥ずかしい!




・・・・・・・・・・・




 それから三ヶ月間、私達は霊夢の仕事の手伝いをしながら、相変わらずのんびりと過ごした。

 途中、霧雨魔理沙と名乗る金髪の魔女っ子に破壊工作をされたり、サニーレタス(?)・ルナムーン(??)・スターゲイザー(笑)三妖精とやらにいたずらされたりした。


 例としては、


「掃除はパワーだぜ!」

「神社が壊れるでしょ! 私が怒られるんだからね!」

「魔理沙さん! それどうやってやるんですか!?」

「朝からうっさい」


 とか、


「出たなスターゲイザー! 今日はひっかからないぞ」

「スターサファイアだって!」

「皆さーん、おだんご作りましたよー」

『わーい』


 という事があった。

 そんなこんなで、私の傷は痕が見えない位完治していた。半年かかったよこれ。




「……そろそろ、ね」

「お? もう帰すのか?」

「金の分は働いたわ。これ以上長く居ても危険なだけだし……」

「寂しくなるな……」

「という訳であんた達、帰る支度をしなさい」


 霊夢と魔理沙で勝手に話を進める。


「え……いきなり過ぎない?」

「本来は緑の傷が完治するまでの筈だわ。これでも少し長くしてあげたんだから」

「うん……そうだね……」


 間違った事は言ってないが、すごく残念な気持ちになった。


「とうとうこの生活も終わりですか……」

「早苗は寂しくないの?」

「私は、神奈子様や諏訪子様の事もありますし、それに……」


 言いかけて、口ごもってしまう。


「そうか……早苗には帰る場所があるもんね……」


 私の両親は小さい頃からいなかったので、婆ちゃんと暮らしていた。今は婆ちゃんの負担になりたくないと思い、一人暮らしをしている。

 昔婆ちゃんに何で両親がいないかを聞いたら、「金を置いて出てった」と答えた。死別したという意味なのか、捨てられたという意味なのかは分からないが、いじめも無く、この環境に不満も無かったのでそれ以上は聞けなかった。


「明日決行よ。神社の事はいいから、今日は好きにしてなさい」




・・・・・・・・・・・




「好きにしてと言われても、することないんだよなー」


 とりあえず外に出たが、秋姉妹の所に居た時と同じく、行動できる範囲が神社の境内ぐらいで狭い。


「秋姉妹にさよなら言ってないなー」

「お礼もしなきゃいけませんしね」

「今どうしてるかな」


 博麗神社縁側に並んで座り、談笑をしていると。


「……やっと見つけた」

「!?」

「穣子さん! 静葉さん!」


 噂をすれば何とやらとでも言うのか、秋姉妹が現れた。


「あなた達が帰ると聞いて、ずっと探してたのよ……」

「お別れをしようと思ったの……」


 感動の再会にもかかわらず、秋姉妹がものすごく暗い。


「会えて良かったけど、何故そんなに暗い」

「冬だからよ……」

「寒いよ……」

「緑、中に入りましょうよ」


 ここで話していても寒いだけなので、神社の中で話すことにした。




「最後に会えて良かったよ」


 後悔をしないように、今度はきっちりお礼をする。姿勢を正して、秋姉妹の方を見据える。


「……あの時はありがとうございました。穣子様と静葉様のおかげで私達は今を生きる事ができるのです」

「気にしないでいいわ……」


 せっかく真面目に言ったのに、そんな濁った目をして言われるととても不満だったように見える。


「私達の世界では味わうことが出来ないような楽しい生活をさせて頂きました。感謝しています」

「いいんだよ。私も楽しかったから……」


 早苗も感謝の意を示す。穣子も返答するが、楽しかったようには全然見えない。


「渡したい物があるわ……」

「やっとあげられるね……」


 この為に私達をずっと探してくれたのか。本当、良い人達だな。


「これ、外の世界に帰っても、私達の事、忘れないように……」

「忘れちゃ、やだよ……」


 そう言って差し出して来たのは、紅葉の飾りがついたペンダントだった。……うぅ。


「すごい、カッコイイ……うれしいようわあああああん!」


 話し出すと嬉しさ悲しさが収めきれなくなり、静葉様に泣きついてしまった。


「……よしよし。でも、綺麗とか、可愛いって言って欲しかったわ……」

「……早苗にも、はい……」

「あ、ありがとうございます……ぐす」


 早苗もこらえきれなかったようだ。


「……じゃあ、私達は帰るわ……」

「え、もう?」

「……冬だから、何にもやる気が起きないの……」

「……帰って寝る……」


 長い時間をかけて私達を探してくれたのに、会うのは一瞬だなんて……。


「待ってよ、もっと話したい事が……!」




 すると、秋姉妹の纏っているやる気の無い空気が一転して、緊張したものになった。




「私達は秋を司る神。冬は私達の出る幕じゃないわ」

「冬は植物が枯れる季節。私達はお休みの時だよ」




 ……今まで度々秋姉妹が、自分は神だと言っていたが、私は信じていなかった。だが今なら信じられる。

 今秋姉妹が纏っているこの空気は、私でも分かる位神々しいものだった。この場の空気は、私が声を出す事を禁止され、かつ頭を下げなければならないような感じがする程、神聖なものだった。これが神というものなのか。




「秋は一年かけて成長した植物達の祭りの季節」

「冬は植物達がお休みして春を迎える準備をする季節」


「私達は祭りを盛り上げる為の彩りに過ぎない」

「私達は植物達におやすみって言う存在だから」


「私は紅葉の神、秋静葉」

「私は豊穣の神、秋穣子」


「どこまででも赤い秋に」

「穀物が豊かに実る秋に」


「また会いましょう」

「また会いましょう」


 私達が何も言えないまま、秋姉妹は行ってしまった。

 手に持ったペンダントが、キラリと光った気がした。




・・・・・・・・・・・




「朝よー、帰る準備出来てるー?」


 翌朝。とうとう帰る時が来てしまった。


「うん。気持ちの整理してて寝れなかった」

「決着ついた? ついてなくても帰すけど」

「大丈夫。だと思う」


 幻想郷での生活は、例えのんびり暮らしてたとは言え、外の世界での生活と比べると刺激が強過ぎた。

 皆が安心して暮らせるようにと、全ての物事が管理され、その中で休むことなく競い合い、人それぞれの幸せを勝ちとる外の世界。

 一歩外に出ると命の保障は無く、仲間達がお互いに助け合いながら、生きていることに対して幸福を感じる幻想郷。

 どちらも利点欠点差し引きゼロだが、私は幻想郷の方を気に入ってしまった。参った参った。

 だから私は一晩かけて自分に言い聞かせた。ここは自分の居るべき場所じゃない、ある物はあるべき所になきゃ駄目だ、と。


「さあさあ早く帰ろう。気が変わらないうちに」

「私も準備万端ですよ」

「じゃあ外に出て。一瞬で終わるからね」




 博麗神社の裏側に連れて来られた。地面は舗装されていなく、雑草だらけだ。


「……ここ博麗神社は幻想郷と外の世界の境。幻想郷であって、外の世界でもあるの」

「なんか、分からん」

「あんた達を帰せる場所だって言いたいの」

「へー」


 じゃあ外の世界でもここに来れば、幻想郷にもう一度行けるんじゃないか?


「だからといってもう一度ここに来られると思わない事よ」

「無理なの?」

「無理よ。私が居なきゃ。例え無理じゃなくても駄目よ」


 不可能に加えて禁止までされた。


「駄目って?」

「あんたねぇ。何で帰されるか分かってんの?」

「パワーバランスが何ちゃらかんちゃら……」

「そう。だからあんたはここに居てはいけないの」


 あんた「達」じゃないの?


「早苗は?」

「早苗は……いいんじゃない?」

「じゃあ私は残ります」

「ふざけるな早苗。くっついてやる」


 力持ちな私は駄目で、超能力者の早苗は良いのか。……よく分からないな。


「まあ早苗は幻想郷的には良くても私が嫌だから、強制的に帰すわ」

「霊夢さんひどいです……」


 霊夢は最初に会った時から、何故か早苗には厳しい。


「まあ、ここでぐたぐたしてても時間の無駄だし、パッパとやりましょう」

「時間の無駄って……」


 別れのシーンが台無しだ。


「後ろ向いて」


 言われた通りに後ろを向く。神社に背を向ける形だ。


「はいパッパ」






「……え?」


 ふざけているのか、と思い背後の霊夢を見る。


「……は?」


 誰もいなかった。それどころか、目の前の神社が荒れ果てた建物になっていた。腐った木の板は、誰にも整備されていないことを強調している。


「……終わり?」

「……ですね」


 あっけなさ過ぎて、何の感情も生まれてこない。


「そうか! 夢オチか! 早苗、私さっきまで寝てたんだよね。今七月でしょ」

「現実を見ましょうね。首元見て下さい」


 視線を下げると、首にかけてある秋姉妹から貰ったペンダントが目に入る。


「現実だった……」


 こんな終わり方嫌だと思っても、どうすることも出来ない。


「……帰ろう」

「そうですね」


 余韻も何もない。

 後で考えると、こうして帰した方がモヤモヤも残らないという、霊夢なりの配慮だったのだろうと思った。

 私の小さくて大きな旅行は、これでおしまいであった。




・・・・・・・・・・・




 森を抜けると、舗装された道路に出た。懐かしきアスファルトの地面は、なんか変な臭いがする。


「うわ、本当に戻って来てる」

「人に見つかると面倒ですから、こそこそ帰りましょう」

「そうだね。婆ちゃんの所に行かなくちゃ」


 半年ぶりだから、道行く人に何を言われるか分からない。遭遇した瞬間補導されるかもしれない。なので、家族に会って生還したことを報告するまではステルスゲームだ。


「って婆ちゃん!」


 ゲームクリア。


「緑……緑か……! 何だか今日はこの道を通らなきゃならない気がしたが……まさかこのような奇跡があるとは……」


 十五秒かけてすごーくゆっくり話すので、感動の再会として抱き合うというシーンは、消滅した。

 しかも、半年ぶりの最初の言葉は要約すると「電波受信してここに来た」だ。


「二人は家出した不良少女、という事にしといたぞい」

「うん。すごい冷静だね。もう」


 挙句の果てには、悪者にされていた。


「向こうの世界、行ってたんじゃろ」

「……うん。幻想郷って言うんだって」


 婆ちゃんにはすべてお見通しらしい。町のおとぎ話を信じている婆ちゃんは、私達が消えた事を直ぐに受け入れ、理解したのだろう。そしてすぐに周辺住民に対するアプローチを。もっと他のやり方はなかったんですかねえ。

 こっちの人に婆ちゃんの行動を説明しても、何考えてんだこの伝説大好き老人、とでも思われるだろう。だが今の私は、婆ちゃんが言っていた事が全て正しいのだと、肯定できる。


「おかえり」

「ただいま」


 どんなに不思議なことが起こっても、普通のやり取りは変わらないね。




・・・・・・・・・・・




「いやあー参ったねー。道行く人みんなにに白目で見られる」

「なにそれ怖ッ! 『白い目で見られる』ですよ」


 婆ちゃんとの感動の再会は済ませたので、何となく早苗について行く事にしたのだが、良い選択だった。

 まず住民にバレないように移動するなんてムリ。そして、あらぬ噂を立てられていたために周りの視線が怖く、一人じゃとても歩けない。すっかり村の悪者になっていた。


「守矢神社だーなつかしー」


 ここら辺は人通りもなく、安心して発言できる。あとは階段を上るだけで守矢神社の本殿につく。


「神奈子様と諏訪子様は元気にしてますかねー」

「いやー駄目でしょ。あれ働いたら負けな人でしょ?」


 言ってから気付いた。触れてはいけない家庭の事情だと。


「あ、一応あの方達は神様ですよ?」

「はぁ!?」

「守矢神社で奉られてる神様ですよ」


 ついこの間まで妖怪やら神やらを見てきた私には、人外の存在というものが信じられる。だから早苗も言ったのだろう。


「普通の人には見えないはずなんですけどね」

「私は見えたぞ。ジャージ着た神奈子ちゃんが」


 神様の服がジャージ上下なんて嫌だ。


「それでも神様なんですよ……」

「あ! 早苗達帰って来たよ!」


 丁度階段を上り終えた時、諏訪子に見つかった。


「おーう! お帰り! どうだった向こうは」


 諏訪子の声を聞きつけ、神奈子ちゃんもやって来る。

 今日も元気にジャージ上下だった。


「こんな神様は嫌だ」

「やあ緑っこ! 何か特殊能力使えるようになってないか?」


 変な呼び方をされた。その言葉に堪忍袋の緒が切れた私は突然潜在能力が目覚め、神奈子ちゃんに対して正義の鉄槌を下すということはあるはずがない。


「なってません」

「そうか。残念だなー」

「そう簡単に出るもんじゃないよ。もっとすごい事が起きなきゃ」


 諏訪子も私の力を引き出したいらしい。やめろそんなことをしたらあなた達を壊してしまう私に近づくなー。


「じゃあ、襲うか!」

「こんな神様なんか嫌だ」

「冗談だよ冗談。ふふ」


 神奈子ちゃんの目は本気だった。




「さて緑っ子。大事なお知らせがあるんだが」


 神社の中に招き入れられ、落ち着いた頃に神奈子ちゃんが話し始める。早苗は、晩ごはんの材料を買いに家を出てしまった。一人で大丈夫?


「大事なお知らせ?」

「そうだ。本当ーに大事だからな」

「そうですか」

「いいか、話すぞ、驚くなよ、よーく聞け」

「早く話して下さい」


 言い出して置きながら、中々本題に入ってくれない。


「……近い内に、引っ越す」

「さようなら」


 やっとこのだらしない神様は独り立ちするらしい。目出度い。


「ああもう。神奈子が言っても冗談にしか聞こえないよ」


 諏訪子が割り込んで来る。


「あのね、今の君には分かると思うけど、私達神は人間の信仰が無きゃ生きて行けないのね」

「はあ」


 ものすごく嫌な予感がしてきた。


「だけどね、最近の人間達は神を信じないでしょ?」


 確かに、この神社の参拝客も極僅かで、これで良いのかと思うこともある。


「最近私達は信仰を集める為に、ちょくちょく引っ越しを繰り返しては、そこの人間の信仰を集めるの」

「最初の方は珍らしいという理由で参拝客も増えるさ。でも長くは続かない」

「最後に引っ越したのは、200年位前かな」


 200年! それを最近と言うこの人達は、一体何歳なのだろう。見た目からは想像もつかない。神は老化しないのか?

 でも、大抵の人が想像する神って、髭がモジャモジャで顔は皺々のおじーさんだよな。イケメンが神なんて聞いた事ない。まあ目の前に幼女の神がいるからそんな夢はぶち壊されたけど。


「でね、ここももう信仰を集められなくなっているんだ」

「だから私達はここから離れようと思っている」

「皆、行っちゃうんですか?」

「うん。皆でお引っ越し」

「早苗も?」

「早苗が居なきゃ、神社として成り立たないよ」


 神だけが移動しても、神社は経営できない。早苗の引っ越しも必然だ。

 一方で、唯一の親友である早苗が居なくなってしまったら、私は受験戦争に独り取り残されてしまう。留年確定の私は、緊張感が極限に達した三学期に加えてもう一年、あの空気に耐えなければならないのだ。しかもいっこ下の後輩に囲まれて。


「もう100年位我慢出来ないんですか?」

「……これは、前々から決まっていた事だからね。準備はもう出来ているんだ。これ以上もたもたすると私達は消えてしまう」

「……」


 嫌だ。嫌だけどこれは守矢神社の問題だ。私がどうこう言って良い事じゃない。


「緑っこ。向こうの世界は楽しかったか? 思い出は十分作れたか?」

「……はい」


 私達を幻想郷に行かせる事も、最初から決まっていたらしい。神は幻想郷の存在を知っていたのだ。


「ならそれをきっちり心にしまって、早苗を忘れないでいて欲しい」

「……分かりました」


 また一晩かけて、折り合いをつけなきゃ。


「皆さーん! 晩ごはん出来ましたよー!」


 そこに問題の早苗が部屋に入ってきた。


「あれ? 暗いですよ。……あの事話したんですか?」

「早苗ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 この際思いっきり泣いて、スッキリしよう。




・・・・・・・・・・・




 あれから二週間が経って、私と早苗は正式に留年を通知されたのですが、今は冬休みなので、気にせず早苗と遊んでます。

 それはもう毎日。一秒でも長く一緒に居たいのです。

 今日もいつもと同じく守矢神社に遊びに行ったのですが、何やら様子がおかしく、人だかりができています。

 構わず階段を上ってみたらあら不思議。




 守矢神社がありませんでした。




 そう言えば昨日、「明日引っ越します」とか言ってたような。

 もっとよく思い出して見ると、「最後の私達の奇跡、見ていて下さいね」とも言われた気がする。


「はははははははははは」


 いやーおっかしい奇跡だなー。早苗はどこに行ったんだ。


「こらこら。ここは関係者以外立ち入り禁止だよ。って君は行方不明者の友人じゃないか」


 紺色の制服を着た不愉快なオッサンに話し掛けられた。


「少し話を聞かせてくれないか。怖がらなくていいからね」

「私はなーんも知りませーん」

「昨夜はどこで何をしていた? 普段の東風谷早苗を見て変わった事は? あなたと東風谷早苗は半年家出していたらしいが、何か関係していると思う?」


 家出が関係している? もしかしたら関係してるかもしれないね。いや関係してるんだ。絶対そうだ。他に思い付かないよ。早苗は私を置いて幻想郷に行っちゃったんだ。ズルイなぁ。私も行きたかったのに。ん? 私も行けばいいのか。1回行けたんだからもう1回行けるはずだよね。そうだ、行こう。行けばいいんだ。


「あ! 待て! どこへ行く!」


 気がつくと、訳もわからず走り出していた。






 私は走った。走って走って、山の頂上まで来た。


 あの時と同じ場所に来れば、幻想郷に行けると思った。


「あの頃にに戻りたい! もう一度幻想郷に行きたい! こんな今なんて要らないから!」


 私は叫んだ。あの時と同じで、普段と違う事をすれば、幻想郷に行けると思った。




 私は走った。走って走って、博麗神社まで来た。


 現実と幻想の境目ならば、幻想郷に入り易いと思った。


「早苗に会いたい! 会えるんなら、命を差し出しても良いから!」


 私は叫んだ。皆、私には力があるって言ったじゃないか。






 さっきから、支離滅裂な事を言っているのは分かる。

 早苗が幻想郷に行ってしまったという証拠は何処にもないし、幻想郷に入るきっかけとなったのは、早苗の能力だったらしい。私一人がどうこうしても幻想郷には入れない。

 博麗神社に来たって、霊夢が居なければ幻想郷に出入りする事は出来ない。命を差し出したら、早苗と会えなくなるのは当然の事だ。

 そんな事は分かっている。分かっているさ。積もり積もった不安が爆発しただけなんだ。学校が始まれば、きっと大人しくなる筈。


 ……なんだか馬鹿らしくなってきた。


 走り過ぎたのか、体がだるいし、瞼も重い。


 ……もういいや。寝よう。




・・・・・・・・・・・




 とあるゴシップ雑誌の一ページ。


『怪奇事件! 消えた神社と2人の少女』


 一月五日未明、とある村落に建てられた神社、守屋神社が一夜にして跡形も無く消え去ったという通報があった。

 通報をしたのは朝のジョギングで、守矢神社の階段を利用している男性の村人である。

 本人によると、「私は毎日この階段を上っている。事件当日もこの階段を上り終え、その時に昨日まであった神社が無くなっていると分かった。」とのこと。

 原因はまだ不明で、建築物の専門家は、神社のような建物を誰にも気づかれずに短時間で破壊する事は、理論上不可能だと述べている。

 また、同日、この神社に住んでいた18歳の少女と、同年齢の少女の友人が行方不明となっていることが明らかになった。

 その二人は、7月から12月までの5ヶ月間、家出をしており、警察はその事が関係しているのではないかと見て、捜査を進めている。

 この事件は不明な点が多く、有力な証拠も見つからない為、捜査が困難である。我々取材班も独自に捜査をし、この謎を解明して行きたい。




文章力がほしい語彙か欲しい会話をもっと長引かせたいあ゛ぁぁぁぁぁぁ!


こんな幼稚で長い文章を読んでくれて、ありがとうございます。


……文字を書くときは、ペンタブを使って一字一字書いています。

試しに今回慣れないキーボードで打ち込んでみたら、二文字目にミスってしまったので、すぐに挫折しました。

こんな調子で大丈夫かな……と思う次第でございます。

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