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東方現葉幻詩  作者: 風三租
第四部 セールスお断り
40/44

高山流水、ユウキが友達。

前回のあらすじ


妖怪の山

椛「死ねえええええええ」

妖怪の山・山頂

ヤマメ

「この紋所が目に入らぬか」

偉いヒト

「へーこらへーこら」

椛宅前

「ヤツとの再会だ」

ヤマメ

「これからのご活躍にご期待ください!」



 魔王が待ち構えている。犬走さん宅のハシゴを昇った先に、待ち構えている。

 家の前で大騒ぎをしても、もう一人は顔を出さなかったのだ。声と雰囲気で家の前に誰がいたのかは分かるハズ。それでも挨拶ひとつ、二階から落としてこなかったのだ。これは強敵だ。

 頼りにしている仲間は先に行ってしまった。私に足りないものは、覚悟のみ。


「早く来なって!」

「今、行くから……!」


 仲間の激励を力に変えて、私はハシゴの足場に手をかける。滑りやすそうなこの感触は、ハシゴがどれだけ使われてきたかを物語る。魔王の城に相応しい、古より伝わるハシゴのようであった。

 足場を両手でしっかりと握りしめ、強度を確認してから、今度は右足を乗せる。記念すべき第一段。——摩擦力は、止まっているものよりも動いているものの方が、働く力が小さい。その原理と一緒なのだろうか、二段目は一段目程の緊張はなかった。流れに乗って三段、四段と、順調に昇って行く。

 もう引き返せない。引き返す気もない。そんな気持ちになって、一段飛ばしで昇ろうと足を大きく上げた。

 それがいけなかった。


「……いっ!」


 下ろした右足は空を切り、掴む力が緩んでいた左手はあっけなく離れる。右手一本で姿勢を保てる訳がなく、せめて頭を守ろうと、中途半端に掛かった左の足首で思い切り踏み切る。

 予想外に力が入りすぎて私の体が回転している。視界がごちゃ混ぜになって、どこが上なのかすら認識しない。

 気付いた時、私は地面の上に直立していた。そう、見事な一回転を成し遂げたのである。


「おおー」


 仲間も歓声を上げながら拍手している。


「わかったから早く来な」


 今の本当に危なかったんだからね!

 ちょっと懲りたから普通に昇って、ヤマメと合流。


「最初からそうしなって」

「雰囲気作りが大事なの!」

「まあ久しぶりだしねえ」

「そうなんですよー」


 ヤマメと会ったときは雰囲気なんて仲間はずれだったけどね。

 申し訳程度に設置された足場に二人でいるのはきつい。さっさと入った方が良さそう。玄関は簡単な布で仕切られていて、それをかき分けて中をのぞく。


「……おじゃまします?」

「はーい」


 足を伸ばしてくつろいでいる犬走さんが出迎えてくれる。

 部屋は簡素な作りで、ちゃぶ台と座布団と収納スペースくらいの、必要最低限の生活空間。ただ一つ、この質素な部屋とは不釣り合いの肘掛け椅子が、壁際に置いてあった。


「き、きたわね」


 そこに肘をついて偉そうに座っているのが水橋パルスィ。


「き、きたさ」


 照れくさい。


「ど、どこ行ってたのよ」

「え、西、の方」

「中に入りたいんだけども」


 ヤマメに押されてちゃぶ台のある所まで入り込む。ど、どうしよう。


「あ、ヤマメ」

「いやあ、向こうで偶然会ってね」


 場はヤマメに任せて、とりあえず座ろう。犬走さんと私は、ちゃぶ台を囲んで世間話。


「仲良さそうですねー」

「はい」

「哨戒任務に就いているとだとなかなか友人ができなくてですねえ」

「周りに何もありませんからねー」

「そう。そのせいで情報にも疎くなってしまって。散々なのですよ」

「でもなんかカッコいいですね。働くヒト」


 パルスィと話している筈のヤマメから、とがった視線が打ち込まれる。別世界へと旅立った私を、ヤマメが引っ張り戻しにきたのだ。


「こら、何しに来たと思っているんだー?」


 分かってるよ、と言っているように読み取れる笑顔を向け、犬走さんとの会話に戻る。徐々に、そしてあっさりと打ち解けていく流れを作りたいのだ。


「いいんですか?」

「時間が解決してくれます」


 ちらりとヤマメの方を見て、眉をハの字にする犬走さん。やっぱり時間が解決すると判断したのか、「聞いてくださいよ」と話題をつくる。


「さっき行った『山会』、覚えてますよね」

「サン、カイ?」


 専門用語を使われても分かりません。


「御山中央之議会所ですよ。さっき黒谷さんと三人で行ったあそこ」

「あの裁判所か」


 名前といい空気といいそこに居るヒトといい、堅苦しいのばっかりだったね。話すことも分かりにくいし。分かりやすいことを分かりにくく話すのはカッコいいとは言いたくない。


「わたしあそこで怒られたじゃないですか。あのカラスに」

「あー」


 私は肩をぶつけられた。会社の裏みたいなものを垣間みた。


「むっかっつっきますよねー」

「あれはヒドいねぇ」


 これってもしかして、仕事のグチ?

 初めて聞く平社員の話に、新鮮さを感じる。今まで会ってきたヒト達は、皆それぞれ信念を持っていたり、逆に全く持っていなかったりして、流れるように生活していた。そんな私のネットワークに、働けども報われない社員さんが入り込んだのだ。


「あの高圧的な態度、どうにかできませんかねー」


 深い溜め息とともに、日頃の鬱憤を吐き出す。パルスィも毎日聞かされていたのだろうか。

 見てみると、二人はこちらの話を一切聞かないように、部屋の角っこに移動していた。


「大体なんですか、あの目は。同じ天狗を見る目じゃないんですよ。哨戒だって立派な仕事だと思いませんか? 里もわたしたちのおかげで続いているんですからね。上で書類整理するだけじゃないんですから」


 言いたい放題だ! 犬走さんは体育座りになって顔をうずめ、それでもなお呪詛が流れ出る。

 自分の世界に入り込んでいる隙に、ヤマメがパルスィを引き連れてきて、私の服を引っ張る。


「ここからはひとり言だから、行こうって。パルスィが」

「放っとけば直るわ」


 そうらしいので、私達は別次元の犬走さんにお礼と、念の為に書き置きも残して家を出た。まあ、家も近いし、いつでも会えるのだ。




・・・・・・・・・・・




 帰り道に、恐る恐る、当たり障りのない会話を続ける内に、長い時間の空白は大分埋まっただろう。それは盛り上げ役のヤマメがいたお陰かもしれない。昔どんな感じで話していたかを思い出せたのだ。

 旅館に戻ってくると、玄関前には二人の天狗が立っていた。犬走さんの言う「御山中央之議会所」のメンバー、レーセンジさんとメノウさんだ。


「お待ちしておりました」

「ご夕食の用意に参りましたが」

「ご不在のようでしたので」


 どっちか片方が喋って欲しいものである。壊れそうなステレオスピーカーみたいで怖い。

 厄介者が歩き回ってんじゃねーこんちくしょーと、二人の言葉を悪意的に解釈して、私はパルスィを小突く。パルスィはヤマメの背中にタッチをして、責任を全部押し付けた。


「これから用意させますので……」

「空いた時間に入浴をおすすめさせて頂きたいのですが……」


 三人に増えたから量を多くしなきゃいけないじゃないか害獣どもめ、と言っている気がしたので、ヤマメに「草食え」と耳打ちした。ヤマメは自分の背中を触ってから、私の腕をなすり付けるように触った。


「屋敷内に露天風呂を設けております」

「ご案内いたしましょうか?」


 表情には出さないが、ふざけて聞いている私達に、二人はキレているかもしれない。あまり迷惑をかけないように、断ることにする。


「立派な屋敷なので、自分で探検するのもいいかなと思いまして。案内はいいです」

「さようでございますか」

「では後ほど、鴉天狗が食事をお持ちいたしますので」


 ごゆるりとなさってくださいませと、二人で深くお辞儀して、議会所の方向へ行ってしまった。接待される経験はあっても、するヒトは基本的に木葉組員。荒っぽいのだ。

 洗練された接客は、自分と異質なものを感じてしまって、距離を置きたくなってしまう。前にもこんなことがあったような。

 それはそうと。

 私は腕をさすってから、その手をパルスィになすり付ける。


「なによ」

「ヤマメ菌」

「うわっ」


 触られた所を念入りに、削ぎ落すように手を動かして、私に返そうとする。私はそのスキに旅館の中に逃げ込んだので、パルスィの手は空を切るだけであった。一秒でも長く保菌していたくないパルスィは、すぐに私を追いかける。


「くっそー」


 ヤマメも悔しそうにして、更なる感染症を引き起こそうとパルスィを追いかけた。

 とりあえずお風呂に行ってみようか。旅館の廊下を真っ直ぐ走り抜け、突き当たりの直前に階段を見つける。そこを二段飛ばしで駆け上がり、再び同じような二階の廊下を走って進む。半分程度の所で、あからさまにお風呂だと主張している赤と青のノレンがあったので、急ブレーキ。

 すぐ後ろに付いていたパルスィは、必死に菌をべたべたと貼ってくる。ヤマメはその後ろで菌を補給している。


「ここで滅菌しよう?」




・・・・・・・・・・・




 男湯に入れられた。

 竹を並べたバリケードの向こう側からは、楽しそうな声が二つ聞こえてくる。なんとか覗いてやろうと竹のバリケードに張り付いてみたが、無駄に丈夫で隙間一つない構造になっていた。

ガタガタ揺らそうにも叩いて騒音をまき散らそうにも、丈夫な竹は全ての衝撃を吸収して、何事もないように男湯と女湯を仕切る。向こうと同じように、バリケードを大きくまたぐ位の、でかい声を出すしか方法がない。


「さびしーんだよー!!」


 捨て台詞のように叫ぶと、「さびしーんだよー」と山彦が返ってくる。山全体に響き渡って恥ずかしい。ヤマメの方から返事のような声が聞こえたが、ちょっとボリュームが小さくて聞き取れないね。

 諦めて一人の時間を満喫することに。バリケードから離れて、いい景色を見てリラックスだ。

 バリケードのない、山の麓側は大きく開けている。山の中腹辺り、しかも旅館の二階は木の背より高くなるように造られている。幻想郷予定地が一望できる、最高の露天風呂だった。ヤマメ達に構っていたらもったいない。


 見渡す限りの森林が広がり、山から流れる川が森に模様をつけている。右方には湖があり、夕日の光を反射して、キラキラと輝いている。空は赤く、ねぐらに帰る鳥達が飛び交っている。丁度良い湯加減と開放的な自然で、今までの疲れがすっかり取れるだろう。

 ふと小さな違和感を感じて、遠くの方の森を見る。よく見ないと気付かない、ほんの小さな空白が見えるのだ。湖にしては小さく、川にしては大きすぎるようなポッチがある。あの神社ができたのかな。

 普通にそこだけ川が太くなっているだけで、考えすぎなのかもしれないが。

 明日、今まで報告をしに八雲さんの家に行こう。ついでにあそこも見てこよう。今決めた。


「……はあ」


 スッキリした。そろそろ出よう。




・・・・・・・・・・・




 部屋に戻れば夕食の準備ができており、食べ終わったと思えばすぐに布団が敷かれる。無駄のない烏天狗の働きで、私達はされるがままの一時を送った。外は真っ暗、暇なので就寝することにしたのだが、とても眠れる気分じゃないよ。ヤマメとパルスィは何故か寝付いてしまって、私一人残される。この状態に陥ると、余計に眠れなくなるのが修学旅行の常識。寝よう寝ようと思っても、目は閉じることをしようとしない。

 なんとかして寝ようと思い、窓際に座って星を見る。満天の星は綺麗だけれど、余計に目が覚めてしまう。することが全部逆効果となる、魔の時間帯だ。


 こんな空の下でお風呂に入ったら綺麗だろうなと、またも余計なことを思い付く。またお風呂だ。止めるヒトは誰もいないから、考えは妄想にレベルアップして、いても立ってもいられない状態に。


 もう徹夜でもいいや! お風呂行っちゃえ!


 最終的に自暴自棄になって、やりたいことを全てやるのだ。やってやる。

 部屋の出口は窓と正反対の所にある。布団が敷いてある大部屋と、収納部屋、短い廊下で構成されている。それが旅館中にいくつもある訳で、旅館そのものである。

 音をたてないように忍び足で部屋を横断する。大部屋と廊下の間で何かを踏む。


「ぶもっ」


 ヤマメが横たわっていたが、面白いので放置。後は難なく部屋を出て、忍び足をやめて二階に上がる。

 今度こそは女湯に入ってやる。月に照らされてかすかに判別できる赤色のノレンにパンチをして、脱衣所に入る。仕様は現代銭湯と同じで、数あるカゴに衣服を入れ、備え付けてある手ぬぐいを持って温泉に行く形だ。


 どれにしようか、棚に並んだカゴを選んでいると、一番隅っこに、何者かの衣服が入れられていた。誰かが中にいるのだ。ヤマメはあそこで踏んだから、パルスィだろうか。部屋を出る時に、姿はしっかり確認していなかったし。

 なんとなく、そのカゴから一番離れた位置を選んで、着ている服を放り込む。手ぬぐいを持って、さっきと同様、足音を立てないようにして温泉へ。脱衣所と温泉は例のバリケードで簡単に仕切られているので、ここからでは何も見えない。

 バリケードから少しだけ顔を出し、様子をうかがうが、誰もいない。月に色付けられた、波打つお湯があるだけだ。


 確かに服はあったんだけどな。


 何が起こってもいいように、警戒心をオンにしてから、そっと温泉のすぐ近くまで歩く。お湯の中は全く見えず、反射光で遮られる。怖いので、人差し指をお湯につけてみる。

 その瞬間。


 目の前で大きな水しぶきが上がり、私は尻餅を付いてしまう。


「我こそ此が山の主! 龍巳神水たつみのかみみなであるぞ! 低俗な妖怪が土足で踏み入って良い場所では無いっ!」




 びっくりしたー。

 明らかに低い背丈で、上方以外の方向に、無造作に突き出ているセミロングの髪。

 水しぶきの原因は、わが偉大なる飼い主、水さんであった。一糸纏わぬ姿で、腰に手を当て堂々たる立ち姿を披露している。お子様。

 なんだか拍子抜けして、普通に立ち上がって湯船に入る。私の動きが動力源であるかのように、水は元いた場所に沈んで行く。


 水の真ん前まで進むと、完全に沈んだ水がうっすら見えた。背後に回り込んで、背中を持って水揚げする。顔が外に出たので、前に回り込んで顔をよく見てみる。目を合わせようとしないが確かに水である。


「おーい水サーン。水ー。みーなーちゃーん」

「……」

「テーゾクな妖怪が踏み入っちゃいましたよー」

「……」


 だんまりを決め込んでいる。よく見えないけど耳、真っ赤じゃない?

 何とか話してもらおうと、頬を掴んで腹話術みたいなことをする。驚かせた罰だ。


「こんばんは! 水でぇす! はいこんばんは。今日はどうしてここにきたんじゃー。眠れなかったからだよー」

「ええい! しにさらせっ!」


 水は首をブンブン振り回して、私の巧みな操作から逃れる。


「ねえねえどうしてここにいるの?」

「うっさい男!」

「ああん?」

「あっち行ってろ!」

「……」


 私の賢明なるインタビューに、ついに水は観念して、深い溜め息をつく。温泉のヘリまで移動して、部下を差し置いてリラックスする社長のごとく、壁に寄りかかって楽な姿勢をとる。勿論私は接待する気などないので、同じように寄りかかる。横を見れば水の顔と、暗い森。


「元からおる」


 私達が連れてこられるより前から、この旅館に滞在していたってこと?


「ある時天狗に見つかり、我より力が劣ると分かると、神と称して崇め奉り……。社を造ると抜かしてこの建物に幽閉じゃ」

「あ、私も」


 明後日には完成するっていうのは、ずっと前から工事していたからか。


「その時、神の使いとか言われたんだけど」

「見つかった時にな、お前がこの山に戻ってないかと思って」

「名前出したのか」


 道連れにしようとした訳だ。後は例のあれだろう。他人との接触を避けたい病。さっきの偉そうなビックリ演説も、虚勢を張ることで侵入者を追い出したかったのに違いない。

 天狗に遭遇した水は、ペットを呼んで通訳係にさせようとしたのだ。


「驚きすぎ。そのときも、今も。こっちだってビックリするんだからね!」

「お前が見知らぬ妖怪なんぞ連れ込むからだ」


 おもむろに水は立ち上がって、脱衣所の方へ動き出す。私はまだ全然浸かってないのに。話を中途半端な所で切るのも嫌なので、渋々水に付いていく。冬にこんなことしたら確実に風邪を引く。夏だからできることだ。


「外に出ようと思ったって無駄じゃ。奴ら、我をこまめに監視しておる。山から出ようとすれば直ぐに天狗がやってくる」

「監視? 誰も見なかったよ」

「透視と透聴の能を持った天狗がおる」

「え」

「霊仙寺、瑪瑙と言ったか」

「え」


 水にとっては精神的な監獄だ。誰にも見られず外に出ることができないから。ほんの一瞬、ここから逃げる時に、天狗を振り切るまで対面することよりも、長い間見られているだけの方を選んだのだ。その感覚がよくわからん。

 犬走さんの家に行ったときもあの二人の天狗には筒抜けだったのか。なんか嫌だねえ。


 水は手ぬぐいでさっと体を拭いて、服を着てさっさと行ってしまう。こっちも着替え途中なんだから、ちょっと待って。

 急いで追いかけると、水は階段を下りずに、二階の奥にある部屋に入る。


「さっさと逃げればいいのに」

「……」

「何気にこの生活が気に入ってたり」

「……」


 否定の言葉がないぞ。

 今までのは山から出ない言い訳だったのか。


「景色綺麗だよねー」

「うむ」

「生活が楽ですし」

「うむ」


 すでに敷かれてある布団に潜り込んで、水はそれっきり何も言わなくなった。


 まあ、相性が合って、かつ慣れれば事務的な会話くらい可能なのでしょう。少し進歩しているのかな。




・・・・・・・・・・・




 朝日が入り込んで無理矢理覚醒させられる私のアタマ。起き上がると目の前がクラクラして、本当に起きているのか、疑いをかけたい気分だ。少し明るくなった時間に、やっとの思いで寝付けたのだから、寝た感じが全くない。完全に寝不足である。


 ヤマメとパルスィはすでに起きている。備え付けの座椅子に座って談笑をしている。元気そうで妬ましい。私もそっちに行って、少しアタマを落ち着けようと席に着くと、見計らったようなタイミングで、烏天狗が部屋の引き戸をノックした。

 お布団を片付けに参りましたと言われ、ヤマメが返事をする。すると三人が入り込んできて、せっせと布団を畳み、持って行ってしまった。もう寝られないじゃん。


 四人めの天狗が大部屋の前、廊下にひざまずき、お食事はいつ頃お持ち致しましょう、と。またもヤマメが今でいいと答え、天狗は去って行った。


「なんか気疲れする」


 本当にこんな待遇を受けて良いのだろうか。再び三人だけになった部屋で呟く。これもどこかで聞かれていると思うと、気分が優れない。そっちは寝不足のせいかも知れない。


「私らは上に立つようなものじゃないからねえ」


 ただの街娘だったヤマメも、VIP待遇は慣れないらしい。


 十分程して、食事が運び込まれる。山菜を中心に作られた料理は、皿の上に綺麗に並べられている。高級な食材を丁寧に料理されているっぽいのだが、正直味がよくわからない。

 お吸い物は薬味のにおいがキツイくて一気飲み。分かるヒトからすればオジョウヒンナカオリなのだろう。

 煮物は色々な出汁が入っているらしいが、ただ甘いだけ。具も多分松茸とか、高級品が使われているのは、見て大体わかる。だがしかし、土臭い。大自然のカオリとか言って納得できない。

 結局、サバイバル生活のときに食べる、正体不明の食物達とそう変わらないのだ。そんな食事はさっさと済ませ、出掛けることにする。


「ちょっと行く所があるから、待っててね」


 ヤマメとパルスィが八雲さんの所に行く必要はない。二人と八雲さんの出会いは確か、最悪だったような気がするから、一緒じゃない方がいいとも言える。




 山から出ようとしたとき、水の言っていた通りに天狗がやってきた。外出の旨を伝えると、あっさり通してくれたので、特に問題はない。

 そんなこんなで、昨日見た「森の穴」の所に着いた。迷わないでよかった。


 そこは、見たこともないような大きさの、ヒマワリ畑であった。





☆秋姉妹的温泉旅行

「静葉でーす(星)」

「穣子でーす(はあと)」

「温泉気持ちいいわねー」

「そうだねー」

「うわあ、穣子の大きいー」

「や、やめてよお姉ちゃん」

「ほら、私のはどう思う?」

「湯気で見えないよ!」

「……」

「……」

「やってられるか!」

「入浴のイメージトレーニングなんてどうかしてるよ! お姉ちゃん!」

「この辺に温泉ないの!?」

「ないよ! まだ間欠泉とか吹き出してないから! 怨霊とか大量発生していないから!」

「はい?」

「なんでもない」

「……」

「……」

「……」

「……」

「穣子は予言者であるか!」

「弾圧されるー!」



あとがき

毎月更新がいつの間にか隔月更新に。

この調子で完結できるか心配です。

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