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東方現葉幻詩  作者: 風三租
第四部 セールスお断り
29/44

出藍之誉、昔はどうなの。




 私は寺子屋の教室らしき場所に座っていた。

 始業の鐘が鳴り響き、先生が教室に入ってくる。


「それでは楽しい授業を始めましょー」


 私は何の疑念も持たずに教科書を開く。


「それでは新入生さん。この12元連立方程式を解いてみてくださいね」


 12元……。そんなもの解いたことがない私だが、不思議と手がすらすらと進む。


「えっと、aが3でbが4でcが1でdが−8でeが2.3でfが5でgが−2でhが12でiが3の10乗分の2の8乗でjが1でkが4でlが−2です」

「違います」

「えっ!?」


 そんな、計算ミスなんてしてないハズ……!


「正解は『旧友の手級を預かっていたジョセフの「待ってくれ、待ってくれ」という言葉に胸を打たれた信之助が井戸を掘ることを決心したから』です」

「……っ!」


 あー、そう来たか。ケアレスミスじゃないか。


「駄目じゃないですか。じゃあ次の問題ですよ。生物を構成する細胞の中で酸素を使ってエネルギーを発生させる細胞小器官の名称を答えてください。これはサービス問題です。絶対に正解してくださいね?」


 こんなのちょろい。


「ミトコンドリア!」

「違います」

「はあ!?」

「正解は『であえであえこの紋所を目に入れてみろははー』です。せっかく簡単な問題を出したのに。センセーは悲しいです」


 くそう。そっちだったのか。紛らわしい問題だね。


「これで最後ですよ。『If I were you,I wouldn't do it.』を訳してください」

「もし私があなたならそれをしないだろう」

「違います」

「うわぁぁぁっ!」


 恥ずかしい! 三問連続で間違えるなんて!


「正解は『もし……、もし私があなたなら……! 私はきっと、そんなことしないのに……! でももう……、遅いのね……。信之助はもう逝ってしまったわ。私に残されたのは……、トンネルを掘ることだけ』です」


 おしい! あと少しで正解だったのに! 詰めが甘いのか……!


「もう。木葉さんは落ちこぼれですね。皆さんで笑ってあげましょうか」


 先生の言葉で、いつの間にか私の周りを囲んでいた先徒達に注目される。


『ははははははははははははははは』

「ふふふふふふふふふふふふふふふ」


 皆が私を笑い物にする。私は俯いてじっと堪えるしかない。


「ほら、木葉さんも笑わなきゃ駄目ですよー」


 先徒達の間から先生がこちらに近付き、持ち前のもふもふを私の道筋に掠らせる。


「ひ、ひゃぁ」

「遠慮してはいけませんよ。思う存分に笑ってください」


 手応えがあったと判断した先生は、そのもふもふを往復させて私の首をなで回す。


「ぅぅ、うっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」

「ふふふふふふふふふふふふふふふ」

『ははははははははははははははは』


 笑いが止まらない、息ができない……! これが笑い死にってやつなの……?


 酸欠になった私がこの状況から抜け出す方法は、意識を手放すことしかなかった。




・・・・・・・・・・・




「……んーー!」


 夢オチ、か。何とも奇妙な夢だったのだろう。

 息が苦しいと思ったら、枕に顔を押し付けて寝ていたみたいだ。

 仰向けになって天井を見上げると、知らない木目が並んでいた。回らない頭で寝る前の出来事を思い出し、ここが八雲紫さんの家だと認識する。

 床には畳が敷かれていて、箪笥や机などの家具は一つも置かれていない。空き部屋――好意的に解釈すれば、客間――のようだ。

 今までのお家は基本板の間であり、座る所や寝る所だけに畳が置いてあっただけなので、このように一面が畳の部屋は大変懐かしく、居心地が良い。


「寒い……」


 冬に入ってまだ始めの時期。外に出ると凍え死ぬ気温ではないにしても、顔に当たる隙間風は嫌らしいものである。

 ヤマメ達と行動している時は焚き木と気合と押し競饅頭で凌いでいて、気温がどうのこうのと贅沢は言わなかったが、布団のような天国に一歩でも踏み入ってしまうと、もう外には出られない。パルスィに知られたらなんて言われるだろうか。

 布団から出たくない。でも外の空気が吸いたい。ということで、布団にくるまったままごろごろと障子に近付き、うまいこと手を生やして開ける。

 すると、外で長蛇の列をなして並んでいた日光達が、好き放題に部屋の中に侵入する。


「ぐぅああぁあぁあああぁ! 溶ける、溶けてしまう!」


 直射日光は、引き篭もりと吸血鬼の天敵だ。早くも引き篭もりモードへと変態した私には、お天道様がラスボスに見える。

 急いで扉を閉めるがもう遅い。視界が緑に染まっていて、障子も襖も緑色に見える。これが本当のグリーンハウス。


「……。朝ごはん」


 昨日の朝食べてから丸一日食べていない。一日二食の食生活は、一食でも抜くと大変なことになる。こんなことなら少しでも食べ物を要求するべきだった。

 紫さん、起きてるかな。一刻も早く朝食にありつきたい。

 名残惜しいが布団から這い出て、抜け殻となった布団をマントのように羽織る。そして襖を開けて隣の部屋に移動。そこで私が見た物は衝撃の一文ッ!




『夜まで寝ていますので決して手を触れないように』




 とても力強い字で、入ったら殺すと言わんばかりの角張った字で書かれた貼り紙が、紫さんの寝室らしき襖に貼ってあった。

 これでは食事にありつけない。36時間断食なんて、そんな人外の境地に達していない私にとっては苦行に他ならない。断食してもいいのは非常時位だ。

 という訳で、外で食べられるものでも採ってこよう。朝から血生臭いのは嫌だから、狩りはやめておきたい。私の場合『妖力を使って電気を出せ』と、相手を感電させるだけだから、狩猟の時点でそんなグロテスクな状態にはならないが。最初の頃は狩りなんて手が震えて何もできなかったのに、よくここまで冷静に考えられるようになったなぁ。こんなか弱い少女の私が話す内容じゃないね。

 ちなみに等価交換で出せる電力量は、相手を気絶させる程度で精一杯だ。パチッとスタンガンのような一撃。RPGで出てくるようなでっかい雷は出せないし、かの有名なレールガンなんてはるか彼方の夢物語だ。けっ。


「ここ、森の中か」


 さっき障子を開けた時に見えたのだが、紫さんの家は広葉樹に囲まれている。収穫が期待できそうだ。


 ……野生的だなー。




・・・・・・・・・・・




 今の気持ち。うっひょーい!

 紫さんの家を回るように散策した結果、半周もしない内に名前が分からないけど食べられる植物が両手一杯に採れた。

 後は食後のフルーツもないかと欲張って、残り半周も見回っている所だ。


 遠くの木も見ながら歩き、四分の三周付近に差しかかった所で、目を凝らさなければ見えない距離に、生命体を発見。黄色い。


 これ以上食糧は要らないが、興味本位でそっと近付く。




「あれ、おっかしーなー。どうして念力使えないんだ?」




 私に背を向けて座っている人外生物。その名はもふもふ。もふもふし過ぎて私からはもふもふしか見えない。自分の用事に集中していて私のスニーキングには気付かない様子。

 こいつ、夢で見た。


 私は収穫物を地面に置いて、一気にそのもふもふ――幻想郷で一日だけ先生をしてくれた、八雲藍先生が持つ九尾の尻尾に飛び込む。あれ? 八雲?


「ひゃー! ぬくい!」

「な、何だ!?」


 あ、忘れてた。私と藍先生は初対面のハズだ。衝動に駆られて自分を抑えきれなかった。


「こら、出てけ! 私は今! 瞑想中だ!」


 藍先生が尻尾を振って私と飛ばそうとする。しかし私にとってはその揺さ振りが心地良く感じられるのだよ。

 ……嘘ついた。酔った。キモチワルイ。


「ぅ、おぇ……」

「ぎゃぁぁぁぁ! そこで吐いてないよな!? 声だけだよな!?」


 最後の力を振り絞った藍先生が、大きな一振りで私を飛ばす。


「ああ、素敵な楽園が……」

「お、お前は一体何なんだ、いきなり」


 藍先生が倒れる私をしっかり捕捉して言う。

 昔だけに、服装が全く別のもので、受ける印象が違う。もしかしたら藍先生じゃなかったのかもしれない。

 帽子を被っていないボブっ気なその頭には、ピンと突き出たケモノミミ。実物を見るのはこれが始めてだ。言うまでもなく、腰から出ている九本の天国は健在。服装は、幽霊が着ているような真っ白な和服を纏っていて、スタイルが外から丸分かりな仕様となっている。私に対する嫌がらせなのだろうか。


「木葉緑と申します。あなたの名前も教えてください」

「私か。私は……藍だ。何でこの状況で自己紹介しているんだろう」


 良かった。本当に藍先生だ。


「で、私に一体何の用だ? あ、お参りか!? 私にも信者ができたのか!?」


 藍先生は立ち上がり、一人で勝手に盛り上がり始めた。私が藍先生を見つけた時も一人でぶつぶつやってたし、この頃の藍先生は危ない人なのだろうか。


「おおっ! ついに頑張りが認められたのだな! いやー、辛かったー」

「あの……。お取り込み中申し訳ないのですが……」


 このキツネさんにはあの頃の面影はない。


「何してイラッシャッタノデスカ……?」

「おお!? 早速私の恩恵が欲しいんだな!? せっかちだねぇー。人気者は辛いねぇー」


 このヒト何考えているんだろう。全く状況が飲み込めない。


「願いは何だ? 豊作? 豊作なら叶えてあげられるかもしれないぞ!?」

「えーと、藍先生、どうしたの?」

「先生じゃないぞ! 私は神だ! たった今生まれた神なんだぁ!」




 絶句。

 あの知的で優しいイメージしかない藍先生が森のど真ん中で高らかに神を名乗るなんて……。あんた紫さんの関係者かなんかでしょ? 馬鹿なコトやってないで、はやくお家に帰ろうぜ。


「藍先生、落ち付いて。紫さんの所に戻ろ? ね?」

「紫ってなんだ! あとこの辺りには変な妖怪がすんでいるから、そんな歩き回りたくない! 私はもう神である身なんだから!」


 さっきから神だ神だと。九尾の神なんているのか? それに紫さんの家は近くどころかすぐそこだし。木々の間からまる見えだ。気付いていないのか? あと紫さんの身内じゃないの? 一気に三つも疑問があがった。


「藍先生、さっきまで何をやっていたんですか?」


 とにかく、相手の考えを把握するには過去の行動も知っておかなきゃ。


「何って、修業に決まっているだろう。座禅を組んで心を無にしていたんだ」


 本当このヒト何考えてんの?

 今パッとひらめいた。『力』を感じ取る受容器の感度が鈍いのなら能力で改善できないか? この能力って対価の消費量がでかい一方で、勝手が利いて何でもできるからね。


「(妖力を使って感度を上げろ……?)」


 自信がないので小声で、かつ疑問系である。それでも言うこと聞いてくれる私の能力。でも、感度を引き上げた分の妖力はごっそり持っていかれた。常時発動している妖力隠しが負担に感じる程持っていかれた。

 改めて藍先生を見直してみると、にじみ出ているのは神々しさではない。純度マックスの妖しい空気、妖気である。自分で出しておいて気付いていないの? 人のこと言える私ではないが……。


「どうした? いきなり黙って」

「藍先生、あなたは神ではありません。ただの妖怪ですよ」

「バカなァ!」


 藍先生がね。


「どうして、えっと、名前なんだっけ?」

「緑です」

「どうして緑にそんな事が分かるんだ!?」

「むしろ私に見抜かれてしまったのを恥じるべきだと思います」


 自分で自分を低く見積って言うのは辛い。満遍の笑みで話す私の表情の裏には、悲惨な運命を背負った私の泣き顔で埋め尽くされているのだ。なんかこの表現カッコよくない? 今度パルスィに話してみよう。


「うぐぅ、私が神になる日は……まだまだ遠いのか……!」

「うん。無理だと思う」


 九尾と言ったら私でも知っている位、立派な大妖怪だ。


「お稲荷さまへの道は険しいものだな」

「そうですね」


 そんなスゴイやつを狙っていたのか。


「尻尾もぽんぽん生えてくるしな」

「そうですか」


 その時点で無理だって気付くべきだと思う。

 尻尾が増えるということは妖怪としての力が増えているということ。それってつまり、人間達に滅茶苦茶恐怖されてるじゃん。

 夜中、山道を歩いている時に、座弾組んだまま動かない幽霊装束・ケモノミミもふもふの人外生物に会ってみ? 悲鳴を上げて逃げ出すだろう。言葉だとそうでもないけど、実際に見たらビックリするって。

 うっかり最強になって、しかもそれが本望でないように振舞う藍先生。九尾の称号は勿体無いね。自覚も無いからなおさらだ。


「藍先生、とりあえず付いてきてください」

「え、ああ」


 こんな可哀想なお姉さん外に放置できない。

 木の間に見えているのが紫さんの家だと気付いていないのは分かっているので、藍先生を無表情で誘導する。ちゃんと収穫物を拾って、一直線に八雲家へ。藍先生は自然な動作をする私に何の疑いも持たずに、私の背中を追う。


 徒歩一分。家に着いたのはいいが、紫さんが起きるのは夜だ。


「ちょっと聞いていいか?」

「はい」


 私がどうしようかと悩んでいると、藍先生が切り出してきた。


「……何故布団を羽織って出歩いていたんだ?」

「……っ!!」


 ぅ、あ、は、恥ずかしいぃぃぃぃィィィィっっっ!!

 なに!? 私ずっとこんな格好で藍先生の事バカにしてたの!? はぁ!? こ、これじゃあ、藍先生と同類……。痛い子同士の言い合い……! 寝ボケ過ぎだよ私ッ! 出ていくときに身なり位確認しろっ!


「ど、どうした! 顔を真っ赤にして背を向けて俯き加減で歩き出して!」


 細かく説明するな! 私は今から埋まりに行くんだ! あぅ……、もう十年位顔出したくない……。


「それはそうと緑、お腹が空いてしまったんで、良かったらその、手に持った食糧を分けてくれないか?」


 その何も起きていなかったような態度。「私達の業界ではそれが普通です」ってやつか?

 ……いいだろう。私もそれに乗ってやるさ。もうこれ以上失うものは無いからね!




・・・・・・・・・・・




「藍先生藍先生、お稲荷さんになりたいならお米をいっぱい食べましょう!」

「お米! それは考えたことがなかった! 農耕神たる者殻物の事を知っておかなきゃ話にならないな!」


 藍先生神化計画に協力することにした。私が案を出して藍先生がそれを吟味する。そんなことを朝食をとってから日が落ちるまでずっとやってた。紫さんの家の縁側に、二人で並んで席っている状態なので、どう見たって歓談しているようにしか写らない。


「でも緑、大豆が足りない気がしないか? いや、むしろ主に大豆を食べるべきだと思うのだが……」


 藍先生は大豆を潰したものを油で揚げたやつが食べたいだけでしょ。私が作りたいのはお稲荷さんだ。


「……稲荷神は倉稲魂(うかのみたま)神が主祭神であって、キツネはただの使いよ。その程度であってもお米を食べて成れるものではないし、ましてや九本も尻尾が生えた妖怪が成れるものではないわ」


 後ろからだるそうな紫さんの声が近付いてくる。やっと起きたようである。


「あ! お前……! 緑、騙したな!?」


 藍先生が紫さんに気付き、敵意をむき出しにする。ついでに私にも。

 紫さんは眠たそうな目つきで立ったまま話す。


「貴女、緑って言うの? 初めて知ったわ。それで緑、なんでこんな面倒なの連れてきたの」

「なんでって、このヒト紫さんの家族でしょ?」

「そんな訳ないじゃない。この、先週辺りから近くに居座って座弾組んでる変な妖獣」

「変とはなんだ! 私は神になる特訓をしているだけだ!」


 さっき紫さんがきっぱりなれないって言ったのを聞いていなかったのか? というか私ケンカに巻き込まれた気がする。


「何が神よ。先週大きな妖力が近付いて来ると思って行ってみたらこんなアホなキツネなんだもの。失望したわ」

「いきなり目の前に現れて溜息を吐いたのはそれか!」

「それから私の家の近くにずっといて。目障りもいい所だわ」

「別に危害を加えた訳でもないだろう!」

「長い間生きているけど、こんな残念な大妖怪には会ったことがないわ」

「残念じゃないぞこの年増!」


 紫さん今自分で墓穴掘ってた。


「……」

「ババア! 老害! 皺くちゃ! 搾りカス!」


 藍先生……。私も怒るぞコラァ!


「……緑?」

「……うん」

「……ご老人って、何歳のことを指すのだと思う?」

「うーん。ああ、紫さん。この世界に老人という言葉は存在しないんだよ」

「……そうですわ。老人なんて言葉はございません。この頭の悪い畜生は何を言っているのでしょう?」

「きっとアレだよ。自分で作った言葉を言って一人で喜ぶようなアレ」

「ああそういうことですか。きっとね、私達への悪口を意味しているんですのよね」

「でしょ。子供って汚い言葉が大好きだから」


 私と紫さん。お互いの歳は知らないが、その怒りは共通だ。その作用で、出会って二日目にして驚異の連携を発揮している。

 『大人』同士の会話についてこれない藍先生は、敵意の篭った目で睨んだまま動かない。


「……躾、必要だと思いません?」

「……早い内にやっておかないと、悪い大人になってしまうからね」

「……そういえば、妖獣除けのお札を何枚か持っていましたわ」

「……あ、それ分けて分けてー」

「……うふふ、いっぱいあるから好きなだけ取っていいわよ」

「……ありがとう。ちょっと待っててね。悪い獣を捕まえてくるから」


 私はゆっくりと、こちらを睨んで固まっている妖狐に歩み寄る。


「ふぁ……、や、やめろ! 近付くな!」


 私は人差し指を立てて、腰を抜かしたセンセイの肩に触る。


「……ぱっちん」


 等価交換。自家製スタンガンをピコっと。

 藍先生は、気を失ってしまった。


 その夜、日が昇るまでずっと、誰かの悲鳴が木霊していましたとさ。




・・・・・・・・・・・




「……すみませんもうあんなこと言わないです本当に悪いこと言ってしまったなと思っているんですどうして私はこの世に存在しない意味不明な言葉を叫んでいたのでしょうかそれは私の頭が悪いからです私はただの妖怪であって決して神ではありませんそんな簡単なことを間違えてしまった私はなんて頭が悪いのでしょうか頭の中が空っぽすぎて自分で言ったことに責任が持てませんでした幼い私の躾をしてくれて大変感謝しておりますこの喜びは私の短い生涯の中で最も素晴らしい喜びです嗚呼なんて私は幸せなのだろうこのような若く美しい少女にお目にかかれるなんてしかも一人だけではなく二人もですよ私この世界に生まれて良かったとただいま実感していますただ心残りなのが一つ頭が空な私が発言してしまったとんでもない言葉についてですすみませんもうあんなことは言わないです本当に悪いことを言ってしまったなと思っているんですどうし」


 ループした。藍先生が仕置きを終えてからずっとこうだ。少しやりすぎたかな。紫さんは日が出てから床に就いちゃったし、結局今日は幻想郷の話ができなかった。

 まあいいや。徹夜したからもう眠いや。部屋に戻って寝よう。藍先生は放っておけば帰るだろう。じゃあお休み。




・・・・・・・・・・・




 目を覚ますと、私と紫さんが横に並べられていて、それぞれが縄でしばられていた。身動きが全くとれない状態である。


「はーっはっはっはっは! 目を覚ましたかこの過齢供! この神である藍様直々に手を下してやるぞ!」


 藍先生が目の前で高笑いしている。あんな目にあったのにまだ懲りていないのか。


「……紫さん?」

「……起きてるわよ」

「……どうする?」

「……そんなこと言わなくても分かっているでしょう?」

「……あははははは」

「……うふふふふふ」




・・・・・・・・・・・




「……紫さん。この馬鹿な子を教育してあげてください」


 妖獣除けのお札を四方八方に貼られて蹲っている藍先生を尻目に、私は紫さんにお願いしてみる。八雲の姓を持っていた藍先生だ。どこかで紫さんと繋げなければならない。


「そうねぇ。一応強い力を持った妖獣だし、思い切って式にしてみるのもいいかしら……?」


 そう言ってから紫さんは式についての説明をしてくれた。


 式神は基本となっている個体の上に、主人の情報と技術の一部を貼り付けるもの。

 式神になった個体は、主人に従わなくてはならなくなる代わりに、高い能力が得られる。

 今の藍様に式を打てば、紫さんの技能の一部が与えられ、自分の置かれている状況が理解できるようになる。

 紫さんは、九尾という強大な妖怪を手にしたことで誇れるようになり、藍先生は冷静さと服従心を手に入れられる。

 式になることで、知的で優しいあの藍先生が戻ってくるのだ。


「紫さん! 是非そうしてあげてください!」


 本人の意志はそっちのけ。

 しかしこのまま神になる修業をされても困る。直に退治されるか封印されてしまうかもしれない。放って置けば一定期間目障りで、それからは寝目覚めが悪くなる原因になる。

 式神最高。


「……そうね。嫌だったらとればいいし」


 そう言って紫さんは、蹲る藍先生の近くでしゃがむ。

 紫さんが藍先生の頭を一撫でし、スキマを開いて手を入れる。

 取り出したのは、人差し指程の小さなお札と朱肉。

 無駄のない動作で朱肉の蓋を開け、必要ない蓋を脇に置く。

 紫さんは朱肉に親指を付け、それをお札に押印する。

 次に藍先生の手を引っ張り出し、同じように押印させる。

 二人の拇印で埋まった小さなお札を脇に置き、朱肉の蓋を閉めてスキマに放る。


「――終わりよ」


 え、それだけ?


「もっとお互いの血でなんちゃらとかしないの?」

「嫌よ。そんなことしたら痛いじゃない」


 そんな理由で大丈夫なんだ。


「大事なのは形よ。見える形ではなくて、見えない形。どんなにご利益のあるお守りでも、それを信用していないと意味がないでしょ? それと同じよ」

「……ふぅん」


 理解した気にはなれるけど、実行するのは難しい。私が式神をつくるのは無理そうかな。


「さて。じゃあ妖獣除けを剥がすわよ」


 紫さんが床に貼ってあるお札を一枚一枚とっていく。溝が多い畳なので、ベリベリと気持ちよく剥がれる。

 全て剥がし終えると、蹲っていた藍先生が顔を上げる。すごく虚ろな目だ。

 紫さんは式のお札を小さい袋に入れ、藍先生に差し出す。


「藍、でいいのかしら? これは貴女のものよ」


 藍先生はゆっくりその袋を受け取ると、目に光が戻った。


「私って、ただの妖怪だったんだ――」










 やっと気付いたか、私の藍先生。






☆秋姉妹的私が神だ。


「静葉です!」

「穣子です!」

「うおーーーー! 暇を持て余したーーーー!」

「神々のーー!」

「ところで穣子」

「もう飽きたの!?」

「やっと幻想郷作りが始まるわ」

「やっとかぁ……」

「果たして私達の出番はやって来るのだろうか」

「だ、大丈夫だと思うよ……? 覚えるでしょ? あの時のこと……」

「……一応は、ね……」

「……」

「……」

「……」

「……予言を終わるわ」

「……雪だるまでも作って寝よ……」




あとがき。


藍さまがアホのこになってしまいました。

でも安心。今回だけだと思います。


主要オリキャラ三人の絵を各2分使って描いてみましたが、とてもじゃないけど見せられないような仕上がりでした。絵って難しい。


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