表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方現葉幻詩  作者: 風三租
第三部 いい旅夢気分
18/44

粟散辺土、こわかったです





 ヤマメが作った朝ごはんを完食し、今日は人を驚かしてみようと思い入り口の引き戸に手をかける。と、洗い物をしているヤマメに気付かれた。


「富山、どこに行く気?」

「ちょっとスパイダー達と戯れようと」

「すぱいだー?」


 昨日覚えたばかりの土蜘蛛という、この村の通り名を使ってみた。一応これは蔑称に当たるかもしれないので、英語で言ってみた。

 今の時代の人間が蜘蛛(スパイダー)という英語を知っている訳がないから、堂々と言えないことを言いたい時に便利。だったら最初から言わなきゃいいじゃんという意見が出そうだがそれは却下だ。思い付いたら言わないともやもやする。


「じゃ、さよーなら」

「暗くなる前に帰るんだよ。……すぱいだーってなんだ?」


 外に出る私の背後で、ヤマメは見送りの言葉を発する。当たり前のように帰って来いと言ったが、ヤマメは昨日私を殺そうと襲い掛かった人であって、たったそれだけの仲でしかないと思うのだが。

 しかし今日の宿が確定しているのは良いことだ。遠慮なく居座らせてもらおう。


 さて村人探しだ。左右には狭い道が通っており、それを挟んだ前方には民家の壁が見える。見える範囲に村人がいないので適当にぶらついてみるか。


 家が何の規則性もなく並んでいる為、狭い道には曲がり角が数多くある。そのため道を通るというよりかは、家と家の間のスペースをくぐり抜けているような気持ちになる。

 そんな道を自由気ままに進んでいると、第一村人発見。角刈りの青年だ。角度が90度未満の鋭い角刈りだ。後頭部が「て」みたいな形になっているよ。


 相手にバレないよう、足音を立てずにそっと近付く。


「よーし。昨日狩りに行って獣を獲るのを忘れてしまった黒谷ヤマメさんが、罰として三日間連続で狩りに行けと村長に言い付けられたから、今日当番に当たってた俺は狩りに出なくてすむぞー」


 青年は妙に説明口調なひとりごとを言っていて、私が接近しているのに気付かない。

 チャンスだ。私は青年の背後に立ち、静かに深呼吸をする。


「……わっ!」

「わっ! 後ろからいきなり声がして俺はすごく驚いた! 後ろを振り返ってみるとそこには昨日黒谷ヤマメさんが連れてきた少年が!」


 青年は驚いているらしいが、説明口調のおかげで全然そう見えない。次行こう。一つ一つに一喜一憂してたら身が持たない。大妖怪になるためにはコツコツやるのが大事なんだ。


「あ! 少年が何も言わずに走ってどこかに行ってしまったぞ。一体何がしたかったのだろう。さて、今日は寝癖がひど過ぎるから散髪でもしてこよう」


 私が逃げ出しても、相変わらずひとりごとを言っているのが聞こえた。


 ある程度走ってから歩きに戻り、誰にも会わないまま村の入り口に来てしまった。

 ここで第二村人発見。金髪を黒いリボンでお団子にした少女、すなわちヤマメだ。村の外に向かってヤマメは歩いているので、私に背中を向けている。これから狩りに行くのだろうが、その前に私はヤマメを狩らせてもらう。


 ある程度小走りで近付いてから、忍び足でヤマメの背後にぴったり貼り付く。あとは驚かすだけだ。


「……わっ!」

「っっ!」


 私が驚かした直後、ヤマメは振り返ることなく肘で私の横腹を突き、「うっ」と言って私がひるんでいる隙に私の背後に回って羽交い絞めをし、私の喉元に刃物をあてる。すべてが一瞬の出来事だった。


「ひぃ……!」


 死が身近なものになり、思わず変な声が出てしまう。漫画とかでこういった人を見た時、小物臭がするなーと思っていたのを思い出した。


「お、おたすけー!」

「……あ、なんだ富山か」


 私の命乞いを聞きとったヤマメは、自分がなんて事をしているかに気付いたようだ。

 ヤマメは私を解放することなく、一層体を強張らせた。……なんで?


「よくもびっくりさせてくれたね! 昨日の恨みと一緒に倍返しだ!」

「なんですと!」


 瞬間、ヤマメは刃物で私の喉をプスリと、躊躇なく刺した。


「ぐはぁっ! 血が! 血がすごい出てきた!」

「大丈夫大丈夫。あと二時間は生きられるよ」

「余命短いよ! 驚かしただけで死刑なんてひどい!」

「それだけじゃないでしょ。富山は私の聖域(ゴミやしき)を穢した。そう考えるとこれは当然の報いだと思わない?」

「思わないよ! 穢したんじゃなくてむしろ浄化したし!」

「どちらにせよ、長生きしたかったらこれ以上喋らないことだね」

「気付いたら地面が殺人現場みたいな状態に! というかこれは本当に殺人事件だし!」

「そうだ、私はこれから狩りだから、富山が帰っても私はまだいないかもしれないね。もし富山が先だったら……家ヲコレ以上荒ラスナヨ」

「もうこりごりだよ! ……うぁぁ」


 首を押さえて倒れ込む私を介抱することなく、ヤマメは私の血が付いた刃物をゆっくりゆっくり拭き取ってから、村を出て行ってしまった。だれか助けてー。






「あー、やっと止まった」


 気合で止血した。誰も助けてくれないんだもん。すぐそこの入り口にいる門番さん二人は、うずくまる私をすげー見てくるだけだった。こいつらといいヤマメといいひどい人間ばかりだね!


 でも驚かすのはここでやめる訳にはいかない。強くなる為にはこういった地道な努力の積み重ねが重要なのだ。きっと。


 何とか立ち上がると、血が足りないせいで少しくらくらする。でも能力使用時の副作用のおかげで、そんな状態に慣れている自分がいる。

 足下には惨劇の真っ赤な爪痕が。嫌だこんな村の入り口。まあこうなったのはヤマメが私を刺したからであって、私自身は何も悪くないからこのままでいいや。


 次の村人はどこにいるのだろう。ただ待っていても、誰かが私を見ないように後ろを向きながら歩いて来る、なんて事はある訳がないので、ふらふらと危ない足取りで歩き始める。


 しかし朝早いからか、活気が全く無いね。遠くに見える長い白髪の老人一人しかいない。……ターゲット発見だ。


 瞬時に忍び寄り、本日三回目の不意打ち。


「わっ!」


 と、老人の背中に声を投げつけてあげたと思ったら、老人がいるはずの場所には誰もいなかった。


「あれー? どこ行ったー?」

(ゴゴゴゴゴゴ)


 確かに老人はいたのに。左右を見回しても何もない。


「…………もしかして、幽霊?」

(ゴゴゴゴゴゴ)


 消える老人と言ったら、これしか考えられない。


「大昔にもユーレイって、いたんだねぇ」

(ゴゴゴゴゴゴ)


 妖怪の私が言えた事じゃないが。って言うかさっきから後ろでゴゴゴゴ鳴っている気がするけど何なの?


「………………」(ゴゴゴゴゴゴ)

「うわっ!」


 振り向いて見ると、驚かした筈の老人が青筋を立てながら腕を組んで立っていた。昨夜村に入る時に話した村長だった。

 風も吹いていないのに長い白髪がなびいていて、村長より向こう側の景色は、陽炎のようにぼやけている。そんな不可解な現象を引き起こしている村長が、私の後ろでゴゴゴゴしていたのだ。


「…………妙な真似をしたら、ばちょん」

「…………そ、それは……?」


 ヤマメがそれを聞いた瞬間、途轍もなく怖がっていた刑。これから私はどうなってしまうの。


「初犯は三日。さあ逝け」


 そんな村長の声が聞こえた時、本体は再び私の視界から消えていた。私がそれに反応する間も無く当て身をされていて、私は意識を手放してしまった。


 ……村長って、人間?




・・・・・・・・・・・




 目覚めた。……目覚めたのか?

 一応目を開けたつもりだが、閉じている時と見えるものは変わらない。つまり真っ暗である。音も聞こえない。そんな状況に、自分は本当に起きているのかという疑問が浮かんでしまう。

 段々意識がはっきりし、自分は起きているのだと思い込むことにする。とりあえず明かりが欲しい。私には『等価交換する程度の能力』があるので、それを使って慣れ親しんだ現象操作をする。


「妖力で火!」


 詠唱短縮してしまう程慣れているのだ。イメージすれば能力は発動するから、別に詠唱は必要ないけどね。


「……ん?」


 何も起きない。そんなのあり得ないと思い、もう一度試してみるが、やはり何も起きない。まだよく感じ取ることができないない妖力だが、それが出て行っている気が全くしないのだ。いつもは一瞬だけ、ほんの少し空気が変わる感じがあるのに。

 妖力以外を対価にしても駄目だったので、能力自体が不思議な力でかき消されているような印象も受ける。詰んでるね。


「……ここはどこなの……」


 心の準備も何もない状態で、能力が使えない真っ暗闇に一人残されている私。何もしなくても、いや、何もしないからこそ、不安な気持ちが芽生えてくる。

 心細さに体育座りしそうになるが、そこは堪えてまずは手探りでこの場所の地形を調べることにする。動いてないと思考がどんどん悪い方向に突っ走って行きそうで怖いんだよ。


「…………つるつる、つめたい、かたい」


 手始めに自分が座っている床をぺたぺた。摩擦は発生しているので氷ではない。鉄かガラスか磨き上げた石か、それともニスのようなものが塗られた木か。叩いてみても床の材質の密度が高過ぎて音が帰って来ないので、判断できない。


 ハイハイをして少し進むと床の材質が変わった。動物の毛のような長く、ぱさぱさした繊維の感触だ。糸を編んで作った人工の絨毯と言われればそうかも知れないし、動物の毛皮と言われればそれも納得できる。

 ああ分かんない明かりが欲しー、と頭を掻く。




 ……頭にやった手から、自分が今いる絨毯と同じ感触が。




「あぁっっ!!!!」


 えも言われぬ不安に駆られ、情けない声を出して飛び退いてしまう。


(気のせいだ気のせいだあれは人の髪なんかじゃない動物の毛皮なんだ絶対そうだ)


 心の中で自分に言い聞かせて早く忘れるようにする。


 何も見えないこの空間で頼れるものは、聴覚触覚嗅覚味覚の四種類。

 そんな言葉が浮かんでくると、今まで気にしていなかった事に気付く。


(……手から香のにおい……!?)


 絨毯についていた手から微かに香のにおいがするのだ。昔の人はお風呂に入れない代わりに香を焚いて体臭をごまかしたって……雑学を思い出す。




 ならばあの絨毯はやはり人毛で……?




 そ、そんな訳ない。香を焚くのは一部の貴族であって土蜘蛛の巣と言われているこの村にそんな金持ちなどいる筈もなくてあれはきっと花の匂いが偶然付いた動物の毛皮であって!




 ……では何故、ここに動物の毛皮が置かれているのだろうか。




 ここが倉庫だとすると納得が行く。倉庫なら真っ暗であっても毛皮が落ちていても何ら不思議は無い。持ち主が、恐らくあの村長が気に入った毛皮をしまっただけなのだ。

 この場所の正体が分かればもう安心だ。深呼吸をすると、胸の辺りでごろごろしていた冷たい物が溶けていく感じがする。寄りかかる所を探して、出してもらえるまでゆっくり落ち着こう。


 立ち上がり、真っ直ぐ歩く。




 たまに、ぐちゃぐちゃと液体っぽい、だが芯があるモノを踏んでいるのは気のせいだろうか。




 可笑しな倉庫だ。毛皮とかスライム(?)とかが無造作に置かれているなんて。それに適当に歩いているのに全然大きなモノにぶつからない。すごく広い倉庫なんだなー。

 …………毛皮と、ぐちゃぐちゃしたモノ。それ以外には、何も無い空間。変な、倉庫だね。


 ……それって倉庫なのか?


 もう駄目だ。一度疑問を持つと思考が止まらない。

 香のにおいがする毛皮と、芯があり、かつ水分を多く含んでいるモノ。この二つが組み合わさってできる『モノ』って……。

 そんな『モノ』達が放置されている所にいる私って……。これから私はどうなってしまうの。




 うぅ、涙が出てきた。




・・・・・・・・・・・




 どの位まるくなっていただろうか。

 一切の感覚を封じ、体育座りをより固くした体勢でずっと転がっていた。勿論、『毛皮』も『スライム』も無い、硬い床があるエリアで。

 感覚を封じるのと同時に、思考も封じた。あれ以上考えていたら私は壊れてしまう。なので今の私はまるく、抜け殻のような生き物だ。

 抜け殻とは言っても、生命活動は通常運行している。すると、お腹がへるのだ。水も欲しい。


 腹時計を覗き見てみる。ある程度空いた状態になると、逆に空かなくなるという現象が起きている。それから予測するに、少なくとも一日は過ぎているんじゃないか。

 極度の緊張で、腹時計さんがバグってるかもしれないので、全く頼りにならない。まだ一時間しか経っていない可能性だって否定できない。


 そう言えば、「初犯は三日」って村長が言ってた気がする。


「…………!」


 噂をすれば何とやらという言葉が当てはまるかどうか分からないが、どこか外側からガチャリ、と音がしたような気がする。


「…………うっ!」


 間もなく前方から木が軋む音と共に光が差し込む。久しぶりの光で目が開けられない。


「三日経ったぞ。出な」


 もうそんなに経っていたんだ。

 次第に目が慣れ、声の主が認識できるようなる。例の村長だった。


「ほら早く立ちな。それともまだここに居たいのかい」


 慌てて立ち上がる。しかし三日間固まっていた私の足は言うことを聞かない。一歩を踏み出そうとしたが足が上がらず、こけてしまった。


 倒れる私の眼前には、


「…………柄付きスポンジ?」


 手を伸ばして触ってみると水分をたっぷり含んでいるのが分かった。

 これを踏んだ時にグチャグチャ鳴ってたのだろう。


「は、はははは……」


 私は一体何を怖がっていたのだろう。まさかこんなものに怖気付いていたとは。

 うん。暗所恐怖症になりそう。


 不安も一気に解消され、気分を新たにする。

 のっそりと立ち上がり、村長の立つ所を目指してぞんび歩きをする。こんな醜態誰にも見せたくないものだが、何しろ体力が尽きているのでどうしようもない。


「やつれたなぁ……。これに懲りたら、もう馬鹿な真似はしないことだ」


 村長の元にたどり着くと、村長が私の顔を見て言った。

 馬鹿な真似って。……驚かそうとしただけじゃん。


「さあ、早くヤマメの家に帰ってやりな。お前を待っている筈だ」


 村長が私の背中を叩いて送り出してくれた。

 厳しいけど、人情がある人だな、と思った。




「あ! 富山!」


 歩いて直ぐの所にヤマメがいた。その名を呼ばれるのも久しぶりだ。そろそろ本名を教えた方が良いだろうか。


(……! 駄目だ駄目だ!)


 暗闇の中での三日間で、私の心が弱り過ぎている。こんな状態じゃ自然界でこの先生きのこれないぞ。


(……この先生、きのこる。ふふ、ふふふふふ)


 使い古されたネタが頭をよぎってしまった。


「富山ー! どうしたー! 壊れちゃったかー!?」


 ヤマメを一瞬見たと思ったら、うつむいて静かに笑う私。自分では分からないが、外見はやつれているらしい。こんな私は、向こうからしてみれば奇怪な風に写るに違いない。


「富山! しっかりして! 自分を取り戻して!」

「うぅうぅうぅ」


 ヤマメが私の前まで小走りで寄り、すごい勢いで肩をゆさぶってくる。こういう時ってなんか声を出したくなるんだよね。


「目が虚ろだよ! そんなに怖かったの!? ……泣いても、いいんだよ」


 いきなり深刻な喋り方になり、両手を広げるヤマメ。抱きついて泣けってことか。


「…………」

「あれ? 富山! なんで行っちゃうの!? おねーさんのお胸に飛び込んでおいでよ!」

「嫌みか団子!」

「富山がぐれてる! これは更生しなきゃいけないね。帰って教育的指導だね。私は不良には容赦しないよ!」


 三日振りのヤマメは、非常にうっとおしかった。




・・・・・・・・・・・




「怖かっただろう、ばちょん」


 横でうるさく動くヤマメを適当にあしらって家に帰る。家主の前を歩いているのは可笑しな話だが、優しいヤマメのことだから気にする程でもないだろう。

 そして今は、心の調子を整えたり三日振りの食事をとったりして、一段落ついた所である。


「『ばちょん』って、名前だけ聞くと間抜けな感じがするのに……」

「私も一回入ったことがあるんだけどね、気が狂いそうだった」

「ただ放置されてるだけなのにねぇ」

「人間見えないものには恐れが生まれるってことが、よく分かったよね」


 目に見えないものは、その存在の影響というものが把握できず、人に何らかの感情を抱かせる。それは恐怖という形で人を襲っているかもしれないし、逆に信仰という形で人を救っているかもしれない。

 今回私が受けた罰は、恐怖という形を上手く利用したものだった。たかが柄付きスポンジでも、見えないだけで人の心をを壊すことができるのだ。


 そもそも私は人間の恐怖心を引き出すために、人里にやって来て何人かを驚かしたのである。しかし結果はこの通りで、恐怖を与えるどころか与えられていた。柄付きスポンジに。

 要するに妖怪である私は柄付きスポンジなんかに負けたのだ。奴はきっと良い妖怪になれるよ。私は……もう、駄目だ。


「ところでどうして富山はばちょんされたんだい?」

「村長の後ろから、その、わっ、て」

「私にしたことと同じことをしたんだね。いけないよ、この村の人にそんな事しちゃ。皆急な襲撃に対応できるように訓練されているんだから」

「……反省した」

「村長はちょっとしたおふざけなら笑って見てくれるけど、殺しに応用できるような悪ふざけにはうるさいよ」

「こ、殺し? じゃあ、ヤマメは何をしてばちょんされたの?」

「ひざかっくんしてる所を村長に見られた」

「…………」

「…………」


 それって、殺しにつながるの……か……?


「判断基準がよく分からないね……」

「いやぁ、たぶん背後からのちょっかいは全部怒ると思う。立派な不意打ちだし」

「そうですか……」


 基本的に、村長には近寄らない方がよさそうだ。


「もうばちょんはごめんだよ。あんな思いはしたくない」

「ばちょんを経験した富山は、前よりこの村に馴染んだ気がするよ」

「うん。私もこの村と距離が近付いた感じがする」


 困難を乗り越える事で、その場所や、関係者への想いが深まる。……あれ、これって吊り橋効果じゃないか?


「それにしても、あれは卑怯だったね」

「あれ?」

「柄付きスポンジと、帰る時に確認できなかったけど毛みたいなものを組み合わせるなんて」

「毛みたいなもの?」


 何を言ってるのか分からない、という目で私を見るヤマメ。


「死体が転がってるって思っちゃったじゃないか」

「ちょっと待ってよ。あそこには柄付きスポンジしか入れてないって村長が言ってたぞ」




「…………え?」







☆秋姉妹的時間が経つの速くない?


「静葉です!」

「穣子です!」

「うおーーーーーーー! さ、む、いーーーーーー!」

「お姉ちゃんお姉ちゃん! 雪降ってるよ雪!」

「なんですって! これはもう、雪だるまを作ったり、かまくらを作ったりするしかないわね」

「なに言ってるのお姉ちゃん! 雪といったら雪合戦でしょ!」

「そんな野蛮な遊び、私は好きじゃないわ」

「お姉ちゃん去年雪合戦大会で単独優勝してたよね!?」

「穣子、あれは避けられない、悲しい戦いだったのよ」

「その割りにはお姉ちゃん気持ちいいぐらいの笑顔で雪玉なげてたよね!? 秋には見せなかったようなすごい笑顔で!」

「穣子、あれが私の心からの笑みに見えたの?」

「見えたよ! お姉ちゃんそれから一週間ずっとにやにやしてたし!」

「だって楽しかったんだもん!」

「やっと認めたね!」

「……そんなことより予言よ。穣子、ここは私の聖戦を話す場ではないのよ」

「強引に話を切り替えたね!」

「さて、村に来てから何の進歩もしない緑」

「いつもやられてばかりだよねー」

「このまま過ごしていてもらちがあかないわね」

「行動あるのみだね!」

「かといって村の中は村長という名のモンスターがいるし」

「身動きがとれないね。でも、村が駄目ならフィールドにでればいいじゃない」

「緑は無事に目的を果たすことができるのか」

「……うわー。むりそー」

「しっ! 本当のことでも口に出すんじゃないの!」

「…………うん」

「…………」

「…………」

「…………予言を終わるわ」

「…………うん。…………帰ってストーブの上でやきいも作ろ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ