空谷跫音、いそがしいです
「じゃあ行こうか。私の家に」
黒谷さんが私の手をとり握り締める。ここで握り返してしまったら相手の思う壺だ。何かされるかもしれない。
「富山はそこまで私を拒むんだね。ならばこうだ」
「あ! こら!」
黒谷さんは手を放し、私の腕にのしかかった。握り返さなかったのが逆効果だったようだ。密着度が半端無い状態であり、特に胸の辺りにある不要な肉塊が私の腕に当たっていて非常に腹が立つ。
「君が心を開いてくれるまで私はこうしているよ」
「駄目だよ! 私は男だよ!? そんなにくっついてたら危ないよ!?」
黒谷さんの呪縛から逃れるためとは言え、ついに自分で自分を男だと言ってしまった。
「大丈夫だよ! 君みたいな美少年は大観迎だよ! だけど富山って本当は女だよね」
この言葉が私の心を震わせた。――この人は、良い人だ。私の性別を間違えない人は、心が純水のように透き通っていて、素直に生きてきた人に違いない。黒谷さんはそういう種類の人だ。
「ああ! ヤマメは良い人だね! ヤマメは信用に出来る人だ!」
そんな黒谷さんに敬意を表し、呼び方を黒谷さんからヤマメに変える。
「ありがとう富山! でも本名を教えてくれない当たりに未だ隔たりを感じるよ」
それはそうだ。純水は透き通ってはいるが、飲んだらお腹を壊してしまう危険物だ。よって本名を教えるのはまだ危険な段階だと考える。当分私の名前は富山柴左衛門で通すつもりである。
「じゃあ富山、帰ってゆっくりしようよ」
「宿はどこかに無いの?」
「何を言っているんだ。私の家に泊まればいいじゃないか」
「いやいやそれは悪いよ」
「遠慮しないで。少し埃っぽいけど居心地がいい家だから」
「本音を言うと私を襲った犯人と一緒に過ごしたくない」
「うっ……。それはごめん……。じゃあそのお詫びも兼ねるから家に泊まってよ」
「狩りを忘れて住民の期待を裏切るような人とはねぇ」
「それは関係無いから家に泊ってよ」
「埃まみれな家に行くのはねぇ」
「ちゃんと掃除するから家に泊ってよ」
「むしろ髪型がお団子の人と一緒は嫌だねぇ」
「何としてでも断わりたいんだね! おだんごって何?」
「お団子って言うのは丸くて甘くてもちもちした食べ物。そんな人はちょっと……」
「美味しそうだねえ! そんな美味しそうな私となら一緒でもいいでしょ!」
「いや、もしかしたら次の日ヤマメの家が埋まるかもしれないし」
「埋まんないよ! もうこうなったら強制連行だ!」
「うわっ!」
ヤマメは私を軽々と担ぎ上げる。私はじたばたと抵抗を試みるが、しっかり腹の部分を持たれているので、手足は空を切るばかりだ。私の負け、完敗である。
「さあこれで文句は言えまい。家に行くよ」
「実際そんな嫌でも無いんだけどね」
「いいさ。楽しかったから」
「……自分で歩くよ。下ろして」
「それは出来ない」
夜空に浮かぶやや欠けた月の下、ヤマメと担がれた私は村に入る。
村には簡素な家々が乱雑に立ち並んでいる。それぞれ入り口の向きがバラバラで、何も考えずに掘っ建てた印象を受ける。さらに家の周りには、斧鍬槍剣弓棒などなど、物騒な物が沢山置いてある。狩りに使うにしては種類が多過ぎる。
そんな不可思議な光景にキョロキョロする私を見て、ヤマメは声をかける。
「この村は他の所と雰囲気が違うだろう?」
「うん。何と言うか、汚いね」
「汚いとまで言われるとは思ってなかったよ。でもまあ、あながち嘘でもないか」
「本当に汚いね。塵一つ残らず消し去りたい位だ」
「そんなに言われると富山を投げ飛ばしたくなるよ」
「なんでこんなに汚いの?」
「そうだね……。まず、こんなに武器が多い理由は何だと思う?」
質問に質問で返される。
武器が多い理由と言ったら、やはり戦うためでしかないだろう。村人全員武器収集が趣味とは考えられないし。
「誰かと戦うの?」
「うん。少しワケありでね、時々大勢の人達がこの村を滅ぼそうとしてやって来るんだ」
「こんな小さな村に?」
「小さいけど向こうの人にとっては邪魔なんだろうさ。でも、この村の人達は元々、その人達の街に住んでいたんだよ」
「そうなの? じゃあ何でこんな村に?」
「追い出された……いや、皆で逃げて来たんだ」
ヤマメの声のトーンが下がりつつある。あまり気分が良い話ではなさそうだ。
「街で色々とあってね。それはここで話すような事じゃないから追々」
「こんな状態だもんね」
担ぐヤマメと担がれる私のふざけた図では、真面目な話も価値が下がってしまう。
「話がずれたね。村がこんな不思議な構造をしている理由は、街の人が攻めて来る時の為なんだ」
「戦う為か」
「うん。それもあるけど一番の理由は逃げる為だね」
「こんな小さな村の人口じゃ勝てないか」
「一応だけど応戦もするよ。入り口が襲撃の方向を向いてる家がその時の応戦係になるのさ」
「混乱しそうだね。人が動く方向がバラバラだから」
「長年この体系でやってるから皆慣れてるよ」
小規模集団だからこそ可能な事なのだろう。普段から意思疎通がなされていて、役割分担がしっかりと決まっている。義務という事務的拘束ではなく、絆という心の拘束をする事により、不平不満を言ってサボる人を出さないのである。
「なるほどね」
「襲撃が無ければ全てが丸く収まるのに」
「無くせないの?」
「無理だね。向こうは数が多過ぎるから全滅は狙えないし、目的もハッキリしているから諦める見込みも無い」
「最悪な条件だね」
「ああ最悪さ。私達は向こうが自滅するのを待つしか方法が無いんだ」
大分空気が悪くなった所で、ヤマメはある家の前で立ち止まり、私を下ろす。
「富山、ここが私の家だよ。辛気臭い話をしてごめんよ。もう遅いけど、夕食をとって寝ようじゃないか待って、どこに行く気?」
下ろしてもらって体が自由になった私は逃げようとしたのだが、服を掴まれて再び身動きがとれなくなる。
「いや、向こうに家があったから」
「目の前にもあるよね。私の家が」
「あ、あれ」
「え?」
「月」
「そうだねえ逃げ出そうったって無駄だよ」
服を掴まれたままで走れなかった。
「ほらヤマメ、さいしょはグー!」
「え」
「じゃんけんぽん!」
「わ!」
不意打ちじゃんけんに、ヤマメは思わずパーを出す。対して私はチョキ。私の勝利だ。
しかし勝負の行方などには最初から気にしていない。真の目的は、ヤマメの手をどけ、かつ注意を逸らす所にある。
「ああ負けた……っておい! こら! 逃げるな!」
「さらば!」
ヤマメと私の追いかけっこが始まった。
・・・・・・・・・・・
「……ふぅ」
ヤマメと走り回りながらこの村の地理を確認し、一周してヤマメの家の前まで来た。大きいとは言い難い規模の村なので、方向音痴な私と言えど迷わなかった。
私が巧みに動いたおかげで、何とかヤマメを撒くことが出来た。奴は今頃私を探して見当違いの方向を歩いているのだろう。
「さて、入るか」
ヤマメと適度なコミュニケーションをとれたので満足。大分私の心もほぐれた。これで人の家にお泊まりしても正気を保っていられるね。
私は主が不在の家の戸を開け、習慣的にお邪魔しますと言って中に入る。中は真っ暗で、月明かりでかろうじて見える位。こんな暗い所で待っているのも癪に障るので、真ん中に掘られている囲炉裏のような窪みに、近くにある薪を放り込んで能力で火を点けた。
「うわっ汚っ! これはまるで! 十年間ゴミを捨てずに家に溜め込んである日それは間違っていると気付き、溜まったゴミを捨てようとするが長年放置して脆くなって穴が空いてしまったゴミ袋から紙くずやら消しゴムのかすがこぼれつつも、何とか全てのゴミを撤去したんだけど床には例のくずが散乱していて嫌になる……。まさにそんな汚さだ!」
分かりにくい例を出し、私はこの家の掃除を決心する。こんな所で一夜を明かすなんて嫌だからね! いくら洞窟生活や野宿を続けてきたとは言っても、その地面はこんなにくずだらけじゃなかったよ!
目標はヤマメが帰って来るまでに終わらせる事。掃除用具は備わっていないので、そこらへんに脱ぎ捨てられているヤマメの下着らしきモノを雑巾代わりにしてやる。他人の下着なんて触りたくもないが、他に丁度良い大きさの布は落ちていないし、雑巾として使うモノならば汚くたって気にならない。だってこれからもっと汚れるんだもんねふふふ。
「掃除なんて久しぶりだー」
実に二十年振りである。これだけを見ると生活能力が皆無な人に見えるが違う。二十年間各地を転々としていたから掃除をする機会に出会えなかっただけだ。むしろ生活能力マックスのホームレス……じゃなくて、サバイバルの達人と言って欲しい。か弱き18歳(二十年前も18歳)が持つような称号じゃないね。
確か、最後に掃除をしたのは守矢神社を出る前日、頼んでもいないのにくれた自分の部屋で、だ。
「水とバケツ……」
掃除用具が無い家にそんな気の利いた物なんてある筈もない。足元に転がってるどんぶりで代用だ。
水は台所らしき所に溜めてあり、それをどんぶりですくう。それを床に置き、拾っておいた例の布を浸してからよく絞る。家主じゃない人が水の入ったどんぶりに下着を入れている光景は、何てシュールなのだろう。
さて雑巾がけをやるぞーと張り切ったが、床には大きなゴミが多いことに気付く。先にホウキでそれらを集めて置かなければ。
「そんなもん無いよなー」
辺りを見回すと、なんと整地するアレが立てかけてあるではないかっ。アレとヤマメが脱ぎ捨てた服を組み合わせればあら不思議。モップのような物が完成。こういった所で私のサバイバル能力が生かされてくるのだ。
早速それを使い、六畳位の部屋を片っ端から浄化。今まで見た事が無い大きさの埃や様々な物体が集まった。これで雑巾がけに移れる。
雑巾を手にとり、隅っこを重点的に丹念に拭き進める。壁際を一往復しただけで真っ黒だ。汚過ぎ。
そして拭き掃除をする事約一時間。今風に言うと約半刻。ヤマメが帰って来ないのが気になるが、一通り終わった。床だけではなく壁も洗浄して、居心地は悪くない程度になった。それでもさっきまで汚かったのが嘘みたいな仕上がりだ。ビフォーアフターで見比べてみたいね。
即席モップは分解して元あった所に戻し、ヤマメの雑巾はご愁傷様です。
やる事を終え、生まれ変わった床に寝っ転がってヤマメを待つことにする。する事が無いので、今日一日の行動を振り返ってみる。
「……あれ? 私は何をしに山を出たんだっけ……?」
少なくとも掃除をする為ではない。私の妖力を増やす為に人間を脅かしに来たのだ。
「そうだ。丁度村にも来れたし、明日やってみようかな……」
こうして寝っ転がっていると、瞼が重くなる。ヤマメに悪いけど先に寝ちゃおうかな……火、消さなきゃな……と、遠くなりつつある意識で考えていると、この家に近付く者の気配を感じる。終に奴が帰って来たのか。
「……おっかしいな。本当に逃げちゃったのかな……。もしかしたら村の外で妖怪に……? でも富山も夜が危険なコト位は分かってるよね……」
外からぶつぶつぶつぶつと一人言が聞こえて来る。
「……この村に宿は無いし……って、どうして明かりが点いてるん? 泥棒? 火事? 何なの? 恐っ」
自宅の入り口の前に立ったであろうヤマメは、家の外からでも分かる第一の怪奇現象『知らない間に明かりがっ』に遭遇して、頭を悩ませている。
そして恐る恐る中の様子を確認しようとしているのだろう、入り口の引き戸が静かに音を立てている。
「この際一気に開けちゃおうか……。でも……。いいや、開けちゃえっ!」
相変わらず丸聞こえな一人言が終わった途端に、戸が全て開かれる。
「……………………………………は?」
「おかえりー」
第二の怪奇現象『家がキレイにっ』と第三の怪奇現象『探し人がそこにっ』に同時に遭遇したヤマメは、口を開けっ放しにしながらその場で硬直してしまう。人って本当に訳が分からないとこうなるんだね。
「……………………………………おじゃましましたー」
この状況を処理し切れなかったヤマメは、ここを自分の家じゃないと思うようにしたようだ。そのまま戸を閉めて行ってしまった。
「なんでやねんっ!!!!」
と思ったら、窓から水平に飛び込んで来やがった。昔の家だから良いものの、ガラスが取り付けられていたらまた掃除しなければならなかった。
ヤマメは飛び込んだ勢いで床を滑り、起き上がった私の前で止まった。
「おかえりー」
「ただいまーなんでやねんっ!!!!」
帰って早々ハイテンションだなあ。
「ここはどこ!? アナタハダレ!?」
「ここは黒谷ヤマメさんの家で、私は木葉緑と申す者です」
「嘘だ! 私の家はこんなにキレイじゃないし、アナタは富山柴左衛門でしょっ!」
せっかく本名を教えてあげたのに否定された。
「あ、掃除しといたから」
「何でそういうことするん!?」
「善意に満ち溢れた行動なのさ」
「うわその勝ち誇ったような顔が憎たらしい!」
「でさぁ、ここって夜ごはんはしない文化?」
「するよ! ずっと富山を探してたんでしょうが!」
「そうか。じゃあほら、席ってよ」
「何も無かったように振舞わないでくれないかねえ!?」
「実際何も無かったし……」
「私は大ありだよ!!」
ヤマメの声が裏返っている。合唱コンクールにでも出るのだろうか。
「この家には掃除用具が無いからねえ。他の物で済ませたよ」
「そこの見覚えのある黒い塊は何だろうねえ!」
「あ、それは……。何と言うか……。ご冥福をお祈りいたします」
「私のし・た・ぎじゃないか!? ねえどうしてこうなった!???」
「この家の秩序と引き換えに、その尊い命は犠牲となったのです」
「嗚呼その悟ったような顔が腹立たしい!」
「んで、何食べるの?」
「待ってその手に持ったどんぶりは何かなあ!?」
汚れきった水が入ってたどんぶりを洗うのを忘れてた。
「バケツ代わりに使わてて頂きました」
「そんなのをこれから使う気なのかなあ!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「うんんんんん?? その発想はどこから来ているの!?」
「あ、ヤマメの服もたたんで置いといたから」
「ねえねえその服すっごい埃だらけなんだけど!? どうしてかおねーさんに教えてくれない!?」
「うーん……。整地するアレって便利だよね」
「一 体 何 を し た」
「サバイバルだ」
「もう意味が分からない!!」
こんなにも分かりやすいヒントを出したのに混乱するヤマメ。きっと国語が苦手なのだろう。
「あ゛ーーーーーーー! あーーたーーまーーがーー! 部屋が、キレイな部屋が私に襲い掛かってくるーーーー!」
「そんな事より夜ごはん」
「富山が一人富山が二人富山が四人富山が八人富山ガ十六人ンンンン」
私は分裂する生物だったのか。
「ヤマメ、大丈夫?」
「いとうつくしうてゐたり!」
「無理しないで寝なよ。夜ごはんは我慢するから」
「すもももももももももももももももももももものうちィ……」
その言葉を最後に、ヤマメは深い眠りに堕ちた。
・・・・・・・・・・・
夜に何も食べていないと朝が辛い。空腹に耐え切れずに早く起きてしまった。その点ヤマメはスゴイ。まるで死んでいるかのように眠っている。昨日よっぽど疲れるような事があったのだろう。
ならば今、私がしてあげられる事は一つ。スタミナ満点の朝食を作ってあげる事だ。
「よいしょ」
「動くな」
立ち上がろうとすると背後から声。
「もうやめて。これ以上私の家を改造しないで」
声の主は、死んだはずのヤマメであった。安心して後ろを向くと、目に生気が宿っていなく、幽霊みたいなヤマメの姿があった。
「ごはんだね。ごはんが欲しいんだね。マッテ、今用意スルカラ……」
「私がヤマメに作ってあげようと思ったのに」
ヤマメは死人みたいに立ち上がり、台所に向かう。
「危ない!」
私の警告は意味をなさず、フラフラと歩いていたヤマメは途中の段差に気付かずに転んでしまった。
「……わ、私は何を……?」
起き上がったヤマメは何が起きたのかが分かっていない様子で辺りを見回す。その目には、しっかり生気が宿っていた。
「あ、富山、おはよう」
「お、おはよう」
「何で私はこんな所で寝てたの?」
「自分で歩いてたじゃん」
「ええー、そんな記憶ないぞー」
「今さっきの事だよ? 覚えてないの?」
「私はずっと寝てたよ。富山が見間違えているだけじゃないかい?」
「そんな筈ない。ヤマメ喋ってたし」
「まさか。寝ボケてんじゃないの?」
「…………」
すげー。ヤマメは一連の行動を無意識でやっていたようだ。夢遊病者の素質があるね。
「富山ってすぐにここを発つつもりかい?」
「あー、どうしよう」
別に留ってもさよならしてもどちらでも良いけど、もしここを離れたら次に人里を見つけるのはいつになるか分からない。人を脅かすという目的はここでも達成出来る。あ、でもこの村の住人達が皆妖怪とか神とかだったら無理かも。
「ヤマメヤマメ。こんな事は絶対無いと思うけど、ここは妖怪の村とかじゃないよね」
「…………うん。そんな事無いよ。…………多分」
自信が持てない様子で呟くヤマメ。
「……私は自分達が人間であると思ってるけど、街の人々がねえ」
「そこは自信を持とうよ!」
「でも……。富山はこの村が何て呼ばれてると思う?」
「埃村」
「それは私の家だけだよ。今はもう変わり果てた姿になってるけどね……」
「埃村じゃなかったら他に何があると」
一拍置いて、ヤマメはハッキリと告げる。
「――土蜘蛛の巣。……まるで人間扱いされてないよね」
その言葉に私が反応する前にヤマメは立ち上がり、朝ごはんにしようと言って台所の方を向いてしまう。もうこれ以上は話したくはないようだ。
自分が自分であるという認識をする方法は一つじゃない。自分から見た自分と他人から見た自分。前者は自分が思った通りに形を変えることが出来るが、後者は変えにくい。一度そういった認識をされてしまえば、これからずっと「土蜘蛛」で通されるのだ。
自分一人で人間だと主張するのと、大勢の他人に土蜘蛛だと言われるのは、どちらが力を持っているか。
そこまで考えた所で、ヤマメにストップをかけられる。
「難しい顔してないで、笑え」
「うぇ? あ、や、そこは触らないで! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ヤマメが思いっきり私をくすぐってくる。転がって逃げ回るが、ヤマメが執拗に追いかけるので地獄が終わらない。
三十秒程続いて私が半泣きになった所でやっと解放される。
「はぁ……はぁ……もう、ダメ」
「朝ごはんは楽しく食べよう!」
「…………はひ」
もうさっきの事を考える気力は残ってなかった。
☆秋姉妹的師走
「静葉です!」
「穣子です!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………12月」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………予言を終わるわ」
「…………何も喋らなかったね」
人間版黒谷さんのターンです。