天馬行空、道に迷うのです
独自設定がありますので気を確かに。
今さあ、一体何年なんだろうね。
守屋神社にて、トランプに明け暮れる日々に飽きた私は、旅立つことを決心した。諏訪子の最後の言葉は「まあ分かってたさ」で、神奈子の最後の言葉は「か、神奈子『ちゃん』って呼んで!」だった。あっさりとした別れであった。会いに行きたければいつでも行けるので、そんな程度だろう。
旅立つ前に一回私の師匠、龍巳神水の所に戻ろうかと思い、歩を進めた。でもねぇ。何百年ぶりのおそとだよ? 道が分からん。
所々に町が出来ていて、自然の形も大分変わっていた(気がする)。
自棄になって歩き荒らすと、でかい町があったので入ってみた。
町の中には、至る所に宗教の宣伝ポスターが貼られており、挙句の果てに、
「道教、良いよ」
と、青緑の髪を8の字に結わえ、金の簪を挿し、柔らかそうなワンピースを着た怪しい少女に宗教の勧誘を受けたので、私は怖くなって逃げた。
途中で、和服なのに生足を出した不思議な人や、十人に囲まれて願い事を聞いている超人がいたが、スルーして町を出た。
∴ 今は見知らぬ森の中にいます。
「歩くの飽きたー」
走るのも飽きた。面白い生物はいないのか、と考えながら歩いていると、何かを踏んで滑って転んだ。歩くのも走るのも飽きたからといって、転ぶのが楽しい訳がない。
何を踏んだのか確認してみると、そこには透明のツルツル床があった。
「こ、これは! 魔王城の最深部によくある透明な床か!? それともHPをかなり持ってかれる例のバリア床か!? いや、まことのおメガネでしか見えない、アレか!?」
平穏な日常に刺激を与えるべく、無駄にハイテンションになってみるが、虚しいだけだ。でもやめない。やっている間は楽しいから。
私は危険を顧みずにその床に触れてみる。しばらくすると床に触れた指先からは刺すような痛みが伝わり、指先周辺には悪寒が走るような空気が。
「……氷、だと」
そう。ツルツル透明床の正体は氷であった。
しかし今は夏寄りの春であり、氷が存在できるような条件ではない。そもそも森の中に氷があるのがおかしい。
「なにしてんの?」
「転んでんの」
横から幼い声が質問してきたので、正直に答える。声の方向を見てみると、さっきまで何も無かった所に、幼女がいた。半袖のブラウスの上に水色のワンピースを着た幼女。水色の髪に青色の大きなリボンをつけて、全身真っ青な幼女。唯一違う色は、ブラウスの襟から顔を覗かせている赤いリボン。私が行く先々で会うのは幼女ばかりである。
気になったのは、背中から羽のように生えている六本の氷柱。これは、ようかいなのですか?
「ふーん、転んでんだ。あたいと勝負だ!」
「……」
ああ、この感覚。この脈絡もなくいきなり勝負だと言われるこの状況。黒髪長髪二本角長身ナイスバディの鬼、木隠黒花と初めて会った時と一緒だ。言葉が通じない類の生物。こういった生物への対処法は、まだ明らかになってはいない。
「あたいはさいきょーだからね!」
どうする、どうするの私。選択肢は、たたかう、まほう、ぼうぎょ、アイテム、チェンジ、にげる。どれにすれば……。
今さらだが、私はゲーム脳の持ち主である。早苗は特撮やその他アニメ・漫画類を担当し、私はゲーム類担当だった、覚えがある。今となっては遠い昔(未来?)の記憶である。思い出は大事だ。
まあ、今はそこで胸を張っている、やや自己陶酔気味のお子様に対して、私はどう振舞うべきかを考えなければね。
「たたかう」を選ぶには勇気がいる。私が児童虐待しているような絵になる。幼女の実年齢が見た目通りなのかは分からないが、過去二件の例から言うと、多分おばあちゃんだろう。
「まほう」は使えません。能力を使えばそれっぽい事も出来るが、相手の強さが分からない以上、不用意に使うのは危険だ。
「ぼうぎょ」しません。
「アイテム」持ってません。
「チェンジ」意味不明。
「にげる」と、ずっと追っかけられる可能性がある。に〇ん横断してしまう。あ、〇ほんって伏字にして置かないと色々と駄目だからね。固有名詞だから。まるしーってやつ?
おお、選択肢が全部潰れた。
「……どのぐらいさいきょーかというとね」
水色幼女はずっと自慢をしている。胸を張り過ぎてこちらを見ていない。このまま去っても気付かれないんじゃないか。
「さようなら」
私は特に気も使わずに立ち上がり、その場を去った。全然気付いていない。扱いやすいなあ。
・・・・・・・・・・・
そして歩く事十数分。獣道をずかずか進むと、開けた場所に出た。広いとも狭いとも言えないこの不自然な広場には、花がちらほら咲いている。その花の周りを走って追いかけっこをしているのは羽の生えた子供達。その花の上空を飛びまわり、きゃっきゃきゃっきゃとじゃれ合っているのも、羽の生えた子供達。子供達が乱雑に動き回っているのにもかかわらず、その姿は自然の一部のようであり、その表情は草花の喜びを表しているように見えた。
妖精の楽園、という言葉はこれの事だと思った。
好奇心に従ってその広場に足を踏み入れると、妖精達の歌が聞こえてくる。
「てっめえこのっやろ」
「なんっだっおまっえは」
「わたっくしっこうっいうっもーのですよ」
「どうも、どうも、ごてーいねーいに」
「そーれじゃーあきょーうは、こっこいらで」
「おふろ、ごはん、どっちらっにすーる」
「そっんなっのしっるか、おーれはかっえる」
「わったしっとしっごと、どっちがだーいじ」
「おっかねっでかーえない、もーのがあるー」
「そっうよあっなた」
「かえっるものは、おれっのたーん、どろー、どろー」
…………。始まり方が物騒だよ! それから何も無かったように丁寧に名刺交換って、何が起こったんだよ! って言うかこの二人は夫婦なの!? 名刺交換要らなくない!? ドロドロした関係なの!? それでも愛はプライスレスなの!? クレジットカード一杯ドローして物買っちゃうの!?
………………ふぅ。最近の妖精は過激だなー。あんまり関わりたくないねー。何か他に面白い物はないかなー。あれれ、広場の端っこに一人だけ仲間外れにされているような妖精がいるぞー。
気を取り直してその妖精をよく観察する。話し掛けやすそう……な雰囲気ではないが、そこら辺で歌っている妖精よりかは話が通じそうだ。
私は支離滅裂な妖精の歌詞を聞かないようにして、広場の隅で木に寄りかかって俯いている少女の元へ足を運ぶ。
少女は、私と同じ緑色の髪で、セミロングの片方を黄色いリボンで結び、おさげにしている。服装はさっきの「さいきょー」と自慢していた少女――恐らくあれも妖精だろう――とほぼ同じだ。ただこちらの方が、お淑やかさがある。少女の背中には、蝶のように広がった透明な羽がある。本当に、簡潔に、言葉を選ばないで言えば、ハエの羽だ。
「ねぇ、君。ここはどういう場所なの?」
私は少女に妖精の楽園の正体を尋ねる。すると少女はゆっくりと顔を上げ、大きな瞳でこちらを凝視する。私も負けるものかと少女を凝視する。
「あなた、人間ね」
私が妖力を隠している為、少女は私を人間だと認識する。諏訪子とか神奈子とか強い個体なら、一瞬で私の正体を見抜く。ならば見抜けないのは無害な個体と思って良いのではないか。
「いいえ、ちがいます。私は妖怪ですが?」
相手が無害(暫定)だと分かった瞬間、少し舐めたような態度をとる私。弱肉強食による上下関係決定。うわっ醜い、醜すぎるぞそんな決定法。こんな浅はかな考え方なんて、そこら辺の動物と一緒じゃないか。今度から気を付けよう。
そんな軽い自己嫌悪に陥っている私の思考など知る由もない少女は、私の態度を気にした様子もなく無表情のまま口を開く。
「そう。……どちらにせよ、ここを直ぐに離れるべきだよ。あれを見てると馬鹿が移るからね」
少女は目で、戯れている妖精達を示す。何となく、少女は他の妖精達を見下しているような感じがする。
「君、名前は?」
「名前……。そんなの無いね。あったとしても妖精達は三分で忘れるから。強いて言うなら、大妖精、かな。普通より力を持っている妖精の称号だよ。称号は元から妖精の頭に入っている情報だからいくら馬鹿な皆でも忘れない」
大妖精の言葉一言一言には、他妖精への悪意を込められているように感じ取れる。
「私は木葉緑。心はいつも十八歳の少女です」
初対面の人に悪意がなんぞというぶっちゃけた質問をする気にはなれないので、私も自己紹介で応戦する。心は十八歳だなんて言ったらもう駄目だと、言ってから気付いた。
「大妖精……さん? で、ここはどんな場所なの?」
最初の質問を再び。
「呼び捨てで構わないよ。好きに呼んでくれてもいい。他の妖精達は私のことを大ちゃんって呼ぶ。大妖精だから大ちゃん。短絡的だよね」
質問に答えてくれない。
「じゃあ留怨最凶。ここはどーゆーばしょ?」
「うん。おかしいよねその名前。好きに呼んでいいとは言ったけどさ、留怨最凶は無いと思うよ。そこは空気を読んで大ちゃんって呼ぶのだと思ったんだけど」
「今日から大ちゃんの名前は留怨最凶にしてあげる。『留怨最凶! いざ参る!』みたいな感じで」
「…………」
「カッコイイ登場シーンを見せてよ」
「……ここは寿命を迎えた大木が倒れたことにより、日が差し込んで来て、日なたでしか生きられないような草花が育つようになった場所。妖精達の遊び場だよ」
大妖精は私の命名を無視し、当初の質問を答え始めた。大妖精によると、妖精は木の中に住み、毎日外に出て来てはこの広場で戯れるそうだ。自然が具現化した存在である妖精が木の中に住むと、その木は元気が出るらしい。木はロリコンショタコンなのである。さらには、この広場のように妖精が沢山いる場所の植物も元気になるらしく、植物は全てロリコンショタコンだということが明らかになった。
「このロリコンどもめ……」
「へ?」
私から思わず出た呟きに、首をかしげる大妖精。構わずに私は質問する。
「で、留怨最凶は何で一人で座ってるの?」
「…………」
「で、大ちゃんは何で一人で座ってるの?」
「私は一人で静かに寝ていたいんだ。それなのに他の妖精達がうるさくて」
留怨最凶と呼ばれるのは嫌らしい。言い直すと、ちゃんと答えてくれた。
「家で寝れば?」
「家で寝たら意味ないでしょ」
「どうして?」
「どうしてって……」
そのまま無言になって目を泳がせる大ちゃん。考えてるね。
しかし私にはもう分かっている。何だかんだ言って、大ちゃんも皆と一緒に遊びたいのだろう。大ちゃんは仲間の元に寄る勇気が出せず、隅で悪態を吐き続けて他人と壁を作ってしまうタイプだ。ツンデレだ。早めに直さないと、将来いじめられっこになるだろう。
「他の妖精達と遊びたいんでしょ? ほら、行って行って」
いじめられっこにはなって欲しくないので、私は大ちゃんの背中を物理的にも精神的にも後押ししてあげる。しかし大ちゃんは席ったまま物理的にも精神的にも動こうとしない。
「……一度行ってみたよ。さけられた」
手遅れだった。
大ちゃんの立場に絶望を覚え、顔に手をやり落担する私をよそに、大ちゃんは語る。
「私が悪いんだよ。生まれた時から私は能力を持っちゃってたから、皆怖くて近付かないんだ。その能力っていうのが、私が大妖精と呼ばれる理由なんだけどね。……最初は皆も普通に接してくれたんだけど、それで段々私が調子に乗っちゃってね、その、能力を使って色々するようになったんだ。
詳しく話すとね。生まれたばかりで友達がいなかった私は、思いつきで能力を使って芸をしてみせた。そしたら妖精達は喜んでくれたんだ。すごい嬉しかったんだよ。私は皆に認められたんだって。妖精達は次第に私の元に集まってくるようになって、いつの間にか大ちゃんって呼ばれて、ついに遊びに誘ってもらえるようにもなったんだ。
それからは毎日、毎日、追いかけっこをしたり歌を歌ったり、充実した生活を送っていた。能力持ちの私は皆に持ち上げられて、グループの中心にまでなったんだよ。でも、ある日、私のせいでそれは壊れてしまった。
その日も、いつもと同じように妖精達に頼まれて、芸をしていた。芸をしている途中に、私は、ふと、思った。『私の能力はこの程度じゃない』って。この考えが駄目だったんだ。芸の途中でいつもと違う能力の使い方をした。能力をいつもと違う使い方をした結果、妖精達を一回休みにしてしまったんだ。…………何で前もって何が起こるか試しておかなかったんだって、今も後悔してる。
あ、一回休みっていうのはね、妖精以外で言う、死ぬってこと。死ぬことと違う点はね、妖精は自然が具現化したものだから、自然が無くならない限り、復活できるというところ。動けなくなったらしばらくすると復活。だから一回休み。
とにかく、皆を一回休みにしてしまった私は、復活した皆から恐れられるようになってしまった。今まで一緒に遊んでたのが嘘に思える位、私の事を無視するようになって、私が近付くとあからさまに逃げていくんだ。悪口を言われる訳でもなく、直接何かされる訳でもない、無視。皆の目には、私に対する恐怖しか浮かんでなかった。
ねぇ。たった一回だよ。たった一回間違えただけで、こうなってしまったんだよ。名前も覚えていられないような妖精達が、本能で私から逃げるようになったんだよ。もうどうしようもないよ。ねえ、緑さんだけでも友達になってよ」
最後まで無表情で話した大ちゃん。懇願するような所をも無表情で喋り通した。それでも初対面の私に全てを話した。
この、誰のせいとも言えない話。仲直りしようにも、相手が心を開かないので手も足も出ない状態。
不意の暗い話に、私は何を話して良いか分からなくなるが、無理矢理にでも話さないと進展しない。
「友達になるのは良いけど、大ちゃんは一体どんな能力を持ってるの?」
「『色を操る程度の能力』を持っているんだよ」
「……色? それで皆を?」
「私にもよく分からないよ。それに二度と使う気は無い」
「そう…………」
「…………」
苦しまぎれにした会話は大して続くはずもなく、無言ゾーンに突入してしまう。どうしよう。解決法が見つからない。
「あぁーー! 見つけたーー!」
無言ゾーンで暗い空気になったこの場に、緊張感の無い声が響き渡る。大ちゃんが小声で「あれはチルノ」と教えてくれた。
「おぉーまぁーえぇー! あたいと勝負だ!」
台無しである。対象はもちろん私。経験から言って、二回目に遭遇したこういうのとは、戦わざるを得ないのだろう。
チルノと呼ばれた妖精は戦う気満々だ。がっちりと、私を捕捉している。
昔の私と違って、今は戦える身だし、さっさと終わらせて大ちゃんの相手をしなくては。
「大ちゃんちょっと待っててね!」
「あ、うん」
私は大ちゃんを巻き込まないように、広場の中心へと向かった。他の妖精は……勝手に逃げてくれるだろう。
・・・・・・・・・・・
緑さんはチルノと戦うために走り去って行った。
……何で私、あんなに話したんだろう。こんな状況、どうすることも出来ないのに。
もう一人でいるのも慣れたよ。毎日ここでこうして、座っていれば時間は勝手に過ぎていく。
「(家で寝れば?)」
ふと、緑さんの言葉が浮かぶ。
うん、分かっているよ。本当に一人でいたいのなら家でずっと引き篭もっていれば良いんだ。それでも私は毎日ここに来てしまう。
私はまだ、皆と一緒が良いと思っているんだ。
「――かんねんしろ! 氷!」
緑さんとチルノが戦闘を始めたようだ。チルノは知らない物に出会うと力比べをする癖がある。自分の力量も分からずに。昔、まだ森は幼く、妖精達の力が強くなかった頃に、偶々通りかかった薄い桃色の髪を持ち、おばあちゃん口調の女の子にチルノは勝負を仕掛け、一瞬で負けていた覚えがある。
「氷だねぇ!」
チルノが氷柱を飛ばす。緑さんは何の能力を使っているのか、飛んでくる氷を粉々にする。
「まだまだぁ! 氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷氷!」
「連続攻撃するな! 『全部砕け!』」
チルノが氷を何個も打ち出すが、緑さんは全てを破壊して防ぎきる。
「今度は私から……って、どうやって攻撃するんだ?」
「アイシクルフォール!」
緑さんは攻撃できず、再びチルノに場を譲ってしまう。
アイシクルフォール。左右に氷を発射し、攻撃対象を挟み打ちするような弾幕。欠点は、氷を左右にばらまくので、目の前がガラ空きになること。それを補うように、チルノは前方にも僅かながら氷を発射する。
「あ、当たる! もう『全部壊せ!』」
そんな弾幕も、緑さんは一瞬で消し去ってしまう。
「……うわ、まずい。妖力すごい減った……」
「ダイヤモンドブリザード!」
緑さんのつぶやきを気にすることなく、チルノは更に弾幕を張る。
ダイヤモンドブリザードと、名前だけはしっかりしているが、実際はチルノが乱雑に、絶え間無く氷をばらまくだけの技だ。だが、適当にばらまかれる氷は軌道が読めず、運が悪ければ逃げ道が無くなることもある。チルノって以外と頭良いんだと思う。少なくとも他の妖精よりは。
「うぅ、『全部消せ!』」
無数の氷が緑さんに当たる直前、全ての氷を無にする。
「なんで消すんだ!」
「当たったら痛いでしょ! あと他の妖精にも当たるでしょ!」
目を凝らして見ると、緑さんとチルノの周りには、体育座りで戦いを見物する妖精達が。背の高い草が妖精達を隠すように生えていて、どれ位の妖精が見物しているのか分からない。
「……もう、妖力尽きそうだから、やめ――」
「さいきょーさいあく、パーフェクトフリーズ!!」
痺れを切らしたチルノが、決め技を使った。
パーフェクトフリーズは、低コストの妖力弾をダイヤモンドブリザードと同様に、無造作に放り出す。十分にばら撒かれたら、今度はその弾幕を凍らせ、動きを止める。避ける側が、調子に乗って動いていると、急に止まった弾に当たってしまう。そして、止まった弾は重力や風に身を任せ、色々な方向に飛んで行く。止まった弾幕を見て調子に乗って動くと、動き出した弾に当たってしまう。調子に乗ったら終わりの技だ。
チルノは妖力弾を上空にばらまいた。広範囲に渡ってばらまいた。緑さんが逃げられないよう、広場を覆う位に。
妖精達も巻き込まれてしまう程に。
やり過ぎだ。巻き込んだら、私みたいになってしまうよ。
「……こんなの、消せない」
「こおれ!」
上空の弾が一斉に凍り、動きが止まる。
「大ちゃん!」
緑さんが私を呼ぶ。
「消せるなら、消して! 友達がやられちゃうよ!」
友達、ね。ここで私が助けたら、皆はまた私を見てくれるのだろうか。馬鹿だから私が助けても理解できないか。馬鹿だからいつも通り私をさけるか。馬鹿だからこの状況も遊びの一部だと思っているのだろうか。
そして馬鹿だから、単純で何も考えられない純粋無垢な妖精達の事を、馬鹿な私は好きであり続けられるのだろうか。
長年使わない事にしていた『色を操る程度の能力』。
私は再び友達の為に使うことにした。
・・・・・・・・・・・
何で妖力いっぱい持ってるのに直ぐ尽きるかねぇ。燃費悪過ぎだよ。
頭上を覆う氷の群れ。数瞬後には自由落下をするだろう。 私の所に落ちてくる氷だけは消せる。他は大ちゃんにかかっている。妖精達は当たっても一回休みで済むらしいので、別に全て消さなくても良いのだが、そうすると私の心が痛む。大ちゃんにとって今は、汚名返上のチャンスと言っても過言ではない。
「あたいの、勝ちだ!」
チルノはもう、悪役みたいだ。子供って時に残酷ですよね。
「面積百ぱーせんと!」
チルノが叫んだ瞬間、それは落下を始める。
数秒後、ぬるい雨が降った。
「……あれ? なんであたいの攻撃が?」
チルノは何が起こったのか理解できていない。
大ちゃんが『色を操る程度の能力』を使ったのだろう。
色というのは、光の波長によって認識される視覚的な情報だ。色として認識できる波長は、範囲が決まっている。その決まった範囲以外の光は、赤外線やら紫外線やら呼ばれる光である。いわゆる見えない「色」だ。
大ちゃんの能力は、正確には『光の波長を変える程度の能力』だと言える。大ちゃんが他の妖精を傷付けてしまった時には、光を赤外線か紫外線に変えてしまったのだろう。赤外線は物体を熱する力を持ち、紫外線は物質を分解する力を持つ。大変危ないヤツだ。生物がそんな光を浴びたら昇天する。妖精達は、この光を当てられ昇天し、大ちゃんを恐れるようになってしまったのだ。
そして今、大ちゃんがやった事は、上空の光の波長を一瞬だけ変化させ、無数の氷を赤外線で溶かした。言うなれば、上空を電子レンジでチンしたのである。頭上でチンしたら、私達に影響は無いのかと思ったが、何にも無かったので良し。
結果的に、全員、大妖精の力で助かった。
私は、呆気にとられるチルノに、拳骨を三つ差し上げて、大ちゃんの所に駆け寄った。
大ちゃんは、倒れていた。
「だ、大ちゃん!?」
「……私の上にあった氷、溶かすの忘れちゃった……」
大ちゃんの周りには、氷塊が落ちていた。私達の方に集中していて、これらに当たってしまったのか。
「……ははは、私、一回休みだ……」
大ちゃんは気付くと消えていた。
・・・・・・・・・・・
「……はっ!」
大ちゃんの復活場所が分からなかったので、森の中を探し回っていたら、以外と早くに気を失った大ちゃんを見つけた。
諸悪の根源であるチルノに「どうやってあたいのパーフェクトフリーズを消したんだ!?」と聞かれ、大妖精がやったと答えると、チルノはすごい興味を示し始めた。そんなことがあり、大ちゃん探索にはチルノも同行している。
そして、たった今、気を失っていた大ちゃんが目を覚ました。
「大ちゃん!」
「これが大ちゃん!?」
二人して喜ぶ。
「……え? あの、だれですか?」
大ちゃんはパッとしない表情のまま辺りを見まわす。
「私だよ、緑だよ」
「みどりさん……知りません。あの……一つ聞いても……?」
「どうした?」
「ここは、どこで、わたしは、だれなの、かな?」
立派な記憶喪失の人の台詞を言ってきた。
「お、覚えてないの!? 大ちゃん能力を使って皆を助けたんだよ!?」
「はぁ……。でもわたし、能力なんて使えないよ?」
「何言ってんの!? 汚名返上だよ!?」
「え、わたし、悪いことをしちゃったの!?」
「いじめられっこっだったの覚えてないの!?」
「なにそれ! 嫌だよそんな過去!」
…………。まあ、良いか。
「君の名前は留怨最凶。皆の人気者だよ」
「おまえはあたいの、さいきょーのチルノの子分だぞ!」
「口癖は『留怨最凶! いざ参る!』だよ」
「おまえがあたいより弱いこと、今日からみっちりおしえてやる!」
好き放題に偽の記憶を植えつけた。
「そうだよ! 思い出したよ! わたしのなまえは留怨最凶で、チルノちゃんの子分なんだね! 留怨最凶! 改めて参る!!」
良い事をすると最高な気分になるよね! めでたしめでたしっ!
☆秋姉妹的次回予言
「静葉です!」
「穣子です!」
「うおーーーーーーー! あ、き、じゃーーーーーーー!」
「お姉ちゃんお姉ちゃん! 秋は、もう死んだんだよ……」
「なななんですって!? あ、もう、11月だ……うわぁ」
「でもでもでもお姉ちゃん! 緑にペンダントをあげたおかげで予言させてもらえるようになったんだよ!」
「キャラ付けに成功したのね!」
「そんな事いわないで!」
「で、一体何を始める気?」
「ここでは緑が次にしそうなことを予言します!」
「予想、ではないのね」
「このお話では現在、聖徳太子がいる時代です!」
「最初に色々出てたわね。凄い勢いでスルーしたけれど」
「宗教ってこわいもんね」
「神のわたし達がそれを言ったらお終いだと思うわ」
「さて、妖精たちを救った緑は次に何をするんだろう!」
「便利な能力を持っているのに、チルノにすら負けそうな緑」
「修行だね! それしかないね!」
「修行ばかりしてもいられないわ。この先重要イベントが盛りだくさん……」
「わたし達はでてくるのかなぁ!?」
「………………」
「え、お姉ちゃん! なんでだまっちゃうの!?」
「………………」
「………………」
「予言を終わるわ……」
「うん……。今日は帰って鍋だ……」
……この次回予告、いりますかね。