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東方現葉幻詩  作者: 風三租
第三部 いい旅夢気分
12/44

蜿蜒長蛇、落ち付きますな




 『果し状』


 明日お前の所に行くからな。戦う準備して待っとけ。


 ――軍神より




「……何コレ」


 翌日、諏訪子の神社に、果たし状なる手紙が届けられていた。

 朝、起きたばかりの私は、正座をして俯いている諏訪子を発見した。理由を聞くと、諏訪子は無言でこの手紙を差し出してきたのだ。


「大和の神が宣戦布告をしてきた」


 顔を上げずに諏訪子が言う。朝から暗いなあ。


「戦争ですか?」

「……うん」

「へー。じゃあね」


 人様の戦いに、他人が関与してはならない。ここでお別れだ。


「ちょ、そんなあっさり!?」

「出てって欲しかったんでしょ?」


 昨日の夜、寝る前に、妖怪が神社にいるってことが民にばれたら……とか、妖怪が人里で過ごすなんて……などと、一時間かけて諏訪子に説教された。

 その割には、私が出ていこうとすると引き止めてくる。言葉で引き止めるだけでなく、服も引っ張られている。


「いや、そうだけどさ。ここに残って応援するとか、そんなやさしい心は無いのか」

「妖怪だからね」

「こっちは明日戦うんだよ!? 心配しろよ!」

「まだ会ってから十八時間しか経ってないよ」


 私が未来に居た時(前世?)に、諏訪子と接触した時間を合わせても、十九時間程度。

 そんな短い付き合いの神様を、心配しろと言われてもねぇ。


 私は引き戸を開けようと手をかけると、諏訪子は私の服をつかみ直して、膠着状態に陥る。


「緑、絆というのは時間の長短で決まるものじゃあないのさ」

「いいこと言ってごまかさないの」


 戦争が起これば、死者が出る。私は死など見とうない。


「君がいなくなったら誰がわたしの世話をするんだ!」

「いつから私は諏訪子の世話係になったのか甚だ疑問である」

「泣くよ!」

「え」


 泣くよ、と顔を上げた諏訪子の目には、すでに涙が溜まっていて、思わず怯んでしまう。

 諏訪子は私の服からそっと手を放し、再び下を向く。私は何とも言えない気持ちになり、そういえば帽子を被っていない諏訪子を見るのは始めてだなー、と、別の事を考えて気を紛らわした。


「……不安なんだよ。今は妖怪でも良いから、気を紛らわせてくれるものが欲しいんだ」

「え、そ、そう? じ、じゃあ、やっぱり、一週間はここにいようか?」

「……うん」

「よ、よろしくね、諏訪子」

「……ょっしゃ」


 不吉な言葉が聞こえてしまった。諏訪子の右手が、ガッツポーズをしたかのように、ピクッと動いた。


 そして、顔を上げた諏訪子の表情は、太陽のように明るい笑顔だった。


「優しいね! 緑は! じゃあ準備手伝って!」

「それが目的か」


 再び逃げようとしても、泣き真似をされそうなので逃げられない。幼女の涙には、誰も勝てないのだ。例えウソ泣きでも。


「物置きに整地するアレがあるから、湖の周りをキレイにしてきて!」

「湖なんてあった?」

「緑が侵入した入り口とは逆の方向にあるから頑張ってーばいばい」


 と、諏訪子は私の背中をぐいぐいと押す。引っ張られたり押されたり忙しい。


「逃げるよ」

「泣くよ」


 どう足掻いても逃げられないようである。




・・・・・・・・・・・




「広っ!」


 神社にある整地するアレを持った私は、とりあえず湖を見つけようと、村の出口で景色を眺めた。が、眼前に広がるのは草原。ずっと向こうに、ちょこんと見えるのが湖。

 湖の周りを整地しろと言われても、それがどこからどこまでを指しているのか分からない。全部とは言わせない。


「ちょっとやればいいよね……」


 諏訪子も流石に昨日会ったばかりの通りすがりの妖怪に、完璧な仕事を求めてはいないだろう。


 心の中で言い訳を確定させ、私は湖の方向へ歩き出すが、直ぐにやる気が滅亡・枯渇・退廃する。


「……自転車」


 滅茶苦茶とおいんだよ。湖まで。今までの経験からして、歩いて三時間掛かるか掛からないかの距離だろう。


「効率的な移動法が欲しい」


 整地するアレに車輪が付いてたら、足をかけて滑って行けるのに。

 現実が駄目なら幻想はどうだ、と突発的な考えが現れ、幻想郷での移動法を思い出す。思い浮かんだのは藍先生のしっぽ。


「……飛ぶか。おそらを飛んでみるかもふもふ」


 空を飛ぶのは人類の夢だが、私は妖怪になったので関係ない。藍先生は、幻想郷での移動方法が空を飛ぶことだと行動で示した。さらに、妖怪が空を飛ぶのは珍らしくないらしいもふもふ。


「『妖力を使って空をとべー』」


 私の『等価交換する程度の能力』を使ってみると、いとも簡単に体が宙に浮く。五メートル位上昇した。人類破れたり。


「うわーすげっふげっふぐぁぁ……!!」


 景色を見ようと前方を向いた瞬間に、原因不明の気だるさと吐き気に襲われ、墜落してしまう。地上五メートルからの落下だ。


「ぅぎゃぁぁぁぁあぁぁ!!」


 ボスッ!! という情けない着地音と共に体中に激痛が走る。背中を強打した私は、意識が飛びそうになる。でも死なない。五メートルから落ちても骨折しない位丈夫。


「うぅ。空は駄目か……」


 痛みと気だるさと吐き気が、引き続き私の心を攻撃してくるので、挫けそうになる。

 このだるさと吐き気には心当たりがある。無理な運動を続けたたときに現れる症状、すなわち疲れだ。


 考えてみると、空を飛ぶには、重力と同じかそれ以上の力を、常に出し続けなければならない。空を飛ぶのに必要とされる妖力が馬鹿にならないのだ。地球に力のみで反抗するなんてとんでもない事だよね。


 何事も休めばすぐに回復するというゲーム的思考に基づき、私はそのまま大の字になって、息を整える。

 数分で大分マシになり、休憩終了を決意。ちなみに現在地は村から五十メートル程離れただけの所だ。村人からまる見えの位置で少し恥ずかしい。


「ふぅ……ちゃんと歩きますよーだばーか」


 治り切らずに少しだけ残っている三つのステータス異常に耐え、ゆっくりと立ち上がる。フラフラになりながらも、地球にケンカを売りつつ、私は湖方面へ再度向かった。




 歩いているうちに段々楽になり、ペースを上げて、ついに湖のほとりまでたどり着いた。日の出頃に出発したのに、今はもう太陽が真上にある。今は冬なので、日の出から昼までの時間が短いというのもある。

 前方の風景は……やはり、湖だ。向こう岸がはるか遠くに見える位の大きさだ。広くて良いね。

 私には美的感覚なんてない為、それ以上の言葉は出てこない。感性か豊かな人は、「太陽の光を反射させ、美しく光る湖は、壮大な自然に囲まれ、その身を一層輝やかす。それはさながら……」などと訳の分からない表現が出来るのだろう。


 上手い表現は出てこないが、初めて見る湖の広さに何も感じない訳ではなく、しばらくの間心を奪われていた。

 すると、


「よお」


 後ろから聞き覚えのあるだらしない人の声がした。


「私は八坂神奈子という名だが、明日に大きな戦いを控えているんだ。私とちょっと練習試合をしてくれないか?」


 声の正体は、やはり守矢神社に居座る神、神奈子ちゃんだった。今朝、宣戦布告してきたのはこいつだったのかな。


「私が神奈子ちゃんに勝てると思いますか?」


 私は振り返らずに答える。

 ただの妖怪が、神に勝てる訳がない。たとえそれが、働いたら負けな神でも。


「……ちゃん? 面白い。軍神八坂神奈子をちゃん付け出来る程度に、お前は自信があるのだな」


 相手の雰囲気が妙に真面目だったので、流石に失礼だと思い、私は振り返ってしっかり答える。


「私は今妖力切れなんですよ。まともに勝えません」


 さっきのたった十数秒の浮遊で、妖力をごっそり持ってかれた。

 私の能力の欠点を見つけた。すごい事をしようとすると、それだけ多くの妖力が必要とされる。いくら持っている妖力量が多くても、消費量が多ければ意味をなさない。私はいわば一リットルのガソリンで一キロメートルしか走れない、燃費が超悪い自動車と一緒なのだ。


「関係無い。勝負だ」


 神奈子ちゃんが戦闘体勢に入ってしまった。三十年前の黒花(元・花子)のやり取りに似ている。

 逃げたい。けど、そしたら射殺されるだろう。そして妖力は無く、時間稼ぎも出来ない。持っているものは整地するアレのみ。抵抗は出来ない。

 逆に無抵抗でやられ、自分に力が無い事を示せば助かるか。


「うぉりゃぁー!」

「えっ!?」


 勝負は急に始まった。




・・・・・・・・・・・




「諏訪子さまー! あの緑色の子はどうしたんですかー!?」

「んー、出かけた」


 緑を見送ったわたしは、明日の戦いに向けて準備するものは特に無いから、暇になってしまった。


 それにしても、昨日見つけた変な妖怪は色々と使えそうだね。

 わたしが涙を見せれば何でも言う事を聞いてくれると思う。

 整地なんて明日の戦いには全く無意味なことだけど、とにかく緑が無害な妖怪かどうか試したかった。結果、緑はお願いを聞いてくれるやさしい生物だった。

 妖怪は妖怪でも、緑はそこら辺のとは少し違う。社交的で人間を襲う気配もない。非常に僅かだが神力までもが感じとれる、今までに見たこともない妖怪だ。

 そんな珍しい妖怪に、わたしは一目惚れをしてしまった。一目惚れと言っても、面白そうな玩具を見つけた子供の心っていう程度だよ。

 大いなる神であるわたしが、妖怪なんかといるのは色々まずいかもだけど、バレなきゃ良いよね。神社を毎日掃除してくれるアヤコさんも、緑が妖怪だって分からない様子だし、しばらくは大丈夫じゃないかな。


 緑は何故か最初からわたしを知っていたようで、初対面特有の過ぎた遠慮は無かった。野生の妖怪が知っている位、わたしは有名になったのか。そうだよね。わたしは超すごい神だからね。


 ……ここで突っ立ってるのも何だし、中に入ろう。寒い寒い。


「じゃあアヤコさん、あとはよろしくねー」

「了解です!」


 さて、今日は何をしよう。

 明日使う鉄の輪はいっぱいあるし、戦いに民を巻き込むつもりは無いから、宣戦布告を知らせる必要もない。アヤコさんにだけ言っておけば良いだろう。

 やることないなあ。まだ朝早いし、二度寝しよう。




・・・・・・・・・・・




「く、負けた……」


 神奈子ちゃんとのバトルは、数秒で終わった。

 咄嗟の攻撃に反応できなかった私は、一撃でやられてしまったのだ。


「……甘いな。あの余裕は何だったんだ」

「不意打ちなんて……卑怯だぞ……」

「卑怯? 戦略と言ってくれないか。……ああ、準備運動にもならなかった」


 この神奈子ちゃんは未来の神奈子ちゃんとは違う。覇気がある。働いて勝った者のオーラをまとっている。服装もジャージ上下ではなく、赤いシャツに黒のスカート、腰に縄を巻いている。

 外見だけ見れば変な服装だが、溢れ出す覇気と合わせると、非常に凛々しく見える。


「……見直しました。神奈子ちゃん」

「ふん、恐れ入ったか。神奈子ちゃんって呼ぶな」


 未来では神奈子ちゃんと呼べと言っていたのに、今は嫌らしい。でも無駄だ。呼び方はそう簡単に変えられるものではない。


 神奈子ちゃんは興味を失った様子で、私に背を向ける。


「さあ帰れ。ここは私の野営地だ。戦いが終ったらまた相手をしてやる」

「お邪魔しました。またいつか」


 整地をサボれる口実ができたので、言われた通り帰ることにした。




 来るときと同じ時間をかけてゆっくりと村に戻ったので、夕方になってしまった。

 こんな長い道のりを歩かせ、広過ぎる湖の周りを整地させるとは、諏訪子は遠回しに帰って来るなとでも言っていたのだろうか。


 私は整地するアレを神社の物置に放り込み、神社に入る。

 ところで、整地するアレの正式名称って何だ?


「ただいま戻りました木葉ですよろしくよろしく」

「あれー、もう帰ってきたの」


 玄関みたいな所で帰還の報告をすると、諏訪子が左側にある部屋から、体を丁度半分だけ出して返事をした。


「邪魔が入って全然作業が出来なかった」

「そう。おつかれさまー」


 そう言って諏訪子は部屋に引っ込もうとする。


「あれ? 邪魔ってなにー、とか聞いてくれないの?」


 三分の一程諏訪子の体が引っ込んだ所で私が質問する。


「いいよめんどくさい」


 三分の一諏訪子は、私の苦労をぶち壊して、完全に部屋の中に入った。


「……ああ、哀しい、私は哀しい。駄目神とのバトルで負け幼女にはいい加減に扱われ。私はここに居るべきなのか」


 これが妖怪であることの欠点か。人類皆友達とはいかなくなるのか。早苗、やはり私には早苗しかいないよ。タイムスリップしてこい。


「早く入りなよ! ごはんにするよ!」


 私が声と心で同時に嘆いていると、部屋から諏訪子の呼び声が周りの空気を毎秒340メートルの速さで揺らし、天井床壁に反射して反射して、私の耳殻がその振動を捕らえ、集まった振動は外耳道を通って鼓膜をドンドコし、つち骨きぬた骨あぶみ骨によって振動をワッショイすることにより、うずまき管内のリンパ液を波紋疾走させ、それがうずまき細管の基底膜をチクチクし、聴神経がワーイとなって私の脳に届き、そこで始めて諏訪子の声だと認識する。

 要するに諏訪子が当然のように私を呼んでくれてうれしい。神類皆友達。


「おじゃまします」


 つめたい廊下を一歩一歩踏みしめ部屋に入ると、この時代にしては豪華絢爛なお品がずらりと並ぶ食卓が、我が物顔で部屋のど真ん中に鎮座していた。

 その周りには、諏訪子とアヤコさんと呼ばれていた人が刮目して、私が座るのを待っている。


「ごはんごはんごはんごはん」

「今日はモシェコッコを作ってみました」


 空いている席につくと、アヤコさんが不思議な単語を出してきた。思わず聞き返してしまう。


「……も、もしぇこっこ?」

「モシェコッコです」

「やったーモシェコッコだー!」

「な、何ソレ……」


 得体の知れない料理の名に危機感を覚える私。


「ご存知ないんですか?」

「えー知らないの?」

「モシェコッコ知らないって、ねえ諏訪子様」

「そうだねアヤコさん」

「時代遅れですねー」

「若者は新しい物好きなはずなのにねー」


 モシェコッコを知らない私を容赦無く非難する二人。

 未来から舞い降りてきた私は、時代遅れというより時代進みではないかと思った。そして私は間違いなく若者だ。よく分かっているじゃないか幼女。


「どうかこの最先端過ぎる私にモシェコッコの正体を教えてくれませぬか」


 諏訪子とアヤコさんは答えずに箸を取り、


「細かい事は気にしない!」

「食べてみれば分かりますよ。さあさあ」

「冷めちゃうから早く食べよ!」

「ほらお箸をもってくださいよ」


 そして食事を開始する魔法の言葉を口にする。


「いただきます!!」

「いただきます!!」


 温かいなあ。


「い、いただきます」


 細かい事は気にせず、私も皆と同じように箸を取り、食事を楽しむ事にした。




・・・・・・・・・・・




 翌日。軍神八坂神奈子と何らかの神洩矢諏訪子の戦いが始まる日。


 私は諏訪子に連れられ、例の湖へ向かっている。

 諏訪子によると、「流石に一人位には見ていて欲しい」だそうだ。


「わたし、勝ったらまたみんなとごは」

「言わせないよ」

「へ? 何で? わたし、帰ったら神社を改ち」

「やめなさい」

「んー……。わたしが負ける訳な」

「そこまでだ」

「そうだ! わたしの大切な帽子を緑にあず」

「封印!」


 道中、諏訪子が一般に死亡旗と呼ばれる不吉な言葉を乱発してくる。私はそれを頑張って阻止する。それでも諏訪子は鳴り止まないので、唇を指ではさんで封じる。諏訪子の唇は「3」の形になった。


(……緑、わたしが無事に)

「あーあーあーっはっはっはっ!」


 口を防いだと思ったら今度は念力を使って、私の頭の中に直接話し掛けてくる。それをかき消そうと叫びながら諏訪子を見ると、「3」の唇が目に入って思わず笑ってしまう。


(……これぞ神通力!)

「……」

(そしてわたし、帰ったら大好物の)

「あかん!」

(……アヤコさんが作った肉じゃがを食べるんだ!)

「あ……。死亡決定」


 ついに言い切ってしまった。言葉に魂が宿り、諏訪子を呪う。私は諏訪子の「3」を解いた。


「口で言ってないから大丈夫だもん!」

「お前はすでに、死んでいる」

「お前とか言うな!」


 未来の諏訪子は元気だったから、死ぬことはない。


 そうこうしている内に、湖のほとりに至り着いた。目の前の障害物を取り除けば、昨日と変わらない景色が見られるだろう。




「……待っていたぞ」




 障害物は、私と喋っている時には見せない、威厳と神々しさ――神気とでも言うのか――を出し、諏訪子を睨み付ける。


「じゃあ私は向こうの方に……」

「うん」

「神奈子ちゃん、またねー」

「雰囲気ぶち壊しだな」


 全く、その通りだ。

 私は五メートル程離れた場所で、体育座りをする。


「……大和の神よ、我が領地を諦める気は無いのか」

「無いのなら端から宣戦布告などしない」


 土地をめぐる争いだったのか。初めて知った。

 諏訪子も神奈子も、すさまじく真面目モードになっている。互いに睨み合い、一瞬の隙も見せない。


「これは無意味な戦だ」

「無意味ではない。統一こそが平和。大人しく降伏すれば危害は加えん」

「統一なんてしなくとも我が領地は平和だ」


 お互い一歩も譲らない。二人のオーラがどんどん黒くなっている気がする。


「程度の低い平和など平和の内に入らない」

「何を見た訳でも無いのに何故程度の低」

「うぉりゃぁー!」

「っ!」


 諏訪子が喋っている最中に、神奈子ちゃんは不意打ちをしかけた。昨日私にやってきたのと同じ戦法だ。ずるい。


「じゃんけんぽん!」

「っっ!!」


 神々の戦争――じゃんけんの不意打ちに、諏訪子は咄嗟に反応することが出来た。神奈子ちゃんはチョキで、諏訪子もチョキ。あいこに持ち込んだようだ。

 昨日の私は、神奈子ちゃんが殴りかかって来ると思い、開いた手で顔を守ろうとした。そして何も起こらなかったので手を下げると、チョキを出していた神奈子ちゃんがいたのである。

 ……こんなのが土地をめぐる戦争で良いのかな。いや死者が出ないから良い方法なんだろうけど、なんかねぇ。


「……ふん。やはりこれが防げる者でなければな」

「まだ、勝負はこれからだ……!」


 そして本当の戦いが始まる。


「あいこでしょっ!」

「あいこでしょっ!」


「しょっ!」

「しょっ!」


「しょっ! しょっ! しょっ! しょっ!」

「しょっ! しょっ! しょっ! しょっ!」


「しょっしょっしょっしょっしょっしょっしょっ」

「しょっしょっしょっしょっしょっしょっしょっ」


 止む事の無い相子の嵐。何を出しているか脳が追い着かない位、ペースが速くなる。

 たかがじゃんけん、されどじゃんけん。神々の遊びに、私は見入ってしまった。




・・・・・・・・・・・




「しょっ、しょっ、しょっ、しょっ」

「しょっ、しょっ、しょっ、しょっ」


「……はぁ」


 相子が続くこと七十二時間。つまり三日間進展が無い。

 見学は開始三十分で飽きている。帰ろうとしたり、寝ようとしたりすると、諏訪子にテレパシーで怒られるので、身動きがとれない。


「……あいこでしょっっっ!!」

「……あいこでしょっっっ!!」


 おっ。相子の行列が鳴り止んだ。お互い肩で息をしていて、大変辛いようですね。


「……そろそろ、決着をつけるか」

「……ふふふ、わたしの取っておき、見て驚くなよ」


 バトルは最終章に突入したようだ。じゃんけんだが。


 二神は最後の力を振りしぼり、腕を高く高くあげて一喝する。




「じゃんけんぽんっ!!!!」

「じゃんけんぽんっ!!!!」




 諏訪子は、親指と人差し指で輪っかを作ったものを出す。

 神奈子ちゃんは、人差し指を立ててウネウネさせたものを出す。


「……これは最先端の素材、鉄で出きた輪。石を包み、鋏を開けないようにはめることが可能で、勿論紙も切れる。負けないよ」


 小学生か。


「甘いな。私のこの植物の(つる)を表わした形は、鉄を錆に変える効果がある。この私が対策をしていないとでも思ったか」


 だから小学生か。


「そんなもの後付けの設定ではないのか」

「そう言うだろうと思って実物を用意してきた」


 神奈子ちゃんは植物の蔓を取り出し、諏訪子に見せる。


「奇遇だね。わたしも鉄の輪を持ってきた」


 諏訪子も、どこからともなく鉄の輪を取り出す。

 変なルール作るからこんな事になるんだ。


「私がそれを錆びさせたら、お前の領地を貰い受ける」

「錆びなかったら、さっさと帰ってもらうよ」

「……いざ!」

「来い!」


 神奈子ちゃんが蔓を掲げる。諏訪子、君はここに来る時に死亡旗を立てまくったんだから、負けは決まっているんだよ。


 諏訪子自慢の鉄の輪は、たちまち錆びて崩れ落ち、地面に還る。

 諏訪子本体も崩れ落ち、俯き手を付きしゃがみ込み、その姿は蛙のよう。


「あ……ぅ……錆びていく……」


 神奈子ちゃんは、未だに片方の手の人差し指を立ててウネウネさせている。

 神奈子ちゃんは、鋭い笑みを浮かべ、その表情はまるで蛇のよう。


「私の勝ちだな」


 三日に渡る戦が終わった瞬間だった。













 この神々による壮絶な戦いは、後々に諏訪大戦と呼ばれるようになった。

 ははは。






次回予告でも書いてみようかな……。



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