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魔宝の旅人  作者: ネブソク
第2章 【ユメハミ】
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第2章 【ユメハミ】 1話 眠らない町


「兄貴!起きて!」

「……ん?」


そこは限りなく広がる真っ白な世界だった。2人組の男はその中心で目を覚ました。


「……ここはどこだ?オレ達、確か……『レディア』に来たんだよな?」


『レディア』……それはこの国でも特に有名な娯楽都市。大人向け子供向けあらゆる娯楽を詰め込んだこの町は昔から観光客が絶えなかった。とはいえ、彼ら2人の兄弟は遊びにこの町に来たのではない。

 高額の報酬で彼らはレディアにあるという『あるモノ』を手に入れに来たのだ。


「兄貴……何か様子がおかしいんだよ!ここ、絶対に変だろう?」


彼らは確かにレディアを訪れた。しかしそこは確実にその町ではなかった。


「……覚えてないな。町を色々と見て回ったのは覚えているが……」


ぷっつりと途切れている記憶。どうしても記憶の引き出しの中から見つからない『空白の時間』。そして、真っ白な空間。ここが部屋なのかどうかさえも分からない。


「お困りのようだね?どうしたんだい?」


ぼーっと辺りを見回し、思考を巡らせていた2人の後ろには、いつの間にか1人の少年が立っていた。


「な、何だお前!」

「落ち着け、弟……!……おい、ガキ。ここはどこだ?」


少年はにたりと気味の悪い笑顔を浮かべ、腕を組んだ。そして、一言だけゆっくり丁寧に一文字一文字はっきりとその『名前』を言った。


「『ユメハミ』」


少年の一言を聞いた男たちは、ピタリと動きを止める。


「……兄貴、こいつ……!」

「何か知ってやがるのか……?オレらの事も……」


『依頼主』から持ってくるように命じられた特別な宝物『魔宝』の1つ。『行けば分かる』と依頼主はその名前だけを彼らに教えた。


『ユメハミ』


正しく少年が発した言葉の通りだった。

兄弟は目をぎらつかせながら、懐からナイフと何かの液体が入った瓶を取り出す。


「欲しいのかい?」

「やっぱり、知ってやがるか……」


兄はゆっくりと立ち上がり、ナイフを構える。少年はそれに動揺もせずに指を一本突き付けた。


「惜しい、惜しいよ。君達が真面目に『仕事の内容』なんて欲せずに、『今欲しいもの』を思い浮かべていたら……ボクが君達を幸せにしたのに」

「あ、兄貴……コイツ、なんか変だよ!」

「ガキなんぞにビビるな、馬鹿が」


兄は弟の足を軽く蹴った。本当に軽く、いつものように……


パァン!


「え?」


弟の足ははじけ飛んでいた。肉片が飛び散り、骨がむき出しになり、ぽたぽたと足の切れ目から血がこぼれていた。


「あ……にき?」

「な……なんでだ?何がどうなって……」


弟の頬を涙が伝う。悲鳴もあげず、目を大きく見開いたまま弟は後ろにバタリと倒れた。兄も目の前で起きている光景を理解できず、呆然と立ち尽くす。


「ああ、可哀そうに。君達は『依頼主』に嵌められたんだ」

「あ、あ……ああああ!?」


少年がパンと手をたたく。その瞬間、倒れた弟の頭はぼこぼこぼこぼこと膨れ上がり……


「や……やめろおおおおおおお!」


兄の叫び声が虚しく響く。しかし、その奇妙な光景を止める術などあるはずもなかった。


パン!


少年が手を叩いた時と同じ音が響く。


「きっと『君』の依頼主は……『君』と『ソレ』をエサにしようとしたんだ。おお怖い。イカれた人間ほど怖いものはないね」


「あ……あ……」


最早、言葉を発する事も出来ない兄に向けて少年は先ほどと同じように手をパンと鳴らす。


「触れるな人間……この『ボク』に……!」




       ************


――――――ある日の夜、娯楽の町『レディア』にて



「やかましい町だ。わっちには合わん」


しのび』、月狐ゲッコウは狐の面を口が出るくらいにまでずり上げて、先ほど購入した団子を頬張りながら騒々しい通りを歩いていた。普通なら周りから浮いている彼女の服装や、狐の面もこの町では全くと言っていいほど目立たない。町ゆく人の多くが奇妙な服に身を包み、珍妙な仮面を被っている。

 年中パレードのこの町では、あちこちで仮装パーティが開かれ、屋台では変わった仮面などが売られている。『人目を気にせず楽しめるように』とこの町では仮面の店が多い。これを被れば多少この町ではっちゃけててもばれない……といった所か?


月狐は通りかかった宿屋の一室をちらりと覗いた。そこには彼女が概ね予想していたモノが2つ転がっていた。


「喰われたか……」


団子を頬張りながら、「喰えん男だ」だ呟くと、『任務』を早々に終えた月狐は、串を加えながら財布の中身をチェックすると、先ほど見つけた占いの店を覗きに行こうか、屋台の綿飴を食べに行こうかと悩みながら賑やかな街並みに消えていった。



     **********



白い馬が立派な馬車を引きながら歩いている。賢そうなその馬は目的地に向け、黙々と凛々しく歩いている。その馬の様子を馬車の車の上から眺めながら、旅人は寝そべっている。とても和やかな空気を漂わせるその旅の光景。しかし、その車の中では非常に重苦しい空気が流れていた。


「…………」

「…………」


向かい合って座るロザとクロ。向かい合うとは言っても、向き合っているのは体だけで、クロの視線は何もない方を向いている。ロザはそんなクロの様子を見ながら顔をひきつらせていた。


(気まずい……!)


フーロンの町から旅立ち、早2日。ロザは未だにろくにクロと話せていない。


(私が旅に同行する事……どう思ってるのかな?迷惑がられてないかな?)

(それに私、クロさんの事、名前しか知らないし……自己紹介もしてないような)

(どうしよう……!これってとても失礼なことじゃ?……何か、話をしないと!)


「あの……!」

「…………なに?」


言葉につまるロザ。クロの冷たい視線がロザを射抜く。


(わ……話題……!なにかいい話題……!……そうだ、年を聞こう!まずはプロフィールを探ろう!)

「なに………?」


クロがぶすっとした声を漏らす。話を振られたのに、話を切られて、そろそろイライラしてきたらしい。


「あ、あの…………」

「……なに?」


ロザは息を吸って、思い切って声を発した。


「く、クロさんってとても大人びて見えますけど……何歳ですかっ!?」


 なんとなく勢いで質問をした。正直、クロは小さくて、子供のように見えるが、子供扱いするのも失礼だと考えたロザは思いつく限りの言い回しを考えた。

 クロはしばらく黙りこくった後、ぽかんとロザの顔を見つめ、ゆっくり口を開いた。


「……私……おとな?」

「……へ?」


 無表情なクロの頬がぽわっと赤くなった。


「……そっか。……やはり……私はおとなっぽいか……」


ぼそぼそと呟き、俯くクロを見て、ロザは何故かその様子が嬉しそうにしているように見えた。よく状況を理解できないままロザが黙っていると、クロはロザの目をキリッと見つめて、言う。


「……19歳」

「え?同い年じゃないですか!」

「……!……そうなんだ」


その年齢を知って、ロザは驚いた。とてもじゃないがそうは見えない。


「クロさんと私が同い年……かぁ……」

「…………ロザ」


クロに突然名前を呼ばれ、ビクッとしたロザは「ひゃい!」と間の抜けた返事を返して、ピンと背筋を伸ばした。


「……『クロ』でいい。…………あと、敬語もいらない。……あいつと被るから」


そう言うと、クロはすっとロザに手を伸ばした。


「……へ?」

「……よろしく、ロザ」


差し出された手の意味を理解すると同時に、どうしてこんな展開になったのか理解できないまま、ロザは手を伸ばした。


「……よ、よろしく!クロさ……クロ!」


何故か仲良くなった2人は、この後しばらく他愛もない話を楽しむのだった……



     **********



「暇ですねぇ~」


 旅人は一人で空を眺めていた。クロが言うにはこちらの方面に『魔宝』の存在を感じるという。それが『十三呪宝』か普通の魔宝かは分からないが、まだまだ魔宝のありそうな場所は無く、遥か遠くの気配をクロが感じ取ったのだとすれば、ほぼ間違いなく『強力』なものだろう。


 旅人は車の中の同行者達の声に耳を傾けた。昨日ぐらいは全く話声が聞こえなかったが、今日はなにやら話声が聞こえる。


「クロ、ようやくロザさんと仲良くしてくれそうですねぇ」


 安心して目をつむる旅人。クロは声が小さいのであまり聞こえないが、ロザの声はわずかに聞こえてきた。


「……む、無理ですよう!」

「……~~~」

「あ、は……うん、無理だよ……私は……感謝……」


「ん?」


旅人は目を開き、耳をすませた。


「い、いくら友達の頼みでも無理だよ!」

「……いいの。……あいつ、マゾだし」

「え、ええええ……?」


あいつ、マゾ?


「……でも!旅人さんを蹴っ飛ばすなんて無理!」

「…………っち。あいつが吹っ飛ぶとこ……見たかった」


 旅人はロザだけには立派な人間に見られるように努力しようと誓った。彼女がクロと同じノリで自分を蹴っ飛ばしてきたら……


 旅人は考えるのをやめた……



    **********



「クロ、ロザさん、町が見えましたよ!」


旅人の声を受けて、眠りかけていたロザは飛び起きる。そして、天井に思い切り頭をぶつける。


ゴンッ!


「ぐひっ!」

「ロザ……落ち着け」


クロに突っ込まれ、照れ笑いしながら、ロザは馬車の窓から顔を出した。外はすっかり闇に包まれており、その町は一際明るく輝いて見えた。


「わあ……!すごい……!」

「あれは、確か……娯楽の町、『レディア』ですね。『眠らない町』と呼ばれるくらい一日中賑やかな町ですよ」


ロザの住んでいた町とは違い、それはとても輝かしく、賑やかで、華やかだった。大きな風船が浮かび、派手な大きな看板が少し離れたここからでも見える。


「クロ!反応はどうです?」

「…………ある。飛びぬけて『嫌なモノ』が2個…………他にもちらほら小さいのもある……みたい」


2つの飛びぬけて『嫌なモノ』。そう聞いて、旅人は目を見開いた。


「…………その2つ、どちらかでも、『十三呪宝』である可能性は?」

「……十分ある」


旅人は腕を広げ、次なる『魔宝』を見据え、高らかに叫んだ。


「はてさて!今回は一体何が飛び出すのやら!それは出会ってみてからの……お楽しみ!さぁ、行きましょう!新たなる……目的地へ!」

「…………うるさい」


一行は期待に胸を躍らせながら


新たなる舞台へと進む


果して何が待ち受けるのか?


ここは娯楽の町、『レディア』




ようこそ、『眠らない町』へ……




第2章スタートです。

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