第7章 【悪食王‐蠅‐】 4話 悪食王‐蠅‐
『橋』がかかる夜
『それ』は空から落ちてきました。
「やめろ」
人々が見上げるのは黒い『林檎』
血の海で鬼は叫びます。
「やめろォォォォォ!!」
赤い世界が黒い闇に呑みこまれる時
鬼の腕に抱えられた肉塊は
世にも恐ろしい『牙』へと変わっていました。
「ようやく……見つけたのに!」
故郷に待つ人々の顔を思い浮かべながら
鬼は黒く染まる世界に呑みこまれてしまいました。
その日、『黄金の国』は消えてしまったのです。
鬼が帰りたいと願った、その国は―――――――
**********
「ヒャッハァァァァァァ!」
ガジの『回転鋸』が唸りを上げる。『上空から引きずり降ろされた』百鬼撰は、顔をしかめながら木々の間を駆ける。唸る『回転鋸』が木々をなぎ倒す様を眺めながら、『奇妙な力』で百鬼撰の風を打ち消した白い男にも注意を傾ける。
「『空気を操る魔法』……か?」
百鬼撰は、少なくとも自身の使った『風を操る力』は『風の使役』という目的に置いて、『最強』であると自負している。それを無力化した白い男の『力』は、今まで知りもしなかった未知の『最強風魔法』か、それとも何か別の力か……どちらにせよ、百鬼撰は白い男の『価値』を徐々に見出していた。
「……まだ、様子見だ。その正体が掴めてから……!」
昂る己の感情を殺しながら、百鬼撰は木々をなぎ倒しながら襲いかかるガジに問う。
「お主……それで本気か?」
「……ハッ!逃げ回るだけのテメェに本気出す必要なんざねぇだろぉ!?」
ガジは気付いていない。百鬼撰の刀が僅かに紫色のオーラを帯びている事に。そして、開いた片目が僅かにそのオーラを取りこんでいる事に。
「安い男だ…………だが、多少は『喰えそう』だ」
鼻をぴくりと動かし、百鬼撰が足の踏み出す位置を変える。急な方向転換についていけず、そのまま『回転鋸』の重量に振りまわされるようによろめくガジ。
「兄貴ぃ!危ない!」
ジギィの叫び、その意味を即座にガジは理解する。ころころと地面を何かが転がる。姿こそ見えないが、独特の臭いを発する『それ』が、ジギィの放った『魔宝』である事は確実だった。
「う、うわああああああ!」
見えないそれが光を放つ。
そして、激しい爆発音と共にガジを大量の煙が包み込んだ。
**********
「ロザさん……その話を聞かせて、僕が本当に貴女が百鬼撰に会いに行く事を許すと思ったんですか?」
診療所、ベッドに横たわりながら、旅人は始めてその険しい表情をロザに向けた。その威圧に、少し怯むロザ。しかし、すぐにその身を乗り出し、強い眼を取り戻す。
「違うんです……それを『解った上』で、私は……」
「百鬼撰が『どうしようもない危険人物』だと!解った上で!貴女は!どうして!彼に会いに行くんですか!?」
その全ての言葉に力を込めて、旅人は珍しく感情をむき出しにする。ロザは、百鬼撰の過去に交えて『母の最期』を旅人に話していた。そして、エインから聞いたという『百鬼撰の過去』。その要素を取って、旅人がその『想像』に至るのは、当然の事だった。
「『復讐』……ですか?」
ロザの話から至る『悪食王百鬼撰』の姿、その結論。『救いようの無い悪鬼』……それも、純粋な悪性を取れば、旅人が忌み嫌う『門』をも遥かに凌ぐその途方もない『悪意』。そして、ロザの話から分かる、その悪鬼の途方もない『強さ』。
「殺されに行くようなものですよ!?彼が貴女の話の通りの人間だったならば!」
だからこそ旅人は決してロザが百鬼撰に会う事を許しはしない。例え、ロザがどれほどの決意を持っていても。
ロザは口をぎゅっと結ぶ。しかし、それは旅人の威圧に気圧されたのではなく、むしろそれを受けて決心をより強めたかのように、その言葉を溜めこんで、より強くするかのように、ロザは閉ざした口の中で溜めこんだ自分勝手で都合のいい『願い』を、強く、強く吐き出す。
「私は…………!」
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黒く染まる島国……懐かしき故郷……そこに住む懐かしき人々の顔を思い浮かべながら……
鬼は叫びました。
「……もうすぐで『全員喰らって』……『一つになれた』というのに!!」
『強き鬼』を『喰らった』、かつては『貴族の男』だった『鬼』は、嘆き悲しみ口に溜まった血を吐き出しました。
「折角、見つけた『答え』……ここで潰えるのか……!?」
ぐちゃりと口に残る、『人々』を噛みしめ、その身に取り込み『一つ』にしながら
鬼は幾分か前に、『一つ』になった、強き鬼の遺した牙……『一本の刀』を握り締めます。
絶望する鬼を包み込む黒い闇。
それは、『絶望』では無く『希望』でした。
鬼に語りかけるのは『黒い林檎』。
『悪を担ウ十二の力を導ケ……そノ時、私ハ目を覚マそウ……』
『悪を抱ケ……そノ時、力は導かレる』
『悪を包ム器となレ………』
『さすレば……私ハ『力』を与えヨウ……』
ひどくあいまいなその言葉は決して理解する為にあるのではなく、
感じる為の言葉でした。
鬼は感じ取ります。
「集めればよいのだな……?その力、『十三呪宝』を……」
何処からともなく湧き上がる、その言葉『十三呪宝』。
湧き上がる想いを押し込めるように、鬼は自らの片目に爪を立てます。
抉れるその目の痛みは感じません。
鬼はただ、その為だけに、禍々しき『力』を宿すその『刀』を握ります。
「繋ごう……世界の全てを……!」
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「あっぶねぇ……!」
異形の魔物、『ゲヘラ』の咥えるロープに支えられながら、ガジは深く息を吐いた。エイミーの助けがあって、ガジはかろうじて魔宝の爆発を回避していた。冷や汗をかき、必死でロープにしがみつくガジの表情に余裕はない。そして、その攻撃を放った弟に怒号を浴びせる。
「危ねぇだろうがァ!無茶苦茶すんじゃねぇ!」
「あ、兄貴が突っ走るからっす!」
「やめてよ、兄ちゃん!助かったんだからいいじゃない!」
大声を張り上げ、喧嘩を始める兄弟を、妹のエイミーは必死で止める。
「全くだ……折角、『助かった』というのに……なぁ?」
三羽烏は油断していた。
百鬼撰は今まで、『あえて』攻めに転じなかった。それは別に、『七つの奇跡』を侮っていた訳では無く、自身の持つ『魔宝』の『制約』があっての事だったが、三羽烏がそんな事情を知る筈もなく、彼らはただ、『百鬼撰が攻めあぐねている』と把握し、『相手には余裕がない』と勘違いし、『今、自分達は押している』と妄想していた。そして、神経を研ぎ澄ます事を怠ったのである。
そんな油断が生んだ兄弟喧嘩を、『最強』の『鬼』が微笑ましく見守る筈など無いのに。
「おや?だがおかしいな……妹君」
「な……なに?」
エイミーは背筋が凍りつくような、百鬼撰の語りかけに顔をこわばらせた。三羽烏で唯一、百鬼撰に対する『恐怖』を意識に刻みながら戦っていたエイミーは、その確かな感覚を理解した。
怖い……怖い……怖い……怖い……!
「兄ちゃん逃げて!」
「あ?エイミー、お前何言って……」
エイミーは見た。
確かに木の陰に居た筈の百鬼撰の姿が
上空で、『ゲヘラ』に支えられる長兄ガジの背後にあるのを。
笑いもせず、悲しみもせず、ただただ無感情に、上空に浮かび上がるその目。冷酷に、ただ冷酷に研ぎ澄まされたその殺意が、剥き出しになった百鬼撰は禍々しく口を歪ませた。
「『助かって無いぞ』?」
ガジの全身に無数の線が入る。それは一瞬の出来事。
ガジ本人も「え?」と疑問の声を漏らしながら、赤い水飛沫が吹き上がるのを眺める。ガジの目に、口を塞ぎ、泣き喚くエイミーの姿が映る。口を開け、唖然とするジギィの姿が映る。そして、『回転鋸を握った自分の両腕が空を舞う姿』が映る。
「……は?」
徐々に崩れていく視界の中、ガジが『自分に何が起こったのか』を理解できなかったのはある意味で幸せだったと言える。そのままこの世から意識を切り離したガジは、痛みも悲しみも後悔も感じぬまま暗闇に落ちていく。
弟と妹が見たのは
『最早生きていられる筈など無いほどに、バラバラに、細かく、斬り刻まれたガジの肉片だった』。
「に、兄ちゃん……いや、いやああああああああああ!」
「兄貴ぃ……嘘だろ……?」
「この三バカ……!」
ケイティは、ポケットに忍ばせた『魔宝』に指を添え、再び起動させる。そうして生み出した大波を『牙』で乗りこなし、最高速でその両腕で発狂するエイミーと、唖然と立ち尽くすジギィを回収する。
「ボケっとすんな!死にたいのか!」
ケイティは、百鬼撰から距離を取れる位置まで波に乗り、動かない二人を放り投げた。そこに控えていた無表情な男は、二人を両腕でキャッチする。
「悪い!その二人を頼む!……畜生、まさか一人やられるとはね……!」
「……努力はする」
ケイティは即座に波を切り返し、上空で笑みを浮かべる百鬼撰を睨みつけた。最早、戦力にならないであろう二人の盗賊兄妹にはまともな期待もせずに、残る白い男に向けて大声を上げた。
「手を貸しな!アイツ……ヤバい!」
「……同意、そして了解」
今まで、協力する気などさらさらなかった『七つの奇跡』。しかし、一瞬見えた百鬼撰の『本気』を目の当たりにして、その姿勢を変える。三つの戦力を削がれ、ようやくその力を合わせ無ければならない事に、ケイティはようやく気付く。
舐めていたわけではない。しかし、『複数人で戦わないと勝てないほどの化物』だとは思っていなかった。正確には、『複数人で戦っても勝てるかどうか分からない程の化物』、それほどに、ケイティの目には百鬼撰は危険な存在に映る。
それぞれが『一騎当千』、訓練を受けた兵士を集めた軍隊でも相手取れるほどの実力を持つ『七つ奇跡』、それが手を取り合えばその力は単純な足し算で片づけられない。
「……さぁ、乗っていこうか……『大津波』!」
ケイティはポケットに忍ばせた、複数の魔宝を再起動する。小さな箱型の魔宝、それは起動した途端に、『女の声』を流しだす。既に数回に渡り使用してきたその魔宝が奏でる『呪文』、それに百鬼撰が気付かない訳もない。
「……その呪文は何だ?」
「は?」
「『その箱が唱える呪文は何だ』?」
「聞こえるのか……地獄耳め……!」
ケイティは次から次へと湧き上がる水を足元に集めながら、歯をぎしりと鳴らした。しかし、開き直ったように不敵な笑みを浮かべると、ぼそりと簡単な呪文を唱える。それと同時に集められた水は、渦巻き、そして天へと昇る柱のように立ち上がる。渦巻く水を捕えるように足を乗せる『牙』を引っかけながら百鬼撰と同じ高さに立つケイティは自らその『ネタばらし』を始める。
「この呪文は『水系魔法最高峰』、『母なる海』!その呪文の難解さ、長さ、そして支払うリスクから実戦ではほぼ使われないが……『海を無限に召喚する』……『水使い』には最高とも言える魔法だ!」
「……『短い詠唱』……その耳障りな音……その『魔宝』の力か?」
「そうとも!あたしの魔宝『蓄音箱』は『音を閉じ込め、好きな時に吐きだす』もの!これさえ使えば、『他者の呪文詠唱を扱う事ができる』!」
『呪文詠唱』、それは魔法物質を『音』で刺激し構成する行為。現在、普通は魔法札で魔法形成を補助するが、確かに『呪文詠唱』だけで魔法を構築していた時代もあったという。呪文詠唱する人間の傍に、その魔法を使用しようとする人間が居た場合、後者が魔法を使用できる、という実験結果も報告されている事から、『呪文詠唱の貸し借り』は理論上可能とされていた。しかし、『貸し借り』が実際に出来るのかは問題であったが。
それを実現したのが、ケイティの魔宝『畜音箱』である。さらに、この魔宝には更なる『追加機能』がある。
「さらに、この魔宝には『早送り』って機能があるのさ。コレは『音の吐きだし速度を高める』って機能……これにより、あたしは『人間には不可能な速度での詠唱』実現した!」
「……それだけではあるまい?」
百鬼撰が引っ掛かっていたのは、『彼女自身が保有する魔法物質の量』。魔法を構成する物質、『魔法物質』。本来、人が保有できる魔法物質の量は限られている。これは生物が生きる上で自然に生成しているもので、消費しても暫くすれば勝手に再生成される。しかし、ケイティの使用する魔法の規模は、どう考えても『人間の保有限界量、および回復量』の範疇を超えている。『無尽蔵の魔法物質』、それを保有する魔宝、そんなモノの噂は百鬼撰でも聞いた事が無かった。
「ああ、気になるなら『収録呪文』を教えよっか?あたしは『三つの畜音箱』を持っている。そして、それぞれに違った呪文を収録してるのさ!」
三つのポケットに隠した『畜音箱』。それを見せびらかすようにケイティは語る。
「一つ、『母なる海』。そして、一つはこの膨大な魔力物質の消費を抑える、とある研究者の開発した『魔法物質吸収魔法』。これは自然界に存在する魔法物質を吸収し、利用する魔法。そして、『詠唱圧縮』。一部の魔法の詠唱を簡略化する魔法」
ケイティの話から、百鬼撰はケイティの戦闘スタイルを把握する。
『魔法物質吸収』により魔法物質を集め、『母なる海』により海を召喚する。そして『詠唱圧縮』により、恐らくは『海のコントロール魔法』を自らの機転で操れるようにしている。しかも、それらの呪文を『畜音箱』により高速で、さらに並行して詠唱しているのだ。
確かに強力。彼にとって『畜音箱の能力は不必要』だとしても、『水魔法』としては最高峰と言える魔法コンビネーションは魅力的かつ価値あるモノだと言えた。
にやりと笑う百鬼撰に、ケイティは、返すように笑うと、『わざわざ自らの力を明かした理由』でもある一手を打つ。
「まさかここまでネタばらしさせといて……『自分は力を教えない』なんて、臆病者みたいな真似、しないよねぇ?」
「……ふん」
ケイティは百鬼撰の『最強のプライド』に問いかける。ケイティにとって、一番の問題点は『百鬼撰の能力が未知数』だという事にあった。『多彩な魔法を扱う様に見えた』その戦闘方の正体、それを把握しない限りは不安が残る。雇い主『門』でさえ、はっきりとは分からないというその力の全容を解明する必要があったのだ。故に、彼女は最初から『手の内』全てを見せずに、なおかつ複雑な自らの能力を『あえて』提示する事で、さらに隠された『本質』を誤魔化す。
実質、その長ったらしい面倒な魔法の構築を聞かされた百鬼撰は、それが『全て』だと誤解していた。『全てを吐きだした』相手に、彼が自らの力の種明かしをしない筈が無かった。
「……誰が拙者の力を明かさないと言った?」
(乗った……!扱いやすいねぇ、『最強』さんは……!)
ケイティは渦巻く水柱に乗りながら、その不敵な笑みと共に後に控える白い男に視線を送る。白い男は険しい表情で視線を返す。
ケイティもさらさら負ける気など無い。それなりの『修羅場』を潜ってきた彼女からすれば、目の前のちっぽけな人間一人など最大級の恐怖には値しない。しかし、万が一の事もある。その万が一の為に待機する白い男もいる。
負ける訳がない。『地獄から生き残る』という『奇跡』を成し遂げた、故に『七つの奇跡』と呼ばれる自分達が。
ケイティは、言葉にしなくとも、『七つの奇跡』と呼ばれる同列の者達の実力を認めていた。百鬼撰前の腕試しにと、潰した実力者達、法治機関『ルーラ』の人間達、その時に見せた彼らの実力を認め、なおかつ彼らの『実績』からも信用を傾けている。
彼女が大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせるように何度も確認する、一時だけの『仲間への信頼』。それは、脳裏に浮かぶ、細切れのガジを掻き消す為に、何度も何度も上書きされる。
「拙者の力……いや、この十三呪宝『悪食王―蠅―』の力……それは……」
ブンと刀を一振りする百鬼撰。瞬間、ケイティは下から響き渡る絶叫を耳にする。
「い、いやああああああああああ!」
盗賊三羽烏、エイミーのものと思われるその悲鳴。水柱の上でバランスを崩さぬよう、ケイティはゆっくりと地上に視線を落とした。
「…………!?」
血飛沫。『首を落とされたジギィ』、その首の繋ぎ目から、柱のように伸びる血飛沫。兄の首から噴き出す血を浴びて、叫ぶエイミー。百鬼撰が何かの力を使って、ジギィの首を斬り落とした事は確実。ケイティは震える体を奮い立たせて、視線を百鬼撰に戻して、叫ぶ。
「……百鬼撰んんんんん!!」
彼女にとって、それは『不意打ち』以外の何物でもない。しかも、『戦う意思の削がれた者』を狙っての攻撃。確かに、これは『殺し合い』。汚いもくそもない。しかし、それでも、『汚い仕事』をやってきたケイティでも、その卑劣な攻撃に怒りを隠す事はできなかった。
水流をうねらせ、さながら龍の如く、水を乗りこなし百鬼撰に突撃するケイティ。ケイティはその時、誤解していた。
百鬼撰は、不意打ちする気などさらさらなく、まさに自らの力の『実演』をしようとしていた事に。
百鬼撰が再び刀を振り抜く。うっすらと、目を凝らして始めて見えるほど薄いオーラが刀に纏わりつく。何も無い空間に振り抜かれた刀、それはただの威嚇にも取れた。事実、『視認できる』限りでは、何も起こってはいなかった。
「……退きな!」
血まみれのエイミーの肩に手をかけ、その錯乱を納めようとしつつ、無表情の男が大声を上げる。ケイティは、その言葉の意味こそ理解できなかったが、咄嗟に冷静さを取り戻し、水を盾にしつつ、後方に水流を滑るように下がった。
ドッ!!
刹那、激しい爆音と共に、ケイティの前方で炎と煙が拡散する。水の盾により、炎と爆風を防ぎはしたものの、その爆音はケイティの心臓をはじけさせるかのように、突然に、勢いよく鳴り響く。
「あ……あ……!?」
『死』。目前でそれを見たケイティは言葉を失う。百鬼撰は『放っていた』のだ。刀を振った時に、その『攻撃』を。ケイティは見覚えのあるその『攻撃』の使い手と百鬼撰を何度も見比べながら、詰まり気味の言葉で叫ぶ。
「な……んで……何で……『何でお前が三バカ次男の攻撃を仕えるんだよ』!?」
百鬼撰の使ったのは、紛れもなく、つい先ほど『殺された』、盗賊三羽烏、次男、ジギィの使った攻撃。魔宝『爆球』と魔法『透明化』の複合攻撃そのものだった。
「これが我が相棒の力…………『殺した人間の力を奪い、使役する』……『悪食』」
百鬼撰は、『人の顔が浮かび上がる』不気味な刀の刀身を見せ付け、それに負けないほどに不気味な笑みを浮かべた。
「さあ、喰らおう……そして、我が身と一つになれ……!」
百鬼撰の片目に浮かぶのは懐かしき友の姿。
「存分に味わおう……『蠅』!」
かつて高貴な身分に身を置き、血など見た事も無かった百鬼撰が、始めて『殺し』、始めて『喰った』、優しくも強い『鬼』…………
彼から奪い、その名を冠した『刀』を片手に、『悪食王百鬼撰』と呼ばれる男は
冷酷非道の鬼が如きその本性を、遂に顕わにした―――――