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魔宝の旅人  作者: ネブソク
第6章 【崩界の針】
46/55

第6章 【崩界の針】 設定 & 第7章 【悪食王‐蠅‐】 0話 侍は喰らう 【ネタバレ注意!】

この話の前半は第6章の設定のまとめです。

第6章未読の方はご注意ください。


なお、他の章に既に登場した人物の設定も追加されます。


後半は第7章の予告のようなものです。

物語の内容に大きく触れませんが、物語のカギとなる言葉は少しあるかもしれません。読まなくてもOK、直接物語を読み進めたい方は飛ばしてください。






~~登場人物~~




 【旅人】 ~『魔宝』を求めて旅する男~

・年齢:?   ・性別:男


◎強力な魔宝『十三呪宝』を追い、旅を続ける男。

 その目的の根底には、とある女性が絡んでいるらしいが……

 *所有魔宝:『独裁者どくさいしゃ経典きょうてん




 【クロ】 ~釘に呪われた少女~    

・年齢:19   ・性別:女


◎旅人に付き添う、黒髪黒目黒服の少女。

 幼い見た目は、その胸に刺さる十三呪宝『丑の釘』の影響らしい。

 子供の頃から、魔法の研究に並々ならぬ興味を寄せる。

 旅人に、父親を奪われた過去を持つが……

 *所有魔宝:『うしくぎ




 【ロザ】 ~靴に愛される娘~

・年齢:20  ・性別:女


◎『十三呪宝』の『赤黒い靴』の所有者。

 世間知らずで、お人好し。その度を越した優しさは、長らく外の世界を見てこなかった無知さが影響

 しているらしい。昔に両親を亡くしている。母は先代の『赤黒い靴』の所持者。

 母の死には、彼女自身にも関わる大きな何かが隠されている。

 *所有魔宝:『赤黒い靴』




 【ティア】 ~謎多き女教師~

・年齢:28  ・性別:女


◎ステラ魔法学園、元信仰哲学教師。

 学園で起きた怪盗騒ぎにより、法治機関に自らの身元が判明する事を恐れて、旅人達に暫くの間の同

 行を求める。

 黒い十字架を象徴とし、邪教の指定を受ける『ヴィレフ教団』の信者。神の住む山にて、神から何か

 を教えられた彼女の目的は?

 *所有魔宝:なし




 【エイン】 ~『神様』~

・年齢:?  ・性別:?


◎『神』と呼ばれ、霊山に住まう十三呪宝『崩界の針』の所有者。

 山を訪れる者に、『救済』を与えている。その救済が、必ずしも『最良』の形になるとは限らない。

 魔宝によって、『時間』をあらゆる条件下で支配し、あらゆる不可能を可能にする。その力の及ぶ範

 囲は本人だけが知っているらしい。『試験』の名目の元、人を弄ぶのが趣味。

 子供のような容姿は、幼い頃に行った『ある儀式』と『崩界の針』の力が原因になっている。

 その言動、過去、性別、本名、あらゆる要素が謎に包まれている。

 *所有魔宝:『崩界の針』




 【ハルカ】 ~巫女~

・年齢:20  ・性別:女


◎アクバハルの神、エインに仕える21代目の『巫女』で、霊山の案内人。

 顔を布で覆い隠し、肌という肌を全て隠している。その素顔には、不気味な『黒い痣』が刻まれてい

 る。ちなみに『ハルカ』という名前は、巫女が代々引き継ぐ名前で、本名ではない。

 クロが不気味な魔宝の気配を感じ取れるように、彼女は『魔宝』に準ずる力を持ち、『魔宝』を察知

 する力を持つ。その力が、どういったものなのかは不明。

 魔犬『ポチ』と『タマ』をペットとして飼い慣らしている。

 *所有魔法:なし




 【43号】 ~動く死体~

・年齢:?  ・性別:女


◎元、十三呪宝『シスベノ杖』の所有者。

 生命維持が不可能な程の損傷を引きずりながら歩く『動く死体』。その背後には、数多くの『死体人

 形』を引き連れる。自らの死んだ体は『シスベノ杖』で維持し、『死体人形』は自らの魔法『死霊使役ネクロマンシー』によって操る。

 その名前、素性など、謎多き女。失くした『シスベノ杖』のありかを、霊山アクバハルだと『ゲート』に騙され、山を訪れる。

 エイン曰く、魔宝さえ持っていれば、最強と謳われる魔宝所有者『悪食王百鬼撰』に匹敵する実力の持ち主。

 *所有魔宝:現在はなし、過去は『シスベノ杖』






 ~魔宝・関連用語~



 【崩界の針】 ~動かぬ時計・逆らうモノ~


◎動く事のない手のひらサイズの時計。

 その力は『時間の支配』と『時間からの解放』。時間を操り、時間の概念を無視し、あらゆる事象を

 引き起こす『最強の魔宝』。しかし、その力は最良の適合者、エインにしか操れず、並大抵の者が扱

 おうとすると、その身を滅ぼす。

 成り立ちは、永遠の命を望んだとある賢者の願い。しかし、時間という『神の領域』に足を踏み入れ

 るこの魔宝は賢者をすぐ滅する。名前は不可逆の時間を操る事は世界の崩壊にもつながることから、

 エインによって付けられた。


 


 【悪意マリス】 ~純粋なる『悪』~


◎あらゆる感情を排除した、『純粋なる悪の意識』。

 この世界の『神』が、自らの内に眠る『負の感情』を憂いて、『悪』の部分だけを切り離して地上に

 落としたもの。大昔から、地上に少しずつ落とされていたらしい。

 その存在は大昔から知られていたようだが、『ある時期』を境に人々の記憶から消え去っていた。

 世界に散らばる多くの魔宝は、これにより生まれ、その力を発現させている。






   **********




 第7章 【悪食王あくじきおうはえ‐】 0話 さむらいは喰らう




「美味であった……」


 男は、寂れた食堂で食事を済ませ、手を合わせて頭を下げる。店主はその男の賞賛を素直に受け取り、嬉々として、男の机の前に立った。


「嬉しいねぇ。久しぶりだよ、そんな風に言われたのは。これ、サービスだ」


 店主は手製のケーキを差し出す。男は、仏頂面を崩す事無く、しかし深々と頭を下げて礼をする。


「かたじけない。その御好意、有難く戴こう」


 男はケーキにフォークを入れ、小さく切り取るとそれを口に運ぶ。何度も何度もそれを噛みしめると、うむ、と感嘆の声を漏らした。

 

「美味……!」


 率直な賛美の言葉を漏らし、その頬を僅かに緩める。ほんのりと甘い、しかしさっぱりとしたそのケーキの味を口の中に満たしながら、至福の時を過ごす。

 男を唸らせるほどの料理をふるまう店は、しかし客をその男以外迎えておらず、非常に寂しい光景を作っていた。そんな中、唯一の客である男の満足げな表情を見ながら、店主もこれ以上ないといった笑顔を見せた。


「嬉しいね。本当に。この仕事に久しくやりがいを感じるよ」

「……久しく?主人、これ程の料理があるにも関わらず、何故この店には客がおらんのだ?」

「……いえ、まあ色々とあるんですよ」


 言葉を濁す店主に、それ以上深い事は聞かずに、男は再びケーキを口に運ぶ。


「……拙者、永く生き過ぎた故か、最早することは『喰らう』事しか無くなってしまった。故に、このような店には末長くこの地に留まって欲しいと思う」

「はは、嬉しいねぇ……でも、申し訳ない。この店、もうすぐ畳まなくてはならなくてね」


 男が何故、そんな『望み』を吐いたのか……それはこの店が無くなる事を悟っていたからなのかもしれない。『叶わぬ夢』、男が吐いたそれは店主の目に涙を浮かばせた。


 そんな、もの悲しい湿った空気を噛みしめるように男は再びケーキを口に運ぶ。それさえも、料理のスパイスとして男は味わう。


 しかし、男が味わうそんな空気をぶち壊すように、喧しい大声をあげながら二人組の男は店の扉を乱暴に開いた。


「よぉ、おっさん!出てく準備は済んだかい?」

「え……?ここを出ていくのは来週の筈じゃ……」

「はぁ?馬鹿言っちゃいけねぇ、それが目上の者に取る態度かよ?」


 黒服の男達は、荒々しく怒鳴り散らしながら、店主に詰め寄った。事情こそ分からないが、恐らく男達は金貸しか何かだろう、と黙々とケーキを頬張る男は予想する。


 成程、店を続けられない原因はこいつらか……


 男はしかし、口を挟む事無く、ケーキを少しずつ食べ進める。そんな、男に二人組の金貸しらしき男は目を付けた。


「おお?兄ちゃん、こんな店で飯なんざ食ってんのか?悪いなあ、ここはもう食堂でも何でもねえんだ。とっとと出てきな」

「や、止めて下さい!お客さんに……!」

「うるせぇ!」


 男達は、店主に対する『嫌がらせ』で、男に絡んだのだろう。止めに入る店主を殴り飛ばし、一人の男はにやりと笑った。


「何食ってんだ?……はは、不味そうだな!アンタ、味覚大丈夫かよ?」


 男はその仏頂面を崩さない。金貸しらしき男達はその態度が気に食わなかったらしい。


「おい……聞いてんのか?」


 金貸しは男のケーキの皿を、腕で払いのけた。勢いよく飛ばされた皿は、少し残ったケーキごと地面に落ち、大きな音を立てる。男はフォークを片手に持ったまま、ぴたりと動きを止めた。その様子を見て、金貸し二人はけらけらと笑う。


「おい、ビビったか?ほら、だったらとっとと出てけ!」


 金貸し二人は気付いていない。その男が、腰の『刀』に手を伸ばしている事を。


「……我が生き甲斐は『喰らう』事。何時しか、『手段』でしかなかったソレは『目的』へと変わっていた」

「は?いきなり何言って……」


 一瞬。


 男の腕は瞬きをする間もなく、『斬り落とされていた』。


「へ?……ひ……?……ぎゃああああああああああ!」


 男の壮絶な悲鳴が店内を、さらには店の外の町中にも響き渡る。ぼとりと落ちた腕は、切断され残った腕は、一切の血を噴き出す事もなく、その切断面を『凍りつかせていた』。

 店主は顔を真っ青にして、その光景に口を塞ぐ。

 一方の金貸しの男は、即座にギロリと男を睨みつけ、威勢ばかりの雄たけびを上げた。


「て、てめぇッ!何しやがったッ!?」

「見ての通り『斬った』だけだが?……ああ、感謝しろ。『喰いはしない』。貴様等如き、『喰う』価値はない。そうだな……『二度とここに来れぬように体に恐怖を刻んでやろう』」


 男はその『刀』を見せつける。一般人である店主でさえ、『異質』と分かる程に不気味な気配を漂わせるその『刀』、そしてなびいた男の長髪の隙間から覗いた『潰された目』がその男の正体を男達に理解させる。


「あ……『悪食王あくじきおう百鬼撰ひゃっきせん』……!?」

「ああ……人は拙者をそう呼ぶな」


 男、『悪食王百鬼撰』は、その刀の刀身をゆっくりと撫でながら、ぼそりと何かを呟く。男達にとっては『呪文』にしか聞こえないソレは、その刀の姿を変貌させていく。

 

 纏うのは『光』。何処か、神々しいその光は、それを纏う不気味な刀との間に明らかな違和感を生じさせている。優しい光を纏った禍々しき妖刀を、百鬼撰は迷うことなく残る男へと振り下ろす。

 『振り下ろす』とはいっても、そこに居る者には何が起こったのかは見えていない。ただ、百鬼撰が刀を鞘へと仕舞ったようにしか見えなかった。


 数秒遅れて、男の腕がぼとりと床に落ちる。痛みなど無い。違和感など無い。


 床に腕が落ちた、鈍い音でようやく男は自らの腕が『落ちている』事に気付き、絶叫する。


 『傷口が綺麗に塞がった切断面』、それは出血を妨げ、始めから『腕など繋がっていなかった』かのように、何の違和感もなく存在した。


「『喰らう』……拙者のその行為を妨げる……それだけでも、貴様等は『万死に値する』」


 百鬼撰はその鋭い片目で男達を捉え、自らにとって、彼らの命が『大した価値がない事』を告げる。


「しかし、今回は『金』でその命、売ってやろう。『この店から去れ、そして二度と近寄るな』……その約束を守るのならば……生かして還してやってもよい」


 男達は震えながら、ただただ頷く。涙をぼろぼろと流し、命だけはと懇願する。頭を地面に付け、命乞いする、そんな男達を見下ろしながら百鬼撰は『釘を刺す』。


「勿論……約束を破る事は、すなわち貴様等の『死』に直結する。貴様等に刻むのは……そんな『鬼』」


 カチン、と刀を納める音が響く。その数秒後に、男達の頬が僅かな傷口の出現と共に、血を滴らせる。


「往け」


 百鬼撰の短い一言、それと同時に男達は跳ねるように自らの腕を掴んで逃げ出す。

 ガタガタと震える店主の前、テーブルの上にトンと食事とケーキ、その二つの代金を払っても『お釣り』が来る程の金を置いて、百鬼撰は店主の顔も見ずに、入口へと向かった。


「馳走になった」


 返事もできない店主にたったそれだけ言葉を送ると、百鬼撰は入り口を潜り、外へ出る。男達の悲鳴を聞きつけた町人達を無言の圧力で払いのけ、百鬼撰は懐の紙束を取り出し、筆でその一番上の紙に何かを書いた。


「……良い店であった」


 『もう二度と訪れる事のないであろう』その店を胸に刻み、『さむらい』と呼ばれる男は人々の恐れの視線を潜りながら今日も『喰らう』。


 過酷な、悲惨な運命を背負うその男、『悪食王百鬼撰』。


 その騒動は、その男の存在をすぐに広める。


 その男の噂を聞きつけ、次々とその地に集まる多種多様な『追手』達。



 しかし、百鬼撰は『あえて』その地に留まる事を選ぶ。



 はてさて……如何様な『鬼』が集まる事やら……



 舌で甘美な味の残る唇を拭いながら、百鬼撰は目の前に並ぼうとしている『フルコース』に想いを馳せる。



 さあ、喰らおう。我が相棒、『悪食王あくじきおうはえ‐』よ。



 妖刀は、それに答えるように鈍く、不気味な光を放つ。




 ぎらり、ぎらりと……




この辺りでようやく物語も中盤を迎えます。

なので、そろそろ人物紹介や用語のまとめを作ったり、番外編のような話もやっていきたいなと思っております。

 では、今後もよろしくお願いします。

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