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魔宝の旅人  作者: ネブソク
第6章 【崩界の針】
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第6章 【崩界の針】 5話 揺れない天秤



 炎が猛る。水が渦巻く。風が暴れる。大地が唸る。


 山中を、色鮮やかな魔法が駆ける。まるで災害のような強力な魔法の洪水を赤子の手を捻るかのごとく、かざした掌だけでエインは無力化していく。


「ししししししししし!これほどに多彩な魔法を使いこなすなんて!流石はクロお姉さん!立派に先祖の血を受け継いでるといった所かな?」

「鬱陶しい……!」


 クロは手を横に振り払う。その手に付き従う鞭のように、長く伸びた光の線が辺りの木を薙ぎ払いながらエインに襲いかかる。


「わお!この山の木を切り倒すなんて!どんな規模の魔法なのさ!?」


 わざとらしく驚いたフリをするエイン。しかし、当然のようにその光の鞭を受け止める。


「もったいないなぁ。こんな才能を持っているのに……君は無意味に、父親の敵と旅をしてる。実にもったいないよ!しししししし!」

「うるさい……!いい加減にしろ……!」


 続けて呪文の詠唱をしようとするクロ。しかし、その口に小さな掌が覆いかぶさる。


「無駄だって」

「むぐ……!?」


 一瞬で、移動したことすら認識させずに、エインはクロの背後に回り込んでいた。その掌をクロの口に覆いかぶせて、その呪文の詠唱を止める。見た目は子供のクロよりも、さらに幼いエインをクロは力づくで振り払おうとする。その小さい体目がけて渾身の肘打ちを叩きこもうとするが、体は全く動かない。


「これ以上は感情を引き出せないのかな?少し、『丑の釘』を押しこみすぎかな?」


 クロの胸に刺さった魔宝『丑の釘』。その不自然な出っ張りを覆い隠すような大きめドレスの上からエインは釘の様子をうかがおうとする。そんなエインから逃れる為に、クロは口を塞ぐエインの手に小さく噛みつく。


「あ痛ッ!」


 怯んで手を離すエイン。その瞬間、不自然な体の硬直からクロは解放される。自由になったクロは振り向きざまに簡易な呪文を唱え、その手に火の玉を握る。そして、そのまま怯んだエインの顔に火を握る掌を叩きこんだ。


 ボッ!


「ぐぎゃ!?」


 小さな爆発音と共に、エインがごろごろと地面を転がる。クロは僅かに息を切らしながら、不快感を露わにした目でその姿を睨みつけた。


「この……変態……!」

「変態は酷いじゃないか!こんな可愛い子供に向かって!」


 地面に転がっていた筈のエインの姿は既に消え、再びクロの後ろにあった。もう振り向く事もせずに、楽しげに笑うエインに怒りを満たし、ぐっと拳を握るクロ。


「怒らないでよ~!何で怒るのさ~?ウチは君を想って、『『あんな奴』と旅してていいの?』って聞いてるだけだよぉ?」

「『あんな奴』…………胸糞悪い。お前に何が分かるの……!」

「何が分かるって?『事実』だよ」


 エインは後ろに向かって、両腕を振りかざす。その動作はまるで後ろの見えない壁を殴りつけたようにも見えた。その時、エインが拳を叩きつけた空間に歪みが生じる。その歪みからじわりと滲みだす青い光を見たクロは、咄嗟に両手を差し出し、呪文を唱えた。


「反撃いくよ~!いにしえの魔法、とくとご覧あれ!」


 歪みから顕れたるは青き炎。魔法に多く関わってきたクロでさえ見た事のないその魔法は、炎の揺らめきを見せない美しい線となって、一直線にクロに向かう。


「『火ノ答エ』!」

「……『魔法物質結合構成理論デフィーネセオリー』!』


 音も立てずに伸びた線は、また音も立てずに霧散する。ダメージこそ一切ないものの、その掌を伝ってきた圧倒的な圧力プレッシャーにクロは顔を歪めた。


「何……今の……?」

「知りたい?教えないけどね!ししし!」


 エインは冗談めかして、意地悪な笑顔を浮かべる。クロはそれに対し、苛立ちを隠せずに歯ぎしりした。その表情がまたエインの笑顔をより明るくする。


「いい表情だねぇ。そうそう、やればできるじゃないか!悔しい?憎たらしい?その感情をもっと意識して!そして、見つめ直してごらんよ!彼の事を……残酷なあの旅人の事をさ!」

「あの人は……そんなじゃない……!私はあの人を……憎んでない……!」

「じゃあ、君は、『お父さんを憎んでるの?』」


 エインは無邪気な笑顔で尋ねた。クロの心の奥底、『丑の釘』で塞がれた部分を抉りだすように、その『不可侵領域』に土足で、自分の家であるかのように踏み込んだ。


「君はどっちを受け入れてるの?『救ってくれた旅人』?『優しかったお父さん』?」

「…………いや…」

「それともどっちを憎むの?『父を壊した旅人』?『君を傷つけたお父さん』?」

「違う……どっちも違う……!」


 クロはエインを睨みつける。しかし、その眼光は何処か弱々しく、小動物の必死の抵抗にしか見えなかった。それを踏みつぶすかのように、エインはそのふわふわとした否定を叩き潰す。


「違う訳がないじゃないか!彼を憎まない?君は父親の事を大切に想ってなかったの?だから、壊されても『怒り』すら感じないの?」

「違う……!」

「違わないね!父を憎まない?だったら、君は彼に何をさせたの?憎くもない父親を彼に壊してもらって、それでのうのうと旅をしてるの?おかしいじゃないか!君は……」

「違う!」


 クロは今までにないほどに強い口調でエインの言葉を遮った。しかし、それに怯む事無くエインはにやりと嫌みたっぷりの笑みを浮かべる。


「……君にとって『天秤』にかかった『彼』と『父』、どっちが重いのかなぁ?」


 エインは両手を広げて、ゆらゆらと体を傾かせた。『天秤』を表現しているらしい。


「知ってる?『天秤』の上では『重い』ものは下がって、『軽い』ものは上がっちゃうんだよ。地に足を着く人間は、重いものを自らに……足付く地面に手繰り寄せるのさ。逆に、対する軽いものは空へと遠ざける……」


 地面に水平に腕を伸ばしながら、徐々にその体を右に傾けるエイン。再びその腕を水平に戻したエインの両手にはいつの間にか1枚ずつの魔法札が握られている。白と黒、はっきりと色の分かれた2枚の魔法札をぴらぴらと揺らしながら、エインはぐっとクロに顔を寄せた。


「そんな君にはこの魔法!右手は『彼』の為に、『免罪符』!左手は『お父さん』の為に、『君のいない世界』!ウチのお手製魔法札だよ~!」


 奇妙な名前の魔法札。クロはその魔法札から普通の魔法札からは感じない『悪寒』を感じ取った。それは『魔宝』特有の邪悪なオーラ。その魔法札は一際強力なそれを纏っていたのだ。


「分かっちゃうかな?これはウチの『崩界の針』の力を込めた魔法札さ!」

「『魔宝』の力を……込めた……?」


 エインは軽く頷き、右手の黒い札を掲げる。


「『免罪符』。これは『過去にあった事を一つだけ完全に歴史から消し去る』魔法。つまり、これを使えば、君を傷つけた『出来事』を完全になかった事にできる!そうすれば、君はお父さんの事に苦しまなくて済むし、『彼』も心の重荷から解き放たれる!」


 その選択はこれから先、『彼』と幸せに旅をするという選択。

 次にエインは左手の白い札を掲げる。


「『君のいない世界』。これは『人の存在をなかった事にする』魔法。これで消した人間が起こした事は全て消え去る!つまり、これで『彼』を消せば……君のお父さんは戻ってくる!そして、これはまだ君に話していない事が関わってくるけど、『彼』が居なくなる事で……『きっと君のお父さんが歪む事もなくなる』」


 その選択は今まで失ったモノを、取り返すという選択。

 不自然に強調されたエインの『最後の言葉』に違和感を感じつつもクロはエインが与えようとしているものを素直に言葉のまま受け取った。


「つまり…………『彼』か『お父さん』……どちらかを選べ……ってこと……」

「ご名答!君はどっちがいい?『彼』?『お父さん』?ウチは君が選んだ人と、君の幸せを保証しよう!大丈夫、ウチは何でもできるよ!なんたってウチは……『神様』だからね!」


 ぴらりと突き出された二枚の紙切れ。何という事はないその紙切れは、エインの神憑った力によって、誰の目から見てもまるで永き時を秘めた秘宝のように見えただろう。


 エインが差し出した神の救いの手は、熱くなった胸元を抑えつけるクロの目にはどう映ったのか分からない。エインはただ、薄暗い闇を秘めた瞳を揺らしながら、その手をエインの手へと伸ばそうとするクロに優しく微笑みかけた。




   **************




 あの人を憎んでいるか?


 そう聞かれたら私は「いいえ」と答えるだろう。


 父を恨んでいるか?


 そう聞かれたら私は「いいえ」と答えるだろう。


 しかし、改めて問われると少し真面目に考えてしまうが。


 私の胸に打ちつけられた黒い釘が、複雑な思考を遮るように痛みを与える。「考えるな。それはいらない感情だ」そう言わんばかりに胸を締め付ける。それは今思えば、一度や二度の事では無かったかも知れない。


 真面目に考えれば考える程に、それは答えの出ない事。


 何をしても、私にとって父は父だった。彼が私を救ってくれた事は紛れもない事実だった。そんな事くらい感情的にならずに理解できる。私は馬鹿じゃない。


 ……いや、それは間違いかもしれない。私は答えを知っていた筈だ。


 過去に捨ててきた名前。本当は捨ててなんかなかった。ただ、私は受け入れただけ。『クロ』という名前を、今を生きる新しい私を。


 馬車を引く馬を『シロ』と呼ぶ彼。それと同じように、髪の毛の色だけで、まるでペットみたいに私の呼び名を決めた彼に最初私は文句を言った。いつも曖昧に困った表情で笑ってごまかす彼。何時でも何処か間の抜けた彼。その姿はとても憎めるような『嫌な』人間じゃなかった。


「憎んでくれていいですよ……この僕を」


 彼と旅を始めた時、ぼんやりと視線を泳がす私に彼は言った。


「憎んで下さい。何時か復讐するつもりでいて下さい。僕はそれを全部受け止める。だから……」


 とてもそれは『自分を憎め』という人間の表情ではなかった事を覚えている。優しいその微笑みとその言葉は、胸を裂く痛みで薄れても絶対に戻ってくる。


「生きて下さい。どんな理由でもいい。今を生きて下さい。もし、僕を恨む事で君が生きられるのなら、僕はそれを受け止めて、生き続けますよ。君がずっと生きていられるように」


 私は彼を憎んでなどいない。


 いや、正確にはそれだけじゃない。私の『本当の気持ち』は……




    *************




 エインは伸ばされたクロの手の行方に目を丸くした。エインからすれば、彼女がどちらを選ぼうとそれは祝福すべき事だった。エインの『クロに対する』目的、それは『彼女の生きる場所を与える事』。エインは、『丑の釘』で壊れつつある心、父の仇との旅は、クロにとって宜しくない環境だと考える。クロは旅人と父の存在に板ばさみにされている。どちらも憎み切れない大切な存在だからだ。それに押しつぶされる前に、どちらかを消し去ってしまえ。それがエインが与えようとした『救い』。


 どちらでもよかった。どちらの結果でもエインは優しく笑う事ができたのだ。しかし、エインの顔に笑顔が浮かぶ事はなかった。


「……どういうつもり?」

「…………」


 エインが笑わない理由。それはクロがエインの握る魔法札の『両方』を手に取ったからである。クロは先程までの感情的に歪ませた顔を普段の無表情に戻して、ベーっと舌を出した。


「…………ばーか。『神様』って言っても…………『人の心』までは見えないんだ……?」

「……ウチはちゃんとした答えが欲しいな。君の奇行なんてこれっぽっちも望んじゃいない。逃げるなよ……!」


 エインの表情に明らかな苛立ちが浮かび上がる。それを突っぱねるようにクロはエインからぶんどった魔法札を眺めながら、喋り出す。


「逃げてない。……私なりに『思い返した』だけ。私はどっちも憎くない」

「言ったよね?天秤は……」

「ばーか。…………気に食わない……その全て分かったような口ぶり。……だから、私は……お前の言う天秤を『ぶっ壊す』」


 無表情で、無関心で、非情で、ひねくれ者で、気に入らないモノは断固拒否。それは旅人と歩む上で気付きあげた今の彼女の形。昔の彼女『アルタ』ではなく、今の彼女『クロ』の形。エインの言葉を聞き入れるほど、『クロ』は素直では無かった。


「……さっきはあんなに感情的になってたくせに!」

「………………『好きな人』を悪く言われて……気分が悪くない訳ないでしょ……」


 そのクロの言葉はエインには聞こえない程に小さな声で発せられた言葉。素直になれない彼女の『本音』。

 実際の所、エインの思う事は間違いではなかった。旅人に対する想い、父に対する想い、複雑に絡み合う二つの感情をクロはごまかしごまかし生きてきた。

 旅人に抱く『好意』は、父を思えば決して出せるモノじゃない。そう考えた彼女は自分の想いを胸の奥にしまい込んだ。それが、今の『クロ』を作った最も大きな要因。


 エインの言葉はそれをクロに再認識させると同時に、クロの持つ答えをはっきりとさせる事になった。


 目の前のこの糞餓鬼は気に食わない……だから言う事を聞くのはシャク……


 そんな、捻くれた思考回路が、『クロ』の答えを引き出した。



「……要は『お前が気に食わない』。それが、私の『答え』」



 クロの叩きつけるような答えにエインは全く反応しなかった。ただその目を伏せ、ぶつぶつと何かを呟いている。徐々に大きくなりつつあるその声をクロが聞きとれるその前に、エインは呟くのを止め、うっすらと濁った瞳をクロに向けた。恐ろしいまでの威圧がクロを襲うが、得意げに手に持った、『魔法札』を見せ、クロは不敵な笑みを浮かべた。


「だから、お前をぶちのめす。ついでに、その珍しい魔法……全部貰う」

「し、し、し………ししししし……そうかい、そうかい、そういうことかい……!」


 エインは顔をひきつらせながら、胸元の時計を握りしめる。


「質問に答えてよ……君は『彼』と『父』、どっちを取る?逃げるな……逃げるなよ……ちゃんと答えろよ……」

「見縊るな……。私は……『どっちも』取る」


 クロはエインから奪い取った魔法札をドレスのポケットに押し込み、胸元に手を添えた。エインはその動作を見て、今までにない表情の変化を見せた。それは圧倒的な魔宝の力を見せつけ、余裕を見せていたエインが見せた始めての『焦り』、『動揺』、『恐れ』。クロはそれを見た途端、『それ』が目の前の『神』に通用する事を悟った。


「やっぱり…………『コレ』は効くんだ?」

「やめなよ……!それはあまり多様すべきじゃないよ?ほら、君の仲間も君が『ソレ』を使う事を望んでないし……!君の天秤では『一時の感情』が『心配してくれる仲間』よりも重いのかい!?」

「……何が天秤だ。彼も、父も、仲間も、みんなみんな、そんなものでは量れない。……人を馬鹿にするな、この『神様気取り』」


 エインは手を前に差し出し、顔を引き攣らせる。クロはそんなエインを睨みつけ、胸元の『釘』にまさに力をかけようとしていた。


「これは私の大切なものを軽く見た……侮辱への報復。……お前は『私達』を『惑わそうとしてる』」

「…………ちっ!」


 エインは顔をしかめた。それは、クロの言葉が、ある程度『図星』であった事を示す何よりの証拠であり、エインがその『本性』をさらけ出す瞬間でもあった。


「惜しい、実に惜しいよ……『惑わす』、半分正解だね!ウチは確かに『遊んでる』さ!でも、半分は本当に『君達を想って』言ってるんだよ?」

「それが最期の言葉?」


 エインは開き直ったようににやりと笑う。それを睨みつけ、クロは迷うことなく、その胸の『丑の釘』に力を加える。


「『神』を呪え……『丑の釘』……!」


 その瞬間、山中を魔宝の歪んだ空気が駆け巡った。




    ***************




 神の住む山に佇む一軒の山小屋、何時になく張り切り、子羊達との『遊び』に興じている神を待ちながら、巨大な黒い犬の毛繕いをする巫女はブラシを落とし、白い木々に包まれた白い空間に目をやった。


『ハルカ様……これって……』

「……困りました。エイン様、気付いてらっしゃるでしょうか?」

『遊んでるんでしょう?もしかしたら『能力』を制限しているのかも知れない。だとしたら気付いていない可能性も……』


 二匹の魔犬は息を荒げる。その『禍々しい気配』は、時々唸り声をあげていた周囲の魔獣達を完全に黙らせた。


 魔力を持つ、強力な獣『魔獣』。魔法を操る人間さえも恐れず、多くのモノに恐れられる強大な存在である魔獣達でさえも恐れるその『邪悪な気配』を感じ取った巫女と魔犬は迷うことなく、腰を上げた。


「……迷う暇もありませんね。『もしも』の時の為、早めに動きましょう」

『……ちょいと、大変そうだけどねぇ』

『『魔宝』の所有者か……それとも…………ま、何とかしましょうや!』


 霊山アクバハルの守護者たちは、その邪悪な気配に向けて動く。その邪悪な気配に負けず劣らずの『不気味な黒』を纏いながら。




      ***************




「白、白、白、白、白……なんて気味の悪い山」


 一人、案内もなく、女は山を歩いていた。


「全く『悪意マリス』を感じとれない……これ、本当に『魔宝』がある山なのかしら?」


 否、女は一人では無かった。その背後からはまるで生気を感じられない、複数人の人影が続く。


「ねぇ、皆さんはどう思います?」


 女は後ろの人影に語りかけるが返事はない。しかし、女は何故か満足げに頷いた。


「ですよね?あたくしもそう思いますわ」


 ぬちゃりと頬に付いた赤い液体を指で撫で、女は笑う。


「ああ、もしも、もしも……『十三呪宝』の一つもなかったら……ぶち殺しますわよ、『ゲート』ちゃん……!」


 白い山が、少しだけ赤い色に蝕まれていく。その赤い色は、女の後ろに続く複数の人影から滴り落ちていた。


 赤い眼を縁取る、ツタのように複雑に絡み合った黒い模様。露出の多い赤いドレスの下からは包帯で包まれた四肢が覗く。『何かの骨』で出来た不気味なブレスレットやネックレスといった装飾品が、周囲の白い風景に溶け込む。白い空間に一際映える赤いドレスに赤い瞳、そして白い包帯と骨のアクセサリに浮かぶ赤い赤い血の斑点。


 明らかに異質な女は、血の気の失せた青白い頬を歪ませ、生気を感じない唇の端を持ち上げた。


「取り返せるかしら……あたくしの大事な大事な『シスベノ杖』……ねぇ、神様?」




 醜悪な死臭を漂わせながら、悪夢がやってくる。


 それを見下ろしながら、小さな小さな『神』は、木の遥か上で、にんまりと、嫌らしく、全てを見透かすかのように笑った。


 




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