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魔宝の旅人  作者: ネブソク
第5章 【ドラマチックフィルター】
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第5章 【ドラマチックフィルター】 開幕編 名探偵?迷探偵?

 旅人一行は今日も馬車でのんびりと道を行く。国境も楽に越え、順調に『神の住む山』を目指していた。

 今、旅人達が居るのは霊国『シェンディア』。変わった魔法文化が特徴的な国である。彼らの目指す『神の住む山』なる場所もその文化に大きく関わっているようだ。


「『信仰』という魔法文化がこの国には根付いているんですよ」

「シンコウ?」


 旅人は、この国の事を知らない(というより世間一般の事を殆ど知らない)ロザにこの国の文化に付いて話していた。


「今となっては『魔法』の仕組みも大分解明されてきているのですが、昔は『魔法』は『何か大きな存在から与えられたモノ』という風に信じられていたんですよ。シェンディアにはその風習が色濃く残っている地域が多いのです」


 今でも昔のまま、『魔法は大きな存在に与えられたモノ』という思想はかなり残っている。彼らはその『大きな存在』を『神』と呼び、祈りを捧げてきた。そして、その祈りは時に、本当に大きな魔法を生み出すことすらあったという。


「う~ん、難しいですね」

「ロザ……あなた、そればっか……」


 クロが少し呆れ気味に言う。ロザは少し照れくさそうに笑ってごまかした。


「……まあ、気になるのは今から会いに行く『神様』という存在ですね。強い信仰を持っている人達がそう信じているとなると、実際に『神様のような力』でも持っているのでしょうかね?」

「デフィーネは……『予言』が必ず当たるとか言ってた……」


 『神様』という存在、それに対する考えを話していると、不意に人の声が聞こえてくる。


「ヘイヘイへ~~~イ!そこの馬車、スト~ップ!ヒッチハァァイク!」

「先生、ヒッチハイクは馬車を呼びとめる掛け声ではありません」


 馬車の外をうかがう。すると、そこに居たのはいかにも怪しい2人組がいた。一人は少女、モノクルにチェック柄のストールを羽織り、自慢げにおもちゃのパイプを咥えている。

 もう1人は眼鏡の男。黒いスーツに身を包み、蝶ネクタイを付けた紳士のような格好をしている。

 こんな道端で出くわすのが明らかに不自然なコスプレコンビ。


「うわぁ…………」


 クロは思わず声を漏らす。こいつらには絶対に関わってはいけない。そんな臭いがぷんぷんしている。少女はふふんと鼻息を漏らすと、何故か胸を張る。


「ハン、君達、よくぞ止まってくれた。実は我々は今、『ステラ魔法学園』を目指しているのだが……馬車に乗せてもらえないか?」

「断る」


 真っ先に返事をしたのはクロ。旅人やロザに任せていては、きっと面倒な事に巻き込まれると考えたのだろう。その勢いに旅人もロザも驚いた表情を浮かべた。


「私を誰だとお思いか!?『名探偵ゴーガン』だぞ!」

「え!?『名探偵ゴーガン』!あの有名な!」


 喰らいついたのは旅人。彼はヒーローだの名探偵だのが大好きなのである。

 『名探偵ゴーガン』とは世界的に有名な探偵である。事件解決率は100%、数々の難事件を解決してきた凄腕探偵だ。『ヘビーヒルズ殺人事件』、『ブフレミュージアム爆破未遂事件』など、知らない者などいない事件はほとんどゴーガンが解決しているのだ。


「はっは、サインをやってもいいぞ!」

「やった~!どうぞ、上がって……」

「待て、タコ」


 クロは旅人の首に腕を回し、思い切り締め上げる。「ぐぇッ」という声をあげ、旅人は言葉を止める。パンパンと首にまわされた腕をタップしながら、目を白黒させる。


「……『名探偵ゴーガン』て……あれ、どう見てもただの痛いチビ女…………目を覚ませ……」

「クロ!旅人さんが!ちょっとそれ以上は!」


 ロザが必死に止めに入って、何とか旅人は首絞めから脱出する。息絶え絶えに旅人は言葉を発する。


「ご……ごろず気でずが……!……ぜぇ……た、確かにもっとダンディな探偵かと思ってましたけど……本人の姿なんて見た事ないし……」

「どっちにせよ……面倒。……目的忘れた?」

「い、いえ。分かってますよ」


 旅人は少し惜しそうな表情を浮かべる。もし、本物だったらなあ、などと思いながら旅人は恐ろしいオーラを漂わせるクロを横目で見ながら、『名探偵ゴーガン』を名乗る少女の申し出を断る事にした。


「あの~申し訳ないのですが、急いでいるので……」

「こ、困る!我々は迷子なのだ!このままだと以来の時間に間に合わない!」


 涙目で訴えかけてくる少女。旅人は酷く胸が痛んだが、クロの視線が怖い。


「『怪盗カタヴェリゴ』が現れるのだぞ!私が行かなくてどうするっ!」


 その名前を聞いた瞬間、クロはぴくりと反応を示し、旅人も表情を変える。そして、にんまりと笑う旅人はクロの方を振り向いた。クロはため息交じりに、首を振った。


「クロ、どうやら放っておく訳にもいかないようですね?」

「…………もういい」

「と言う訳で、どうぞお乗りください名探偵!その『ステラ魔法学園』まで同行しましょう!」

「おお!ありがとう!」

「申し訳ありません」


 2人組はずいずいと馬車に乗り込んでくる。ロザは事情が飲み込めず、クロの方を見る。すると、クロはちょいちょいと手招きし、ロザに顔を近づけさせる。


「……『怪盗カタヴェリゴ』……暫く前に取り逃がした……『十三呪宝』の持ち主……」





      **************





 旅人とクロはロザと出会う前から共に7年近くも旅を続けてきた。彼らはその間、全く『魔宝』を手に入れていない。それ何故か?


 勿論、世界中を巡る旅なので道中が長いという事もある。しかし、何より大きい要因。


 それは『所有者の抵抗』だ。


 『魔宝』は本来、多くの人間に嫌われる力を持つが、ほんの一握りの所有者はその力に魅せられる。そうなった所有者は、『魔宝』を守り抜こうとするのだ。逃げ出す者。隠し通す者。そして、『魔宝』の力で襲いかかってくる者、それはその所有者と魔宝の性質によって様々。


 旅人達は今まで、『何人か』の所有者や魔宝と出会いはした。しかし、とてもじゃないが手を出せなかったのである。そして、手の届かぬまま、見逃してしまった魔宝もいくつもある。


 『怪盗カタヴェリゴ』も、彼らと出会った魔宝の、『十三呪宝』の所有者であり、彼らから逃げ切った厄介な相手なのである。


「…………あいつの持ってる『十三呪宝』は私達も……よく分からない。でも、かなり厄介なのだけは……分かる」


 クロはロザに話しながら、数年前に見た、あの奇怪な怪盗を思い出す。


 魔法も使わずに『空を飛び』、人間とは思えない『運動能力』、そして煙のように『消える』。それは明らかに『何か』の力を借りて行っている事。しかし、一貫性のない、彼の『奇怪さ』は、どんな『魔宝』の力を使っているのかさえ理解させなかった。


 ただ一つ、強い『邪念』だけが彼の持つ『十三呪宝』の存在を、クロに感じさせた。


「……じゃあ、リベンジだね!今回は私もいるから大丈夫だよ!」

「……ロザ……ごめん、頼りない」


 ばっさり切り捨てられて、がっくりと落ち込むロザ。しかし、クロは言葉ではそう言ったものの、意外とロザに大きな期待を寄せてはいた。


 それはデフィーネの元で習得した『赤黒い靴』の実戦感覚。今のロザなら、人間離れした動きで、カタヴェリゴに付いていけるだろう。そうなれば、きっとロザは奴を追い詰める『鍵』となる。


 クロは次こそあの『苛立たしい』怪盗をとっ捕まえて、魔宝をぶん捕ってやろうと強く誓う。


 一方、旅人はゴーガンと楽しげに話をしていた。


「いやぁ~、まさかあのゴーガンが女の子だったとは!男っぽい名前なのに!」

「ふっふ、強そうな名前だろう?こっちは私の助手のバッカルゲン君だ!」

「どうも」


 旅人は嬉々として、貰ったサイン眺め、握手までする。


「ははは、まさか『名探偵ゴーガン』VS『怪盗カタヴェリゴ』の対決を間近で観れるとは……きっと貴女がいればカタヴェリゴも捕まるでしょう!」

「その通り!絶対に犯人は見つけ出す!それが私、名探偵ゴーガン!」


 正直、迷子になっていた名探偵が当てになるのかとクロだけでなく、ロザでさえも疑問に思っていた。そもそも胡散臭すぎるのだ。しかし、既に親しげに旅人と話しこんでいる少女に突っ込みを入れるのはもう面倒臭くなっていた。



 一同は少しだけ進路を変え、『ステラ魔法学園』へと向かう。『怪盗カタヴェリゴ』、その謎多き魔宝所有者に接触する為に。




    *************




「もしもし?元気にしてるかな?」

『黙れ』

「おや、いきなり酷いな月狐ゲッコウ。どうかな?休暇は楽しんだかな?」

『……もう次の仕事を押し付けておきながら』


 その男『ゲート』は、くすくすと笑いながら、おもちゃの扉を耳にあてた。その先からは女の声が響く。


「……もしかして嫌かな?『あの男達』と接触するのが?ああ、そういえば君が親切にしてあげた子……ロザと言ったか?彼女は酷い目にあったようだしね」

『知っていたのか……!?あそこに『魔宝』があった事を……!』

「フフ、そんな訳ないだろう。まあ、君が彼女に対して『罪の意識』を抱いている事ぐらいは知っているが」

『貴様……どこまで……!』


 ゲートは歪んだ笑顔を浮かべる。それは声だけのやり取りをしている月狐ゲッコウに見える筈もなかった。


「いや……すまないね。最近気にかかる事があってね。君には少し酷い事を言いすぎたよ」

『……『狸』め……!』


ガチャンッ!


 向こう側の『次元門ザ・ゲート』が閉じられたようせ、ゲートと月狐の通信は完全に途絶えてしまった。ゲートの後ろからぬっと大男が姿を現す。


「……マスター、女狐を使う必要などないのでは?」

「……まあ、そうだろう。まあ、彼女がカタヴェリゴや『あいつ』相手に魔宝を奪取出来るなど端から思っていない」

「いえ、そういう訳ではなく……送ったんでしょう?『彼女ら』を」

「おや?『彼女ら』を君は評価してるのか。意外だな」


 鎧の大男はこくりと頷いた。


「ええ、私は『信用に足る者』は重く見ますよ。『彼女ら』の忠誠心はまず本物でしょう」

「……そんなに月狐が嫌いなのか、君は」

「いえ、素直な考えですよ。皮肉などではありません」


 ゲートは軽くため息をつく。鎧の大男はそのため息の意味を良く分かっている。

 『彼女ら』は確かに信用に足る人物だと大男は思う。しかし、同時に『どうしようもない頼りなさ』も理解していた。

 そして、『多くの『十三呪宝』と接触しながらも、生き残ってきたその手腕』も、悪運などではなく、彼女らの実力であるとも信じていた。


「『本物』ですよ。『ゴーガン』と『バッカルゲン』の2人は」

「……だといいがね」


 いつも何かを企んでいるように笑うゲートは、珍しく疲れた表情を作る。ああ、厄介な奴に好かれたものだ。ゲートは心底そう思う。

 少女の無邪気な笑顔としつこいまでの付きまといっぷりを思い出して、ゲートは眉をぴくぴくと動かした。



     ************




「お待ちしておりました、ゴーガン様!ささ、こちらへ!」


 『ステラ魔法学園』、そこは多くの学生が在籍し、魔法を学ぶ学園。名門中の名門とされるこの学園は暗い森に囲まれていた。夜となった今は、辺りに、魔法で浮かされた火の玉が飛び交い、辺りを照らしている。学生の多くが今は寮に戻っているようで、ゴーガンを迎え入れた学園長と一部教員のみが残っているようだ。


「待たせた!少し馬車が遅れてな!」

「先生、人のせいにするのはどうかと。迷ってしまって遅れました、すいません」


 ゴーガンは格好を付けながら、おもちゃのパイプを咥えて、にやりと不敵っぽい笑みを浮かべた。そして、用意された椅子にどかっと腰掛け、親指を後ろに向け、助手のバッカルゲンを後ろに立たせる。

 旅人達も一応それに付いて、ゴーガンの後ろに立つ。


「私が名探偵ゴーガン!そして、後ろに居るのが助手バッカルゲン!そして、周りの3人が我々をココまで運んでくれた恩人たちだ!」

「よくお越し下さいました!わたくし、学園長のストローガと申します!」


 学園長ストローガはニコニコと媚を売るような笑顔を浮かべながら、周りに居る教員にお茶を5つ用意させる。


「接待は結構!早く話を始めようじゃないですか。奴は何を狙っているのです!?」

「おお、頼もしい!では早速お話しましょう!」


 どや顔で後ろを振り返るゴーガン。バッカルゲンに「先生、前向いて」と注意されながらも、一応旅人達に向けて、親指を立てる。


(…………殴りたい)


 クロは今にも前に飛び出しそうな拳を静めた。


「奴の狙いは我が学園の秘宝、『古代魔法秘集』。古の大魔導師シゲンの遺した貴重な書物です」

「シゲン……?誰それ?」

「先生、魔法の始祖ですよ。童話なども有名でしょう。子供でも知ってます」


 ロザは顔を引き攣らせながら笑っていた。クロだけがそれに気付き、そっと肩をたたいた。


 最初の魔法を生み出したという大魔導師シゲン。多くの逸話が残り、童話も語り継がれる彼は世界中だれもが知る伝説の人物である。その彼が残した書物、確かに最高の価値を持つモノだろう。


「それにしてもシゲンの遺した書物とは……流石は名門。大した品を預かっているのですね」

「ええ、この学園には深い歴史がありまして……」


 学園長ストローガはにんまりと顔を歪めて、話を始める。学園の歴史、自慢話などなど、長そうな話だ。ゴーガンはいまいち話を理解できていないようだが、聞いているふりをしている。助手バッカルゲンはじっくりとその話に聞き入っている。ロザもゴーガンと似た表情で話を聞く。

 

 クロはつんつんと旅人の脇腹をつついた。旅人は小さな声で、クロと話し出す。


「…………何です?」

「…………話なんて聞く必要ない」

「……どういう事です?」


 クロはつんつんと胸元を指さした。


「私……魔宝の気配分かるでしょ……」

「あ、そういえば……」


 『丑の釘』を自らの体に打ち込んだ彼女が得た『特性』。『丑の釘』を通して自らの身で直接『負の感情』を感じ取る。今、確かに彼女は『十三呪宝』特有の『寒気』といったものを感じていた。


「……もしかして、ここに居るんですか!?怪盗が!」

「…………分からない、でも……」


 クロはストローガの後ろに立つ5人の教員に目をやる。

そして、その直後、話を聞くのに限界を感じたゴーガンが、大きな声で話を打ち切った。


「分かったぞッ!」


 教員達の肩がビクッと跳ねる。学園長は呆然と口を止める。ロザも驚いた表情で目の前で立ち上がったゴーガンの後頭部を見つめる。バッカルゲンはため息交じりに首を振る。

 ゴーガンは一応、いつもの決めゼリフを吐く事にした。



「犯人は、この中に居るッッ!!!」



「先生…………何の脈絡もなく何を言ってるのですか」


 シ――――ン…………


 奇妙な静けさが空気を支配する。正直、皆反応に困っているようだ。


 そんな中、その話を端から聞いていなかったクロは旅人にその『事実』を伝えた。


「この中に…………『十三呪宝』の気配が…………2つある」



 意外にも的外れでは無かったゴーガンの推理(?)。




 次回、名探偵ゴーガンの推理が冴えわたるっ!



 かもしれない……




この章では少し話の構成が違います。

少し他の章と長さも変わります。

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