婚約破棄代行人、婚約破棄を卒業パーティーで言い渡す! ~王家に雇われたその男は、実は○○師でした!~
仕事と令嬢もので短い作品、というテーマで書きました。
卒業パーティーの会場で事件が起きた。
「公爵令嬢ウーズリット! ウィザーズ殿下との婚約を破棄する!」
王城内で指を突き出して一方的に宣言したのは第一王子ウィザーズではなく、それなりに身なりの良い男だった。年齢は王子よりも明らかに上で、どう見ても王立学園の卒業パーティーに参加している生徒ではない。
「貴方は誰ですか?」
公爵令嬢は、会場の皆に聞こえるように問う。
「私はウィザーズ殿下の『婚約破棄代行人』だ! 私は依頼主である国王陛下および殿下の正当な代行人であり、職務遂行中は王家と同等の権限を持っている! 私の言葉は王家の言葉そのものだ! もう一度繰り返す! 公爵令嬢ウーズリットとウィザーズ殿下との婚約を破棄する!」
婚約破棄代行人の言葉を、王子は満足げに聞いている。そのすぐ横で、男爵令嬢のあなたが静かに立っていた。
「婚約破棄の理由を伺ってもよろしいですか?」
金髪の公爵令嬢は、やはり大きな声ではっきりと、婚約破棄代行人に聞く。彼女は冷静で、とても美しかった。
「ならぬ! 職務の契約上、守秘義務が存在するからだ!」
「いくらで雇われたのかはお聞き出来ますか?」
「書類の手続きも含めて260万ワークァだ!」
「では、倍の520万ワークァを支払いましょう。――この公爵令嬢ウーズリットに買収されなさいッ!」
「さすがはウーズリット嬢! 貴女のために喜んで汗水を垂らしましょう!」
「おい貴様! 裏切るのかッ!」
ずっと黙っていた第一王子ウィザーズが口を挟んだ。
「まさか! 私は仕事熱心な国民です。殿下がより高い契約金を積んで頂ければ、どこまでもお供しますよ!」
「分かった! 520万5千ワークァを出そう!」
「ウィザーズ様。我が国の財政は大赤字でもう限界です」
王子の近くにいた若き財務大臣が報告する。
「なんだと!」
「どうにかかき集めれば、あと200万ワークァぐらいは用意出来るかと」
「ふざけるなっ! 我が国の財政は、公爵令嬢がポンと出せる金額の半値以下しか出せないほど圧迫してるのかっ!」
「その通りです、ウィザーズ様」
普段は兄のように慕うこの財務大臣の肯定に、王子は愕然とする。
「――ウーズリット嬢の多大な貢献により、ウィザーズ殿下の婚約破棄は白紙に戻された! 皆よ、これは決定事項だ!」
「そんな馬鹿な……ッ!」
ガクッと王子は崩れ落ちる。自分が権力の頂点に位置する王子だからと言って、国を破綻させてまで自分のわがままを通したりするほどの度胸はなかったらしい。
こうして呆気なく、婚約破棄は撤回された。
この婚約破棄の阻止は、あなた達によって仕組まれたものだった。
◆
ことの発端は、第一王子ウィザーズが男爵令嬢のあなたに、何故か一目惚れしてしまったことにある。
あなたをなんとしてでも嫁に迎えたい王子は、公爵令嬢ウーズリットとの婚約破棄を画策し始めた。
あなたは好きでもない強引な王子に言い寄られて困り、父親である男爵の知り合いだった財務大臣を通して、国王に相談した。
「分かった。私が息子を説得しよう」
そう国王は言ってくれて、王子を即座に叱った。誤った考えを改めさせようとしたが、
「私は真実の愛に目覚めたんだッ! 父上にもこの思いは止められないぞッ!」
彼の気持ちを抑えることは出来なかった。
そこで渋々国王は、雇った婚約破棄代行人を通すことを条件に、婚約破棄を許可した。
そうしておこなわれた、婚約破棄。それと、婚約破棄の大失敗。
あなた、公爵令嬢ウーズリット、国王、財務大臣、婚約破棄代行人の男。全員が本日起こることを知っていた。
つまり、王子以外の関係者は全員グルだった。
こんな茶番をやったのは、王子に大恥をかかせて猛省させるためである。その反面、卒業パーティーで関係のない生徒達を巻き込んでしまったのだけれども……。
あなたは、卒業パーティー前日のことを思い出す。
「我が国は、実は国家が傾くぐらいの財政赤字を抱えているという設定にしましょうか!」
と、自身の立場からすればだいぶ不謹慎な財務大臣。
「依頼料は200万ワークァ以上という高額な設定に致しましょう!」
と、瞳を輝かせて発言する公爵令嬢。
「設定はいくらでも構いませんが、最終的な私の取り分はなるべく多くしてもらいたいね。私としてもリスクを負ってるんですよ?」
と、金の亡者らしい婚約破棄代行人の男。
「くくく……あのクソ息子め、あやつの卒業パーティーを台無しにしてやろうぞ!」
と、ノリノリかつ無責任な国王。
卒業パーティー前日にはこんなふうに、共謀者達が会議場で作り話を楽しげに考えていた。
この時、あなたは不安げな顔で見守っていたものだが……本日、上手く事が運んで良かったと、あなたは安堵する。
王子は確かに容姿端麗だが、性格が好みではなかった。それに、婚約破棄が通れば絶対に公爵家から恨まれてしまう。面倒ごとにあなたは関わりたくなかった。
◆
卒業パーティーの閉会後、これでもう、王子に言い寄られることもなくなると思っていると、あなたの前に婚約破棄代行人の男がやって来た。
「ちょっと内密な話があるんだけれど、いいかな?」
そう言われて、あなたは人目を避けた場所で、婚約破棄代行人と二人っきりになった。
「……今回の報酬は、私に100万ワークァ、君には慰謝料込みで50万ワークァが支払われるそうだ。そこで提案がある。君の報酬を、この赤い宝石と交換して欲しい。これは報酬分以上の価値がある品だが、私はすぐに現金が必要なんだ。君を信用してこれを今、渡そう。後は、分かるよね?」
男からあなたは半強制的に赤い宝石を握らされて、後日、手に入れた報酬の50万ワークァを支払った。
だが、彼は詐欺師で、宝石は真っ赤な偽物だった。
あなたは報酬50万ワークァを全額失い、けっこう絶望した。
ただし、あなたが得たものも多い。国王や公爵令嬢からの強い信頼と、定期的な交流、それに仕事も手に入れた。
あなたは今、財務大臣の下で働いている。
結局あなたは、学園を卒業しても婚約相手を見つけることは叶わなかった。けれど、独身でかなりイケメンな財務大臣のことを、密かに狙ってはいる。
第一王子ウィザーズもまた、得たものが多かった。
あの卒業パーティーの事件以降、王子は長らく人間不信になっていたが、公爵令嬢の献身的な努力で立ち直り、浮気をしない真っ当な王子に成長したらしい。
そのことを、あなたは公爵邸の庭園で甘いお菓子と絶品の紅茶をご馳走になりながら、ウーズリット嬢から聞いている。
「……この前ウィザーズ様に、卒業パーティーの真相をお話したのですよ。今の彼なら、しっかりと受け止めることが出来ると思いまして」
彼女が言い、あなたはどうなったのかと尋ねた。
「間違いを正してくれてありがとう。そうおっしゃっていましたわ。人は変われるのだというのを、目の当たりにした瞬間でした」
うっとりとした感じでウーズリット嬢が語っていた。あなたもあの王子のことを、少しは見直した。
卒業パーティーのことが話題になったので、あなたはついでに、あの恨みを持つ婚約破棄代行人の所在を知っているのかを聞いてみる。
「――あの者、実は詐欺師だったんですのよ!」
公爵令嬢は、誰も知らない極秘情報を伝えるような口振りだった。
残念なことに、あなたはとっくに知っていた情報だ。
「陛下があの男を断罪し、つい先日、国外追放したとのことです! 良かったですね、私達も被害を受ける前で!」
彼女はあなたが50万ワークァを騙し取られたのを知らない。あなたはあの男に対する怒りから、わなわなと身を震わせる。
「あら、どうしたんですの?」
「いえ、別に……」
あなたは理由を明かさなかった。
あなたはまだ、赤い偽宝石を手放していない。いつかあの詐欺師と出くわす機会があれば、思い切りぶつけてやるつもりだ。
(終わり)
適当に思いついて書いたのですが、割と長くなってしまいました。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。




