グロテスク:Λ陽性変異体
グロテスク(Grotesque)
学術名:Λ陽性変異体(Positive Anchor Mutation)
■ 定義
グロテスクとは、Λ細胞の暴走的活性化によって人間の形態を失い、肉体と精神が異常変質した存在の総称である。
アンカーが「異能を世界に安定して固定する存在」であるのに対し、グロテスクは「異能に身体を喰われ、存在そのものが崩壊した結果」であり、人類社会においては絶対的な駆除対象とされている。
■ 発生要因
グロテスク化は、主に以下の要因によって引き起こされる。
1. Λ細胞の過剰発現
本来制御されるべき異能因子が、宿主の限界を超えて増殖する。
2. 精神崩壊
アンカーは精神と異能が強く結びつくが、心的外傷や狂気によりバランスが失われると肉体が異能に侵食される。
3. 外的感染
Λ細胞汚染区域や既存グロテスクとの接触によって、非能力者や低ランクのアンカーが変異する事例。
4. 人工的誘発
兵器研究の一環として、Λ細胞を強制投与された実験体が暴走し、グロテスク化するケース。
■ 共通特性
・肉体変容:異能に応じて肉体は人外の姿へと変化。大きさは人間の倍程度からビル規模に至るまで幅がある。
・知性の劣化:多くは理性を失い、本能的行動(捕食・破壊)に支配される。ただし稀に人間の言語や思考を保持する個体も存在。
・異能の暴走:能力はアンカー以上の純粋な出力を持つが、制御が効かず環境そのものを汚染する。
・浸食作用:グロテスクの周囲ではΛ細胞の濃度が高まり、非能力者への悪影響(吐血・錯乱・臓器不全)が確認される。
■ 系統分類
グロテスクもまた、アンカーと同様に6つの系統に分類される。
ただしアンカーの「安定した系統」に対し、グロテスクは「混合・変質した異常系統」として現れることが多い。
1. 破壊種(Cataclysmic)
物理干渉型の暴走体。炎や雷、重力の塊となり、都市を瞬時に瓦解させる。
例:灼熱の肉塊、雷撃を纏った骸骨巨人。
2. 幻惑種(Phantom)
認識操作型の暴走体。幻覚や精神汚染を無差別に撒き散らし、群衆を狂乱状態に陥れる。
例:顔が幾百も重なった亡霊群。
3. 寄生種(Parasitic)
媒介感応型の暴走体。他生物や機械を乗っ取り、融合・拡張して自らの体とする。
例:人間数十名が融合した集合体、都市の送電網と一体化した怪物。
4. 異躯種(Aberrant)
身体変容型の暴走体。筋肉・骨格が無限増殖し、怪力や高速再生を備えた怪獣化を果たす。
例:巨腕が地平を砕く巨漢、蠢く触手の群体。
5. 環境種(Terranomaly)
環境適応型の暴走体。生息域そのものを変質させ、局所的な異常気象や地形崩壊を引き起こす。
例:通過するだけで街を凍結させる“歩く寒波”。
6. 虚数種(Nullform)
情報干渉型の暴走体。存在が不確定化し、電子機器を狂わせ、観測者の認識そのものを歪める。
例:映像記録に残らない、数値の形をした怪物。
■ 脅威度と等級
世界均衡機構 《Equilibria》は、グロテスクを以下の等級に分類している。
・α級:局所的被害(市街区規模)。通常の討伐部隊で対処可能。
・β級:都市機能の麻痺を引き起こす。A級アンカー部隊が必要。
・γ級:国家防衛レベル。討伐にはS級アンカー、もしくは軍事兵器の併用が必須。
・Ω級:存在そのものが世界秩序を揺るがす災厄。観測例は極めて稀だが、確認され次第「都市封鎖」や「核対応」が検討される。
■ 社会的影響
1. 脅威対象:グロテスクは人類社会における最大の危機であり、駆除は国家義務。
2. 研究対象:その肉体組織は異能の解明に直結するため、各国の研究機関は標本確保を試みる。
3. 恐怖の象徴:メディアでは「人の成れの果て」としてセンセーショナルに扱われ、差別と偏見の温床となる。
4. 宗教的崇拝:一部カルト教団では「神の化身」としてグロテスクを崇める動きもある。
■ まとめ
アンカーが「異能を世界に繋ぎ止める錨」であるのに対し、
グロテスクは“錨が千切れ、海底から浮上した災厄” とも言える存在である。
その姿は人間の限界を超えた力の象徴であると同時に、
「異能が人間を裏切った末路」でもあり、アンカーたち自身にとって最大の警告である。




