プロローグ 回帰した稀代の魔女エリサ
「次は私が1番を取るわ」
「へぇー、お前が?一生かかっても無理だな」
首を落とされる刹那、死に際の走馬灯が流れる。
テストの点数を競い合った、知り合いと言うには親しく、友達と呼ぶには遠い彼。
そんな彼が今、躊躇いなく私の首を刈り取っていく。
何故?
その答えを聞く術も無いまま、私は意識を失った。
違法カジノ・闇市での禁止された人や魔物の売買
悪行の限りを尽くし、その罪が暴かれてなお最後の足掻きで魔界へと繋がる扉の封印を解き、アルステリア王国全土を混乱に貶めた「稀代の魔女」エリサ。
誰からも愛されず、その存在すら認められ無かった可哀想な私。
深い憎しみと絶望の中、最期に「来世では幸せに暮らせますように」と願いながら、天才魔法使いと謳われた、第四王子レイヴン・アルステリアに首を落とされ死んだ____筈だった。
鼻をつく埃の匂いとひび割れた壁。
たった1つだけある小さな窓から差し込む小さな光が舞い上がる塵を照らしている。
懐かしいと言うには余りにも嫌な思い出しか残っていない「私の部屋」
目の前の割れた鏡に映るのは、泥水のような茶色髪と瞳の痩せた亡霊の様な少女。
少女は乾いた笑い声を上げると小さく呟いた。
「ふざけないで」
目覚めた場所は待ち望んでいた”来世”などでは無かった。
「稀代の魔女」として破滅する五年前
バートリンス伯爵家長女。エリサ・バートリンス。
誰からも愛さないみすぼらしい十二歳の私に回帰していた。