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蒼海の黎明 ー青き盾の誓いー  作者: ねむりん
第一章:出会い〜出航まで〜
3/3

第三話:七つの盾と、新しい家族

【時代背景・世界の情勢】

かつて、世界は「抑止」の名の下に平和を保っていた。


第二次世界大戦を経て、国際社会は幾度となく危機に直面しながらも、冷戦とその終結、地域紛争と復興、そして人道支援による国際連携によって、表向きの秩序を保ち続けていた。


しかし、それも限界を迎えた。


2000年代初頭、とある国家の一方的な軍事侵攻を国連が止められなかったことを皮切りに、各地で戦火が再燃。


そして20XX年――。東アジアにも、かつてない規模の緊張が押し寄せた。


「東亜連邦」──軍事政権の下、急速に力を伸ばし海洋進出を強める新興連合国家。


その存在が、専守防衛を掲げる日本の海洋安全保障に大きな影を落とす。


日本政府は、戦後一貫して維持してきた憲法第9条の理念を堅持しながらも、「自国の領土と民を自らの手で守る」という新たな方針を明確に打ち出した。

その実現のために、国防の両輪となる二つの新組織が創設された。


一つは、外洋の脅威に対応する**「国防海軍(Japan Defense Navy/JDN)」。


もう一つは、沿岸警備と海上治安の維持を担う「沿岸警備隊(Japan Coast Guard/JCG)」**。


そして、これらの未来を託される若者たちを育成する場として誕生したのが、

神奈川県・横須賀港に設置された**「横須賀海洋特別高等教育機関」(通称:特海)**である。


【主な登場艦艇と登場人物】

◯横須賀海洋特別高等教育機関所属艦

 ・【まや型航洋教育艦「なち」DDG-182】

  分類:イージス・システム搭載教育艦(国防海軍所属)

  役割:戦術データリンク・対空戦闘の実戦教育、CIC訓練

  特徴:艦内のCIC(戦闘指揮所)を実働可能な状態で維持し、現用イージス・システム(BMD機能含む)を搭載。

  備考:「特海」の総合成績上位者のみが乗艦を許され、士官候補生にとって“憧れの艦”。事実上の精鋭教育艦。


 ・【ましゅう型航洋教育艦「しごつ」】

  分類:補給艦型教育艦

  役割:海上補給訓練、後方支援、燃料運搬

  特徴:実際に艦隊への洋上補給訓練を実施可能。多科混乗教育艦であり、運用・補給・衛生に特化した実習が行われる。


 ・【あさひ型航洋教育艦「ゆうぎり」】

  分類:多目的護衛艦型教育艦

  役割:対潜水艦戦(ASW)、機関管理、海上移動戦訓練

  特徴:ソーナー・VLSを実装したASW訓練に特化した艦。高度な電磁・音響戦の基礎教育も担う。


 ・【あきづき型航洋教育艦「しもつき」】

  分類:防空護衛艦型教育艦

  役割:近接防空戦訓練、艦隊編成行動の基礎

  特徴:CIC簡易シミュレーションに対応した教育艦。状況判断力や連携訓練に優れる。


 ・【てんりゅう型教育支援艦「かいもん」】

  分類:旧型訓練支援艦

  役割:電子戦・射撃支援・教育艦護衛

  特徴:62口径76mm速射砲、電子戦装備を有し、他艦の訓練補助や緊急出動対応が可能。乗員は全員現役国防海軍人。


 ・【たいげい型潜水教育艦「つるぎさき」】

  分類:次世代型潜水艦

  役割:静粛行動訓練、非対称戦術訓練

  特徴:AIP搭載の高性能潜水艦を改装した教育艦。教育艦としては世界屈指の装備を誇る。


 ・【ちよだ型教育支援艦「ほり」】

  分類:潜水艦救難艦型教育支援艦

  役割:「つるぎさき」への訓練支援、潜水艦救難訓練、深海救難、潜水士訓練の場としても運用される。

  特徴:深海対応の救難装備と通信機能や医療設備を備え、対潜・潜水救助教育に欠かせない支援艦


◯横須賀海洋特別教育機関の仲間

 ・教育艦「なち」(DDG-182)

  艦長:伊吹いぶき 遼介りょうすけ/三年・首席/性格:戦術的思考と冷静な判断力を持つリーダータイプ。

  副長:朝倉あさくら 天音あまね/三年/性格:気難しくも面倒見がよく、部下に厳しくも愛される。

  砲雷科:宇野うの 咲良さくら/一年/実戦訓練初参加。兄も国防海軍所属。内気な努力家。

  船務科:羽田はねだ 晴人はると/1年/明るく社交的で、通信時の発声訓練に自信あり。

  機械科:山本やまもと 皐月さつき/1年/元気娘。


 ・敎育艦『しごつ』(AOE-427)

   艦長:塚本つかもと けい/3年/性格:内向的で冷静、書類管理や戦術的支援に強い

  副長:佐伯さえき 瑞穂みずほ/3年/性格:穏やかで現場対応力に優れ、周囲を安心させる

  補給科:西田にしだ はる/1年/数字に強い。簿記検定を持つ補給の職人肌。

  衛星科:田ノたのうえ じゅん/1年/礼儀正しく先輩に懐く癒し系男子。


4月7日/1200

――潮風寮 講堂前


オリエンテーションが無事終了し、午前のプログラムを終えた生徒たちは、午後の艦艇見学に向けて準備を進めていた。


宇野咲良たちは、西田陽と合流するため講堂の外で待っていた。

そこへ陽が息を切らしながら走ってくる。陽の隣には可愛らしい男の子がいた。


「待たせてしまって、すいません。」


陽が申し訳なさそうに謝ると、山本皐月がすぐに聞いた。


「いいよいいよ、気にしないで。ところで隣にいる男の子って誰?」


陽は少し周囲を伺いつつ話し始める。


「皆さんがよろしければ、僕と同じ『しごつ』配属の田ノ上惇たのうえ じゅんをグループに入れてもらえないですか?」


田ノ上惇は一歩前に進み、静かに自己紹介した。


「『しごつ』の衛星科担当の田ノ上惇です。よろしくお願いします。」


惇の深々としたお辞儀に、羽田晴人がすぐに応じた。


「全然いいよ!俺は羽田晴人。そして横の二人が宇野咲良と山本皐月。こちらこそ、これからよろしくな!」


晴人に続いて、咲良と皐月も「よろしく」と笑顔で挨拶した。


「ありがとうございます。」


惇は嬉しそうに応えた。


「さて、次の艦艇見学って何時からだっけ?」


晴人が尋ねると、咲良が手元の行程表を確認して答えた。


「14時からだよ。」


皐月が続けて提案する。


「じゃあ、その間に昼ご飯食べちゃう?確か、特海の食堂で食べられる海鮮丼が新鮮で美味しいって有名だったはず。」


皐月は校内マップを広げながら食堂の場所を探していた。


「え!? 海鮮丼⁉︎それは食べるしかないでしょ!どこにある?」


その後、一行は食堂で昼ご飯を楽しみ、午後の艦艇見学に備えて第一訓練桟橋へ向かった。


1400

ーー第一訓練桟橋

艦艇見学は、班ごとに分けられて行われた。咲良たちは、β班としてまず『なち』の見学から始まった。


ーーまや型航洋教育艦『なち』CIC


案内役は、航海長の久賀谷圭。


「ほい、注目!ここが『なち』の心臓部。……っていっても、いきなり入れないからまず外観からな」


咲良たちが続く。


「まや型はイージス艦って言って、まあ簡単に言うと『なんでもできるけど、超忙しい艦』ってこと」


笑いながら説明する圭に、皐月が思わず聞き返す。


「その……本当に“撃つ”こともあるんですか?」


「あるよ」


圭は一拍置いて答えた。


「撃たないために、撃てる力が必要なんだ。少なくとも、俺らはそう教わってる」


その言葉に、一同が自然と足を止める。


ーーましゅう型航洋教育艦『しごつ』補給デッキ


こちらは副長・佐伯瑞穂が案内していた。


咲良たちが艦内補給通路を歩く。


「ここは補給デッキ。航海中に他艦へ物資を送る装備がずらっと並んでます」


「これが、艦の“胃袋”か……」


陽がぼそりと呟き、晴人が笑う。


「お前、面白い例えするな」


惇は、壁際の医療ロッカーに目を向けていた。


張り紙に書かれた「個人応急装備チェック表」に、自分の名前が書かれる未来を思い描く。

(ちゃんと、やれるのかな……)

その不安を見透かしたように、瑞穂が声をかけた。


「大丈夫。今は知らなくて当然。けど、知ろうとする意志があるなら、私たちがちゃんと教えるから」


惇は小さく頷いた。


ーーあさひ型航洋教育艦『ゆうぎり』前の桟橋


『ゆうぎり』は、艦長・神谷かみや 明良あきらが担当する。


桟橋を歩いていた新入生の前に、白の手袋をきっちりとはめた明良が立っていた。


「ようこそ、『ゆうぎり』へ。訓練艦とはいえ、これは実戦仕様の艦艇だ。外観に惚れてもらって結構。ただし――中身はもっと惚れてもらう」


ラッタルで乗艦していきながら、明良が紹介していく。


「この艦は、最新鋭のソナーシステムを備えていて対潜水艦戦に特化しているんだ。訓練では、第二訓練群として『しもつき』と一緒に行動をする」


艦内に足を踏み入れた瞬間、整然と並ぶ備品と床に走るラインに、咲良たちの背筋が伸びる。


「ここは“整っていて当然”。乱れはすなわち、事故を呼ぶ」


どこか美学すら感じさせる彼の説明に、咲良と皐月が無意識に姿勢を正していた。


ーーあきづき型航洋教育艦『しもつき」』艦橋


『しもつき』の案内は、副長・さかき 麻奈まなが担当する。


「うちは砲雷と管制が主力。……だけど、それ以前に“人間関係の砲雷”が火を吹くから、注意してね?」


そう言って微笑む真奈に、咲良たちは戸惑いながらも笑っていた。


『しもつき』は、独特の“明るさ”があった。廊下には励ましの言葉が貼られ、乗員たちも咲良たちに気さくに話しかける。


「堅苦しいのは『なち』さんに任せて、うちは“撃ち返せる柔軟さ”を鍛えるのよ」


そう言って案内されたCICの入口では、試作型の戦術表示システムに歓声が上がった。


ーーたいげい型潜水教育艦『つるぎさき』 上


『つるぎさき』の案内は、艦長・久世くぜ 誠一せいいちが担当する。


「……気圧変化に注意。船内では、耳鳴りや眩暈が起きる者もいる。遠慮せず申し出ること」


沈んだ声と共に案内されたのは、まるで洞窟のように狭く、金属音が響く艦内。


晴人が手を触れようとして、即座に制止される。


「触らないで!それは、“命を繋ぐ鉄”だ」


教育艦であっても、ここは“静かなる戦場”なのだと、咲良たちは言葉の重さに飲み込まれていた。


ーーてんりゅう型教育支援艦『かいもん』 艦橋


案内は、教官:航海長・成瀬なるせ 駿介しゅんすけ3等海佐(現役JDN軍人)が担当する。


「ここは“教育支援艦”。つまり、“教官艦”。この艦は、みんなのミスを最も厳しく採点する艦でもある」


訓練中に敵役を担うことの多い『かいもん』には、静かな緊張が満ちていた。


「ここに積まれた弾薬は訓練用だが、発射の圧力は本物と同じだ。お前たちが本気でなければ、こっちも容赦しない」


艦橋には戦闘記録の映像が再生されており、実戦さながらの砲撃演習に、咲良たちの表情が引き締まっていった。


ーーちよだ型教育支援艦『ほり』 廊下


案内は、教官:衛生長・たちばな 仁美ひとみ3等海佐(現役JDN医官)


「『つるぎさき』が沈んだら、私たちが救いに行きます」


淡々としたその言葉が、咲良たちに緊張を走らせた。


艦内には減圧室、緊急救護ベッド、医薬品保管庫などが並び、まさに“海の病院”。


「ここは、命を数える場所じゃない。“助けるために戦う”場所です」


橘教官の優しさと厳しさが同居するその視線に、咲良は思わず姿勢を正した。


『なち』や『しごつ』だけじゃない。

あの海の向こうで、互いに違う形の“盾”を担う艦と仲間たちが、確かに存在する。初めてそれを実感した日。彼らは少しだけ、自分の立つ場所に誇りを抱いたのだった。


艦艇見学も終わり無事に一日目の作業が終了。明日からは各艦での初回配置訓練が早速始まる。咲良たちは、明日に備えて潮風寮で休むことにした。


咲良と皐月は、人と陽、惇に別れを告げ、自分部屋へ行こうとするが何処かわからず、廊下を彷徨っていた。


「どうしたの?部屋わかる?」


そう話しかけて来たのは、二人の上級生だった。二人は、驚いて戸惑っていると、


「ごめんね、急に話しかけちゃって。びっくりするよね。私たち二年生で、二人と同じ『なち』所属の砲雷科・篠田しのだ 真雪まゆきです」


「補給科の八代やしろ 柚希ゆずきです。よろしくね」


「砲雷科の宇野 咲良と、機械科の山本 皐月です。よろしくお願いします」


二人の自己紹介に続いて、咲良と皐月も自己紹介をした。


「君たちが、咲良ちゃんと、皐月ちゃんか!会えて嬉しいよ」


真雪が嬉しそうにしているのを見て、二人がポカーンとしていると、


「一年生には、入学初日から半年間、いわゆる“対番”っていう世話役の二年生がつくんだ。特海での生活の基本的なことをいろいろ教える役目だよね。だから、咲良さんと皐月さんの対番が私たちなんだ! 」


と柚希が丁寧に説明してくれた。


「二人ともわからない事があればいつでも聞いてね。特に咲良ちゃんは同じ砲雷科なんだから」


真雪が優しく微笑みながらそう言うと、二人は少し緊張した様子で頷いた。


「はい、よろしくお願いします」


こうして咲良たちの特海での生活一日目が無事に終了した。


この静かな時間が、後に“自分たちの家族“と呼ぶようになる場所や人々との、最初の邂逅だった。


【次回予告】

無事に一日目が終了し、いよいよ明日から艦内訓練が始まる。

皆んなが緊張している中で、トラブルが発生?


初めまして、ねむりんと申します。


この物語は、昔から僕が「いつか読みたい」と思っていた、**学園×SF(しかも現代艦!)**という組み合わせを、思い切って自分で書いてみた作品です。


艦艇や海の描写については、できる限り調べて、現実に沿った内容になるよう心がけていますが、もし誤りや違和感のある部分があれば、感想などで教えていただけるととても助かります。


素人ながらも、真剣に、そして楽しくこの世界を描いています。

少しでも「面白い」と感じていただけたら、それだけで本当に嬉しいです。


これからもじっくり丁寧に物語を紡いでいきますので、どうぞよろしくお願いします!


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