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蒼海の黎明 ー青き盾の誓いー  作者: ねむりん
第一章:出会い〜出航まで〜
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第一話:青き海へ踏み出す日

かつて、世界は「抑止」の名の下に平和を保っていた。


第二次世界大戦を経て、国際社会は幾度となく危機に直面しながらも、冷戦とその終結、地域紛争と復興、そして人道支援による国際連携によって、表向きの秩序を保ち続けていた。


しかし、それも限界を迎えた。


2000年代初頭、とある国家の一方的な軍事侵攻を国連が止められなかったことを皮切りに、各地で戦火が再燃。


そして20XX年――。東アジアにも、かつてない規模の緊張が押し寄せた。


東亜連邦とうあれんぽう」──軍事政権の下、急速に力を伸ばし海洋進出を強める新興連合国家。


その存在が、専守防衛を掲げる日本の海洋安全保障に大きな影を落とす。

日本政府は、戦後一貫して維持してきた憲法第9条の理念を堅持しながらも、「自国の領土と民を自らの手で守る」という新たな方針を明確に打ち出した。


その実現のために、国防の両輪となる二つの新組織が創設された。

一つは、外洋の脅威に対応する「国防海軍(Japan Defense Navy/JDN)」。

もう一つは、沿岸警備と海上治安の維持を担う「沿岸警備隊(Japan Coast Guard/JCG)」。


そして、これらの未来を託される若者たちを育成する場として誕生したのが、

神奈川県・横須賀港に設置された**「横須賀海洋特別高等教育機関」(通称:特海)**である。


4月7日/0730

濃紺の制服を揺らす潮風の中、港に並ぶ教育艦が陽光を浴びていた。


護衛艦、補給艦、潜水艦、そして教育支援艦――いずれも現役の国防海軍艦を基にした実働仕様であり、訓練といえども緊張感を孕むその姿は、まさしく“未来の盾”と呼ぶにふさわしい。


訓練服姿の学生たちが、次々と荷物を抱えて正門に吸い込まれていく。


その中に、今年度から「まや型航洋教育艦がたこうようきょういくかん『なち』」への配属が決定した一人の少年がいた。


3年生の伊吹いぶき 遼介りょうすけ――。


成績優秀、規律正しく、全体の首席として知られる新三年生。

艦長という役職が与えられているものの、その額には一切の慢心はなかった。


荷物を肩に背負い、真新しい艦帽を手にして立ち止まった彼の視線の先には、灰色の巨体を誇るイージス艦『なち』の姿があった。


「……今年も変わらず、綺麗な艦影だな」


呟く声に応えるように、すぐ背後から声が響く。


「褒めるのはいいけど、そんな所で立ち止まられたら通行の邪魔になるのだけど、遼介」


ふと振り返ると、そこには同じく3年生で『なち』の副長に任命された、朝倉あさくら 天音あまねの姿があった。黒髪をまとめた清楚な佇まいと、整った制服の着こなし。彼女は遼介とは幼なじみであり、最大の理解者であり、時折最大の“口撃者”でもある。


「悪かった。久しぶりに見たら、ついな」


「ほんと、艦オタクなんだから……。あ、でもちょっと、気持ちはわかるかも」


そう言って、彼女もまた艦橋を見上げた。


「……この艦に、自分たちの指揮で、何十人もの仲間が乗るって考えると……やっぱり、緊張するね」


「その重みごと引き受けるのが俺たちの役目だ」


「だね。伊吹艦長、まずは寮に荷物置いてブリーフィングね」


二人は視線を交わし、歩き出す。


その先には、『なち』に続き、ましゅう型航洋教育艦『しごつ』、あさひ型『ゆうぎり』、あきづき型『しもつき 』、たいげい型潜水教育艦がたせんすいきょういくかん『つるぎさき』、そしててんりゅう型教育支援艦がたきょういくしえんかん『かいもん』ちよだ型敎育支援艦がたきょういくしえんかん『ほり』が並ぶ訓練桟橋が広がっていた。


《潮風寮》――

特海の学生寮は、男女混合ながらフロア分けと厳格なルールのもとで運営されていた。

8人部屋が基本であり、艦単位でブロックが分かれている。艦長・副長は希望すれば個室扱いとなる。

艦ごとの規律や雰囲気も異なり、たとえば『なち』は規律重視で堅苦しい一方、対照的に『しごつ』は仲間意識が強く、やや自由な空気が流れているという。


遼介と天音はまず、あまり使わない荷物が入ったキャリーケースを置きに私物倉庫に行きその後、各部屋に荷物を置いて貴重品だけを持って出てきた。


「遼介、ちゃんと全部持った?」


「あぁ、ブリーフィングにはタブレットがあれば大丈夫だよな?」


天音が聞くと、遼介は部屋の鍵を閉めながらそう答えた。


「うん。大丈夫だと思う」


「よし、じゃあ行くか」


二人は、寮を出て歩き始めた。


『なち』ーー

二人がラッタルを上って『なち』に乗艦していく。


「艦長、副長おはようございます」


船員が端によって敬礼をし挨拶をする。


「おはよう」「おはよう」


遼介と天音は全員に挨拶をかえす。


そのまま二人は、『なち』のブリーフィングルームに入ると、既に数名の生徒が着席していた。

砲雷長・藤村ふじむら しょう、船務長・三好みよし 椿つばき、航海長・久賀谷くがや けい、機械長・大隅おおすみ 沙月さつき――皆、同じ3年生で見知った顔だ。


艦内のブリーフィングルームは、艦橋直下に設けられた半円形の作戦会議室。

壁面には艦の構造図、演習海域マップ、現在の配属名簿、当日予定が並ぶホロパネルが設置されており、まるで現場の作戦指令所のようだ。


「艦長、副長、配属確認完了しました」


椿が立ち上がって報告する。普段は無表情な彼女も、今だけはわずかに笑みを見せた。


「今日から、再スタートですね。新しい一年生も含めて」


「それぞれの役目を果たして、いい艦にしていこう」


遼介が言うと、圭が軽く手を挙げた。


「じゃ、俺はまず新人歓迎のために、艦内案内ツアーの準備を始めるとするよ」


「それ、誰の許可得てやる気満々なのよ……」


天音が呆れたように呟く中、部屋にはささやかな笑いが広がった。


こうして、新たな航海が始まろうとしていた。

訓練とはいえ、実際の艦に乗り、多くの命を預かる立場になる。


だが今は、誰も知らない。

この航海が、やがて“実戦”という名の現実と直面する未来への第一歩になることを――。


【次回予告】

新たな仲間たちが続々と特海にやってくる。

だが、その中に異彩を放つ新入生の姿が……?


初めまして、ねむりんと申します。


この物語は、昔から僕が「いつか読みたい」と思っていた、**学園×SF(しかも現代艦!)**という組み合わせを、思い切って自分で書いてみた作品です。


艦艇や海の描写については、できる限り調べて、現実に沿った内容になるよう心がけていますが、もし誤りや違和感のある部分があれば、感想などで教えていただけるととても助かります。


素人ながらも、真剣に、そして楽しくこの世界を描いています。

少しでも「面白い」と感じていただけたら、それだけで本当に嬉しいです。


これからもじっくり丁寧に物語を紡いでいきますので、どうぞよろしくお願いします!

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