1話 癒えない傷
ーここは、亜人など、私たちの世界で架空とされている生物と、人間が共存している世界。
言うても、23年前に異世界・人間戦争が起こり、完敗した亜人などの社会的地位は低い。
この亜人や悪魔などを異世界物と呼んでいる。異世界物は、23年前にほとんどが奴隷になったり、処刑されたりした。がしかし、中には、高額な闇アナグラムと整形を経て人間社会に溶け込む異世界物もいると言われている。
警察や政府は、この異世界物を抹消する事を近年の最重要目的とし、市民の安全を守るために奮闘しているが、今まで異世界物を発見した事例はない。
異世界物は、人間には危ない仕事を押し付けられ、搾取され、人間は人生を謳歌している。
この物語は、そんな世界の裏側である、地獄での物語。
ー小鳥が大木の上でさえずる孟春の季節。
高校に入学したての陣野 清忠は空き地に寝そべった。
「ぬわぁぁぁもう無理!!!」
体を伸ばしながら枯れた声で叫んだ。
6限目は体育。さらには2時間かけて電車で田舎まで帰ってきたので、もうクタクタだ。
清忠には同じ高校に通う地元の友人が二人いる。
「数学の宿題多すぎやろ...」
そう言い放ち、しゃがみこんだ北海 道正。謎に関西弁を使っている。おそらくエセ。そして
「はいはい、草ついちゃうよ?」
と言い呆れ顔をした甲斐音寺 咲菜だ。カバンに清忠の手編みの小人形がついている。三人は地元の公立小中学校を一緒に卒業した、いわゆる親友だ。
「冬も終わって、日がだいぶ伸びたな。」
「せやなぁ、でもそろそろ帰らんとやばいぞ!」
「二人とものんきなこと言いすぎ!私先帰るよ?」
「ちょ待てよ」
「...清忠が言うとクソダサいからやめて」
「咲菜ひどい!」
「ほらはよ立てってw」
そんな会話をしているうちに日はどんどん沈んでいった。
「二人とももう知らない!」
「あちゃぁ...怒ってしもたな...」
咲菜は先に帰ってしまった。
三人は...もちろん、親に怒られた。
ー翌日ー
「おい清忠~!咲菜はもう来たか?」
「あいつ、先に行ってるみたいだよ。ここにいないしね。」
「部活か!熱心やなぁ」
清忠たちは乗り込んだ。朝6:08の電車である。
異世界物の駅員。今日も生気がなく、尖った目つきでこちらを見る。ICカードの音が清忠の脳を刺激し、頭痛がする。昨日遅くまでTVを見ていたせいか...。
そんなことを思っている清忠の肩を道正がたたいた。
「体調、悪いんちゃうか?顔色悪いで」
「少し頭が痛いだけだから大丈夫だよ」
「ならええけど。てか、こんな鏡、駅にあったか?」
そこには紅い縁の鏡がたたずんでいた。
「なんか胸騒ぎがするね...。」
高校の教室に着くと、ほとんど全員がそろっていた。8:40に朝のホームルームがあるが、二人がいつも登校するのは8:30ごろだ。
「おはよう、みんな」
「おはよう!どうしたの?つれない顔して!」
そう言ったのは委員長の古野柳 真麻紗である。頭の切れる大のアニメ好きだ。
「あれ、咲菜は今日休みかな?」
「え、来てないの?」
すると、担任の逢瀬 玲乃が大慌てで走ってきた。
「ああ、ちょうどよかった!清忠さんに道正さん!昨日の帰りに怪しいことはありませんでしたか!?」
「ないで」
すると朝菜は清忠と道正に小声で恐ろしいことを告げた。
「いい?落ち着いて聞きなさい。咲菜さんが行方不明よ。」
「は?」
「は?は?は?急展開すぎんか?アニメかなんかなん?」
「流石に冗談ですよね」
「いいえ」
「ふ、ふざけんじゃねぇよ!意味わからんやろが!」
二人は玲乃を睨みつけた。意味がわからないから仕方ない。
その日の授業はすべて気力をなくしたために、ほとんど集中ができなかった。
帰路につく二人は、まるでゾンビのように、目に光がなかった。
「しかしなんで咲菜の両親は咲菜がいないことを昨日言わなかったんだよ。」
「ほんとやで、原因親なんちゃうか」
「縁起でもないこと言うなよ」
「いた」
「いた...?いたのか!?」
「痛ー!!!!」
「なんだどうした!?」
「どっかのガキがこの俺に野球ボールを当てよった!」
「な、なんだよ。あっちみたいだ、返しに行こう」
ボールが来た方向に向かって歩いていると、そこには野球をする少年たちがいた。友達なのかわからないが、公園の隅では異世界物が恨めしそうに少年たちを見つめている。
「おいガキ!返しに来てやったで!」
「あ...りがとう?」
「なんやその微妙な反応は!」
「ご、ごめんなさい!!!」
すると別方向で清忠が叫んだ。
「おおおおおおおおおおい!道正!!!!!!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そこには口元と腕を焼かれた事のみが確認できる、下半身と上半身が分離している死体が投げ捨てられていた。その死体は、もう原型を十止めていなかった。ただの肉塊のようとも表現できる。
その横に小人形が転がっていた。清忠の手編みの。
「お、おい、これって、夢、なんだ、よ、な、?」
「あ、あ、あぁぁそ、そうさ、き、っとゆ、夢なんだ」
パトカーのサイレンが耳障りにも吠えている。
二人にはもう泣く気力も、絶望する気力すらも残っていなかった。
四人の警官はそれを見るなり目を伏せた。そして二人と少し話をした。
「この子は、友達かい?」
「そうです」
「お名前と住所を教えてくれる?」
「甲斐音寺咲菜です。住所は近衛町1-8-3です...」
「ありがとう。ここは少し刺激が強すぎるから、近くの駅の取調べ室まで行こう。決して君たちを疑っているわけではないからね。」
二人は唇を強くかみしめ、警官についていった。警官や国家公務員などは給料が高く付くため、人間が仕事を行うのである。
「もうすぐ着くからね。」
その刹那。紅い縁の鏡が突然光りだした。警官たちに鏡の存在は認知されていないようだ。
「うわ!なんだこれ!」
「まじで何なん今日!小説かなんかかよ!」
そのまま二人は鏡に吸い込まれてしまった。その時、咲菜の行方、そしてこの世界のルールというか、秩序というべきか、理というべきかを、二人はしっかりと理解した。
〜???〜
「うわ!」
「ここは...どこや...」
転生物のアニメでしか見ないような景色がふたりのもとに広がった。
そこへ、いかにもな奴が現れた。
「おやおや、まぁた閻魔のやつは人間を召還したのか。」
「だれや!」
「俺は地獄の検門係、ゼーライだ。」
「じ、地獄?」
「わかったゼーライ。元の世界に戻せ。」
「ほう、呼び捨てか?せっかく親切にしてやろうとしたのに。」
「俺らはやることあんねん!探すんや。まだ死んでないと信じて、俺らの親友を!」
「おぉ怖い。異世界といえば最近、サナとかいう女を閻魔のやつが召還してたな。」
二人は一瞬、震えた。
「まてまてまて。なんて言った!」
「だから最近...」
「その女と一緒に元の世界に返さんかい!」
「残念。そんなことができるのは閻魔だけさ。」
「そんな...。どうにかならないのか?」
「閻魔に頼み込むしかないさ。」
「っざけんなっちゅうねん!理不尽やろが!いったいなんのために!」
「知るかそんなこと。閻魔の気まぐれ。それだけだよ。」
あまりの理由に二人はまた強く唇をかみしめた。
「納得できない。何としてでも戻ってやる!」
「閻魔と交渉する。どこにいるんだ!」
「おいおいやめとけ!無理だ!」
「頼むって!このまま理不尽に潰されるのは辛いんだよ。」
「わかった。あの宮廷だ。でも、何があるかわからない。なんかあったら、俺を頼れ。」
二人は決意を決め、閻魔のいる宮廷に向かった。
〜宮廷?〜
「なんだここ!」
思わず声をあげてしまった。なにせ清忠たちのイメージした『宮廷』とはかけ離れた存在だったのだ。
外壁は紅に染まり、庭に入ると奴隷たちが庭の手入れや掃除、雑用を強いられている。異世界物を思い出す。どこの世界にも、このような処遇のものがある、とても悲しくなった。
城内に入る門を探していると、
「何やつ!とまれ!」
門番のような悪魔に足止めを食らった。武器はさすまたのようで、炎が噴き出ている。
「咲菜という人物を返していただくために足を運びました。閻魔さんとお話をさせて頂けませんか?」
「無理だ。立ち去れ。」
その時、清忠が道正に小声で言った。
「なあ、こういう転生?転移?モノって何かしらの能力がつきものだよな?」
「馬鹿か!」
「やってみるか?」
「俺は知らんよ?」
清忠は何か起これとばかりに手を動かした。
「な、なにをしている!刺すぞ!」
その時清忠の手にさすまたが刺さった。血が噴き出た。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
すると一気にあたり一面に竜巻が発生した。
「な、なに!怪だ!怪人め!!!ひっとらえよ!」
向かってきた悪魔数名を竜巻が吹き飛ばした。
「なにしとん!交渉も何もこれじゃあ宣戦布告やんけ!」
「ごめんってかちょっとかすっただけとはいえ痛いな...」
そのとき、門がとんでもない威力で開いた。思わずその衝撃で後ろに飛ばされた。
「ぬあっ!」
「おい、何暴れとんじゃボケナス、ここは俺の領土だぞ。」
間違いなくこいつは閻魔だ。そう思ったのもつかの間、閻魔のこぶしがもう前にあった。
「うわっ!!!」
「何しに来たか言え。」
「咲菜と俺たちをもとの世界に戻してほしいんだ!」
「は?無理。」
「そこを何とか!」
「あれは俺の嫁だ。」
閻魔は咲菜を、嫁にするつもりのようだ。
もちろん道正は黙っていない。
「は?何ぬかしとんじゃゴミ!許さへんぞ!」
「むかつくやつだ。牢獄に入れてくれるわ!ゴミはゴミ箱に捨てておけ、キャリヌー。」
「承知。」
閻魔はキャリヌーという部下に二人を牢獄に入れるように指示した。
交渉の余地はないようだ。二人は間もなく牢獄に入れられた。
〜牢獄〜
牢獄は地獄のようだ。囚人同士は大声で罵倒しあい、看守は暴力を存分にふるっていた。
「なぁどうするよ。」
「交渉の余地ゼロや。とにかく脱獄せな...。あの技やってくれへんか。」
「...できない。どうやったかわからないんだ。」
「そうか。そんな気はしてたわ。」
その時隣の囚人が声をかけてきた。
「見ない顔だナ!どうしたんダ?」
「閻魔の機嫌を損ねた。」
「おんなじダ。俺はネーク。よろしくナ!」
他愛もない会話を1時間ほどしたであろうか。すっかり三人は仲良くなった。
その時だった。後ろからものすごい轟音が響いた。
「だからやめとけ言うたやろ」
「ゼーライ!」
「にげるぞ!」
二人はゼーライとともに森に逃げ出した。そしてなぜかネークがついてきた。そう、なぜかね。
「ネーク、なんで来たんだよ。」
「閻魔を打ち取りたいんだロ?協力するゼ!なんせお前らは怪人だしナ!」
「怪人ってあいつも言ってたな...なんなんだ?ゼーライ。」
「あの鏡は人を吸うときに大量の魔力を発生させるんだ。そのために吸われた人に何らかの能力をもたらすんだ。その能力を怪というんだ。それを使用する人は怪人と呼ばれている。見たところ君たちは...」
「おれたちは!?」
「自然の怪と時の怪を持っているみたいだな!」
「清忠が自然の怪で俺が時の怪!強そうだな!」
「ああ、でも使いこなすのは困難だ。各地にいる怪師という人たちに修行をつけてもらう必要がある。」
「閻魔を倒すためにはやるしかないってことか!」
「ま、今日は飯食って寝ようヤ!」
「せやな!もう遅いしな!」
「ほんとになんでいるんだよこいつ…。」
一向は、眠りについた。
ー一方閻魔ー
「逃げただと?むかつく野郎だ、ひっとらえろ。」
「承知しました。閻魔殿。」
こうして咲菜を救うため、二人の異世界冒険譚が幕を開けた。忍びよる閻魔の刺客。二人の物語はどこへ向かうのか。
そして運命の歯車が動き出す。
閻魔を必ず討つという鋼の意思とともに。
最後までの閲覧感謝申し上げます!
もし本作品を楽しんでいただけましたでしょうか?
本作の続きがみたい !
面白い!
お勧めしたい!
と思っていただけましたら、☆☆☆☆☆より評価をお願いいたします!
率直な感想でもちろんかまいません!
ブックマークも頂けるととてもうれしいです!
ありがとうございました!