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お仕事1日目 昼の部

今回は設定の説明パートで、退屈な説明台詞が多いですが、事前にご了承下さい。

「王子。おはようございます。今日も好き嫌いせずに朝食を摂られましたか?」

「爺や、カイン、おはよう。うん、好き嫌いしないで朝ごはん食べたよ」


 王城に着くと既に王子は朝食を終えて着替えていた。


「今日からよろしくお願いいたしますね、王子」

「よろしく!」


 早速俺に抱きついてきた王子。可愛い。


「それではお勉強の時間になりますので、勉強部屋に行きますよ」


 ランドルフさんに着いて行くことしばらく。王城の一室に到着。


「ここが勉強部屋ですか。教師の方はもう既に?」

「既にいらっしゃっております」


 ということで3人で入室。

 勉強部屋は両脇の壁に本棚があり、正面には大きな黒板がある。

 そして黒板の前に一人の老人男性が立っていた。


「王子、おはようございます。本日もよろしくお願いいたします」


 老人男性は王子に挨拶をすると、ランドルフさんにも会釈し、俺を見る。


「おや、何故そなたが?」


 ん?知り合いか?はて、こんなお爺さん知り合いにいたかな?


「カイン、先生と知り合い?」

「カインさん、ゴルドイン様とお知り合いで?」


 王子とランドルフさんが尋ねてくるが心当たりがない。


 って、ゴルドイン!?


「ゴルドインってあのゴルドイン?《ライブラリー》の!?」

「ホッホッ、懐かしい二つ名ですな。ですが、それは冒険者時代の何十年も前のもの。今はレグルス王国王立魔術学院学院長という仰々しい肩書きですので、よろしくお願いいたします」


 おいおい、めっちゃ大物じゃん!冒険者界隈じゃ、行ける伝説だぞ?元Sランク冒険者の魔術師で全属性に適正を持った偉人。全ての魔術を行使出来て、新たな魔術の開発に取り組んでいる重要人物だ。


「凄い人に教えて貰ってるんだな王子。・・・ん?でも俺はゴルドインさんと顔見知りではないけど?」

「呼び捨てで構わんよ。あとワシが一方的にそなたを知っておるだけよ」

「へ?俺なんかやっちゃいました?」

「ホッホッ。やらかしたわけじゃないぞ。以前うちの学院の修繕工事があったじゃろ?その時に資材の搬入作業でそなたを見知ったのじゃよ」


 あー、少し前にそんな依頼あったっけ。枠組みやら足場板なんかを運ぶの手伝った覚えがある。


「して何故そなたがあるんじゃ?」


 ランドルフさんがゴルドインさんに経緯を説明する。


「なるほど。王子の遊び相手ですか。王子?良い人材を手に入れましたな」

「うん。僕カインの事大好きなんだ!」


 王子愛らしい。


「ねー、カイン?」

「なんです?王子」

「先生の《ライブラリー》とかカインの《百本腕》とかって何?」

「それは二つ名ですよ王子」

「二つ名?」


 俺が説明しようとすると、ゴルドインさんがパンッと拍手を打つ。


「ホッホッ。そこからはワシが授業をしましょうかの」


 おっと、ゴルドインさんの仕事を奪うところだった。


 王子が勉強机に着き、ランドルフさんと俺は王子の勉強机の後ろにおかれたソファーに腰を降ろす。


「王子お復習をしましょう。ランクとはなんでしょうか?」

「はい。ランクとはこの世界の指標です。ランクは基本的に5段階あります。SABCDです。後例外だけどSの上にEがあります。これはDの下のEではなくて、特別や強力等のEXTRAの頭文字のEです」

「よろしい」


 王子ちゃんと勉強してて偉い!


「ではランクの良し悪しはどうでしょう?」

「はい。ランクの良いところは分相応なところです。規則では仮にランクBの冒険者はランクBの商店でしか買い物が出来ません。これは高ランクの冒険者が低ランクの商店で、買い占めをした際に低ランクの冒険者が困ってしまうからです。悪いところは身分制度と勘違いされてしまうところだと思います。高ランクの方が低ランクの方を蔑む悪習が未だに地方にはあるときいています」


 そうなんです。この世界はランクで区分されているんです。新人冒険者のランクは最低のDから。利用できる商店も飯屋も宿屋もランクDのところまで。しかし、ランクDだからと粗悪なわけではなく、その分安い料金で買い物や食事、寝泊まりが出来るのだ。反対に高ランクの冒険者は高級な物しか扱えない商店や高級な飯屋、宿屋しか利用できない。また高ランク冒険者が低ランク依頼を総取りして低ランク冒険者に稼ぎがいかないことを防ぐ意味合いもある。反対に低ランク冒険者が無謀な挑戦をして命を落とさないようにする意味合いもある。年に一回の査定に応募して評価されればランク昇格。でも敢えて低ランクのままでいて新人冒険者や低ランク商人の手助けを喜びにする人たちもいる。もちろん、少なからず問題のあるランクの人たちもいるけどね。でも、確かに地方ではランク差別が残るところもあるからなぁ。


「素晴らしい。では今回の教材は冒険者という者達についてお勉強しましょう」

「カインの事ですか?」

「ホッホッ。それも含まれておりますよ」


 王子、嬉しそうにキラキラと笑っちゃって。愛おしい。


「では先程でた単語。二つ名についてお教えしましょう。二つ名とは一部の冒険者に付けられる呼び名です。畏敬の念を込められております。ワシの《ライブラリー》はワシの魔術的能力から来るものです。二つ名は基本的にランクB以上になると周りが勝手に呼びはじめて、それが定着するものが殆どです。勇者や聖女は二つ名ではなく、生まれながらにして与えられている物ですので、間違えないように」

「分かりました。じゃあカインはランクB以上の冒険者なんだね!」


 王子は俺を振り返り尊敬の眼差しを向ける。


「それは違いますよ王子。俺の《百本腕》は呼び名ではありますが、二つ名ではありません。」

「ん?なんで?」

「だって俺はランクCの冒険者ですので」

「へ?ランク降格したの?」

「いえ、ここ10年はずっとランクCですよ」

「??」


 王子はわけが分からないといった感じで首を傾げる。


「ホッホッ。王子、そこの《百本腕》は確かにランクCですぞ」

「どういう事ですか先生?」

「まず冒険者のランクについて大まかに説明しましょう。冒険者のランクはDで新人。Cで半人前。Bで1人前。Aで達人。Sで怪物。Eは規格外。と認識されております。D10人分がC1人分。C20人分がB1人分。ここまでは比較的昇格は楽ですな。そこからB50人分がA1人分。A50人分がS1人分。高ランクは昇格も難しいのですよ。大体1人前と評価されるBランクになると自然と高難易度の依頼や魔獣の討伐などをこなされて、自然と周りが二つ名を付けてきます。功績に対する尊敬の意味も込めて」

「じゃあカインはなんでランクCなのに二つ名があるの?」

「それは《百本腕》自身に説明願いましょうか」


 ゴルドインさんと王子、それからランドルフさんも俺を見てくるので、俺は自身の二つ名もどきについて説明する。


「王子。確かに《百本腕》というのは俺の冒険者としての功績に対するものではあります。功績といっても王都の住人達の悩み事を解決して回ってるだけですけど」

「悩み事って?」

「落とし物探しやら、道案内、薬草採取等の所謂新人でも誰でもできる依頼ですね」

「立派な功績じゃないの?」

「冒険者が何故冒険者と言われるのか。それは魔獣を討伐して素材を入手したり、ダンジョンを踏破して金銀財宝を入手したり。山あり谷ありの稼業を冒険するからなのですよ。それが冒険者の掲げる理念だとギルドは言っています。しかし、俺の場合はダンジョンに挑むどころか魔獣討伐に対しても積極的ではありません。必要に迫られればやりますが、基本自分は王都の住人のお手伝いをしているだけですので功績と言うには大げさなんですよ」

「じゃあなんで《百本腕》なんて二つ名が付いたの?」

「それは簡単なことです。俺が腕百本分の仕事をするからなのですよ」


 えっへん、とばかりに胸を反らす。


「腕百本分って?」

「ま、簡潔に言うなら1日にめちゃくちゃ大量の依頼量をこなしているからですよ」

「どれくらい?」

「とんでもない量です。王都に住む人間は10万人超。1日にギルドに依頼される量は少なく見積もっても5000件は越えます。もちろん時期によって増減はしますが。しかし、王都のギルドに所属してる冒険者は約1000人。依頼に対しての冒険者の量の圧倒的人不足。もちろん、依頼にもランクはあるので全てが不足というわけではないですが。低ランク、具体的にはDとCの依頼の割合が多いです。住人が多ければダンジョンや魔獣討伐より、誰でもできるお手伝いのような低ランク依頼が8割を占めます。しかし、王都のギルドの冒険者は皆さん優秀なので7割はB以上の高ランク冒険者が在籍していますが、そうなると凡そ4000件の低ランク依頼を請け負うのが凡そ300人しかいない低ランク冒険者達。1日に片付けなきゃいけない依頼が1人辺り約10件強。しかもその300人が常時稼働しているわけではないので、1人に宛てられる仕事量がさらに増えます。いくら低ランクの簡単な依頼でも激務です。ここまでは大丈夫ですか?」

「うん大丈夫」

「良かった。それで俺の場合は1日に少ない時で150件、多くて300件こなしてました」

「「「は?」」」


 お三方が間抜けな声を出す。王子はしたないですよ?


「そうやって住人の為に冒険そっちのけで仕事してたら《百本腕》なんて呼び名が付いたんですよ。まあこれがCランクなのに二つ名もどきが付いている経緯です。畏敬の念というよりはお礼の意味が強いと思いますよ」


 俺が説明を終えると、部屋内に静寂が訪れ、そしてバァン!と勢い良く部屋の扉が開けられる。

 不審者だと思い臨戦体勢に入った俺は不届き者を見るが、そこに不審者はおらず、立っていたのは国王夫妻だった。


「ランドルフ。至急ギルドに行って現状を確認して来てくれ。また、王都にお触れをだす。むやみやたらと依頼を出すなとな。急を要する件以外は自力で片付けるようにと。なんでもかんでも他人に頼るな、とな」

「畏まりました。急ぎギルドに向かいます」


 ランドルフさんはそう言って退室した。

 王子は俺にギューと抱きついてきた。

 ゴルドインさんはフムフムと何やら思考している。

 そして国王夫妻がなんと俺に頭を下げてきた。


「へ、陛下!?」

「すまなかった。そして感謝する。王都の皆が健やかに過ごせるのもカインのおかげだ」

「いや、気にしないで下さいよ。それ覚悟で冒険者になったんですから。それに俺以外の低ランク冒険者達も頑張ってるんですから、労いを俺だけが受けるわけにはいきませんよ」

「カイン、頑張りやさんなんだね」

「王子、ありがとうございます」


 国王親子が落ち着くのを待って、気になったことを陛下に尋ねる。


「王族とあろう方が盗み聞きですか?」

「カインの仕事初日だからな。気になったのだ」


 ハハハと笑う国王陛下だったのだ。

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