お仕事1日目 朝の部
カーテンから差し込む朝日で目が覚めた俺は、マジックバッグから取り出した服に着替え、一通りの準備をしてそのまま静かに寮を出る。
まだ若干の暗さが残る城下町、王都へと繰り出す。
欠伸混じりの門番に挨拶をして、まず最初に向かうのは洗濯屋。
火水風魔法が使える人間が営むそこは早朝からやっている数少ない店だ。
「おばちゃん、今日もお願い」
俺は受付のおばちゃんに依頼の衣類をマジックバッグから取り出して渡す。
洗濯屋に預け物をした後は朝市が催される広場へと向かう。
未だに準備中なのだが、いつもお世話になっているお礼も兼ねて屋台の設置を手伝う。と言っても汎用魔法で荷物を配置するだけなのだが。
「カインちゃん。いつもありがとうねぇ」
「カインの兄貴、今日は良い肉入ってるよ!」
「《百本腕》のお兄さん。うちの娘貰ってくれないかい?」
八百屋のお婆ちゃん、肉屋の一人息子、花屋の女将さん達が明るく迎えてくれる。
花屋の女将さん、あんたのところの娘さんまだ乳幼児でしょ?
俺の手伝いもあってか早めに設営の終わった朝市で食料を買い込む。マジックバッグ様々。
そして王城に戻り寮へと帰る。
「おや、随分早起きなんだねアンタ」
帰ると寮長のおばちゃんが寮の庭を掃き掃除していた。
「おはようございます。早起きなのは癖ですね。早起きして洗濯屋に服を預けたいので」
「洗濯屋?アンタうちの洗濯所に棚ないのかい?」
「洗濯所?」
「おや知らんのかい?」
「はい」
俺の返答を聞くと、寮長は着いておいでと手招きする。
俺は寮長に着いていくと、洗濯所と呼ばれる所に案内される。
「ここが洗濯所。男女別々だから気をつけてね。アンタの棚を用意しとくから明日からここに衣服を入れておきな。うちの洗濯士がやっといてくれるよ。寝る前に回収も忘れずにね」
「へー便利ですね。支払いはどうするんです?」
「天引きじゃないのかい?」
「俺は寝床だけ借りてるんで、それ以外は自腹なんですよ」
「ならアタシに銅貨30枚渡しといてくれ。アタシから洗濯士に渡すからさ」
「分かりました。それとこの後食堂と厨房借りれます?食事も自前でやらないと」
「んなもん旦那に銅貨50枚あげりゃ作ってくれるよ。あ、旦那ってのは料理長の事なんだけどね」
「それも了解しました。色々教えてくれてありがとうございます」
「あいよ。それじゃアタシは掃除に戻るよ」
寮長はそう言って庭へと戻っていった。
俺はそのまま食堂、厨房へと向かう。
食堂では既に何人か執事やメイドが朝食をとっていた。
「すみません。料理長はいらっしゃいますか?」
厨房では10人の料理人が作業していた。その内の1人、恰幅の良いおじさんが俺に近づいてくる。
「ワシが料理長だが、どうかしたかい?」
俺は事情を説明した。
「金さえ払ってくれれば構いやしないさ。料理の内容は食堂の受付のところにあるからそこから選んでくれ」
「分かりました。それとなんですけど、まさか料理してくれるとは思ってなかったので、色々買い込んだ物があるんですけど受け取って貰えますか?」
俺はマジックバッグを料理長に見せる。
「良いのかい?アンタの自前だろ?貰えるなら貰うが、買い取りは出来ねーぞ?」
「構いません。いれといても駄目にするだけなんで」
「あい分かった。倉庫に案内するからそこで中身を出してくれ」
俺は料理長に案内されて倉庫に入る。
倉庫にはいくつも棚があって壮観だ。
倉庫の一角に大きな台があり、料理長はそこに俺を連れていく。
「この台に出してくれ」
俺は頷くと、マジックバッグの中身の食材達を広げる。
マジックバッグはそれなりに物は入るが、中身の物の時間が停まるわけじゃない。食材等の生物は傷むし、ポーション等の薬品も劣化する。
「おいおい、アンタ冒険者だったよな?それなりに魔獣も狩ってたのかい?なかなか見ない物まであるな!」
台に出された野菜や魚類や調味料に魔獣の食材を見て料理長は嬉しそうに言う。
「入手した良い食材も俺には宝の持ち腐れなんですよ。普段は飯屋にお裾分けするしか使い道が無かったんです」
「料理はからっきしか?」
「最低限の料理は出来ますけど、プロには負けます」
「そうかい。それじゃありがたく貰っとくよ。この後朝飯食ってくんだろ?今銅貨を払うかい?」
「そうですね。ついでに今渡しときます」
俺は料理長に銅貨を渡して食堂に戻る。
受付のお姉さんに欲しい朝食の内容を伝えて、しばらくして朝食を受け取ると食堂の長テーブルに座って食事を始める。ちなみに、朝食の内容はハンバーグとパンと野菜スープだ。
「おはようございます。カインさん」
朝食を摂っていると、ランドルフさんが声をかけてきた。
見ると丁度ランドルフさんも朝食時のようだ。内容は焼き魚とサラダと白米と味噌汁だ。
「おはようございます。改めて今日からよろしくお願いいたします」
「畏まらなくて大丈夫ですよ。気楽に気楽に。この後私と一緒に王子を迎えに行きましょう」
「分かりました」
それから朝食を終えた俺とランドルフさんは王城へと向かうのだった。