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プロローグ 隻腕の男

一応連載ものではあります。筆も遅いため、事前にご了承下さい。ファンタジーものではありますが、ハートフルに努めます。

拙い文ではありますが、温かい目で読んでいただけると幸いです

「だーから!僕はお前に城に来て貰いたいの!なんで僕のお願いが聞けないんだ!?」


 目線の下。まだ10歳にも満たない少年が地団駄を踏んでいる。傍では世話役のお爺さん執事が困り果てている。

 俺は屈んで少年の目線に顔を合わせて愛おしそうに頭を撫でる。綺麗な銀髪がサラサラとなびく。


「王子。俺はしがない冒険者です。俺のような人間は城に入れるような振る舞いも肩書きもありません。俺なんかを招き入れては要らぬ敵を作りかねません。そうなってはお父上、国王陛下が困ってしまいます」

「うるさい!父上は関係ない!」


 アルバート王子はとうとう泣き出してしまった。

 冒険者の仕事の一環で王子の護衛をした際に色々面倒を見たら懐かれてしまった。


「王子。カイン様のお仕事は遠征先から城へと護送です。仕事が終われば帰るのが道理。それにそろそろお勉強のお時間です。さあ、お部屋へ戻りましょう?」

「爺やは黙ってて!」


 トホホといった感じで執事のランドルフさんが「どうしましょう?」と俺を見てくる。

 こっちこそ助け船が欲しいんだけど?


「城の前でなにを騒いでいるのだ?」


 そこへいかにも厳粛といった声音の男性が女性と同伴で現れる。

 その御仁を見るや俺は頭を垂れる。

 現れた男女の正体はこの国の頂点と妃。バルザーク・レグルス国王陛下とマリアンヌ女王陛下。

 国王陛下は頭を垂れる俺に「良い、楽にしなさい」と告げる。

 俺は姿勢を正して国王陛下に事情を説明する。

 すると国王陛下と女王陛下は何故か笑い出した。


「何が可笑しいのでしょうか?」


 俺はたまらず国王陛下に尋ねる。


「いやなに貴殿でも幼子の涙には弱いのだな、と思っての」

「笑い事ではございません。親なのですから、ご自身の跡継ぎをあやして貰いたいのですが?」


 俺が苦言を呈すると、女王陛下がすかさず王子を抱き上げる。

 王子は目元を赤く腫らし、しゃっくりをしている。


「アルバート。王子がそう泣くものではありません」

「だってお母様。僕はカインを召し抱えたいんだもん」

「それは専属の護衛ということですか?」

「そう!僕だけの兵士になって欲しいの!」

「だそうですよ、あなた?」


 女王陛下が国王陛下にバトンタッチ。


「だそうだぞ、カイン殿?」


 間髪いれずに俺へ丸投げ。


「正直有難い申し出ではあります。冒険者なんてのはいつ死んでもおかしくない職業ですし、収入もまちまち。結婚相談所に行けば渋い顔をされるものです」

「では断る理由もあるまい。アルバートの護衛になれば身の回りの不安も無くなろう?」

「とはいえ自分は学の無い無頼漢。せいぜいが魔物相手か要人の盾になるしか取り柄の無い男です。そんな人間が城にいれば悪評も立ちましょう?」


 国王陛下は癖なのか顎を撫でて考える素振りをする。後ろではずっと王子が此方を見ていて居たたまれない。


「それに自分はこんなですから」


 俺は本来あるはずの物が無い空虚な左側を右手で指差す。昔魔物に食われて無くなってしまった左腕。通る物が無く風に靡く上着の袖。

 俺は片腕、隻腕なのだ。


「アルバート。お前はカイン殿に家庭教師になって欲しいのか?」


 王子は首を横に降る。


「ではランドルフや他のメイドのように城の手伝いになって欲しいのか?」


 王子はまたもや首を横に降る。


「ではお前はカイン殿に危なくなったときは剣となり盾となって欲しいのか?」


 王子は首を横に降らず、力強く首を縦に降る。


「あと遊んで欲しい」


 少し涙声で訴える王子。


「ではカイン殿。貴殿の心配事はなにもない。学も必要無ければ貴族のような振る舞いもいらぬ。悪評など渇いた空っ風と思えば良い」

「国王陛下?」

「王命である。冒険者カイン。いや《百本腕》のカインよ。貴殿は明日より我が息子アルバートの専属の護衛兼遊び相手である。大いに励むように」

「へ、陛下!?」

「父上!」


 王子は母親の腕から飛び出し、願いを叶えてくれた父親へ抱きつく。


「私も一人の親だ。可愛い一人息子の些細な願い一つ、叶えてやりたいというものだ」

「父上大好き!」


 王子は一層強く国王陛下に抱きつく。

 俺はというと事態が呑み込めずにいる。隻腕の庶民の冒険者の俺が王子の専属?夢でも見ているのか?


「どうした?死ぬ可能性が極々低く、給金も安定し、結婚相談所に良い顔ができ、仕事内容も簡単な職業にありつけたのだぞ?嬉しそうにしてはどうだ?」


 国王陛下は意地悪そうな笑みを浮かべている。


「王命ですか」

「うむ。王命である」


 俺は吹っ切れたように王子を見つめる。


「不肖冒険者カイン。明日よりアルバート王子殿下の専属となります。どうぞよろしくお願いいたします!」


 王子は涙をゴシゴシと腕で擦り、満面の笑みを浮かべて「こちらこそ!」と元気に返事をした。

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