第二話 変装
「先生、怪しいのが来ました」
「ん?怪しいのって?」
「確かに怪しいですね…」
蒼雲閣の先生三人組、楚 聖恋、趙隼、林渓。
蒼雲閣の中でも容姿が優れているとされ、画集まで出るほど有名な先生で、先生を画集にするほど生徒からも信頼?を集めている。
最初見たときは驚いたが、それほど自分たちを信用?してくれているということで許した。
「聖恋、あの者、女か?」
「バカな…。女人は禁止されたはず。なのになぜ、女人がここにいる。宗家をバカにしてるのか?大逆罪になるぞ」
聖恋は蒼雲閣で唯一女性の先生だ。女子生徒の信仰は多いが、男子生徒の信仰もしばしば。
先生たちからはある意味神、と拝まれるほど優秀な先生であり、皇帝からも信頼されている。
「林渓、どう思う」
林渓に聞くと、林渓はうーんと首を捻って考えた。
「どうだろう。ねえねえ、趙先生はどう思いますか?」
「どうと言われても…女…いや。男にしか見えないが?」
「そうですか、残念だなぁ」
「あれ、男ではなく女だ」
女人禁制となった途端、いきなり女人が入ってきた。
(どういうことだ。バレたら死刑だけじゃ済まないぞ)
国は規則に厳しいく、判断した者が悪ければ即死刑になる。
それを知っていて来たか、或いは知らないできたか。
「前者…か…」
「ん?」
「趙隼、これはなかなか厳しいぞ。ではまた」
聖恋はそう言い、どこかへ去っていった。
***
段々と女人に見えてきた。女人に見えてはならないというのに、女人に見えて仕方ない。
「君」
「は、はい!僕…ですか?」
完璧に別人を演じている。
ある意味天才かもしれないと気づくのは、もう少し先のこと。
「君はなぜ蒼雲閣に来た」
「僕は国を助けたい。民を助けたい。そんな思いでここに来ました。僕が描く未来は皆が幸せになる未来。そんな未来を思い描いております」
その者は自信満々に答えた。まるで、気づかれていないと思っているかのように。ー愚かな。
だが答えは完璧。確か、鐘 黄善も同じことを言っていたような気がする。
「鐘 黄善か?」
「はい、そうです、先生。鐘 黄善です。お久しぶりでございます」
鐘 黄善は初々しく文官流の敬礼をし、趙隼に挨拶をした。こんな顔をしていたかと不安になるが、ままよしとしよう。
「これから大変だぞ、頑張れ」
「ありがとうございます」
完璧に鐘 黄善になりきっている。どうしてここまで鐘 黄善になりきれたのか理解できなかった。
***
(ふぅ〜。他人になりきるのってたやっぱ大変ねぇ…。だるいけど仕方ない。まさか、鐘善の弟である鐘 黄善がこんな立派なことを言ってるとは思いもしなかったわ…)
自分でも驚きだ。まさか、鐘善の弟である鐘 黄善があんな立派ななことを考えているなんて思ってもいなかった。
識夏は記憶力がいいので、一度会った人のことはほとんど忘れない。
全ては無理かもしれないが誰かが言ったこと、聞いたこと、身振り手振りは把握している。
「鐘善兄上」
「黄善か。まさか兄弟で蒼雲閣を受けられるとはな」
「はい。私も嬉しいです。まさか兄上と同じ年に蒼雲閣を受けれるなんて」
にこっと笑う。笑い方も鐘 黄善を真似している。
誰かを真似しているせいか、稀に自分の表情を忘れてしまうこともしばしば。
なので本当に気をつけなければならない。
忘れて自分の表情はどんなたっけ?と聞いたら、その者に気持ち悪がられて避けられる。
こんな自分にも、役立つことがあるとは。
「病だけには気をつけらろ。君はいつも無理ばかりする」
「ありがとうござあいます、兄上」
黄善風の笑顔を作る。黄善の笑顔は、自分に会っているのかもしれない。
「どうした?」
「い、いえ。参りましょう、兄上」
戸惑い方も、笑顔も、何もかも全て黄善。
本当にあっているのかもしれない。自分には、こういう仕事が。
識夏は蒼雲閣に入るため試験を受ける。
蒼雲閣の試験場は風流な一室に置かれ、落ち着いて試験に挑めるのだ。
徐々に人が集まってくる。中には貴族ではない者もいるらしいが、それはあくまでも戸籍上。
本当は平民のフリをした貴族だったりもする。平民のフリをせざる負えない者、貴族だが下級貴族で平民みたいな服装をしている者も少なくはない。
「始め!」
試験官が合図を送り、受験生が皆、一斉に始めた。
カンニングする者が多くいるため、試験官は試験中目が離せない。
さっそく、誰か目に付けられているようだ。
「そこの女」
「はい…?!」
はい?
自分か。自分だ。自分しかいない。
どうしよう、バレてしまった。女ということが。