第4話
風呂を済ませたアリシアは、ベッドに倒れ込んだ。
モークリー男爵には、既に蝶を付けているが、今の所、何も報告はない。
アリシアはパーティーに行くのはあまり好きじゃない。しっかり公爵令嬢としてのマナーや振る舞い、貴族としての立ち位置も分かってはいる、というよりは染み付いている。でも貴族社会は窮屈で仕方がない。
反対に任務を遂行する時は、自由に制約がなく、自由にできて息がしやすい。
それに子供の頃から裏の仕事をしているアリシアには、他の令嬢たちが眩しく見えて、目が潰れそうになる。自分自身、他の令嬢には引けを取らない容姿をしているのは、自信過剰と言われようとも自負していた。
でもアリシアは他の令嬢とは違う。だから運命に出会っていないという事は、もうルフィナ公爵家の役割は終わりだと言う事だと考えている。それを父も兄も、何故か認めない。
兄ヴィンセントは後継者ではなくても、七歳の時に助けた二歳下のロメラ・ヴェスイウス侯爵令嬢を助け、婚約者となった。
助けたと言っても、ある公爵家が開いたガーデンパーティーで、飼っていた犬がロメラ嬢に襲い掛かってきたのを兄は助けた。決して、命が関わるような、賊に襲われている場面ではない。
助けたから運命だから、で婚約者になったのは切っ掛けでしかない。ヴィンセントも運命なんて信じてはいなかったし、その時はロメラ嬢も怖くて泣いてそれどころじゃなかったらしい。
そこから交流が始まり、兄妹のような仲からお互いに恋愛感情が芽生え、それを感じた父がロメラ嬢との婚約を決めたのだ。
ヴィンセントはアリシアより三つ上の一八歳。二十歳の誕生を迎える頃に、二人は正式に結婚式を挙げる事になっている。そしてその時にある程度、ルフィナ公爵家の秘密が教えられる。
代々公爵家は八歳、遅くても十歳までには運命に出会うらしい。そしてその相手とはそれはもう、仲睦まじい夫婦になる。
その事実は、隠居をして世界を回っている祖父母、そしてヴィンセントたちを見ているから事実だろう。でも本来ならそれをま間近でずっと見るはずだった夫婦、アリシアの両親はそうじゃない。いや、亡くなった妻を今でも愛している父を見ると、深く愛していたのが痛いほど分かる。
とにかく、元々結婚したいと思ってないから、運命ってやつがなくて良かった。きっとご先祖様が、もういいよって事だと思う。またしばらくは、忙しくなるなあと、気付いたらアリシアは寝てしまっていた。
振りかざされた、と思ったがそれはフェイクで、そのまま真っ直ぐと剣先がアリシアに向かってくる。ほう、そうきたんだ。でもまだまだ甘いんだよね。アリシアは体を捻りながらジャンプする。そのままエリーの背後に周りながら、アリシアも剣を降り下ろす。瞬時に体勢を建て直したエリーが、持っていた剣を背中に回して受け止められてしまう。
「お嬢様。朝食の準備が整いました」
庭でアリシアがエリーの相手をしていると、リカルドが呼びに来た。リカルドも意地悪だなあ。あれはワザと声を掛けてきたんだから。アリシアはあの笑顔のしたの腹黒さに笑うしかない。
「リカルドさん! 待って! 今日はお嬢様に勝てそうなんです! ギャアッ!」
エリーが家令のリカルドに気を取られた一瞬をついて、アリシアは剣をエリーの体に打ち込んだ。
リカルドの声は、エリーがどこまで神経を尖らせているのか、試したんだろう。
「リカルドさんのせいで、負けた!」
「どんな事があっても、最後の最後まで気を抜いたら駄目だって、何度も言ってるでしょ」
エリーは公爵家のメイドの一人。ルフィナ家で雇っているメイドたちは、武術に長けている人間しか雇われない。身分は関係ない。戦えるか戦えないか。
そして使用期間後に忠誠心を試すためのテストに合格すれば、晴れて採用となる。
「おやおや、すみませんエリーさん。でもエリーさんの戦績は今日で四六五戦中四六五敗。お嬢様は四六五戦中四六五勝です」
「キーーッ! リカルドさん、性格わっる!」
「はいはい。エリーも仕事に戻る」
「はーーい。次こそ、お嬢様に勝ちます!」
アリシアに勝てないだけで、十分にエリーも強いけど、それじゃあ駄目らしい。しかし向上心があるのはいい事だと、自分の屋敷の使用人を誇らしく思える。
「お嬢様。タオルでございます。朝食後に汗を――かいておられませんね」
「あれくらいで汗はかかないわよ」
「そうでございますね」
「それにしても、声を掛けるなんて意地悪をして」
「ほほほっ。私めは、朝食の準備が整ったと、お嬢様を呼びにきただけですよ」
「そう。でもエリーに、少しぐらいアドバイスをしてあげたら?」
「己自身で気付かなければ、身にはつきません」
まったく害がないですよ、と装っているくせに、一番の曲者がリカルドだ。
アリシアは首を回しながら、リカルドを従えて食堂に向かった。
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