第2話
「ただいま戻りましたわ」
「おかえり! 私の可愛い可愛いアリー」
いつもアリシアが屋敷に帰ってくると、アランが抱きついてくる。『アリー』と呼ぶのは親しい人だけだ。
「ちょっとお父様。暑苦しいんです」
スラッとした長身の細身で、歳を取っているにも関わらずの美男子振り。もう三六歳にもなるのに、何故か歳を取らない風貌のせいで、未亡人やら令嬢からのラブコールが凄い。
たしかにキラキラと光るプラチナブロンドにアメジストの瞳。どこか守ってあげたくなる、母性本能をくすぐる仕草。これが計算ではなく地なのだから、我が父ながら凄いと、アリシアはいつも感心してしまう。
それに細身なのに、その下は筋肉が凄い。巷では細マッチョと言うらしい。
アリシアもまた、そんなアランの顔立ちと髪の色、亡き母から受け継いだサファイアの瞳を受け継いでいる。まだ十六歳なのに婚約者がいないアリシアには、是非伴侶にと申し込みが来ているが、結婚なんかしなくてもいいと思っていた。
「今日のパーティーはどうだった? いい殿方は」
「いません」
「そうか! いなかったか! そうか!」
「旦那様。喜んでどうするんですか」
アランを嗜めるのは、ルフィナ公爵家に代々仕えている家令のダリウス。
ダリウスもすでに四十歳を超えているはずなのに三十代、いや二十代後半にも見える。自分も歳を取ったら、若く見えたままなのかな。そう言えば祖父母も歳の割に若く見えていた。もしかしてこれもある意味ルフィナ家の血のせいなのか。その血のせいで配偶子も、いつまでも若々しいのかもしれない。想像したアリシアは、何とも言えない気持ちだった。
「でも我が家では、幼い頃に運命に出会うんですよね? 父上。本当にアリーは会ってないのかい?」
兄のヴィンセントが顎に指を当てながら、首を傾げている。プラチナブロンドに少しタレ目で、その目元に泣きホクロがある。甘いマスクにその仕草は、世の令嬢たちの庇護欲をそそり、甲高い悲鳴を上げのるのだ。そんな諸々の仕草を計算もせずにしているのは、アランの血が流れているからなのか。恐ろしい。
「アリー、本当に子供の頃に誰かを助けた事はないのか?」
「お父様、お兄様。もう何千回も言ってますけど、な、い、です。これはもう、我が公爵家の役目は終わりという、ご先祖様からの知らせでは? とりあえず疲れたので今日の報告を」
「そうだな。どうだった?」
最近、このユニテア帝国内で麻薬が持ち込まれ、平民に少なからず影響が出ていた。
王命で麻薬使用者には、厳罰か死刑執行をされる御触れが出たのが半年前。それでも手を出す人間は後を絶たない。
それが平民だけではなく、貴族たちの間で出回り始めたのを危惧した皇帝陛下が、ルフィナ公爵に密命を下したのが先週だった。
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