第1話
「お前との婚約は破棄する!」
その言葉が響くのは、美しいシャンデリアの下にぽっかりと空いた場所であった。その真下から男の声が聞こえてきた。
これで何回目の婚約破棄劇か。まるで貴族間で流行っているようだが、実際にはそうではない。なのに、どの場面でも婚約破棄を言い渡す令息の隣には、小動物のように寄り添う男爵令嬢がいるのだ。
これもなぜか、お決まりのようにいるのだ。そしてだいたい次の言葉が――
「本当の愛を教えてくれた彼女に嫌がらせをするお前とは」
やっぱりだ。アリシアは、始まった茶番を冷静に見ていた。
「アリシア嬢、何かおっしゃいましたか?」
「いえ。少し気分がすぐれませんでして」
危ない危ない。思わず声に出してしまったが、特に焦らず、アリシアは完璧な弱々しい笑みで答えた。
「そうでしょう。まさか皇太子様主催のパーティーでパドラス伯爵のご令息が」
そうなのだ。王族主催のパーティーで愚行も愚行。家の繋がりも考えず、大っぴらにすることの意味を理解していない。おまけに婚約破棄を言い渡された令嬢であるマルグリット嬢は、ウィンダミア侯爵の一人娘。かたや馬鹿男のパドラス・カヴァリエは伯爵の次男で、婿入り予定だったはず。
恋は人を惑わすというよりかは、知性と理性の足りない動物くらいしかい脳みそしかない。
流行っているとしても、そのあとの結末を知らないのか、聞いてもやっぱり馬鹿脳みそしか持ち合わせてないから、都合のいい個所しか聞いていないのか。
なんにせよ馬鹿男は「終わった」と思わずアリシアの口から零れてしまった。
「アリシア嬢、どうかされましたか?」
「いえ。あまりの事で驚いてしまいまして」
思わず零した言葉は小さすぎて、誰にも聞こえていない。しかし、アリシアの内心は冷静であった。
「ああ。アリシア嬢にはかなり刺激がお強いでしょう。本当に噂通りに鈴蘭のような女性ですね」
鈴蘭ねえ。
確かにアリシアは貴族社会ではか弱くて、繊細な女性と言われている。この噂を聞いて喜んでいるのは父のアラン・ルフィナだけで、使用人たちは大爆笑している。アリシア自身は、笑うよりもシラケているが。
「あの、もしよろしければ一曲、踊って頂けないでしょう?」
「え?」
この令息は何を言っているのか。確か「クリストファー・モントです」と名乗ってきたが、今の状況を考えずに踊りを申し出てきた。
モント伯爵の令息で、アリシアよりも二歳上だ。この状況の後で踊るの? え? さっき気分がすぐれないって言ったのに。アリシアは相手の体調よりも、自分を売り込もうとしてくる令息に辟易してしまう。
最近の貴族は、馬鹿男しかしないのか。
「申し訳ありませんわ。父が来ますので。あ、お父様。ではクリストファー様、ごきげんよう」とカーテシーをした。今日は一人での参加で父は来ていないが、人が多くて気付くまい。アリシアは優雅に会場を後にした。
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