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『ルーズ様、おはようございます』

 すでに日が昇り、窓から入ってくる日差しが眩しい。早く寝て早く起きる予定が、出発時間まであまり時間がないようだ。


『タナーおはよう。起こしてくれてありがとう』

 旅の間は1人で起きていたルーズだったが今日はダメだった。気が抜けてしまい体がふにゃふにゃだ。

 水桶を用意してもらい顔を洗うと久しぶりの日常を感じる。旅の朝はいつも空はまだ暗く、慌しかった。


『他の場所の魔物被害も落ち着いてきたようですね』

 今日のイリアの手紙によれば、副団長のデュオとともに街を巡り、魔物の被害が大きい場所は鎮圧し終わったと書かれていた。

 

 確か一昨日の手紙で副団長が隣国から帰ってきたと微妙に嬉しくなさそうな文面で書いてあり、ルーズは実は2人の仲が悪いのかと心配していた。

 

 帰ってきたばかりでイリア様と街を回ってこんなに早く魔物討伐しちゃうなんて、息ぴったり…


 心配は杞憂のようだ。良かった。


『そうね、イリア様たちが頑張ってくれたみたい』

 


 食事を軽くすませ待っているとギルドの人が馬車の用意ができたと呼びに来てくれた。

 馬車留めに向かうと人だかりがあった。何かあったのかと思ったがよく見ればルーズが働いていた時にお世話になった人たちだった。

 ルーズに気付くと、やっと来たかと皆が一斉に振り向いた。久しぶりの対面に笑顔が溢れた。


 『ルーズちゃん、ありがとねぇ』『さっすがルーズだ』『ありがとう』

 何かすればいつもにこにことお礼を言ってくれたリーベに住む人たち。

 数ヶ月ぶりの光景にルーズの口元は緩みっぱなし。

 

 ルーズの嬉しそうな顔を見た町の人たちも釣られてさらに笑顔が増していく。食堂のおばさんからはこれ持ってきな、とお弁当を渡された。

 ありがたく受け取ると次から次へと、じゃあわしからも…うちからはこれも、俺んちはあれも…ほれ持ってお行きなさいと積み上げられた。

 


『わぁありがどうって…もう持てないです!わっわっちょっ待っておばあちゃん!』

 笑いながら『いいの、いいの』と増やされ、ルーズの両手にみんなからの感謝の気持ちが溢れそう。

 

『ありがとうございますっ!もうほんっとうにこれ以上は大丈夫なんで!』

 必死にお願いするルーズをみんなが笑い、ルーズも笑った。


 あーこの感じ。懐かしい…


 ギルドの人たちは、土蜂にもらった花を魔力留めケースに入れて渡してくれた。このケースに入れれば花は枯れることがない。

 花は魔力を吸収し成長する珍しい植物だったとギルドのみんなに教えてもらった。

 僅かだが魔除けの効果があり、リーベ周辺だけに咲いているとの事。見つけると良いことがあるのだとか。



『私たち支部の人間には詳しくは知らされてないけど、分かることがあってね。

きっと大変なことに巻き込まれてる、のでしょう?リーベのこともありがとう…ルーズ無理しないでね』

 

 また来なさい、とそれぞれに言葉をかけルーズに別れを告げた。村へ行ったあと中央都市に戻るが帰りの道はリーベを通らないことを伝えてあった。

 次に来る時は、全てが終わった後になるだろう。

 ルーズは何度も頷き、馬車から大きく手を振った。

 

『また、来ます!』


 

 馬車の中で座席が狭くなったタナーは『いい人たちですね』と荷物を抑えながらしみじみ言う。

 ルーズだけではなくタナーにも町の人たちは、たんと持ってお行きと土産を渡してくれていた。


『なんか、ごめんね』

『いえ良くしていただきました』

 ルーズ同様孫のように扱われたタナー。珍しい扱いに最初は戸惑ったが最後は一緒に笑っていた。

 気を悪くしていないようでルーズは安心した。


 窓から見える風景が昼間だというのにだんだんと暗くなってきた。ああ、ここも懐かしいなとルーズは風景を楽しんだが、対面に座るタナーは戸惑っていた。

 動物の鳴き声すらしない。圧迫する静寂が警戒心を一層煽る。

 はずだが、主人は嬉しそうな顔をしている。窓の外より目の前の人物の方が怖いな、とため息を吐いた。


 城のある中央都市周辺に比べるとリーベもだいぶ落ち着いた町並みと自然を残していた。町を一歩出れば草木生い茂る道は動物が横切り、人の往来は全くなかった。

 それを遥かに上回る自然というには生優しい。放置された未開の地のような木々の立ち姿に何故それなりに大きな荷馬車が通れているのか不思議なほどだ。


『あの、ここは道なんですか…?』

『そうね…馬車が二、三日通らないと道が塞がるのよね…』

 自然が過ぎる村までの道は草木がよく育つ。切ったはずの蔦はすぐに元に戻り、道にはなかったはずの雑草たち。大雨で馬車が数日通れずにいると、次に通る時は草刈りしながらの旅路になることもしばしばだった。

 最近は土蜂のせいで馬車の往来や馬での移動も完全になくなってしまいいつも以上に道無き道になってしまっていた。


『おじさーん大丈夫?』

 御者をしているのはルーズが毎日ギルドに行くために乗っていた馬車を担当していた初老の男性。毎朝仕事がんばんなと声を変えてくれた優しいおじさんは馬の扱いが上手く、魔法も上手い。


『ああ、大丈夫だ〜。ありがとう』

 覗き窓から前を見ると、おじさんは薄く氷を出し風で飛ばし草木を刈りながら進んでいた。馬を傷つけることなく、邪魔なものだけ。必要以上に切らないのがおじさんらしい。


 暗い道をしばらく進むと、少し明るさが戻ってきた。

『ここを抜けたら、もうすぐよ』

 窓の外には自然な景色も戻ってきたようだ。

 がたがたと舗装されていない道だが、道だと認識できる。それから鳥の声が聞こえたことにタナーはひどく安心した。




『さぁお二人さん着いたよ。良ければ荷下ろしを手伝っておくれ』

 2人は勿論とばかりに頷いた。

 荷物を下ろしている最中に、村の人たちが集まってきた。


『あら、やっと通れるようになったんかね』

『良かたよー不便だったかんのー』

『ああやっとだ。すまんかっ『あれま!ルーズじゃないか!やだよー早く言っとくれ!』『おーい!みんなールーズが帰ってきたんよー』


 すぐさま村の端にまで話は行き届いた。

 それからは、あっという間に村人全員が『ルーズ久しぶりだねぇ』と出てきていた。


 その中には、ルーズの家族たちもいた。


『ルーズ!!おかえり!!』

『お姉ちゃん!!』


 家名は違ってしまったがそれ以外は何一つ変わらない家族にルーズは飛び込む。


『ただいま!!』


 4人で抱きしめあったあと、タナーを紹介しみんなでおじさんの手伝いをした。

 

 荷下ろしが終わると、荷馬車を空にしたはずが村からの土産から配送品でまたぎゅうぎゅうになっていた。

 おじさんと馬車はリーベに帰って行った。



『手紙では帰るの二、三日後って言ってなかった?』

 急に来るからびっくりしたわ、と文句を言いながらも嬉しそうな母。

 タナーにもいつも娘がお世話になって…とお礼を言いながら迷惑かけてないか聞いていた。母が母らしい。

 『ルーズ様に仕えられて光栄です』と言った護衛メイドの目が一瞬泳いでいたのをルーズは見逃すことにした。



『さあ帰ろうか』『早くー』『そうね帰りましょうか』

 当たり前に帰ろうと言ってくれる父と母。

 手繋いで帰ろーっと言って手を取る妹。


 優しいルーズの家族。


『うん!早く帰ろうか!』



 並ぶ家族の後ろから少し離れてタナーはついていく。微笑ましく眺めながら。



次回更新は来週になります。

まだまだ暑いのでみなさま体調にはお気をつけください

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