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『ルーズ!それにタナーさんもありがとう!私たちじゃ捕まえられなかったわ。本当にありがとう』
町に着くとギルドの3人がてきぱきと男たちを荷台から降ろすと、ひょいひょいと担いで運んで行った。
『こいつらは護送車が来るまでギルドで預かっとくから、着替えと食事でもして来なね』
頼もしい人たちに任せてルーズたちはギルドで着替えを済ませ、食事に行くことにした。
ルーズちゃん久しぶり!と声をかけてくれた食堂に2人は入った。この店のパンは中にチーズが入っていて美味しい。
食事が運ばれてくると、懐かしい匂いにルーズは自然と口元が上がる。
『それで、タナーはあの人たちに何したの?』
『なにと言うほどではないですが…土蜂の巣から取れた毒を飲ませました。ちゃんと薄めたので命に別状はありません』
ご心配なく、と言うが飲んでいいものだろうか。疑う顔で見てたのに気付いたようで『一時間話せなくなるだけです』と教えてくれた。
なんで、効果を知っているかは聞くと怖いな…城の護衛メイドは知識が豊富なのね。
食事を済ませギルドに戻ると護送馬車が到着していた。
『ルーズ様ですね、此度は密猟犯確保へご協力ありがとうございました』
街から来た警ら隊は、このあと街で詳しく話を聞いてから説明してくれた。
引き摺られていた男たちもなんとか歩けるようになり、静かにタナーを見ながら護送車乗って行った。
あれはまさかとは思うが、顔に麻痺が残ってるだけで睨みつけていたのでは…
見られていたタナーは気にしていない様子。
彼女は内心では、弱いくせにと嘲笑っていたがルーズには凛とした振る舞いに見え、いつかこうなりたいと思った。
無事護送車はリーベを出発し、やれやれとギルドに戻る職員たち。中で話がしたいとルーズたちもギルドに招かれた。
『さっきの男から、少し話を聞いたわ』
彼らはやはり密猟をして稼いでいるものたちだそうだ。普段はモダーナリとインダスパの間のどちらの国にも属さない土地で狩猟をしていたらしい。
それが魔物が強くなり移動を重ねこの土地に流れ着いた。この周辺に野生のアンゴルーが生息していることに気づき、あの場に留まっていたのだという。
『それで、ね。アンゴルーを見つけた時に追いかけ回したらしいの。
ルーズが見た花畑は彼らがやったらしいわ…』
アンゴルーに気を取られ土蜂の巣をうっかり破壊したらしい。たちまち集まってきた数千の蜂の大群に慌てて木酢液という、土蜂が嫌いな匂いのする液体を巣に向かってかけたそうだ。それも大量に。
『花畑はあいつらが暴れて踏み潰し、蜂は自分たちの巣が使えなくなって移動をした、と…』
なんていう迷惑な奴らだ。その分もしっかり裁かれてもらうように言ってやるとギルド職員が怒っていた。
『じゃあ元の巣を洗って臭いを落とせば、そっちに戻ってくれるかな…?』
そんな気がするが、問題は…
『巣を洗っているのを"攻撃"と見做されたら数千匹に囲まれますね…』
道の巣を移動しても攻撃に認定されそうである。
『道で蜂に囲まれるよりは、森の方が被害少ないし…ね』
と、言うことで話し合った結果森の中のお花畑で土蜂の巣を洗うことにした。
『水と火の魔法で蒸気を作って風魔法で巣を削らない程度の威力で汚れを飛ばしていきます』
ルーズは巣の洗い方をタナーに教えるが、そんなの出来るのはルーズ様だけですと断られた。タナーは巣を壊す未来しか見えないらしい。
ルーズが木酢液を洗っている間にタナーは周辺の警戒をすることになった。
『よし!じゃあ行くよ〜…』
どきどきしながら指から一気に蒸気を噴射させ巣の汚れを上から洗い流す。蒸気が通った場所は色が変わって綺麗な模様が出てきた。
『タナー!見て見て!土で出来てるはずなのになんか模様になってる!』
うわーすごい!とはしゃぐルーズを背にタナーは土蜂と睨み合い中だった。
蜂は匂いがなくなっていくのが分かるのかじっと一定の距離を保ってこちらを見ていた。もし、ルーズが失敗して巣を壊したらすぐにでも仲間を呼びそうな雰囲気だ。攻撃するつもりはないと意思表示をしながら警戒を緩めずタナーは蜂と対峙した。
後ろでは綺麗になっていくのが楽しいようでうきうきと鼻歌が聞こえ、集中が切れそうになりながら終わりを待った。
『出来たー!見て!すっごく綺麗』
巣の周りの泥と匂いはざぱーっと流しきった。花畑は残念なままだが巣とその周りだけは異様な綺麗さを放っていた。
タナーが振り向くより先に蜂たちが一斉に巣に向かった。
『危ない…!』火で焼き払おうとタナーが手を伸ばしたが、ルーズが首を振る。
蜂たちは巣の周りを飛び回り、危険がないことを知ると巣に入って行った。やがて一匹の大きな蜂が空高く飛び立ち『カッカッカッ』と音を鳴らした。
仲間を呼ぶ音だ…
タナーが戦闘体制をとるが、ルーズが『多分大丈夫〜』と一輪花を片手に持ちながら呑気に歩いていた。
『一番大きな土蜂がこれをくれたの。洗ったお礼みたい』
他よりも一際大きな蜂はどうやら女王蜂のよう。そんな蜂に直々に下賜された花は、見たことのない綺麗な白い花だった。
『土蜂って頭良いんですね…』
『そうね、知らなかったわ。あっ蜂が…』
ルーズたちが来た方から蜂が大量に飛来し巣へと収まった。口には土を咥えていたようで、瞬く間に巣が修繕されている。
『へぇすごいですね…。これであちらのほうは破壊しても大丈夫そうですね』
そして道に戻ると、なんと邪魔になっていた巣がほぼなくなっていた。
『ええ?いつの間に!?』まさかの状況に2人であたふたしていると、森から土蜂が現れ、巣だった土の塊に群がり去っていった。その跡には、何も残っていなかった。
『え?…えぇー?土蜂すごすぎない…?』
飛ぶ鳥跡を濁さず、とは聞いたことがあるが虫もか…と綺麗な道を2人は眺めた。
『とりあえず、リーベに戻ります、か…』
どことなく不完全燃焼というか、驚きすぎて疲労したというか不思議な気持ちでリーベのギルドに戻った。事の詳細を説明し、もう巣がないことを言うと『…お疲れだったね。ほんっとうにありがとうね』と労わられた。
『今日は美味しいもん食べてゆっくりしなね』
それから明日村へ薬や食料などを届ける馬車が出るらしい。その護衛も兼ねてルーズたちが乗ってくれると嬉しいとのことだった。
村は特に問題がないという連絡がきているので急ぐ用がなければ、明日出発でお願いと頼まれる。
ここ数ヶ月、旅が始まる前から張り詰めていた気がリーベに戻ったことで緩んで疲労となって出てきたようで、体が重い。
『ずっと忙しかったですから、ちょっと休みましょう』
もし何かあればすぐ飛んでいけばいいか、とルーズは食事もそこそこに休むことに決めた。スイッチが切れ泥のように眠った。




