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ルーズとタナーが村や街を回り始めて1週間が経とうとしていた。
普段なら数時間で着く距離が、旅が進むにつれ道が荒れていたり魔物に襲われる回数がわずかに増え予定到着時間が少しズレ始めていた。
日程を大きく変更するほどではないため1日の睡眠時間を減らしながらの旅になっている。
『魔物が微妙に強くなってるくらいで、たまたまかな?ていう感じなのが嫌だね』
『そうですね…長旅をしていると異常に気付けますが、移動くらいだと僅かな変化は見逃してしまいますね』
普段よりちょっと強い、普段より群れの数がすこし多い魔物。異常に気付けず、気付いた時には手遅れになってしまっている。そのせいで対処が後手に回り人手不足も相まって対処を難しくさせている。
イリアからの手紙で知らされる徐々に広がる国の被害状況や城での様子。
『やっぱり師匠が天災を見つけた場所に近いところから被害が出てる』
今日届いた手紙を読みながら国の状況を確認する。
そちらには魔法士団や騎士団の経験と知識がある人間が向かっている。下手に全ての魔物を討伐すると生態系が変わる可能性があるらしい。変化が多すぎて対処も困難なようだ。
そして、ルーズとタナーは生態系の心配のない反対側の町に向かっていた。
『もうすぐリーベに着きますよ』
日々の疲れから眠気に負けていたルーズは、タナーに優しく起こされ目を覚ました。
窓の外を見ると、知っている風景に安心する。
『いつの間にか寝てたのね。起こしてくれてありがとう』
『ルーズ!!久しぶりー!』
リーベの町に着き、出迎えてくれたのはギルドの人たちだった。小さな町なので職員は3人しかいない。
『本部が大変て言ってたのに、いつの間にかお城で働いてんだから、流石元うちのエースだ!』
『ほんとだよ!ルーズちゃんおかえり』
変わらない皆の態度に、ルーズは『みんな!会いたかったー』と泣きながら走り寄った。
4人で抱き合いながらわんわん泣いて、頑張った!偉かった!とルーズを褒めて労った。
『みんな、ありがとう〜』
ギルド支部でどれだけルーズが可愛がられていたかを目の当たりにして、タナーはギルド本部への怒りを増した。
キーラに報告し、ルーズを虐めたあいつらの残業時間増やしてもらおうと決めた。
『まったく、そんなんで大丈夫なのかい?』
『大丈夫です!お任せください』
笑いながら心配するギルドの皆にルーズは胸を張り満面の笑みで答えた。
リーベとルーズの生まれた村の間の道に、魔物の巣が出来てしまっているらしい。
通れないだけで、それほどの害はないと聞きほっとする。
村から一番近い町はリーベなため、通れないとなると薬が買えなかったり職場に通えないなど困ったことになっているようだ。
『じゃあ私早速、道にいる魔物どかしてきます』
『すまんねぇ。なんか道の真ん中にどでかい巣を作っちまってね…
ちょっと大きな蜂みたいなんだよ』
行ってらっしゃい頼んだよ!と声をかけられながらその場所に向かった。
その場所は聞いていた通りに道の真ん中に土が高く積まれ道を完全に潰していた。
『思ったより大きいですね…』
巣の周りを飛んでいるのは土蜂だと思う。蜂だが歴とした魔物だ。ハチミツがとても美味しい。
ちょっと大きい気がするが基本無害だ。卵が巣にある時期は近づくだけで攻撃してくるので注意が必要。
『この時期は卵から孵って幼虫の時期のはず。まだ攻撃性は高そう』
刺されると痛みが1日続き一ヶ月は痺れが残る。
『焼き払うのが手っ取り早いですが、土蜂は襲われると他の群も集まってきてしまいますね…』
追い払うくらいならいいが巣を破壊しようとすると何故か近くにいる土蜂の群れが縄張りを超えて戦いに参戦してくる。厄介がすぎるのだ。
『どうしよっかな……
巣を壊すんじゃなくて森に運べば大丈夫かな』
うーん。
少し離れた場所から牛が横たわったような大きさの蜂の巣を2人は眺めた。完全に道を塞ぐ邪魔な大きさだ。
蜂はそんな2人に気付かないのか森と巣を忙しなく往復していた。
『…というかなんで森じゃなくて、こんなところに巣が?』
『そういえばそうですね。不便そうですし』
2人は目を合わせ、どちらともなく森に行く?と提案した。
蜂の跡を慎重につけて行くと、花畑にたどり着いた。きっと以前は一面花が咲き綺麗な場所だったのだろう。
『何これ…』タナーが思わず呟いた。
花畑の半分が潰されていたのだ。
辺りを見回すと、先ほど道の上にあったのととても似ている土の塊が壊され放置されていた。
巣が壊されたから、引越した…?
森の中で大きな魔力がないか探すが、それらしいものは見当たらない。
『何もない…どういうこと?』
『何かが通った跡を少し探ってきます』
ルーズに少しここで待つように言い、タナーは木の上に飛び移り消えた。
タナーが消えた間も、土蜂が懸命に蜜を運ぶ姿の他に沢山の虫たちもやってきた。この場所は虫たちの食事どころだったようだ。
ただの虫もいれば土蜂のような昆虫型の魔物もいた。
しばらく眺めていると、タナーが帰ってきた。
『ルーズ様、森の中に古屋がありそこに人の気配がありました。
それから、魔物の…多分アンゴルの毛皮が干されておりました。密猟者たちかと』
アンゴルは滑らかな肌触りで、その昔貴族に人気だったが乱獲され数を大きく減らし、今は狩猟が禁止されている。
『人間を相手にするには、文官職の範囲を超える気がするし…リーベに戻って話してみる』
『そう…森の小屋に』
『土蜂はただ巣を追われただけか〜。巣を元の場所に戻してもそいつらがいたら、またこっち来ちゃいそうね』
リーベの町やこの辺りは顔見知りばかりで犯罪らしい犯罪があまりない。そのため警備隊はいるが、密猟者を制圧するために必要な人数がいないし捕まえても牢屋がない。
『…本部に連絡するしかないわね』
ギルド同士を繋ぐ連絡魔宝具で本部に密猟者らしき者たちがいることと応援が必要だと伝えた。
『近くの街から護送馬車を送ってくれることになったわ。それからルーズに捕縛許可が出た』
護送馬車がある街はここから到着まで三時間くらい。それまでにルーズに捕まえておいて欲しいとのことだった。
『分かりました。じゃあその間に捕まえてきます』
ルーズはタナーともう一度森に向かった。
森の中の小屋は元は休憩所だったらしい。古い建物でいつ倒壊してもおかしくないとかで今は使われていないのだそう。
『小屋は壊してもいいって言ってたし…屋根飛ばしちゃっていいかな?』
ルーズは魔物相手の訓練はしたが、対人訓練はしていない。タナーは頭を抱える。
『駄目です。今回はないとは思いますが、ああいった集団のアジトには人質がいる場合もあるのでなるべく相手を刺激せずにやります』
人の方が色々面倒なんですよ、とタナーは言う。護衛メイドの言葉は重みがあった。
『なるほど…』
『人数は多分4人なので、私が行きます。
ルーズ様、命令してください』
捕縛許可を持つルーズからの任命によりタナーが代わりに捕縛や相手を怪我させても問題ないとのこと。
忘れていたがタナーは王女付きのメイドだ。規律には少々うるさい。
『分かった。
タナー。あそこにいる奴らを捕まえてきて』
『御意』
あっという間に姿を消す。
小屋の方から、声になる前の声が聞こえてきては消えて行く。3人分の音を聞いたところでタナーは出てきた。
『終了しました』
3人を縄で締め上げ引きずりながら出てきた。もう1人無抵抗で降伏したらしく縄で縛られながらも自分の足で歩いていた。
『荷車があるようなので此奴らを乗せて運びます』
男たちは話せる状態のはずだが無言で荷台に乗せられる。暴れる様子はなく大人しい。
家の外に干していた毛皮も証拠品として乗せた。
男4人を乗せた荷車をタナーはひょいと掴み、軽々前に進む。動かすコツさえ分かればどんなに重くても苦にならないらしい。
タナーのおかげで土蜂の巣のある道まですぐに戻って来れた。
『やっと道に出れた!タナー大丈夫?』
息も切らさずにさくさくと悪路を進んでいたタナーはこれくらい大丈夫だと頷いた。
ルーズは後ろから荷車を押しながら、あまりにも男たちが静かなためタナーに何かあったのか聞いた。
しかし『分かりません』とにこやかに返された。縛られたままの彼らもタナーを見ないように下を向いていたので、深く聞くことは止めておくことにした。
『まぁ、いいか。
リーベに急いで帰ろう!』




