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『初めまして!ルーズ・キーラです。文官職ですが、魔法士です!よろしくお願いします。
それからこちらはタナー。私の相棒です』
ルーズはイリアに会った翌日に荷物をまとめ人手が足りない町に派遣されていた。
緊急性がないため魔法士団や騎士団は派遣されていないがじわじわと魔物による被害がある場所だ。
『文官、ですか?まあ何でもいいです!今はネズミの手も借りたいので』
町を守っていたのは平民のギルド職員たちだった。
魔物の群れが出来てしまい畑がやられ、商人は来なくなり食料が足りなくなりそうだという。
『分かりました!とりあえず…魔物の群れを討伐してきます』
ルーズはそう言うと、飛んだ。上空から魔物の群れの魔力を探る。
どうやら町の近くの森の中に魔力が多くある。そこが寝床のようだ。
『タナー見つけた!森にいそうなので、行ってきます』
タナーは頷くと姿を消す。
ギルド職員や町の人々は、ルーズが飛んでいく姿に呆気にとられ1人姿を消したことに気づけなかった。
ルーズは森に入ると地面に降りた。徒歩で魔力が集まった場所に向かうと、どうやら洞窟の中で暮らす魔物のよう。
そして当たり前のように背後には気配を消したタナーが立っていた。足音を一切立てずに町から追いかけてきた。
ルーズは気付いたら背後に立っているタナーに若干の恐怖を感じながら、洞窟を指差す。
『一気に焼き払うので、逃したやつの処理をお願い』
小声で伝える。分かった、とタナーが頷いた。
洞窟内の気配から、強さは中レベル。数は沢山いそうだが体は小さい。
洞窟に指を向け『一、二の…三!』のタイミングで指先から稲妻のような光が走った。
一瞬にして洞窟内に火が上がり、すぐに消える。
『魔力反応が一個大きいのが残ってます。それを倒せば終わりです…来ます!』
ルーズが叫ぶと、洞窟からがさがさと現れたのは森によくいるマルムジウムだった。普段は石の裏に隠れていて突くと丸くなるだけの無害な魔物。
目の前にいるのは体長50センチほどで鋭い牙が口から見える。こいつらが町を襲っていたに違いない。
ルーズはすぐさま指を向け撃ち抜こうとするが、マルジウムが空中に飛びルーズに向かって無数にある足を広げて威嚇した。
まさか飛ぶとは思わず反応が遅れた。まずい…!一歩大きく後退し回避しようと足に力を込めた時、マルジウムが空中で二つに分かれた。
『大丈夫ですか!?だから魔物は油断してはダメですって』
タナーが不思議な形をした短剣を片手にルーズを叱る。彼女が真っ二つにしたようだ。動きが見えなかったが。
『タナーありがとう。やっぱり経験を積むために順次色んな町に行くよう手配してくれたイリア様に感謝だわ』
ルーズは即戦力になる力はあるが、戦闘経験が少ない。そのためイリアはまずルーズを、魔法士団が派遣されず危険が少ない場所で経験を積ませることにした。危険は少なく誰かが行く必要があったため一石二鳥である。
『町の畑を荒らしてたのはこいつらみたいです。群ごと焼き払ったのでもう大丈夫だと思います』
森に出てから僅か30分足らずで戻ってきたルーズたちに街の人々は困惑した。
真っ二つになったマルジウムを見れば、それが本当のことだと分かる。だがマルジウムは金属のように硬く、刃が通らない。何度討伐を試みたがだめだったのだ。
それなのに彼女たちはいとも簡単に倒してしまった。
『本当に…あ、あのありがとうございます』
町を守っていたギルド職員が何度もお礼を言い、町の人もそれに釣られ感謝の言葉を次々に口にした。
『また何かあれば、中央ギルドに連絡してください。それでは』
ギルドに頼らなければならないのが癪だが、国全体の連絡網としてこれ以上適切な組織はなかった。
ここが終わったら、次の町へ出発だ。
別れを惜しまれながら馬車は走り出した。
『次は、ここから三時間のところみたい。お昼前には終わらせたいな』
それまで少し寝ます、と言うとルーズは寝むりについた。
どこでも寝れる無防備さにちょっと呆れながら、タナーは寝てるルーズに『初陣お疲れ様でした』と声をかけた。
次に着いた街は、誰も歩いておらず閑散としていた。ギルド支部に行ってみると、奥から男性が出てきた。
『何の用だ?もうすぐ魔物が現れる。早く隠れないとあんたらも危ないぜ』
この街は決まった時間に魔物が現れるため、避難すれば被害が少ないと後回しにされているようだ。
『私は文官です。魔物討伐のためこちらに派遣されました』
男は胡散臭そうにルーズを見てさっさと裏に戻ってしまった。
『もう何人もあんたみたいな奴が来た。魔法士団か騎士団以外は信用ならん』
以前来た人たちは大きな顔をしながらあっけなく大怪我をしさっさと逃げたり、亡くなってしまったそうだ。
どんな魔物が来るのか詳しく聞こうとしたが、帰ってくれと取り付く島もなかった。扉が閉まる瞬間に『もう若い子の遺体処理はごめんだ』と呟く声が聞こえた。
後回しにされた町でも被害がないわけではない。本当に人手が足りていないのだと実感する。
町を助けている間に、天災が現れては元も子もない。人員を割けない。
こういった采配は文官の仕事だ…キーラが帰れなくても無理はない。
日々増える被害とこれから来る災いを天秤にかけながらひとつひとつ駒を進めなければならないキーラたちを思い、心を痛める。
早く終わらせなきゃ。
ルーズは自分の仕事を再確認した。
ギルドを出たところで、街に鳴り響く鈴の音。
どうやら侵入者来るようだ。
『タナー頑張ろうね』『はい』
何が来るかも分からないが、大丈夫。私たちならやれる。呼吸を整え魔力を探るとものすごい速さで街に向かっているひとつの魔力があった。
『今度のはすごい大っきいね。あと速い…。首があるといいんだけど』
頭がついていればそこを狙えば倒せる。
さぁ、来いと身構えていると現れたのは二つ首のどでかい犬…いや狼だった。
馬と同じ大きさの魔物はルーズたちを見つけ威嚇していた。
『頭二つかー。同時じゃないと再生するやつかな?』
『分からないので、同時にやりますか?』
ルーズが本で得た知識では、頭が複数ある魔物は一気に落とさないと面倒だとあった。
『じゃあ、せーの!でやろう』
二手に分かれ、魔物の視界から外れ動きを一瞬止める。その隙を突きルーズとタナーは飛び出した。
『『せーの!』』
1人は氷魔法で剣を作り、1人は短剣で首を同時に落とした。
落とされた首は大きな音を立て地面に転がる。
揺れるような衝撃と音に何事かと恐る恐る覗いていた街の人たちが、駆け寄ってきた。
『あんたちこれを倒したのか!?』『おい!やったぞ!』『やった!やったぞ!!』
街の人が倒れた魔物を見て、街中にもう安全だと知らせた。
『さっきは済まなかった。まさか本当に倒しちまうとは……おい!みんな宴だ!生贄の肉を俺らで食うぞ!』
魔物の被害を抑えるために、大量の肉を置いていたのだそう。街の外に餌を置くと街に入ってきて人を襲うが街の中に置けば満足して帰って行ったそうだ。
『知能が高く、人を不快にさせるために何をすればいいか知っているような奴だった。本当にありがとう』
涙を流しながらお礼を言われ、もっと早く来れば良かったと後悔が過ぎる。
俯いてしまったルーズに、横に座っていたお婆さんがぽつりと『あんたらのせいじゃない。これはしょうがない、災害だ』囁く。分かっているありがとう、と。
『若い子は、いっぱい食べんさい。ほらよーけ食いんさい』
美味しいお肉と野菜がたっぷり入ったスープを山盛りよそってルーズとタナーに渡した。
『ばーちゃん!こんな食べられないだろ!そういうのありがた迷惑になっちゃうから!』
孫らしき男の子が怒っているが、お婆さんはにこにこと皺を深くしながら『はい、はい。あんたもたんとお食べ』とさらに山盛りのお椀を渡していた。
孫は怒りながらもお礼を言ってぺろりと満足そうに平らげた。
笑いが広がる。
平和を取り戻した街の様子を見ながら一緒に笑った。
来て良かった…
ルーズはこの光景をきっとずっと忘れない。




