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タナーに帰宅することを伝え、司書員にお礼を言って自宅に戻った。
『ルーズ様大丈夫ですか?顔色が…』
馬車の中でタナーに心配そうに声を掛けられたが、大丈夫と言うだけで精一杯だった。本のせいで吐き気がする。
あの本が天災を表しているのなら…倒すには魔力を使わせ暴れさせる必要がある。つまり人間ができることは被害が少ないところへ誘導し攻撃を受け続けるのみだと。
死にに行くのと変わらないじゃない…
悔しさで手を握りしめる。
キーラは大丈夫だと言った。もしかしたら何か秘策があるのかもしれない…何も知らないルーズにはそれが秘策からか気休めの言葉か判断はつかない。
左手の中指につけたアシェルから送られた指輪を右手で包み込んだ。
家に付いたころにはすでに夕方だった。図書館の個室で少し軽食を取ったが流石にお腹が空いたため変な時間で申し訳ないが食事を用意してもらった。
マウシ肉を挟んだサンドウィッチにスープ。それからオレンジジュース。いつもの美味しそうなキーラ家の食事。
マウシは魔物だ。脂身が少なく柔らかい肉質で食べやすくルーズも好きな食材の一つ。
机に並べられた彩られた皿を見ながらさっき読んでいた本を思い出す。
この肉が、魔物が天災を作りだしている…そう考えると食べることが悪いことのように感じる。知らなければ美味しく食べられただろう。
知ることの覚悟が足りなかった、と奥歯を噛んだ。
ああ、これを宰相は避けたかったのか。キーラ家から本が隠された理由を知る。
つまり、キーラたちや王族は勿論知っているのだ。魔物が天災に関わると、知って尚生きるために肉を食べているのだろう。
魔力を得るために…と考えルーズは気付く。
いや…魔力があるのは魔物だけではない。
人もだ。
魔物を根絶やしにしないのはそういう事、か。
天災からは逃げられない。魔力を持つ私たちが生きている限り…天に定められた災い。
味が消えた食事を食べ終え、美味しかったと言って席を立った。自室に戻り手紙を書く。
一通は師匠に無事を祈って、もう一通はアリナーデに近況報告や王女が元気に過ごせているかどうか書き綴った。
最後の一通はイリア様に。
"私も戦う"と。
手紙の返事は翌日にアリナーデからのみだった。
城は慌ただしいが、皆元気に過ごしている、と。アリナーデはルーズに習った魔力操作の訓練を頑張っているようだった。魔力ボールの大きさも自在になってきたと嬉しそうな文章が綴られていた。
ルーズはイリアからの返事が来るまで図書館に通い、魔法についての本を読み漁った。
その間に流れる不穏な噂を耳にした。国の端に位置する村が魔物に襲われたらしい、と。
帰宅してからは地下室で、タナーに教えを乞い戦う術を身につけた。
そして、ようやくイリアから手紙が届いた。
''明日、城に"たった一文だった。
翌日馬車で城に向かった。いつものように正門から入ろうとすると、許可証が必要だという。
イリアから呼ばれていると言ったが入ることは叶わなかった。
『ルーズ様、一度帰宅して旦那様に連絡いたしましょう』
タナーの提案に頭をふり、城の裏手で降ろしてもらった。御者もタナーも心配していたが、大丈夫だといい無理やり戻らせた。
乗っていた馬車が見えなくなるほど離れた瞬間、ルーズは飛んだ。
訓練する可能性を考え、パンツスタイルできて正解だった!
この数ヶ月沢山城に通った。勝手知ったる警備の位置、壁の高さ、部屋の場所。
空を飛ぶ魔物がこの国にはいないせいで空からの侵入を警戒していないのは知っている。ルーズは窓の位置を気にしながら第二王女宮を目指した。
城の奥に建てられた第二王女宮の途中には、騎士団の建物がある。
木の影から覗いてみると中庭では訓練が行われていた。
掛け声と共に剣を一斉に振り下ろし、手を切り替え上に一気に振り上げる。その一連の動作を舞を舞うように滑らかに動く。
重い一撃の後にすぐさま次の一手を打ち出す彼らの動きに喉が動く。
数人の動きが止まったが、ルーズは気付かず興奮冷めやらぬままアリナーデの元に向かった。
『行ったか?』『行ったぽいですね』
『団長あれなんです!?普通に飛んでたんですけど!』
『先日ボルデティオ殿下が侵入した魔法だそうだ…これからは対空中戦も視野に入れなければならないかもしれんな…』
きっつ、まじかよ…と騒めく中庭では、日々訓練が行われている。
アリナーデの部屋のバルコニーに侵入したルーズは、中に王女がいるのを確認し窓を叩いた。
『…?…ルーズ!?』
驚く王女に部屋の中に入れてもらった。
『イリア様に城に来るよう言われたんですが、正面から入れなくて…。
しょうがないので飛んで入りました』
アリナーデに会えてなかったので先にこっちに来たと言うと、呆れたような嬉しそうな顔で『しょうがないわね』と一言呟いた。
『今城は入城に制限をかけているの。貴女がここまで来たってことは…もう知っているのよね?』
『…はい。師匠からの手紙で。
それから国立図書館で研究記録と研究者の他の本を読んだんです』
アリナーデはそれを聞くと悲しそうな顔をした。
ああ、やはり手立てはないのだな、と察してしまった。
『アリナーデ様、私をここに連れてきてくれてありがとうございます。
私も行きます』
『私は貴女に戦えなんて言ってない!私は…
私は、そんなことをさせるために城に連れてきたわけじゃない』
それよりもそばにいて欲しいと願うが、ルーズは『守りたい』と。
大好きになってしまった人たちをアリナーデを守るための力があるなら使いたいと笑う。
魔力を相殺する訓練。あれで得た経験と己の魔力がきっと役に立つ。
『本当に、お人よしなんだから…』
それからルーズの意を汲んだアリナーデから下された命令はただ一つ。
『絶対に帰ってきて』
笑顔で頷いた。
魔法士団に行くためにアリナーデはペイルを呼んでくれた。
『もーなんで来ちゃうんですか?』と呆れていたが、キーラからとエメラルドが着いた白いリボンを渡された。白は文官の色だ。
これからルーズは文官として城に出入りが出来るようになったらしい。いいのか?と聞くといいんでしょうとペイルは笑っていた。
『魔法士団は今殺気立っているのでお気をつけください…忙しすぎて寝てない者も多くて…』
そう言われ案内してもらうと、扉を開けなくとも分かるほどに中からぴりびりした魔力が漏れ出し空気が張り詰めていた。
『失礼します。イリア様にお客様です』
声をかけると塔の上から上がってこい!と怒鳴り声が聞こえた。追加で『ルーズのみ!ペイル帰れ!』とだいぶ雑な物言いが聞こえ、ルーズは狼狽えた。
だが横にいたペイルは涼しい顔で『では失礼しまーす』と一礼しルーズには頑張れ!と言って帰った。
恐々言われた通り階段を登り、以前入った部屋に向かうと、イリアが1人で待っていた。
『ルーズちゃん久しぶり』
気軽な挨拶のわりに、やつれた顔はまともに休息が取れていない事が伺える。
『イリア様、突然の手紙申し訳ありません。
私を使ってください』
頭を下げるルーズを、イリアは眉間にぐっと力を入れ複雑な表情で見下ろした。
イリアは、分かっている。
ルーズが戦力になることを。前線で戦えてしまう力があることを。
今戦力に組み込んでしまえば、抜け出せない。ルーズが、天災が訪れる日にに立つ場所は確実に第一線。
不甲斐ない。
つい半年前に平民だった年若いギルド職員に命を投げ出せなど、なぜ言える?友人を自分で死地に送らなければならない立場、自分の力のなさに心が抉られるようだ。
だから返事を書けなかった。分かっているのに。喉から手が出るほど欲しい戦力。少しでも守りたくて。
でも守れない。
今国内のあちこちで魔物が凶暴化しつつあり村や町に被害が出ていると報告が上がっている。
『ルーズ・キーラ!
お前を魔法士団として扱うことは規定でできない。だが、文官として直ちに国境の街に行き魔法士団と合流せよ!』
魔法士団じゃない。いざとなれば逃げて欲しい。
でも、助けて…ごめんルーズ…
『はいっ!』
全部を理解し、ルーズは頷き敬礼した。
泣きそうな魔法士団長を前にただの文官は大丈夫だと笑っていた。




