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 翌朝ルーズが起きた頃にはキーラとシヴァンはすでにいなかった。

 執事によれば、忙しい時は日の出とともに家を出ることもよくあるらしい。今日はルーズのスープのおかげで寝起きが良かったと2人とも喜んでいたと教えてくれた。

 そして、ありがとう早く帰えるからと伝言があった。


 会えなかったのは残念だが、少しでも疲れが回復したのなら良かった。あとはあまり無理をせずにいて欲しいが、難しいだろうな。

 

 2人のようにとはいかないが、自分も頑張ろう。


 キーラ家の図書室には天災についての記録がなかった。意図的に隠されているのかもしれないが、キーラがそう判断したのなら仕方がない。


 別の図書室に行けばいい。



『一等区の図書室に行きたいので馬車をお願いします』

 

 昨晩自室に送ってくれたキーラが今後外に行く時は馬車を使うよう言われた。

 城内が慌ただしい分、他に影響が出ていてそれがどういう実害になるか分からないのだそう。用心して損はない、と。



『タナーもこれから、外出する時に連れ回しちゃうけどごめんね。いやありがとうなんだけど…』


 良い意された馬車にタナーと乗り込む。突然の誘いにも『分かりました』と行って付いてきてくれてありがたいが過ぎる。


 実は外出時には馬車の他にタナーも必ず帯同させることも約束させられた。

 城からルーズのメイドとしてきてくれたのは全部で6名。その内の5名が正式に公爵家でルーズの専属メイドとして働いてくれることになったが、帯同させるのはその中の誰かではなく、タナーのみ。

 タナーばかり申し訳なかった。



『あの、実はいつ気付くかと黙ってたのですが…


私は護衛メイドなので、むしろ今の状態が通常です』


 なあにそれ?とぽかんと口を開けると『その顔が見たくて黙っておりましたすみません』ときりっとした顔で言われた。色々と意味が分からない。


 説明してもらうと護衛メイドは、護衛が仕事だがただの護衛と違うのは、メイドとしてどこにで連れて行けることだ。

 私的な茶会に護衛をうろつかせられないがメイドなら帯同してても問題がない。


『より近くで主人を守るのが護衛メイドですね』

 なので、どこにでも連れて行かれる方が仕事してるなーと思うらしい。そう言われてみれば一度しゅん!と現れしゅん!と消えたことがあった…


 これからは心置きなく連れまわせる…かな、?

 本人がいいと言うならいいか…

『あ、待って。アリナーデ様の護衛もしてたってことだよね?公爵家に来ても大丈夫なの?』


 ルーズを守るためにアリナーデが危険な目に合うなんてこと合って欲しくない。

『そっちは特に問題ないですね。同郷のものがわんさかおりますので』


 ん?どうきょう…ああ同業か。さすが王女様。護衛メイドがたくさんいるのか。なら安心だ。

『そっか、なら良かった』

 そう言うとタナーは優しく微笑んだ。



 一等区の図書館は城のような佇まいだった。二階建ての可愛らしい石造り。木に囲まれた庭園がありお茶を飲みながら本を読む人の姿が見える。


『今日はどんな本をお探しですか?』

 タナーに今日の目的を言うのを忘れていたな、と尋ねられてから気付いた。

 ルーズは声を顰めて『天災について調べたい』と答えた。広い館内にはまばらだが人がいる。


 まだ天災が近づいていることは公表されていないため、限られた一部の人間以外は変わらない日常を送っていた。

 笑い合う人、勉強している人、退屈そうな人…静かで平和な時間が流れる。


 天災がすぐそこまで迫っていることが嘘みたいだ…


 このまま何も変わらない日常が続けばいいと思わずにはいられなかった。



 沢山の本を抱えて読む場所を探していると司書員が、貴族のみが入れる部屋を案内してくれた。

 部屋の中は、大きなソファーやテーブルが置かれ複数人で楽しめる空間と個室に別れていた。

 迷わず個室を選ぶと、小さなソファと机があり質素な作りになっていた。

『勉強や仕事、作業する方がよく使っておりますよ』

 司書員はルーズに、読みたい本があれば持ってくるからいつでも声をかけて欲しいと言い戻って行った。


 

 机に置いた本を上から読んでいく。

 読み終わった本はタナーが元に戻し、さらに追加の本を持ってくる。

 10冊ほど読んだところで、魔物の生態や種類などは分かってきたが天災については記載がなかった。


『タナー何度もごめんなさい。さっきの司書員さんにこれを渡して』

 "巨大生物もしくは天災について知りたい"と書かれたメモ。タナーは分かりました、と出て行った。



『ねぇーあなた公爵家のルーズ様見たんでしょ?どうだったの?』


 ドアが完全に閉まりきる前に自分の名前が聞こえた。話が気になりドアを少し開け話を聞いてみると、談話スペースの若い女性たちの話し声だった。

 先程は誰もいなかったので本を読んでいる間に来ていたようだ。


『どうって普通に公爵令嬢様だったわね…あ、何か騒ぎを起こしてたけれど』

『えーやだ。元平民なのでしょう?やっぱり平民ね』


 先日の夜会に呼ばれてない未成年たちのグループのよう。内1人が成人を迎えルーズを見たらしい。


『平民…らしくはなかったわ。それで誰も何も言えなくて。

あなた達も会ったら下手なことしないほうがいいわよ』


 えー怖い…という言葉を聞いて静かにドアを閉めた。

 彼女たちにはぽっと出の公爵令嬢にどう接するべきか悩ませているのだろう。

 仕方がない。さぁ残りの本を読むか…



『あなた達も一目見れば分かると思う。

あの方はすでに公爵令嬢だった。元平民なんて聞かなければ分からなかったわ』

 息を呑む女性たちの声をルーズは聞くことはなかった。



 一冊読み終わることに、タナーが戻ってきた。

『こちらの本を渡させれました』


 赤い表紙の手にすっぽり入る大きさの本というよりは誰かの日記のよう。お礼を言って受け取ると早速読み始める。


 中身は日記ではなく、誰かが書いた研究記録だった。魔力について調べていたのが分かる。


 魔法で出した水のみを与え、植物と生き物を育てた記録。植物は変化なく二世代三世代と花を咲かせた。

 一方動物は、二世代目の子どもに魔力を持つものが生まれ三世代目は魔力を持った親からは魔物が生まれ、魔力がなかった親からは三分の一の確率で魔物が生まれた。

 魔物として生まれた個体は寿命が倍だが繁殖力が低い。魔物から魔力なしが生まれることもあるがまた次の子は魔物だったと記録されていた。


 魔物といっても魔力が有りやんちゃなだけで可愛いと小さく書かれていて思わず笑ってしまった。

 

 ページをさらにめくると、魔物が死んだ後の亡骸には魔力が残っていて土に埋めると魔力は大地に流れたと書かれていた。

"大地を巡る魔力は、深く地の底に流れ地脈に乗り流れ着く"


 魔物の肉に魔力があるのは知っている。食事で実感しているからだ。気になるのは最後の一文。

 …流れ、着く?…どこに。

 次のページが最後だった。


"⚪︎月×日繁殖させた可愛い魔物たちが脱走した。急いで追いかけると彼らは同じ方向に走り続け、川に身を投げた。

 この行動が何を意味するか分からない。


⚪︎月×日魔物が暴れ多くの町で被害が出ていると噂が流れ込んできた。そう言えば、数週間前にいつもなら簡単に倒せる魔物に手こずった。関係があるのか?嫌な予感がする


⚪︎月×日巨大生物が現れた"


 ここで記録は終わっている。

 顔を上げるとタナーが紙を机に置いた。

『読み終わったらこちらを渡すよう言われました』


 紙には作者の名前が書かれていた。この名前は確か健康に関する本のコーナーにあったはず。一冊だけ安っぽい背表紙で目についた本だった。



 彼の本を取ってきてもらい読むと、ダイエットについてのようだ。

 体は食事で作られる。濃度の高い食事を食べ続ければなかなか落ちない肉が付いてしまう気をつけよう。

 一度着いた肉は沢山の運動と魔力を発散させながらでしか体を小さく出来ない。


 普通の本?と首を傾げながら、最後のアドバイスを見る。


"バランスよく食事をしよう!100年同じものを食べると大変だ"



 彼が魔力について調べていたと知らなければ気付けない。


 心臓が痛い。


 これは、ダイエットではなく“天災の生まれ方と倒し方"だ。

 

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